創造主は崩壊寸前の世界の王子に恋をする。

mkxw

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塔の中に一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 外の世界よりも静かで、重く、どこか懐かしい。
 壁や床はまるで白紙のように真っ白で、まるで「ここに、何もまだ書かれていない」と告げられているようだった。

「ここが……“創造の中枢”……」

 カイの声が小さく響いた。

 塔の内部は異様な静けさに包まれていた。足音すら吸い込まれていくような錯覚。
 不思議なことに、空間そのものが“動いている”ように感じる。時間も、重力も、全てがゆっくりと波打っていた。

「気を抜かないで。ここは、君の精神に直結する場所」

 声がした。

 二人で振り返ると、そこにはあの黒マントの男――“影の男”が立っていた。

「お前……また」

「ようこそ、創造主。そしてその“意思の依り代”よ」

 カイの眉がぴくりと動く。

「依り代……?」

「この場所では、創造主一人では扉を開けられない。“愛する存在”を媒介に、心の扉を開かなければ、真なる創造は始まらない」

 俺は息を呑んだ。

 カイを――“愛している”という事実が、ここで試されるのか。

「さあ、証明してもらおう。お前たちの絆を」

 影の男が手をかざすと、塔の内部に光の環が広がった。

 その中央に、黒い影が現れた。
 それは、過去に俺が一度だけ見た存在――

「……俺自身?」

 それは、俺の心に潜む“迷い”そのものだった。
 弱さ、ためらい、恐れ、不安。そういった感情を形にしたような“影の悠”。

 影の悠は、こちらを睨みつけていた。

「お前は、何も決めてない。ただ流されて、誰かに必要とされることを望んでいるだけだ」

 その言葉が、胸に突き刺さった。

 わかってる。
 それは、ずっと俺が目を背けてきた感情だ。

 ――でも。

「それでも、俺はお前を否定しない」

 俺は一歩踏み出し、影の悠に向かって言った。

「お前がいたから、俺はカイに出会えた。
 弱さも、迷いも、俺自身だ。だから……俺は、すべてを受け入れる」

 影の悠は黙って俺を見つめ――やがて、微笑んだ。

 光が差し込み、影が薄れていく。

「ようやく、お前は“本当の創造主”になったんだな」

 その言葉を最後に、影の悠は光に溶けて消えた。

 

 ふと気がつくと、塔の天井が開かれていた。
 その先には、無限に広がる夜空があった。

 そこに浮かぶ、無数の“未完成の世界”。

 選ばれるのを待っている可能性たち。

 俺はカイと手をつなぎながら、空を見上げた。

「ここが、世界の“原点”なんだな」

「うん。そして、君が選んだ未来がここから始まる」

 カイが優しく笑っていた。

 その笑顔を、永遠に守りたい。そう強く思った。
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