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番外編
番外編④ 血③
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「アシャラは戻っては来なかった。マタルの父親も、共に消息は分からない。恐らく、もう……」
大姐さんは悲しげに目を伏せた。狼族の性格から考えて、捕まってしまっていたらふたりとも命はない。
「ありがとうございます。両親のことが聞けてよかった」
僕の母のことは勿論父のこともずっと今の今まで何も知らなかった。きっと出生が分かると不都合があるという配慮から、娼館の人達が伏せてくれていたのだろう。
「それよりもマタルは大丈夫なんですか? この店の用心棒として働いていますよね?」
頬に『三ツ爪』の奴隷である証の、三本の爪痕があった。当時子供だったとはいえ奴隷が逃亡してそのまま見逃されるとは思えない。
「ああ、心配いらない。国王暗殺未遂事件以降、羊の国は狼の国と国交を断絶した。狼族関係者を一切出入りさせないよう警備が厳しくなったからな。狼もその手下も、マタルを探すためだけに命がけで羊の国に侵入する意味も無いだろう」
確かに今は羊の国の国民を除いて通行手形がない者の入国はできなくなっている。平時から犬族の同胞が門や国の要所を守っているから、怪しい者は鼻の利く我らにすぐに見つかるだろう。
「おい、ルシュディー! いつまでそこで聞き耳を立てているんだ?」
突然娼館の主人が大声を出した。扉がゆっくり開くと、隙間から苦笑いをしたルシュディーが顔を覗かせる。
「全く! 勝手に立ち聞きしやがって!」
「いえ、いいんです! ルシュディーにも手伝ってもらったので、寧ろ話す手間が省けて良かったです」
拳骨を作って立ち上がった主人を慌てて止める。
ポケットの中に入れていた金貨の入った袋を取り出し、テーブルの上に置いた。
「いやいや、もらえんよ! ライラーは私らにしたら娘みたいなもんだったんだ! その息子からお金なんて――」
「では、父からのものだと思って受け取ってください。ご迷惑をお掛けしたでしょうから」
袋を返そうとするのを制止して、立ち上がり部屋の外に出る。
「話が終わったならさ、ちょっとだけ話さねえ?」
ルシュディーが上を指差す。いつもの部屋に行こうということだ。ちょうどルシュディーにも御礼をしなければと思っていたところだったので、頷いてルシュディーと共に二階の一番端の部屋に入る。ルシュディーがベッドの縁に座り、僕は置かれている椅子に腰を下ろした。
「両親のこと分かって良かったな!」
「ああ、君のおかげだよ。ありがとう」
ルシュディーはまるで自分のことのように嬉しそうに笑う。ふと、彼の身に付けているブレスレットが目についた。父の形見だと言っていたことを思い出す。
「ルシュディーは、両親のことを知っているのか?」
「ああ、うん。βの親父のことはあんまりだけど、Ωの父ちゃんはここの娼夫だったし、病気で亡くなるまで育ててもらってたし」
ルシュディーは手首に付けているブレスレットの宝石を少し悲しげに見詰めた。
「父ちゃんは客として来た犬族の荷運び人だった親父にこれをもらったんだって。お金を貯めたらお前を身請けするから、それまで待っててくれって言ってくれたって、死ぬまで毎日その話ばかりしてた。それきり一度も来なかったけどね。大姐さんが言ってた。親父は他でもそんなことを言ってる奴だったって。誰も相手をしなかったけど、父ちゃんはそんなこと言ってくれるの親父だけだったから、捨てられたって信じられなかったんだろうな」
――ここから抜け出すには、客に高い金を払ってもらってもらわれるしかない。
ミーナーの言っていたことを思い出す。ルシュディーの産みの父親は、望んでここで働いていたわけではないのだろう。売られてきたか、または親がまた娼婦だったか、そういう境遇だったのだ。そして、きっと――
大姐さんは悲しげに目を伏せた。狼族の性格から考えて、捕まってしまっていたらふたりとも命はない。
「ありがとうございます。両親のことが聞けてよかった」
僕の母のことは勿論父のこともずっと今の今まで何も知らなかった。きっと出生が分かると不都合があるという配慮から、娼館の人達が伏せてくれていたのだろう。
「それよりもマタルは大丈夫なんですか? この店の用心棒として働いていますよね?」
頬に『三ツ爪』の奴隷である証の、三本の爪痕があった。当時子供だったとはいえ奴隷が逃亡してそのまま見逃されるとは思えない。
「ああ、心配いらない。国王暗殺未遂事件以降、羊の国は狼の国と国交を断絶した。狼族関係者を一切出入りさせないよう警備が厳しくなったからな。狼もその手下も、マタルを探すためだけに命がけで羊の国に侵入する意味も無いだろう」
確かに今は羊の国の国民を除いて通行手形がない者の入国はできなくなっている。平時から犬族の同胞が門や国の要所を守っているから、怪しい者は鼻の利く我らにすぐに見つかるだろう。
「おい、ルシュディー! いつまでそこで聞き耳を立てているんだ?」
突然娼館の主人が大声を出した。扉がゆっくり開くと、隙間から苦笑いをしたルシュディーが顔を覗かせる。
「全く! 勝手に立ち聞きしやがって!」
「いえ、いいんです! ルシュディーにも手伝ってもらったので、寧ろ話す手間が省けて良かったです」
拳骨を作って立ち上がった主人を慌てて止める。
ポケットの中に入れていた金貨の入った袋を取り出し、テーブルの上に置いた。
「いやいや、もらえんよ! ライラーは私らにしたら娘みたいなもんだったんだ! その息子からお金なんて――」
「では、父からのものだと思って受け取ってください。ご迷惑をお掛けしたでしょうから」
袋を返そうとするのを制止して、立ち上がり部屋の外に出る。
「話が終わったならさ、ちょっとだけ話さねえ?」
ルシュディーが上を指差す。いつもの部屋に行こうということだ。ちょうどルシュディーにも御礼をしなければと思っていたところだったので、頷いてルシュディーと共に二階の一番端の部屋に入る。ルシュディーがベッドの縁に座り、僕は置かれている椅子に腰を下ろした。
「両親のこと分かって良かったな!」
「ああ、君のおかげだよ。ありがとう」
ルシュディーはまるで自分のことのように嬉しそうに笑う。ふと、彼の身に付けているブレスレットが目についた。父の形見だと言っていたことを思い出す。
「ルシュディーは、両親のことを知っているのか?」
「ああ、うん。βの親父のことはあんまりだけど、Ωの父ちゃんはここの娼夫だったし、病気で亡くなるまで育ててもらってたし」
ルシュディーは手首に付けているブレスレットの宝石を少し悲しげに見詰めた。
「父ちゃんは客として来た犬族の荷運び人だった親父にこれをもらったんだって。お金を貯めたらお前を身請けするから、それまで待っててくれって言ってくれたって、死ぬまで毎日その話ばかりしてた。それきり一度も来なかったけどね。大姐さんが言ってた。親父は他でもそんなことを言ってる奴だったって。誰も相手をしなかったけど、父ちゃんはそんなこと言ってくれるの親父だけだったから、捨てられたって信じられなかったんだろうな」
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