指先で描く恋模様

三神 凜緒

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夕暮れの下校 その1

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淡い茜空…雲がゆっくりと西から東へと流れて…散り散りになり形を無くす。
その雲をそっと掴み上げ、握ればまた一つになり、好きな所へと飛んでゆけと指で弾く…
雲はそのまま、違う雲にぶつかりまた一つとなる…そのまま陽の光によって消え失せても、どこかでまた、生み出される…
まるで、恋のように大きくなっては消えて、また大きくなって…を繰り返すかのように

「何て…事があったら面白いのに…ふふふっ…」

まだ真新しい白い校門に寄りかかり、指先に乗った赤とんぼに微笑みかけながら、待ち人の影を探す…
細長い影はゆれる事なく、四枚羽の虫が飛んでいっても動くことはなかった。
季節外れのセミの声にでも耳を傾けているのか、目を閉じて、自然と零れる鼻歌が時の流れがゆっくりとさせるのを感じていく…


「お~~い、樹《たつき》~~~! こんな所で何をやってるんだ?」

目を開ければ、そこは先程までいた夢の世界ではなかった。
日焼けした顔をにこやかに崩し、無邪気な様子でこちらへと駆け寄る青年。
僕は校門に預けていた背を離し、錆び一つない鉄格子に手をかけ、体を持ち上げる。

「東谷君…練習終わったの?」

夢を見てる間は感じなかった…彼の足音と共に鼓動が速くなる…
鼓動がバレぬ内に、少しだけ深呼吸。

「いや~それがさ…練習中に堀部先輩の頭にボールがぶつかってさ…緊急搬送…(-_-;)」
「そのボールをぶつけた人って…誰?」
「俺……だな……」
「やっぱり…先輩が避け切れないシュートする人なんて、東谷君ぐらいだもんね~」
「あはははは…(;^ω^)」

こちらの視線に耐え消れず、上の空で乾いた笑みを浮かべる東谷君。
上を向き、ちらっと見える太い首筋にそっと指先を伸ばし、軽く一撫で…

「うわっ…! くすぐったいだろ…樹《たつき》っ!!」
「ふふふふっ……隙だらけなのが悪いんだよっ♪」

まるで猫の喉を撫であげるように、何度も指先でこちょこちょしていたら、よほどくすぐったかったのかボクの手を強く掴みあげてきた…
東谷君はボクよりも運動しているからか…ボクよりも熱い手だった…

「あっ………」
「こらっ…悪戯はこの辺にしろ!!」
「うん……」

まだ掴みあげられている手…顔を伏せて彼が自分の顔を見ないようにする…
ボクの手はきっと冷たいはず…だって、秋風に吹かれながらずっとここで待っていたから…
ただ振りほどくことは出来ない…じっと彼が離してくれるのを待っている…
秋風がどんなに冷たく吹いても、この頬の熱さだけは冷ましてくれそうにない…
ジッとしていると、もしかして、バレるかな~って、チラチラ上目遣いで見ていたら…

「どうしたんだ? 樹《たつき》…具合でも悪いのか?」
「もう~~~~!! そうじゃないよ~~~!! って…あれ? カバンは?」

…東谷君…何か身軽そうだなって思ったら…カバンを忘れている…(;’∀’)
確か前日も、忘れていたよね…この人…!! 仕方ないなとため息を吐きながら…

「あれ…忘れちまったか…先輩の事でドタバタしてたからな~~はっはっはっは…」
「相変わらずだな~、仕方ないからボクがとってくるよ~」
「いや大丈夫だって…俺がとってくるよ~」
「いいのいいの…東谷君疲れているでしょ? ボクがとってくるから待ってて~」

彼の手を振りほどける口実が出来た…と、だが名残惜しくもあり、彼の手をもう片方の手で握り、そっと離させる…一瞬だけ両手で彼の手を握りしめていたのには…気づいてないかな?

「どうしたんだ?」
「いや……何でもないよ~~」
「うんっ?」
「それじゃ、いってくるね~」

駆け足で校舎に向かい、彼が後ろから何か声をかけているが…気づかないふりをする。
まだ真新しい白い上履きに履き替えて、彼の視線を切ると、大きく深呼吸。
足取りも軽やかに、再び彼の教室へとスキップする…
三階に登り、廊下側の窓からは校門が見える…そこには佇んで待ってくれている彼の姿が…
一度だけ立ち止まり、彼の姿をじっと見つめる…頭を掻きながら、バツの悪い顔をしていた。
きっと、ボクに余計な手間をかけさせたと後悔しているのかな? 

「そんな事、気にしなくていいのに~うふふふっ…♪」

そっと彼に向って指を向けて、ツンツンと先程のようにガラスを突く…
ガラスが波紋のように揺れ動き、彼の姿を歪ませるがすぐに元に戻る…
幻ではない、確かにそこにいる存在…遠くても、霞んでもよく見える…あなたの姿

「これ以上、彼を待たせられないよね♪ いこっと~」

大がかりな設備がある化学室を通り過ぎ、美術室を横目に駆け足で廊下を歩く。
再び彼の教室に着くと…小さな声で「おじゃまします」と言いながら扉を開く…
少しだけ暗くなってきた教室…先程までとは違う暗い雰囲気に少しだけ怖くなる…
足音もなくゆっくりと彼の席へ…、先程指でなぞったボクの名前はもちろん見えない。
だが、それで良いのだ…気づいたらきっとすごく恥ずかしいから…
机にぶらさがってるカバンを外し、ギュっと抱きしめると彼の匂いが一瞬フワッっとした。

「やっぱり野性的な匂いだよね…彼って…」

もう一度よく匂いを嗅いで、自分とは違う男らしい匂いに微笑む…
そしてもう一度キョロキョロと周りを見回して、誰もいない事を確認する…

「ホッ…こんな事をしてないで、東谷君の元に早くいかなきゃ…」

最近、自分でも何をしているのか理解出来ない時がある…彼の事を考えるといつもそうだ…
顔の熱を冷ますように、風を切るように廊下を全速力で駆け抜ける。
校門に着くと、運動不足がたたり酷い息切れをしていた…
そんな様子を見ていた東谷君は…「普段から走り込みしないとダメだぞ?」って笑っている…そして…

「そんなに顔を真っ赤にするぐらい急いで走って来なくても、ゆっくり待ったんだぞ? いきなり走ったら、足の筋を可笑しくしたりするからな、注意しろよ?」
「あうっ! ……そうじゃないんだよ~もう~~~(#^ω^)」
「どういう事だ?」
「いや……うん…何でもない~~あははは…(;^ω^)」

スポーツマンらしい助言に間違っちゃいないんだろうけど、ボクは全然気づいてくれない彼の反応に理不尽にも怒りそうになって、慌てて我に返る……

「変な奴だな…本当に風邪でも曳いてないか?」
「大丈夫だよ~もう…そんな事よりも暗くなる前に早くいこう!」
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