舞台装置は壊れました。

ひづき

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「嘘だ…!」

 第一王子は絶望から膝を着いた。別に彼は父親と血の繋がりがないことを知って絶望しているわけではない。なにせ、彼は最初から自分の父親が公爵だと知っている。ただ、王が気づいているとは夢にも思っていなかったというだけ。

 だが考えてもみて欲しい。

 逢い引きのために王妃は城の避難経路を密かにリフォームした。とはいっても、その経費はどこから出したのか。密かに、と工事作業員たちに口止めをしたところで、不審なお金の動きがバレないはずない。国庫から無断で流用、これは立派な犯罪である。

 このように、王妃は頭が足りないとしか思えないほど大胆な不正を幾つもしていた。バレない方がおかしい。

 ───余談だが、王妃がリフォームした避難経路を使い、国王は時々平民の格好をして街を遊び歩いていた。王妃が帰る際に避難経路の出入口まで見送りに来ていたセイレーンと偶然出会ったのが、セイレーンとブレノン公の出会いだったりする。

「気づいていたなら何故放置していた!」

 逆ギレするように、第一王子は叫ぶ。その声に、会場は再び静まり返った。

「問う前に自分で少しは考えたらどうじゃ?───まぁ、もうよいか。貴族社会における権力のバランスなどから、当時はあの女狐を王妃として娶るしかなかったんじゃよ。女狐の父親のゴリ押しに、即位したての若造では抵抗しきれなかったというのもある」

 先代の国王は、落馬による急死だった。当時、立太子もしていないのに突然国王になった少年は、国を守るために急いで国内の基盤を整える必要があり、手っ取り早いのが高位貴族との婚姻だったというだけ。

 当人たちは欠片も望まない、正しく政略結婚だった。

「儂との結婚を避けられなかったのは王妃も同じ。儂の力不足でもあると責任を感じ、よその男の子供であろうと我が子として育てようと思ったのだ」

「ち、父上───」

 感極まったのか、目に涙を浮かべ、第一王子は壇上から下にいる国王陛下を見つめていた。

「しかし、儂が何も言わないのをいいことに、王妃は調子に乗り、私利私欲のために散財や浪費をするに飽き足らず、国庫の金を無断で流用した。貴様も儂を陰では見下し、クレノア公爵を“父上”とよく呼んでいたそうではないか」

「こ、公爵はセイレーンの父なのです!義理の父という意味で呼んでいたに過ぎませんよ」

 見下していたという部分を否定するより先に、慌てて公爵に対する父上呼びを全力で否定する。その態度で自身の実父が誰なのか公言したも同然なのだと気づいていない。

「もう、よい。聖女ミリアよ、確か、聖術に親子関係を立証する魔法もあったであろう?」

「は、はい。そのように記憶しております」

「父上!魔法などという怪しいもので得た結果など当てになりません」

 自分が玉座を得るために聖女を利用しようとしたのに、都合が悪くなれば否定する。

 聖女を通じて神の恩恵を受けていると信じている人が多いこの国で、それは悪手だ。傍観していた人達の視線が一気に非難で染まる。聖女の力を否定さえしなければ、彼らは単なる傍観者のままでいてくれただろうに。明日には第一王子の厳罰を望む書状が山となるに違いない。それほどまでに、信仰とは力となり、時に諸刃の剣と化す危ういもの。

「後日改めて聖女ミリアの力を借り、全ての真偽を問いただそう。衛兵」

 静かな呼びかけだけで、意図を汲んだ兵士たちが一斉に第一王子を取り囲む。

「なんだ、お前たちは!私を誰だと思っている!連行するならあの女だろう!」

 引きずられながら、暴れ、セイレーンを罵倒する。そんな第一王子の姿が完全に見えなくなると、安堵から力が抜けたのか、セイレーンの意識は途絶えた。



 セイレーンを操ってきた見えない糸が、ようやく途切れた。

 台本はもう、ここでおしまい。





 セイレーンが次に目を覚ましたのは、事件のあった舞踏会の5日後。王宮の客室だ。しかも、「全て終わった」のだとメイドは言う。その言葉通り、聖女による真偽の査定も、処罰も、全てが迅速に行われていた。

 王妃、第一王子、クレノア公爵は国家転覆を図ったとして身分剥奪。そのまま鉱山で強制労働を命じられた。国庫の横領分を全額返済するまで終わらないそうだ。

 第三王子は、3人に比べ、特に何もしていなかった。強いていえば、3人の企みを知りながら何もしなかったことが罪だろう。彼は実父の跡を継ぎ、新たなクレノア公爵となることが許された。

 セイレーンは、新クレノア公爵の異母姉として、未だ公爵令嬢という立場だ。強いて言うなら婚約が破棄でも破談でもなく、白紙撤回されたというくらいか。

「本当は陛下自らセイレーン嬢に説明したかったようですが、生憎公務を抜けられないとのことです」

 中庭でお茶を嗜みつつ、あの舞踏会後のことを説明してくれたのは第二王子だった。いや、そもそも、第一王子と第三王子が王の子でなかったのだから、第二も何も、彼こそが唯一の王子ということになる。


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