大正浪漫? 夫婦契約致しました ~暗闇の中、契約夫と密やかにはぐくむ愛~

佳乃こはる

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【番外編】 多摩川梓のとある一日

②宿禰の手紙

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 拝啓 多摩川 梓 殿

 久しく文を差し上げておらず……と書き出したいところだが、ついこの間会ったばかりでこのような文を寄越すことを、君は不審に思うかもしれない。
 どうか、これをもって、僕がついに惚けてしまったのかなどと思わないでくれるとありがたい。
 
 この間は、とても楽しい時を過ごさせてもらった。あの件も、いよいよ本格的に動き始めた由、何よりと思っている。

 自由を愛する君のことだ、朝から晩まで駆け回るような真似はしていないだろうが、君なりの歩調で進めていけば、きっと上手くいく。
 
 前置きが長くなってしまった。
 そろそろ本題に入ろうと思う。

 今日、筆を取ったのは、実は君に是非とも会ってもらいたい人物がいるからなんだ。
 これまで君には伏せていたが、去る皐月さつきの十日、僕の処にお嫁さんが来てくれた。

 名を、両口屋陽毬さんという、製糸製布を営む家のお嬢さんだ。
 まだ十七の歳だというのに、大層肝の据わった人で、初対面で僕を見ても決して恐れない。一瞬だけ言葉を探すように視線を彷徨わせた後は、何事もなかったように微笑み、話を続けてくれた。

 僕の取り留めのない話にも付き合って、初めて聞くことのように熱心に耳を傾けてくれる、知的な人だ。
 君と同じだ。
 この暗闇に閉じた僕の世界に、人の温かさと外の光を運んでくれた。
 
 先日、僕は彼女に、この姿になった事のいきさつや、家の事情、全てを包み隠さず話したんだ。

 君に聞かせたならきっと、そんな無茶はよせ、諭されたんじゃないかな。
 そりゃあ僕だって、相当覚悟を決めてたさ。そのまま去っていかれても不思議じゃないと思ってた。
 
 それなのに……。
 暫く黙った後、彼女は僕にこう言ったのだ。
 一緒にご病気を治しましょう、と。

 その言葉を聞いた時、初めて息をしてもいいのだと思えた。
 この姿で、もしも涙が流せたのなら、少しは格好もついたんだろうが。

 おっと、いけない。少々筆が過ぎたみたいだ。どうやら僕は、思った以上に舞い上がっているようだ。
 
 ともあれ、彼女を是非とも君に会わせたい。彼女の方も〝うん〟と言ってくれた。

 君は、相変わらず昔のままだから、会えばつい憎まれ口をたたいてしまうが、僕はいつも感謝しているのだ。
 
 こんなこと、面と向かっては恥ずかしくって到底言えないから、手紙で済ませてしまうことを、どうか許して欲しい。

 そういうわけだから、身体が空いたら一度、こちらへ足を運んでくれたら有難い。
 もし君が来て、彼女を笑わせたら……その時僕は、打ちひしがれてしまうかもしれない。

 それでも、来てくれ。

 僕は君に見てほしいんだ。

 敬具

 七月十二日
        権藤 宿禰 

 
 
 
 
 
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