孤高の羊王とはぐれ犬

藤間留彦

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最終話 気高き羊王と運命の番④

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 冷たい言葉がぴしゃりと頬を打つ。

「女王は言った。『狭い塔の中でレムリアは身体を悪くした。彼女はいつも遠くを見ていた。外の世界に居るべきひとだったのだ』と。……ロポ、お前も故郷の森に戻りたいだろう。私と番にならなければ、生活できぬと思っているのなら、ここを出た後の生活については、お前の望むように出来るように――」
「嫌だっ……!」

 外の世界での生活は、確かに魅力的だ。大好きだった果実も魚も食べ放題だし、森を駆け回り川を泳いでいたあの頃に戻りたくないと言ったら嘘だ。
 けれど、その世界のどこにもアルが居ないなら、そんなものに何の意味があるというのだろう。

「一生塔から出られなくたって……走り回れなくたって、水浴びできなくても、いい……! アルが居てくれたら、何も……要らないっ……!」
「来るな……!」

 手を伸ばしながら、少し前進する。苦しそうに呼吸をするアルを真っ直ぐに見詰めて。

「アルは……俺が、嫌い……?」
「……そうだとすれば、私はお前を番に選んだ」

 それってつまり、どういうことなのだろう? アルは、気に入らない相手を番にしようと思っていた、ということなのだろうか。

「失っても惜しくないなら……恐れたりはせぬ」

 アルは番になってもいつか離れ離れになると思って、そのことを恐れている。つまり、俺のことが嫌いだから、番にしない訳ではないということ……?
 初めて見た時まるで神様のようだと思ったその美しい生き物は、今は孤独を恐れて震えている幼い子どものようだった。

「初めてロポを見た時……気付いたのだ。ロポこそが、我が魂の番であると」

 思い出した。アルを見た時、何かびりびりと近くで雷が落ちた時のような感覚が、身体を通り抜けたことを。
 「魂の番」とは、スウードが言っていた「運命の番」のことだろうか。それが一体何なのか、今理解することはできない。けれど、俺が好きで側に居たいと強く想う気持ちをアルが同じように持っていてくれたら、それ以上に望むことがあるだろうか。

「アル……大丈夫……全部、上手くいく、から……」
「何を根拠にそんなことを言う?」
「根拠なんて、ない……けど、俺、アルが好きだもん……それだけじゃ、ダメなの?」

 必死に笑顔を作って、アルを見詰めた。美しい金色の瞳が揺れる。そして呼吸を整えるように大きく息を吐いた。

「……不思議だ。ロポの言葉を信じたいと思ってしまう。恐ろしさよりも、お前への愛おしさが溢れる」

 俺を見詰めるアルの瞳は、今までで一番淡く温かな春の月のようだった。俺が手を伸ばすと、アルは少し戸惑うように視線を動かし、もう一度深く息を吐いた。

「ロポ……番になるという行為は、お前が思うような美しいものではない。恐怖や苦しみや痛みを伴うものかも知れぬ。それでも、構わぬか?」
「……うん」

 アルが平静を装おうとしているのは、何となく分かった。俺が発情期の状態にあるなら、αであるアルがΩの誘引に抗うのは酷く困難なはずなのだ。きっと、俺の苦しみに近い感覚をアルも今感じていて、必死に耐えている。そうだとしたら俺は、自分が苦しみから解放されることより、アルが苦しくない方がいい。

「……平気、だよ……俺、アルと……なら……」

 短く呼吸を切るようにして、アルが一歩一歩俺に近付く。その歩みは段々と速くなり、半分くらいまで来ると床に座り込んでいる俺に駆け寄るようだった。
 そして、そのまま俺を抱き寄せると唇を俺の唇に重ね合わせた。
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