追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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閑話 蛇克服 フィル視点

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俺はカーソン伯爵家次男のフィル。
友人のレティシアの趣味は狩りと読書である。
狩りの腕がレティシアに負けたことが悔しくて隠れて鍛えたのは内緒である。博識なレティシアのお陰で、森や狩りの知識も身に付き、いつでも森で暮らせると自負できる。俺がいれば遭難しても大丈夫と笑った友人は自身の博識さを全くわかっていない。教師に教わるよりも友人に教わるほうが勉強になった。伯爵家と公爵家の求められる教養のレベルの違いは凄まじい。俺は伯爵家の生まれで良かったと思っている。

「フィル、蛇は得意ですか?」
「苦手ではないけど」
「蛇狩りに行きたいんですが付き合ってくれませんか?」
「了解」
「大量に討伐する準備をお願いします。」

レティシアが突拍子もないことを言うのはいつものことだ。思い詰めた顔をしているから付き合ってやるか。
いつもより多めに矢は用意して待っていると、現れたレティシアは大きな袋を背負った護衛騎士のマオを連れていた。レティシアの案内でいつも訪れる森とは違う、初めて訪れる森に足を踏み入れた。

「フィル、覚悟はいいですか」
「ああ」

顔が強張って緊張しているレティシアの雰囲気に飲まれて思わず頷いた。狩りに覚悟?張り詰めた空気の中、魔法陣を書いた紙に魔石を置いて呪文を唱えている。気配がして視線を向けると蛇を見つけて弓を手にして射った。ありえないほど絶え間なく蛇が出てくる。まさか蛇を魔法で誘ったのか・・。一言教えて欲しかった。レティシアはステイ学園に入学していないのに魔法が使える。本の魔法使いの真似をしたら使えたと照れながら教えてくれた。精霊に好かれる人間は自然に魔法を使えると言われている。ただレティシアは目立ちたくないので内緒と約束させられている。レティシアの魔法のことを知っているのは俺と護衛騎士のマオだけだろう。エイベル様は気付いてるかもしれないけど。

レティシアは青い顔で蛇を弓で狙っている。蛇が苦手なのは知らなかった。顔が青くなっているのは出会ってから初めて見た。熊や魔物にも怯えず冷静に対処するのに・・。
蛇が絶え間なくむかってくるけど、どれくらい出てくるんだ・・。矢が足りるか不安になってきたので剣で狩ることにした。斬っても斬っても蛇が出る。時間の感覚もわからないほど斬り続けた。辺りは蛇の死骸だらけだ・・。レティシアはどれだけ矢を持ってきたんだろうか。マオの抱えていた袋は矢だったのか。
無表情で弓矢で蛇を狩っている。ただ体力のないレティシアはこのままで平気なんだろうか。倒れてもマオがいるから心配はないけど、ビアード公爵から叱責を受けるのは避けたい。

「お嬢様、そろそろやめませんか。このあとの予定に支障がでます」
「まだ蛇が出てきます」
「俺が片付けます。集めていただけますか」
「わかりました」

レティシアが呪文を唱えてしばらくすると大量の蛇が一気に現れた。マオが詠唱を始めて大量の風の刃で斬り刻んでいる。マオの風に飛ばされた蛇の死骸が血の雨と共に空から降ってきた。血の雨は避けきれず、全身が生臭くなった。レティシアはマオの風に守られて全く汚れていない。マオは強い。ビアード公爵令嬢の専属護衛は人気で入れ変わりは激しいがマオだけは外されたことがない。

「フィル、目を閉じてください」

目を閉じると、体に水が襲ってきた。びしょ濡れだが血と汗で汚れた体は綺麗になりサッパリした。今日は暖かいからすぐに乾くだろう。レティシアが蛇を手に取り、震える手で捌きはじめた。
蛇狩りって、苦手だから克服したかったのか。別に蛇が苦手でもいいと思う。でもビアードの者として強くあろうとする彼女はそんな甘えは許さないか。倒せるなら、捌けなくても平気だろうに。この大量の蛇をどうするつもりなんだ…。

「レティシア、捌いた蛇はどうするんだ?」
「近くの村に寄付します。この辺りの大蛇に成長してない蛇には毒はないので。」
「一匹ずつ捌いたら門限に間に合わない。捌くのはマオに任せて、村に持っていこう。料理する時間も必要だろ?」

じっと考え込んだレティシアがマオを見て頷いた。マオが魔法で蛇を捌いていく。マオの魔法はいつ見ても見事だ。捌いた蛇を風魔法でまとめて運ぶようだ。
俺達は村を訪ねた。すれ違う村人は浮いている蛇に驚き、レティシアに気付くと笑顔で手を降っている。切り替えの早さはさすがビアード領民だ。
村長が驚いた顔で近づいてきた。

