偽皇子は誘拐される

ひづき

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 あれから半年が経った、らしい。寝ている時間の長いイーリオには実感が湧かない。

 グラナル公爵は死刑が確定した。他の公爵家に名を連ねる者達は当主の暴走を止められなかった責任を問われ爵位の剥奪。グラナル公爵家は途絶えることとなる。

 グラナル公爵に心酔していた者達───実行犯は、公爵のマッチポンプ式策略によって洗脳されていた事実もあり、労役という形で落ち着いたようだ。恩人だと信じていた相手が、不幸の元凶だったと知らされ、心の拠り所を失った彼らは絶望したことだろう。

 正直、グラナル公爵を初めとする誘拐犯たちの行く末には興味が無い。何はともあれ自分は無事だった、それが全てで。例えイーリオが哀れに思おうが嘲笑おうが、どうせ彼らの行く末は変わらないので心底どうでもいい。

 そんなことよりも、イーリオにとって重要なことは別にある。

 ───エストールが口にキスをしてくれない。

 全身、それこそ満遍なく、足の爪先から手指の先、背中や胸部に腹部にと、舐め回し吸い付くくせに、何故か普通の一般的な接吻だけはしてくれない。

 何故だろう。不満ばかりが募る。

「どうした、機嫌悪そうだな」

 執務を終えたばかりであろうエストールが、いつの間にか入室していた。控えていたはずの侍従の姿が見えない。入れ替わりで退室したらしい。お茶の用意でも取りに行ったのかもしれない。

「エル、キスしよう」

 寝台に座っているイーリオは近づいてきたエストールの襟首を鷲掴みにして引き寄せ、目を閉じて唇を差し出す。しかし、ちゅ、と、エストールの唇が降りた場所はイーリオの額だった。

「何で口にしないんだよ」

「いや、したいのは山々なんだが…、接吻するとイーリオの身体がつがい化の最終段階に入ってしまうから───」

 イーリオは口先を尖らせ、寝台の端に腰を下ろしたエストールに凭れ掛かると、ほぅと息を吐く。もうイーリオにとってエストールは自分の一部だ。触れ合っていないと違和感を覚えてしまう。あるべきものがないという不安定さに嫌気がさす。

「俺をこんな身体にしておいて、まだお預けなのかよ」

「私だって我慢してる。でも、十分馴染ませてから───」

 馴染ませるために時間を掛けて愛でられてきたイーリオの身体が、もっと奥深くにエストールの存在が欲しいと飢えている。空腹よりも、口渇に似ている。排泄口でしかないはずの尻穴がパクパクと収縮を繰り返して喘いでいる。

「我慢できない」

 イーリオはエストールの唇に噛み付いた。驚いたエストールの両手はしっかりとイーリオの両肩を掴む。抵抗されるかと思ったが、仕方ないとばかりに吹っ切れた様子でイーリオを抱き締めてくれる。

 ───甘い。

 初夏に実る、淡い桃色の果実のように甘い。送り込まれてくる唾液が甘くて、イーリオは驚いた。絡めた舌と舌の間に、何かが触れる。平べったい、小さな板のようなそれもまた甘い。エストールの舌に押し込まれるまま、イーリオは唾液ごと謎の板を飲み込んだ。

「な…に、今の?」

 唇を離すと、ドクンッと心臓が跳ねて、背中をなぞるように駆け巡るビリビリとした刺激に仰け反る。エストールにしがみつき、震えながら突然の刺激に耐えていると、下半身がヌメる感触を覚えて、ひッと小さく叫ぶ。

「イーリオが呑んだのは俺の鱗だよ」

「う、うろこ?」

「一枚しかない唯一無二の、特別な鱗だ。これを得て初めて真のつがいとなる。…本当はきちんと説明して覚悟を決めて貰ってからと思っていたのに、話を聞かないイーリオが悪いんだからな」

 優雅に、美しく、残忍さを滲ませてエストールは微笑んだ。





 本来、濡れるはずのない場所が濡れている。

 下半身の衣服を脱ぎ捨て仰向けに転がり、大きく脚をM字に開いたイーリオは、自らの臀部にある出口を夢中で弄る。左手で左右に押し開き、右手の指を穴に出し入れして。くちゅくちゅと粘着質な音が響いて、羞恥心を煽ってくるけれど、指の動きは止められない。そこに質量が欲しくて堪らない。指を出し入れしていないと物寂しさに切なくて耐えられない。

 しかし、いくら弄ってもそれが慰めとなるのは内部を擦る一瞬だけ。

「える…、える、たすけて」

 切なさと、自分の身体がどうなってしまったのか思考が追いつかない恐怖に、子供のように泣きじゃくる。そんなイーリオをよそに、エストールは愉悦に満ちた眼差しで、満足気に微笑んでいる。

「凄いな。かなり順調に排泄孔が性器に変異したようだ」

 イーリオの指が懸命に広げる場所をエストールは間近で観察していた。充血した孔が愛液で濡れてテラテラと厭らしく艶めき、物足りなさにパクパクと動いている。もっと奥へ、もっと奥へと貪欲に求めて収縮を繰り返す。

 何を言われているのか、何を見られているのか。イーリオはただ渇望に支配され、全身が熱く、息苦しさに喘ぐ。切なくて切なくて仕方ない。

「入るかな…?」

 そう言ってエストールが取り出したのは、血管が露骨に怒張した逸物。イーリオの目は釘付けとなる。火照っていた身体の血が更に逆流するように暴れる。同時に、少しだけ理性も戻ってしまった。

「………凶器じゃん。デカすぎ」


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