指先で描く恋模様

三神 凜緒

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昼休みの歓談 その1

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百人一首といえば、古文の入門書というよりも、カルタの一種として有名じゃないかな?
先程、工藤先生が言った楽しいと記憶が、関連記憶となり記憶力が向上するという。
実際、あとで両親に尋ねたらカルタ遊びをしていて、百首全部覚えていた。
すごいな~すごいな~と言ったんだけど、ただ両親揃って意味を覚えてないと言ってた。

あくまで遊びの道具であり、覚えてもその内容まで吟味する子供はいないみたい…
それじゃ、意味じゃないじゃないか~~~と思ったんだけど、それで良かったらしい。
子供の内にまずは丸暗記し、大人になって古文に興味を持ち始めれば、それを基礎に助詞などを学んでいけばいい…ようは時間をかけた二段階勉強法。

特に、大人になってから記憶力が低下してるな~って思った方がいれば、それは恐らく感情の起伏が少なくなってきたからでは? と思い返してみてください。
楽しいという感情が生まれればきっと、また記憶力が向上する筈です~


「先生がオススメする最初の歌とか…あるのかな?」
「百人一首の中に、紫式部がいる…!」
「それって、源氏物語の作者の?」
「そうそう~、あの有名な恋愛小説の…てことは、この短歌も恋の歌なのかな?」
「どれどれ…えっと…」

めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 
雲がくれにし 夜半の月かな
(意 久しぶりに巡り会えたと思ったら、そうと確認する間もなく、雲に隠れてしまう月のように、あたなもすぐにいなくなってしまいましたね…)

「これは…恋の歌かと思ったら夫がいるから友達の歌みたい、ちょっと寂しそうな歌だね…」
「こういう表現に男は弱いな~きっと。直接責められるよりもいじらしい所がグっとくる」
「へえ…そうなんだ…男ってそこがポイントなんだ…フムフム…」
「………何を納得してるんだ?」


次の昼休みも、ボクは百人一首を二人で読みたいと、一階の飲食用のフロアに出て、彼と並んでいた。
彼の肩が少し触れる度に、少しだけドキっとする。もちろん、それを表に出す事もなく。
ただ短歌に興味があるあるとアピールしながら、少しでも彼に触れようと身を乗り出す。

「樹がそんなに短歌に興味あるなんてな~びっくり…」
「いや…うん…そうです…はい…」

意図がバレたらバレたで困っちゃうから、それでイイんだけど…イイんだけどさ…
このにぶちんな精神…攻略出来るのかな…本当に…はあ~~

「これを丸覚えするぐらいなら、すぐに出来そうだよね…実際」
「分かりにくいのは…『わかぬまに』と『雲がくれにし』かな」

他は現代文でも何となく分かるよね…この二つの助詞を重点的の覚えるのがイイんだろうか…えっと…

「わか『ぬ』は打消しの連用形みたい…今なら『分からぬ』って言いそうだな…」
「この短くまとめれる所が…古文のイイ所だよね…『分からぬ』じゃ、連用形にならないのが本当だろうけど~」

短くまとめなくちゃいけない短歌や俳句には、こういったモノもあれば楽だよね…実際
本当は連用形の意味を伝えなと分かりにくいかなと思ったのでざっくりと説明すると、これの場合は、動詞を形容詞のように使える形にする…で合ってるかな?
具体的には『動く』を『動ける物』とか、『捌く』を『捌ける人』とかに変化させる。

「雲がくれ『にし』も現代では見ないかな? これは…解説によると、『に』は、完了の助動詞と書いていて、『し』は過去の完了の助動詞とか書いてるが…覚えれないね」
「こういう時は、『雲隠れになったな~』をこうやって書くんだぐらいに覚えると楽だよね」
「いきなり難易度下がった…! まあテスト勉強する訳じゃないしね~」

後はこれをどうやって覚えるか…何だけど、実は工藤先生に渡されてからずっと考えている方法があった…
それを東谷君に隠れて工藤先生に伝えたら、それとなく紫式部の歌があると言われていたんだけど…

「関連記憶を深くするために…これを二人で即興劇をやるのか? 本当に…」
「東谷君…芝居は苦手だっけ?」
「それよりも問題なのはさ…俺に月の役でもやらせるつもりか…?」
「いや……友人の役かな? やっぱり…でもな~」

紫式部なら絶対に熱い恋愛の歌だと思ったのに…! 友人がそっけないだけの歌だなんて…これは、先生に嵌められたのだろうか…! 
男だが女だかわからないボクには、これがお似合いだというのか…!!
もしかしなくても、先生からはボクたち二人はただの男友達だと思ってるとか…!!

「どっちだ…どっちなんだろう…! やっぱりスカート履かないとライバルにも見られないのかな……」
「一体、何を悩んでいるのだ? 樹は…」
「いや…これはまだまだ始まり…ここはグっと堪えて頑張ろう…うん」


(ここからは、二人の即興劇をお送りします)

『よう~、樹~久しぶりだな~元気してたか?』
『うっ…うん…元気だよ…東谷君も元気だった?』
『ああ……元気だったよ~最近、部活が楽しくて楽しくて夢中になってたわ』
『へえ~~そうなんだ…』
『これからまた部活だからよ。それじゃ、元気でやれよ~またな~~~!』
『(グサッ)うっ…うんっ…またね…』

これは…演技だと分かっていても、かなり精神的にダメージを受ける…
普段は会えたらもっと深く話して、色々とドキドキするのに…まるで相手にされていない。
あくまで演技としてやっているので、全く罪悪感なくやっていそうな東谷君が憎らしい…

(やはり、これは絶対に工藤先生の陰謀だよ~~~~!!)
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