27 / 50
第1章
花火の下で
しおりを挟む
途中、とんでもない目に遭いながらも、私たちはぎりぎり花火の終焉に間に合った。
破けてしまったチヨちゃんの浴衣は、私の持っていた裁縫セットを使い、文子さんがさっと繕った。
繕い終えると、チヨちゃんはくるりと一回転し、ぱあっと顔いっぱいに笑顔を咲かせた。
四人で土手に腰を下ろし、花火が上がるたび、「わー」とか「ほー」なんて声を上げながら夜空を見上げる。
さっきみたいな〝恋人繋ぎ〟ではないにしろ、地面にある手を夏草に隠して、私たちもしっかりと手を繋いでいる。
いつもはそんなことないのに、今夜に限って手に汗をかいてしまっている。
頬が、じんわりと熱い。私は密かに、皆が夜空を夢中で眺めているのに感謝した。
打ち上げ場の間近に見る花火は、頭上に降り注ぐほどの迫力。腹の底まで震わせる音に、思わず息を呑んだ。
それをキャッキャと嬉しそうに眺めるチヨちゃんと、優しい顔で見守る文子さん。
この時間が、長くは続かないのだと知って、胸が静かに疼いた。
すると、私の視線を感じたのか、ふとチヨちゃんがこちらを向いた。不思議そうに首を傾げ、それから隣にいる宿禰様をじっと見つめる。
「あれえ? おじちゃんのご病気……治ったの?」
「ん?」
え、まさか。
私は千切れるほど首を伸ばし、チヨちゃんと向き合う宿禰様のお顔を拝見しようとした。
瞬間。
ドーン! という大きな音とともに振動が身体を突き抜けた。ほぼ同時に、空中の花火がさく裂する。
すると、私たちの間にふわりと夜風が吹き抜けーー
宿禰様のお面のお顔に、あの黄昏の日の幻が重なった。
異人さんのようなくるくるのくせ毛に薄い色の髪、面長の優しい顔をした青年が、夜空を見上げながら「やだなあ、そんなことないよ」なんて笑っている――。
「宿禰……さま」
きゅん、と胸の奥が鳴った。
私は、その美々しいお顔に吸い寄せられるように膝立ちになり、自分のお顔を近づけてゆく……。
膝に地面の草が擦れ、さわさわと幽かな音を響かせた。
その時再び。
ドドーン!
ひときわ大きな音に合わせて、空に、大輪の火の花が舞った。
おお~~。
かぎや~~。
その、ほんの一時。
全ての人々の目が、夜空の大輪に釘付けになった、その刹那。
私の唇が、宿禰様のお面にそっと触れた。
唇を離し、気づかず夜空を見つめている宿禰様にクスッと笑いかける。
すると。
「うわあ……文ねえちゃん。おねえちゃんとおじちゃん、ちゅーしたよ!」
「こらっ、チヨ、そんなことを言ってはダメ!」
「だって……」
「えっ? そ、そうなの、陽毬さん?」
「うん、本当だよおじちゃん。さっきねえ、おねえちゃんが……」
「そ、そんな事ありませんわ! チヨちゃん」
「わぷっ」
ああしまった、悪戯が、チヨちゃんに見つかってしまった。
宿禰様越しに、おかっぱ頭を抱き込むと、私は汗をかきながら、苦笑いを返した。
「く、苦しいよう、おねえちゃん」
「え、違うの? そうなの? え、嘘。え?」
ぱたぱたと手を動かし、慌てている宿禰様。
(しっ、内緒ね?)
