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第二章 華燭
49 無情の雲流
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「ふふーん。じゃあな、小娘」
「は? ……あんた、まさか」
思った時にはもう遅かった。
雲流はニイッと笑いながら、小蘭に向かって手を振り、重たい鉄扉を閉じてしまったのだ。
ガチャン。
即座に閂のおりる音。
(まさか……、閉じ込められた?)
一瞬にして光が閉ざされ、すぐに扉の向こうから下卑た声が聞こえてきた。
「くっく、悪く思うなよぉ。お前さんには、後宮で一番いい部屋を用意しろってご命令だ」
「な……何よそれ、ふざけないで。早く開けなさいよ」
「はっ、やーなこった」
からかうような声色が、喜色も露わに聞こえてくる。
しこたま打った腰を摩りながらも、小蘭は扉の内へと縋りついた。
「あんた、怒るわよ!」
すると外から、上機嫌な声が聞こえてくる。
「ま、お前があちらさんよりも素敵な見返りをくれるってんなら話は別だけどな」
「見返り……?」
外から、じゃらじゃらと巾着袋を振る音がした。
「おうよ、凜麗様は気前のいい方。こんな簡単な仕事だけで、巾着いっぱいの金子を下さった」
「あんた……お金もらってこんなことして。どうなるか分かってんの?」
皇后様が知れば、即刻処刑――そのはずなのに。
よりによって相手の名前を漏らすなんて、何てバカなヤツ。
呆れ声の小蘭に、しかし雲流は得意げに言い返した。
「くひひ、そんなもの、ぜーんぶ曹丞相様が揉み消して下さるさ」
小蘭は、ぎゅっと唇を噛み締めた。
「い……いいから。開けなさいよ、こっから出せ! 開けてっ」
ふらつく脚を精一杯に踏ん張って、ドンドンと叩くも、重たい鉄扉は空しく響くだけで、びくともしない。
喚き散らす小蘭の様子がよほど面白いのか、扉の外から甲高い引き笑いが聞こえてきた。
「ヒーッ、ヒッヒ」
「開けて! 開けろ、開けなさーーい。……開けてよ、ねえ……」
小蘭が、扉をたたく元気もなくなってきた頃。
「あばよ小娘。可哀想に、友達にも見捨てられてさ。まあ、いつか愛しい皇子様が気づいて下さるだろうよ」
「この、卑怯者ぉ……」
蛇だって蛙だって平気、高いところも大好きだけれど……。暗くて狭くてひとりぼっち。それだけは、ぎゅっと心が縮み上がる。
こんなところで私、誰にも知られず死んでしまうの?
暗闇に慣れたはずの視界が、じわりと狭まり、小蘭は息を詰めた。怖い……。
足音が、遠ざかっていく。
「待ってってば、雲流……ねえ助けてよ」
「んん、今何つったぁ~?」
嬉しそうに聞き返す声に、怖気を立てながらも、小蘭は雲流に懇願した。
「助けてって、そう言ったの。ねえ、お願いだから助けてよ。雲流」
「ほう、生意気なオマエが、俺様にそんな口を聞く日が来るとは。そうか、そーんなに言うんだったら」
カチャリ。
閂を外す音がして、一筋の光明が射した――、気がした。
「なーんちゃって。ウ・ソ。ヒャーハッハッ、んな訳ねえだろ。お前と凛麗様じゃ、格ってもんが違うんだ」
「くそっ、地獄へ落ちろ、この鼠野郎っ」
「あーっはは、気分がいいねえ、今日は祭りみたいだ。そうだ小蘭、オマエにはこれをあげよう。ほいっと」
パパッ、パパン、パパパパパーンッ。
爆竹だ。
小蘭は思わず耳を塞いだ。
ひとしきりの爆音が終わると、雲流の高笑いは、無情にも遠ざかっていった。
「は? ……あんた、まさか」
思った時にはもう遅かった。
雲流はニイッと笑いながら、小蘭に向かって手を振り、重たい鉄扉を閉じてしまったのだ。
ガチャン。
即座に閂のおりる音。
(まさか……、閉じ込められた?)
一瞬にして光が閉ざされ、すぐに扉の向こうから下卑た声が聞こえてきた。
「くっく、悪く思うなよぉ。お前さんには、後宮で一番いい部屋を用意しろってご命令だ」
「な……何よそれ、ふざけないで。早く開けなさいよ」
「はっ、やーなこった」
からかうような声色が、喜色も露わに聞こえてくる。
しこたま打った腰を摩りながらも、小蘭は扉の内へと縋りついた。
「あんた、怒るわよ!」
すると外から、上機嫌な声が聞こえてくる。
「ま、お前があちらさんよりも素敵な見返りをくれるってんなら話は別だけどな」
「見返り……?」
外から、じゃらじゃらと巾着袋を振る音がした。
「おうよ、凜麗様は気前のいい方。こんな簡単な仕事だけで、巾着いっぱいの金子を下さった」
「あんた……お金もらってこんなことして。どうなるか分かってんの?」
皇后様が知れば、即刻処刑――そのはずなのに。
よりによって相手の名前を漏らすなんて、何てバカなヤツ。
呆れ声の小蘭に、しかし雲流は得意げに言い返した。
「くひひ、そんなもの、ぜーんぶ曹丞相様が揉み消して下さるさ」
小蘭は、ぎゅっと唇を噛み締めた。
「い……いいから。開けなさいよ、こっから出せ! 開けてっ」
ふらつく脚を精一杯に踏ん張って、ドンドンと叩くも、重たい鉄扉は空しく響くだけで、びくともしない。
喚き散らす小蘭の様子がよほど面白いのか、扉の外から甲高い引き笑いが聞こえてきた。
「ヒーッ、ヒッヒ」
「開けて! 開けろ、開けなさーーい。……開けてよ、ねえ……」
小蘭が、扉をたたく元気もなくなってきた頃。
「あばよ小娘。可哀想に、友達にも見捨てられてさ。まあ、いつか愛しい皇子様が気づいて下さるだろうよ」
「この、卑怯者ぉ……」
蛇だって蛙だって平気、高いところも大好きだけれど……。暗くて狭くてひとりぼっち。それだけは、ぎゅっと心が縮み上がる。
こんなところで私、誰にも知られず死んでしまうの?
暗闇に慣れたはずの視界が、じわりと狭まり、小蘭は息を詰めた。怖い……。
足音が、遠ざかっていく。
「待ってってば、雲流……ねえ助けてよ」
「んん、今何つったぁ~?」
嬉しそうに聞き返す声に、怖気を立てながらも、小蘭は雲流に懇願した。
「助けてって、そう言ったの。ねえ、お願いだから助けてよ。雲流」
「ほう、生意気なオマエが、俺様にそんな口を聞く日が来るとは。そうか、そーんなに言うんだったら」
カチャリ。
閂を外す音がして、一筋の光明が射した――、気がした。
「なーんちゃって。ウ・ソ。ヒャーハッハッ、んな訳ねえだろ。お前と凛麗様じゃ、格ってもんが違うんだ」
「くそっ、地獄へ落ちろ、この鼠野郎っ」
「あーっはは、気分がいいねえ、今日は祭りみたいだ。そうだ小蘭、オマエにはこれをあげよう。ほいっと」
パパッ、パパン、パパパパパーンッ。
爆竹だ。
小蘭は思わず耳を塞いだ。
ひとしきりの爆音が終わると、雲流の高笑いは、無情にも遠ざかっていった。
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