指先で描く恋模様

三神 凜緒

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彼のぬくもりと授業の間の考察

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異性は何故、そんなに魅力的であり、興味を惹かれるのだろうか? 
気づいたら、物心ついたら、異性と云うモノが傍にいた。
子供の内は男女の違いがなく、小学校高学年になると、何か違いが出てきた。
体つきからなのか、それとも精神からなのか、或いは両方か…


東谷君と共に、チャイムの鳴り響く廊下を全速力で教室に戻る間、工藤先生の事を考えていた。
彼女は一体、貴重な休み時間を割いてまで、どうして東谷君に授業をしていたんだろう?
きっと、何か下心があるに決まっている! というか、思春期の東谷君にはあると思う!
恋敵として一番恐ろしい相手…それは、相手の真意が分からないと手の打ちようがない事!

「うわたっ…!」
「あぶない!」

物思いに耽りながら走っていたのが不味かったのか、足をもつらせて転びそうになった所を、隣を走っていた東谷君が腕を伸ばし支えてくれた。

「おいおい…大丈夫か? よそ見して歩いているからだぞ?」
「うんっ……ありがとう……ううううっ…」

先程まで自分から彼に抱き着いていたけど、それとは違う彼に抱き留められる感触。
しょうがない奴だなと呆れられながらも、優しく包んでくれる彼の表情とぬくもり…
時間がないのは分かっているのに、指先に力を込めて、彼の腕を握りしめる。
チャイムが鳴りやもうとしても、握った指を緩めないボクに彼は次第に心配げな表情を浮かべ…

「もしかして、足でもくじいたのか? 良かったら、樹のクラスまで運ぶぞ? それとも、保健室がイイか?」
「大丈夫…このままずっと…じゃなくて、運ばなくても大丈夫だよ…東谷君も授業遅れちゃうよ? 早くいこう?」

乙女心としてはずっとこのまま傍にいたいが、それで彼に迷惑をかけて負担にされるのは一番ツライ…断腸の想いで指を離すと、彼の隣を小走りで走っていく。
彼の教室に着くと、先生はまだ来ていないようだ。彼は最後まで心配そうにこっちを見ていたが、大丈夫だよと笑みを返すと、『そうか…』と一言だけ呟き、教室の前で軽く頭を撫でてくれた…

「なっ…ななななっ…!?」
「何を恥ずかしがってるんだ? さんざん工藤先生の前で抱き着いていたのに?」
「ううううっ…それはそれ! これはこれよ…!」

彼の手のぬくもりはとても暖かく、手が離れた後もしばらくの間暖かい感じがしていた…
もちろん、これが彼なりの先程までのボクの行為に対する答え…だったら嬉しいのだけど
もちろん、何事もいたずらっ子な彼の事…ただの気まぐれだろう…本意はそんなもの…

(そうに決まってるもん……だって、だって、これで勘違いして告白して玉砕したら…バカみたいじゃない…!)

「それじゃ、またあとでな♪ 樹も早く教室に戻れよ?」
「あっ………」

恥ずかしさで俯き、左胸に手を当てて何も言わなかったからか、彼はもう一度だけ頭を撫で、扉の向こうに消えてしまった。
彼がいなくなり、廊下にも誰もいなくなってから、ふと心細さに胸ポケットのしおりを指でなぞる…すると、少しだけ心が落ち着いた。

「早く教室にいこう…」

授業が開始する前に教室に戻らねばとすっきりと気持ちを切り替えた。
――――ボクも急がないと不味いよ(‘Д’) 
ただ職員室から来たのに、先生の姿はまだ見えない。出発地点が職員室なのは先生も同じのはず!

「まだ間に合うはず…!」

一人になり、廊下に誰もいなくなってから全速力でクラス二つ分を走り抜く。
確か次は化学の田辺先生の筈…! あの人は定年間近で走れない。いつも授業は遅れてる筈…

「せ~~~ふっ!」
「樹君か? もう授業が始まって五分も経っておるぞ? 何をしとったんだ…」
「田辺先生いた~~~! どうして~~~!!」

「単純に樹君よりも先に職員室を出ていただけですよ? まったく…工藤先生の授業が楽しいのは分かりますが、先生の授業もちゃんと来てくださいね?」
「はい~~~~すみません」


幸いな事に田辺先生はとても温厚なおじいさんで軽いお小言一つでお咎めはなしだった。
ただ職員室でのやり取りは先生方には見られてたようだ…当然だよね。
まあ学ラン同士だし、男同士でふざけ合ってるとしか見えないと思うけど…はあ~
授業中な事もあり、何も喋れなかったら、隣にいる美桜から紙が届き、こう書いていた…


(どうしたの? 樹)
(美桜…いやね…もしかしたら工藤先生もそう思って見てたのかな~って想像すると泣けて来て…)
(あんたも早くスカートを普通に履けるようになりなさいよ~)
(ぐぬうぬぬぬ…スカート履いて彼から距離置かれたらどうしよう…ううううっ)
(……考え過ぎだと思うけどね…)


だって…恥ずかしいんだもん…とは言えない。情けなくて、心は日に日に乙女になっていくのに、それに体が追い付いてない気がする…
あれだけ、こっちをヤキモキさせて…どうせ東谷君は男同士のおふざけ…位にしか思ってないんだろうな~っと思うと、泣けてくる…
今頃何をどう思ってるのかな…東谷君は……? 工藤先生との授業を楽しみにしてるのかな? きっと…そうだよね……
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