「レティシア様、それは」
「森に大量に蛇が発生し被害に困っていると話を聞き、討伐しました。捌いたものは皆様で分けてください」
「これは・・・」

村長は大量に捌かれた蛇を見て茫然としている。一応、ビアード公爵令嬢として蛇狩りをしたのか…。

「お嬢様、いらっしゃい!!」
「これで森で遊んでも安全です。ただ念の為大人と一緒にお願いします」
「おじいちゃん、お祭りしよう。こんなにあれば皆で食べれるよ」
「それは素敵な思い付きね。」

レティシアと少年が楽しそうに話している。レティシアは余計なことを言ってしまった。
村長が我に返って笑みを浮かべた。

「準備するか。レティシア様も参加されてください。部屋を用意しましょう」

一瞬困惑した顔をしたレティシアは作り笑いをした。帰りたかったんだろう。ビアード領民はレティシアの願いを叶えたがる。レティシアの言葉に祭りの準備が始まるだろう・・。

「お手伝いしますわ」
「レティシア、時間は平気か?」
「最初だけ参加して帰りは馬を風魔法で疾走させてもらいます。フィルは泊まっていきますか?先に帰ってもいいですが」
「泊まる」

この状況では置いて帰れない。村人が集められ祭りの準備が始まった。
領民に人気なレティシアがいれば自然に人が集まる。森の蛇を討伐し、蛇を自分達に振舞ってくれたことに感謝を捧げられていた。俺はレティシアと二人で笑顔で応対した。しばらくすると料理が振る舞われた。
目の前の蛇料理にレティシアは引きつった笑みを浮かべている。そっとレティシアの皿の蛇料理を食べる。食欲のないレティシアは果実水しか飲んでない。

「お嬢様、これ、私が作ったの!!食べて」

子供に差し出された蛇の串焼きをにっこりと受け取り死んだ目で口に含んだ。

「美味しいわ。私はこれで充分なので、あとは皆で」

笑顔で走り去る子供を見送った。

「もらう」
「ありがとうございます」

弱々しく笑いながら差し出された蛇の串焼きを受け取った。公爵令嬢に蛇を食べさせる領民ってどうなんだろうか・・。蛇はこの村のような田舎では食べられても、一般的には口にしない。
顔色の悪い友人はこれ以上無理をさせたら倒れそうなので村長に挨拶をして退席することにした。

「レティシア様、蛇の皮をお持ちください。」
「孤児院に寄付してください。私は皆様の笑顔という充分なお礼をいただきましたわ。またお困りの際はいつでも相談してください」

蛇の皮は高価だ。これだけの皮があれば相当な金額が手に入るだろう。ただ蛇が嫌いな友人には不要だろう。それにレティシアは金に困っていない。お小遣いが余ったと孤児院に寄付するくらいだ。ビアード公爵夫人がレティシアが金を使わなすぎると嘆いていた。
レティシアと共にビアード公爵邸に帰宅した。翌日レティシアは微熱を出して寝込んだ。相当のストレスだったんだろう。蛇を見つけたら隠れて処理してやることにした。

***

うちの訓練よりもビアードのほうが身になるのでいつもビアード領の訓練に参加していた。エイベル様がいないと寂しがっている友人のためでもあるけど。
訓練をしているとビアード公爵に声を掛けられた。

「フィル、レティが蛇に魘されているんだが何か知っているか?」

今日は見かけてないな。公爵には時々レティシアのことを相談される。

「レティシアは蛇が苦手です。去年、克服しようと蛇狩りをしてましたが苦手意識は変わらないようです。倒せはしますが、捌いたり食べたりは駄目でしょう」

目の前のビアード公爵の眉間に皺が寄った。

「なんてことを・・・。私はレティに・・。」

以前蛇狩りをした村の蛇祭りにレティシアは招待されたらしい。
去年とは違い盛大な祭りだったようだ。早朝に騎士が蛇を狩り、村人が全員で祭りの準備に取り掛かったらしい。蛇が主役の祭りはレティシアにとっては悪夢だろう。
ビアード公爵は蛇が苦手と知らなかったので祭りなら喜ぶだろうとレティシアに視察を任せた。苦手な蛇を振舞われても無理して耐えたレティシアが帰宅して倒れたのか・・。

「きっと蜂蜜菓子を与えれば大丈夫ですよ。」
「そうか。用意しないと。」
「大量だと恐縮するので一食分だけにしてください。マール領に蜂蜜菓子を取り扱う店が出来たそうですよ」
「邪魔したな」

ビアード公爵が消えていった。マール領まで飛んで蜂蜜菓子を買いに行ったんだろう。自由な人だ。マオは報告しなかったのか。蛇祭りって・・。来年からはエイベル様が行かされるだろうけど絶対に嫌な顔するだろうな。蛇を克服したいだけだったのにこんな大事になるとは。レティシアの傍にいると予想不能なことばかりだ。おもしろいからいいけど。
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