舞台装置は壊れました。

ひづき

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「次ですが、証拠の裏付けなどに手間取る論点2と3は後回しにいたしませんか?4番目である、第一王子殿下の新たな婚約について、わたくしとしては是非ともお聞かせ願いたい」

「捨てられた身としては、気になるか?いいだろう、お前のために教えてやる」

 私に選ばれる栄誉を前に悔しがれと、第一王子の表情がセイレーンを煽る。第二王子は、呆れを隠さず、腕を組んで溜め息を吐いていた。

「私は!聖女ミリアと婚約する!」



「え、嫌です」



 ここまでのやり取りで、聖女が第一王子に興味を抱いていないことに気づいていた観衆は特に驚きもせず静まり返る。

 そう、セイレーンの実父と王妃の計画では、第一王子と聖女を結婚させ、立太子を確実にするはずだった。そこには聖女という一人の人間の意思や価値観が大きく欠如している。聖女といっても所詮平民出なのだからどうにでもなると高を括っていたのか、第一王子なら万人に好かれるという自信でもあったのか。いずれにせよ、大勢の貴族たちの前でこれだけわかりやすく拒絶されれば目が覚めてもいいはず。

「な、何故だ!?照れているのか、聖女ミリア!?」

「不敬を承知で申し上げますと、このようにセンスのないドレスを贈りつけてくる男性なんて嫌です」

 確かに、あの布ダルマは嫌だ。どこの丸太だとでも言いたくなる有り様である。それでも身分の高い人物から贈られた以上、着ないという選択肢はなかったらしい。それらを察した女性たちから哀れみの眼差しが聖女に注がれる。セイレーンも同情をせざるを得ない。

「肌の露出を抑えつつ、たっぷりのレースで可愛らしいデザインじゃないか!」

 やり過ぎだろう。

 今まさに会場内の思いは一致していた。

「殿下に、いえ、皆様に申し上げます。私は聖女としてこの国に永住し、国に監視されることを条件に“結婚相手は誰からも強制されない”という誓約を陛下から頂いております。お疑いなら国へお問い合わせ下さい」

「そんなことが許されるはずがない!」

 立太子もしていない王子が吠えたところで、国の最高位にいる国王の決定が揺らぐはずもない。

「私には故郷に想い合う幼馴染がいるのです!彼は領主の一人息子なのですが、病弱で王都の学園に入学することは叶いませんでした。───私のような田舎娘が、不相応な王都の学園に入学したのも、全て、彼に変わって私が知識をつけ、彼の手となり足となるためです!」

 王都の学園は、貴族が多いが、領主からの推薦さえあれば平民の入学も可能だ。

 むしろ、第一王子が在籍していることの方がおかしいのである。王子たちは幼少期から専属家庭教師による英才教育を受けているため、学園で学ぶことなどない。第三王子のような引きこもりは人間関係を学べと入学させられたが、それも異例なことである。王子ともなれば、学園に在籍するくらいの年齢には公務を中心に生活しているのが慣例だ。

 第一王子は、将来聖女になると予言された平民を口説くため学園に入学させられたと思い込んでいたが、実際は王室にて英才教育を受けたのにも関わらず成績が極めて悪いため、学園に入学させられた。

 王妃の甘言を盲目なまでに信じていた第一王子は、今まで何もしてこなかった。

 今更学園の授業なんて必要ないと言い張りサボってばかり。ただ授業を受けただけで、何も聞かず、何も理解せず、何も覚えない人間に学問が身につくはずもない。場所が変わろうと時間を費やそうと無駄である。

 更に学園が休みの日に公務の依頼が来ても、休みだからと言い張って拒否し、第一王子は文官たちを困らせる。公務は王族の義務だ。生活に必要なものは全て無償ではない。公務に対する対価だ。国の威信のために最高級のものを手にし、他国に経済力や文化力を見せつけることで国を守っている。

 セイレーンは、王子の婚約者として、王妃教育を終えている数人のうちの一人。学園に入学する必要などなかったが、第一王子のお目付け役として国から頼まれて入学した。入学しても、大半は第一王子の代わりに公務を行うために欠席しており、正直聖女ミリアを害する暇など欠片もなかった。

「クレノア公爵令嬢と婚約破棄をして後ろ盾を失った上、大勢の前で聖女様にフラれたのです。兄上の立太子は最早絶望的ではありませんか?」

 第二王子の発言に驚いているのは当の本人のみ。それもツケが回ってきただけの、自業自得。

「はぁ!?この私が、たかが付属品でしかない女でそこまで左右されるわけないだろう!ちッ、仕方ない。おい、セイレーン。お前はまだ私の婚約者だ。そうだよな?」

「あら。先程、婚約破棄をお認めになったはずでは?」

「貴族の婚約は親が決めるもの。陛下や公爵の許可なしに破棄などできるはずがない」

 確かに普通はそうである。普通は。ここまでの騒ぎになっても婚約破棄を認めない親などいるだろうか…と言いたいところだが、少なくとも公爵は第一王子に味方する。


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