9 / 14
取り引き
しおりを挟む
ヘンリエッタは社交デビューをしなかった。
すでに婚約者も決まり、ヘンリエッタの役目は後継を作り、神に祈りを捧げ、歌を奉納すること。ヘンリエッタの人生に社交は必要なかった。
ヘンリエッタは悩んでいた。話せなくても生活に支障はない。たった一つの問題を除けば。
毎年コレットに歌の奉納の代役を頼むわけにはいかなかった。すでに2回も頼んでいた。
ヘンリエッタは神託の間に入った瞬間に魔法陣は光るが神の声は聞こえない。
姉よりも優しくお世話になっているコレットの婚約の儀式が来月に控えていた。婚約の儀は神官立ち合いのもとに行う。その時に祝福の歌を捧げられた二人は生涯幸せに過ごせると伝えられていた。神殿で歌を奉納できるのは神官と巫女姫だけであり弟のタロスは音痴のため頼めなかった。人を不幸にしかできないヘンリエッタが唯一できそうな良い事だった。
ヘンリエッタは神託の間に行き、神の声が一番良く聞こえるという魔法陣の真ん中に立ち口をパクパクさせながら空の見える天窓を睨みつけた。
神様、声を返してください。神力はいりません。でも声が出ないと困ります。定期的に歌も奉納するので取引してください。好きな歌を歌ってあげます。
『讃美歌』
ヘンリエッタの耳に男の声が聞こえた。
「歌います。声を、戻った!!」
ヘンリエッタは大きく息を吸い、讃美歌を口ずさむ。気持ちはこめずにただ歌うだけだった。ヘンリエッタには神に一心に祈りを捧げられるほどの信仰心はない。
どんなに願ってもドログの額の傷が治らなかったので信仰心は全て捨てた。
歌声が神殿中に響き渡り、大神官達が神託の間に入ると魔法陣の中心で光に包まれヘンリエッタが歌っていた。
タロスが勢いよくヘンリエッタの腰に抱きついた。
「おかえり、姉上」
「タロスも一緒に」
タロスがヘンリエッタと一緒に歌うと一気に騒音が響き渡る。
大神官達は苦笑しながら姉弟なのに正反対な二人を見ていた。耳さえ塞げば白銀の髪を持つ天使達が微笑み合う美しい光景が広がる。
それからヘンリエッタは聞こえる声に合わせて、歌い出すようになった。自室、広間、神殿、森と様々な場所で歌い、神託の間の意味ってあるのだろうかと思いながら。
声が戻ってもヘンリエッタは全く話さない生活を続ける。神の声が頻繁に聞こえるため、願いを間違った解釈で叶えられても迷惑だった。ヘンリエッタにとって神の叶える願いはマトモで有り難い物は一つもなかった。
すでに婚約者も決まり、ヘンリエッタの役目は後継を作り、神に祈りを捧げ、歌を奉納すること。ヘンリエッタの人生に社交は必要なかった。
ヘンリエッタは悩んでいた。話せなくても生活に支障はない。たった一つの問題を除けば。
毎年コレットに歌の奉納の代役を頼むわけにはいかなかった。すでに2回も頼んでいた。
ヘンリエッタは神託の間に入った瞬間に魔法陣は光るが神の声は聞こえない。
姉よりも優しくお世話になっているコレットの婚約の儀式が来月に控えていた。婚約の儀は神官立ち合いのもとに行う。その時に祝福の歌を捧げられた二人は生涯幸せに過ごせると伝えられていた。神殿で歌を奉納できるのは神官と巫女姫だけであり弟のタロスは音痴のため頼めなかった。人を不幸にしかできないヘンリエッタが唯一できそうな良い事だった。
ヘンリエッタは神託の間に行き、神の声が一番良く聞こえるという魔法陣の真ん中に立ち口をパクパクさせながら空の見える天窓を睨みつけた。
神様、声を返してください。神力はいりません。でも声が出ないと困ります。定期的に歌も奉納するので取引してください。好きな歌を歌ってあげます。
『讃美歌』
ヘンリエッタの耳に男の声が聞こえた。
「歌います。声を、戻った!!」
ヘンリエッタは大きく息を吸い、讃美歌を口ずさむ。気持ちはこめずにただ歌うだけだった。ヘンリエッタには神に一心に祈りを捧げられるほどの信仰心はない。
どんなに願ってもドログの額の傷が治らなかったので信仰心は全て捨てた。
歌声が神殿中に響き渡り、大神官達が神託の間に入ると魔法陣の中心で光に包まれヘンリエッタが歌っていた。
タロスが勢いよくヘンリエッタの腰に抱きついた。
「おかえり、姉上」
「タロスも一緒に」
タロスがヘンリエッタと一緒に歌うと一気に騒音が響き渡る。
大神官達は苦笑しながら姉弟なのに正反対な二人を見ていた。耳さえ塞げば白銀の髪を持つ天使達が微笑み合う美しい光景が広がる。
それからヘンリエッタは聞こえる声に合わせて、歌い出すようになった。自室、広間、神殿、森と様々な場所で歌い、神託の間の意味ってあるのだろうかと思いながら。
声が戻ってもヘンリエッタは全く話さない生活を続ける。神の声が頻繁に聞こえるため、願いを間違った解釈で叶えられても迷惑だった。ヘンリエッタにとって神の叶える願いはマトモで有り難い物は一つもなかった。
1
あなたにおすすめの小説
彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった
みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。
この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。
けれど、運命になんて屈しない。
“選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。
……そう決めたのに。
彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」
涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
[完結]離婚したいって泣くくらいなら、結婚する前に言ってくれ!
h.h
恋愛
「離婚させてくれぇ」「泣くな!」結婚してすぐにビルドは「離婚して」とフィーナに泣きついてきた。2人が生まれる前の母親同士の約束により結婚したけれど、好きな人ができたから別れたいって、それなら結婚する前に言え! あまりに情けなく自分勝手なビルドの姿に、とうとう堪忍袋の尾が切れた。「慰謝料を要求します」「それは困る!」「困るじゃねー!」
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。
しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。
マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。
マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。
そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。
しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。
怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。
そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。
そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる