創造主は崩壊寸前の世界の王子に恋をする。

mkxw

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森の奥にある小さな洞窟。
 そこでの一夜は、意外なほど穏やかだった。

 俺はごつごつした岩に背中を預け、薄い毛布にくるまりながら眠っていた。
 それでも不思議と寒さは感じなかったのは、隣でカイが寄り添ってくれていたからだろう。

 小さく聞こえる彼の寝息と、外の風が木々を揺らす音。

 こんなにも異質な場所なのに、ここだけは安全で、やけに落ち着いていた。

 ――いや、それは錯覚かもしれない。

 目を覚ました瞬間、俺は再び“現実”を思い出す。

 ここは地球じゃない。
 ゲームでも、夢でもない。だけど明確に“作られた世界”で、そして俺の意識がこの世界に関与しているかもしれない。

「……目、覚めた?」

 カイの声が、静かに響いた。

 彼は俺の目覚めに気づいていたらしく、毛布の隙間から俺の顔を覗き込んでいた。

 少しだけ髪が乱れて、朝の光に照らされた横顔はどこか少年のようだった。

「ああ。おはよう……てか、こっちでは朝って言っていいのか?」

「うん。この世界にも太陽に似た循環があるよ。厳密には、人工の“光源”だけど」

「人工……やっぱり“誰かが作った”って感じなんだな」

 カイは頷きながら、少し目を伏せた。

「……それも、君かもしれない」

「俺が?」

「この世界にあるあらゆる要素が、君が考えた設定の断片と一致してる。魔法のルール、種族の構成、土地の地形、天候、そして……僕の存在も」

 カイはどこか切なげに微笑んだ。

「けど、僕は今、確かに生きてる。意思もあって、考えることもできる。――“創られた”ってことは否定できないけど、それでも俺は……」

 彼の声が少し震えていることに気づいて、俺は静かに口を開いた。

「……分かるよ。例え誰かの設定だったとしても、今の自分がちゃんと存在してるってこと。俺だって、そう思いたい」

 カイの目が驚いたように見開かれ、そしてゆっくりと細くなった。

 笑っていた。
 たったそれだけで、俺の胸が温かくなるのだから、不思議だった。

「……ねえ、カイ。これから、どうする?」

「このままじゃ、この世界は崩壊する。虚無が広がって、すべてを飲み込んでいく。だから“設定の核”に近づく必要がある」

「“設定の核”?」

「この世界を構築している中心。そこを再構成するか、書き換えるかしないと、やがて消える。……世界も、僕も」

「――!」

 俺は思わずカイを見つめた。

 “僕も”というその言葉に、胸がぎゅっと締めつけられたような気がした。

 彼が消える。それは、この場所で知ったばかりの唯一の光を失うことを意味している。

「分かった。俺も一緒に行く。何もわかんないし、怖いけど、行かなきゃって思う」

「……ありがとう」

 その言葉に、カイはそっと立ち上がった。

「なら、旅の準備をしよう。遠くまで歩くことになる」

「装備とか……俺、なんも持ってないけど」

「大丈夫。君には“干渉権”がある」

「なんだそれ」

「君はこの世界の“外”から来た存在。だから少しだけ、システムに干渉できる。例えば――」

 カイはそう言うと、俺の手を取って軽く目を閉じた。

 次の瞬間、掌に重みが生まれた。

「これ……剣?」

「訓練用だけど、ちゃんと使えるよ。重すぎないし、君にも扱えるはず」

 金属の感触、ほどよい重さ、柄に巻かれた革の質感――リアルすぎる。
 これが“設定された世界”だということを、改めて実感させられる。

「……すげぇな、マジでゲームみたいだ」

「でも、死んだら終わりだよ。ログアウトもリセットもないから」

「うわ、怖っ……!」

 思わず笑いながら言った俺に、カイは小さく笑って言った。

「でも安心して。君を守るのが、僕の役目だから」

 その言葉に、胸の奥が一瞬で熱くなる。

 守るとか、言われたことなかった。
 現実でも、誰かにそう言われることはなかった。だから余計に、心に染みた。

 そしてその日の昼前、俺たちは森を出た。

 長い旅が始まったのだ。世界の崩壊を止めるために。
 そして、お互いの“存在理由”を探すために。

 まだ、何もわからない。だけど――

「悠。……君と一緒にいられて、嬉しい」

 そう言ったカイの言葉に、俺は素直に頷いた。

「俺も……同じ気持ちだよ」
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