指先で描く恋模様

三神 凜緒

文字の大きさ
32 / 88

とある坊主の戯言…

しおりを挟む
人は自由でありたいと願う生き物なんだろう。ただ、自由の意味そのものを理解している者はどれだけいるのか…要として分からない。
原生生物のように、ただ本能のままに、欲望のままに生きのとは違うのかも知れない。
本能に支配されては、それは自由とは呼ばない。
欲望に支配されては、自分の本当にしたい事を叶えられはしない。

本当にしたい事とは、欲望を越えたその先に見えるモノだ。
だがそれは、どれほどの修行を重ねても、どれほどの苦難を乗り越えても…到達し得なかった。

ただただ、白髪が増え、腰が曲がり、無駄に地位だけは高くなっても、己の無能さと、欲深さを再認識させられるだけだった。
自分が校長先生などと呼ばれるようになったのは、果てのない何も見出せない修行に嫌気が差していた時だ。
修行僧ではない。ただの普通の学生たちに道を示して欲しいと言われたからだ…


「そういえば…校長先生は防寒具とか買わないのですか?」
「ワシか? 心配するな…若い頃から極寒の地に衣一枚で山にて修業をしておったからな。この程度…ただのそよ風だ」
「うおぅ…何とも楽しいお言葉…」
「がっはっはっは~~~♪」

腕を組み、大股をあけて大きく高笑いをしてやる。まるで、ガキ大将のように自慢げに。
こちらの想像以上に驚いてくれる男性学生…名前は東谷と云ったか…今時では珍しいぐらいに穏やかな…落ち着いた子だと思った。
人ごみの向こうにいく彼女を見送るのは、少し心配そうだったが、過保護になってはならないと、その場にいるのだろうか?
こちらと話ながらも、視線だけは彼女へと向けられている。

「歌はその時代を象徴するものだ…その時代の風潮や時代背景。歴史を物語る。ワシがこの野外活動をした本当の理由はな…」
「ん??」
「時代を描いて欲しいのだ。教えて欲しいのだ…今の時代を…」

思い出すのは若い頃。誰も彼もが貧乏で防寒具など買えなくて、大学生になっても、雪の中で学ランを羽織り、首元を締めて登校していた。今からすれば、滑稽そのものだったろう。
誰も彼もが…そうであった。だからこそ…このように防寒具を求めて皆が買う事が出来る世の中というのが………

「空は白く 秋の限りに 墾(は)る大地 ゆきは沁みつつ 懐錆びて」
(翻訳 空は何もなく、ただひたすらに、秋の続く限り、土地を開墾し終えると、ゆきが大地に染みわたり、またその白さに懐かしさを帯びる…)
「何ですか?…それは…」
「ただのジジィの戯言じゃよ? ほれ…あの子が戻ってきたぞ? 迎えにいってやれ…」
「あっ…はいっ! それでは校長先生…失礼します!」

元気のイイ子らだ…彼らがどのような時代を作るか分からぬが…せめて、人が人を思いやれる…そんな時代であって欲しいと願う……
自分に負けるな…などとは言わない。
ただ、欲望に負けて本当にしたかった事が出来なくなるような…後悔するような人生を歩んでは欲しくない…そう願っている。

「さてさて……高枝切りハサミはどこだ~? 確か向こうでレンタルしていた筈だが…」
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

【完結】あいしていると伝えたくて

ここ
恋愛
シファラは、生まれてからずっと、真っ暗な壁の中にいた。ジメジメした空間には明かり取りの窓すらない。こんなことは起きなかった。公爵の娘であるシファラが、身分の低い娼婦から生まれたのではなければ。 シファラの人生はその部屋で終わるはずだった。だが、想定外のことが起きて。 *恋愛要素は薄めです。これからって感じで終わります。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

処理中です...