チヨちゃんの前で、口に一本人差し指を当てると、チヨちゃんは神妙な顔で頷いた。
結局その日は、それまでの嫌なことが、すべて吹き飛んでしまうくらいに、幸せな夜になったのだった。
破けてしまったチヨちゃんの浴衣は、私の持っていた裁縫セットを使い、文子さんがさっと繕った。
繕い終えると、チヨちゃんはくるりと一回転し、ぱあっと顔いっぱいに笑顔を咲かせた。
四人で土手に腰を下ろし、花火が上がるたび、「わー」とか「ほー」なんて声を上げながら夜空を見上げる。
さっきみたいな〝恋人繋ぎ〟ではないにしろ、地面にある手を夏草に隠して、私たちもしっかりと手を繋いでいる。
いつもはそんなことないのに、今夜に限って手に汗をかいてしまっている。
頬が、じんわりと熱い。私は密かに、皆が夜空を夢中で眺めているのに感謝した。
打ち上げ場の間近に見る花火は、頭上に降り注ぐほどの迫力。腹の底まで震わせる音に、思わず息を呑んだ。
それをキャッキャと嬉しそうに眺めるチヨちゃんと、優しい顔で見守る文子さん。
この時間が、長くは続かないのだと知って、胸が静かに疼いた。
すると、私の視線を感じたのか、ふとチヨちゃんがこちらを向いた。不思議そうに首を傾げ、それから隣にいる宿禰様をじっと見つめる。
「あれえ? おじちゃんのご病気……治ったの?」
「ん?」
え、まさか。
私は千切れるほど首を伸ばし、チヨちゃんと向き合う宿禰様のお顔を拝見しようとした。
瞬間。
ドーン! という大きな音とともに振動が身体を突き抜けた。ほぼ同時に、空中の花火がさく裂する。
すると、私たちの間にふわりと夜風が吹き抜けーー
宿禰様のお面のお顔に、あの黄昏の日の幻が重なった。
異人さんのようなくるくるのくせ毛に薄い色の髪、面長の優しい顔をした青年が、夜空を見上げながら「やだなあ、そんなことないよ」なんて笑っている――。
「宿禰……さま」
きゅん、と胸の奥が鳴った。
私は、その美々しいお顔に吸い寄せられるように膝立ちになり、自分のお顔を近づけてゆく……。
膝に地面の草が擦れ、さわさわと幽かな音を響かせた。
その時再び。
ドドーン!
ひときわ大きな音に合わせて、空に、大輪の火の花が舞った。
おお~~。
かぎや~~。
その、ほんの一時。
全ての人々の目が、夜空の大輪に釘付けになった、その刹那。
私の唇が、宿禰様のお面にそっと触れた。
唇を離し、気づかず夜空を見つめている宿禰様にクスッと笑いかける。
すると。
「うわあ……文ねえちゃん。おねえちゃんとおじちゃん、ちゅーしたよ!」
「こらっ、チヨ、そんなことを言ってはダメ!」
「だって……」
「えっ? そ、そうなの、陽毬さん?」
「うん、本当だよおじちゃん。さっきねえ、おねえちゃんが……」
「そ、そんな事ありませんわ! チヨちゃん」
「わぷっ」
ああしまった、悪戯が、チヨちゃんに見つかってしまった。
宿禰様越しに、おかっぱ頭を抱き込むと、私は汗をかきながら、苦笑いを返した。
「く、苦しいよう、おねえちゃん」
「え、違うの? そうなの? え、嘘。え?」
ぱたぱたと手を動かし、慌てている宿禰様。
(しっ、内緒ね?)
チヨちゃんの前で、口に一本人差し指を当てると、チヨちゃんは神妙な顔で頷いた。
結局その日は、それまでの嫌なことが、すべて吹き飛んでしまうくらいに、幸せな夜になったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで
ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。
だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。
「私は観る側。恋はヒロインのもの」
そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。
筋肉とビンタと回復の日々。
それなのに――
「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」
野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。
彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。
幼馴染ヴィルの揺れる視線。
家族の温かな歓迎。
辺境伯領と学園という“日常の戦場”。
「……好き」
「これは恋だ。もう、モブではいたくない」
守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、
現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。
これは――
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。
※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。
※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。
※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
翠月 瑠々奈
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
今日から、契約家族はじめます
浅名ゆうな
キャラ文芸
旧題:あの、連れ子4人って聞いてませんでしたけど。
大好きだった母が死に、天涯孤独になった有賀ひなこ。
悲しみに暮れていた時出会ったイケメン社長に口説かれ、なぜか契約結婚することに!
しかも男には子供が四人いた。
長男はひなこと同じ学校に通い、学校一のイケメンと騒がれる楓。長女は宝塚ばりに正統派王子様な譲葉など、ひとくせある者ばかり。
ひなこの新婚(?)生活は一体どうなる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる