召喚したのは『男体 Ω(オメガ)』の幽霊でした

ひづき

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後日談

新種が出来ました。

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※露骨な表現は割愛しましたが、男性妊娠になります。





「商業ギルドから呼び出されてるから、ちょっと行ってくる」

 冒険者時代は短かった髪を伸ばし、ひとつに束ね。

 髭で貫禄を出すのを諦め。

 森の民エルフらしい生活にシフトしたアルクは今日もカッコイイ。

 クロトは、物分りの良い顔をして、「行ってらっしゃい」と声をかける。彼が家を出ていくと同時に、アルクの前では絶対に使わない霊障ポルターガイスト能力をフル活動し、大量の薬草全てを各々一気に吊し上げた。この便利な能力をアルクの前で使わない理由は簡単だ。使用中、目がカッと妖しく光り、あからさまに見た目が人外になる。

 アルクは今更僕が人外幽霊であることなんて気にしないだろうけれど、僕が気にする。僕は人として愛されたい。もちろん、どんな僕でも彼は愛してくれるだろう。それでも愛している彼の前ではなるべく〝キレイ良好な状態〟でいたい。

 どうしてもアルクの在宅時に霊障ポルターガイスト能力を使いたい時には、幽体化、もしくは実体を完全に消し、彼から見えないところで使っている。

 彼は無自覚ながらモテるので、仕事の取引と見せかけてアプローチしてくる輩が湧く。そう言った害虫を退治するために、霊障ポルターガイスト能力は欠かせない。

 最近就任した商業ギルドのマスターがアルクに会う時だけ露出度の高い服を着ているのは把握済み。不安だから実体を消して、彼の後を追いかけよう───



 ─────あれ?



 僕は自身の身体を見下ろす。実体を消すどころか、幽体化すら出来ない。なぜ。どうして。動揺のあまりコントロールを失った霊障ポルターガイスト能力のせいで、干された薬草達が降ってきた。それが尚更僕を混乱させる。

「悪い、忘れ物───って、どうした!?」

 床に座り込んで、散乱した薬草の中にいた僕は、アルクの顔を見るなり、気が緩んでしまい、涙が溢れ出した。

 自分でも、たかが姿を消せなくなっただけで、どうしてこんなに不安になっているのかわからない。変わらず彼と長い時間を生きていけると信じて疑わなかったから、変化の訪れが怖いのかもしれない。

「アルク…、ごめん。薬草…」

 売り物なのに、と、床に散らばった薬草を拾おうと手を伸ばす。その手をアルクに掴まれた。怒られる、と予感してビクッと身を竦ませた。

「薬草なんかより、お前の方が大事に決まってる。どうした?どこか痛いのか?」

 僕の不安が伝染したかのように、アルクが泣き出しそうな表情をしているのを見て、自責の念に駆られる。彼には笑っていて欲しいのに。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。どうしようもなく自分が無力な気がして、ぐるぐると思考が回る。

「クロト!!」





 気がつくと僕は診療所のベッドで寝ていた。傍らにはアルクがいる。木製の丸イスに腰掛け、ずっと僕の顔を見ていたらしい。

 目が合うと、アルクは照れ臭そうにはにかんだ。

「起きたか。気分は?」

「……………平気」

 診療所なんかに連れてきて、僕が幽霊で召喚体だとバレたらどうするつもりなのか。召喚体は召喚し直せば怪我などの不調はリセットされる。バレたら召喚体を治療させようとする〝頭のおかしい奴〟扱いされるだろう。

 アルクなりに必死だっただろうことがわかるだけに───というか、コイツ、僕が召喚体だってこと忘れてないか???───怒るに怒れないが、流石に迂闊過ぎるだろう。

 はぁ、と溜め息をつく僕の頭を、アルクの手が撫でる。

「妊娠してるってさ」

「……………誰が?」

「お前が。俺の子を。そこに」

 そこ、と薄い腹を指さされる。

 僕の手が、示されるまま、腹の表面を撫でる。僕の手は何故か震えていた。

「産んで、いい?」

「産んでくれなきゃ困る」

「僕、たぶん母乳出ないよ?」

「育児用のミルクでいいだろ。オムツと産着も縫わないと。一緒に縫おうな」

 アルクの提案は、僕の心にストンと落ちてきた。ぐらぐらと不安定になっていたところに、彼の言葉は重しになって、重心をとってくれる。

 うん、もう大丈夫。

 姿を消す能力と引き換えに得たものの方が尊いし、大切だ。何も惜しくない。

「僕もやったことないから、誰かに教わりに行かないとね」

「薬屋の魔女バアさんに聞けば喜んで助けてくれるだろ。あの人、クロトのことを実の孫のように可愛がってるし」





 後にわかったことだけど。

 妊娠中のみ、幽体化などが出来なくなるらしかった。

 そりゃ、お腹の中の子は幽霊じゃないもんね…。母体に幽体化されても困るよね…。





 産まれてきた子にバース性は引き継がれなくて、安堵した。人工的な後付けだから引き継がれなかったのかもしれない。

 問題は、時々、幽体化すること。

 何で幽霊の特性を引き継いだの!?って、頭を抱えたくなる。姿を消すまではいかないけれど、時々僕とアルク以外に見えなくなる。

 種族名、靄森の民ヘイズ・エルフって出てくる。たぶん新種。もやって部分がたぶん幽体化のことなんだろう。

 基本、ステータスは本人と親にしか見えなくて良かったと胸を撫で下ろした。他人に知られたら僕が人間じゃないこともバレてしまう恐れがある。

「名前、考えなきゃなぁ」

「産まれる前からずっと言ってるよね、それ…」

 僕としては番号じゃなきゃ名前なんて何でもいいと思う。でも、アルクが真剣に悩んでいるのを知っているから、口を出さずに見守ることにした。

 何だかんだ大変でも幸せが増えて。

 僕は嬉しい。





[完]
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