追憶令嬢のやり直し

夕鈴

文字の大きさ
34 / 362

兄の苦労日記12 

長期休みに入り父の命で王宮でクロード殿下の傍で近衛騎士見習いとして過ごしている。
妹は護衛騎士を連れてルメラ男爵領に1週間遊びに行っている。帰ってきたら社交で忙しくなるそうだ。この休みはお互いすれ違ってほとんど遊んでやれないだろう。
王宮ではレオ様に全く会わない。クロード殿下とは不仲なので、会うわけもないか。
クロード殿下は忙しい。いつも視察と執務に追われている。レオ様には任せられないため、その分も回ってくるとこぼしている。俺は手伝えないので、殿下の話し相手としか役にたてない。
妹はレオ様に穏やかな時間を過ごしてほしいと言っていたが、クロード殿下には穏やかな時間はあるんだろうか。

「クロード殿下、申しわけありません。レオ殿下が抜け出されました」
「放っておけばいい」
「御身を」
「何かあればルーン公爵に治療させろ」

飛び込んできた近衛騎士とのやりとりで空気がピリピリしている。護衛も連れずに王子がいなくなれば焦る。俺は見習いだし、いなくなっても問題ない。

「殿下、無礼をお許しいただけるなら俺が行きましょうか?」
「無礼とは?」
「武力行使」
「構わない。問題さえ起こさないなら。息さえしてればいい。市を探せ」

レオ様を嫌っているよな。弟に武力行使を許すほどクロード殿下は苛立っている。
不機嫌なクロード殿下に礼をしてレオ様を探しに行く。この人の多い場所でレオ様をどう探すか・・。
魔法で屋根の上まで飛び見渡すか。屋根の上を移動しながら探すと見つけた。
レオ様の前に降りると驚いた顔をされた。

「久しぶりだな」
「お久しぶりです。レオ様は何をされているんですか」
「兄ちゃん、ほらよ」

レオ様が果物を受け取り、袋に入れる。明らかに小さい袋に果物が入るのはなんでだろうか。

「母上の発明。無尽蔵に荷物が入る」
「さすがですね」
「ああ。兄上の命令か?」
「連れ戻せと。他に何か御用がありますか?」
「もう少し買い足したいから見逃してほしい」

事情もなく抜け出すような方ではない。妹の顔が浮かんだ。休みだし、いいか。

「買い物が終わったら俺が眠らせますんで、無理矢理連れ帰ったことにしてくれますか?」
「兄妹だな。俺はエイベルと鬼ごっこして眠るか」

屈託なく笑う顔を見て、妹の気持ちがわかった気がした。出会った頃の無表情のレオ様とは別人のようだ。

「レオ様、お忍びするならローブで外見を隠してください。危険です」
「ローブも買うか」

レオ様は魔石を換金し、ローブと食材を買っていた。妹が事情があると言っていた。俺は王家の問題に口を挟める立場ではない。

「もし必要な物があるなら俺が手配しますよ。必要ならいつでも声をかけてください」
「いいのか?」
「構いませんよ」
「母上に食材を用意している。信頼できない者からは受け取れない」
「レオ様、欲しい物のリストをください。日時を指定していただければ用意します。転移魔法で飛べるでしょう?」
「ああ。転移陣さえ仕掛ければ」
「レオ様の来る時間は人払いをしておきます。立ち会えないときは荷物だけ置いておきますよ。来週にはビアード領に帰るので、俺の部屋に仕掛ければいいですか?」
「いいのか?」

レオ様は命令できる立場なのに命令しない。何気ないことでも提案すると戸惑われる。

「王家のために働くのは当然です。不敬ですが、俺は友人としてレオ様が困っているなら力になりたいと思います。堂々とお助けできないのは心苦しいですが」
「まさか友人が持てるなんて思わなかった。」

俺も妹の目論見通り友人になるとは思わなかった。

「急いで買い物をすませましょう。クロード殿下が迎えにくるかもしれません」
「そうだな。」

レオ様の買い物をすませて、食事をするための店に入った。レオ様は購入した紙に転移陣と欲しい物のリストを書いていた。

「最高級じゃなくていい。食べれればいいから」

市民の食堂で王子が食事をしているとは。休みだから気にしないことにした。
妹も公爵令嬢らしくないし。
レオ様から受け取った紙に書かれているのは1週間分の食材だった。介入してはいけない気がして事情を考えるのはやめた。もし介入するならレオ様が望んだときだけだ。妹が勝手に首を突っ込まないといいけど・・。
用がすんだので俺はレオ様を魔法で眠らせて連れて帰る。

「エイベル、助かったよ。さすがビアード公爵家」
「遅くなって申し訳ありません」
「何も問題を起こさないならいい。御苦労だった」

クロード殿下の機嫌は直っていた。
俺はクロード殿下に礼をして退室した。レオ様に魔法をかけたことを咎められると覚悟したけど誰も咎めないって大丈夫なんだろうか・・。

***

王宮での見習い期間もおえたのでビアード公爵邸に帰ると、空気が淀んで活気がない。

「坊ちゃん、お帰りなさい」
「ただいま。何かあったのか」

執事長が暗い顔をしている。

「お嬢様はルメラ領に滞在されていたんですが、体調を崩され帰ってきません。マナから移動できる状態ではないと報告が・・。流行り病かもしれないので、応援も迎えもいらないと。旦那様達にもお嬢様から会いに来ないでほしいとお手紙が。旦那様も奥様もお忙しく、ご心配で荒れております。」

「行ってくる」

荷物を執事長に預けて、ルメラ男爵領を目指す。重篤なら余計に連れ戻さないといけない。ルメラ領だと満足に治療も受けられないかもしれない。うちに連れ帰ればルーン公爵家の力も借りられる。ビアード領のことを想うのはいいが、命のほうが大事だ。他人を大事にするくせに、自分のことを雑に扱う妹が良くなれば説教することを決めた。

「坊ちゃん、もう暗いので明日にしてください」

護衛騎士に止められ、足を止めた。明日の早朝に発つことを決め食事をとって早めに休む。

***

翌朝、護衛騎士と共にルメラ男爵領を目指す。
馬を飛ばして昼前に男爵領に着くと、見慣れた銀髪を見つけ気が抜けた。馬から飛び降り手綱は護衛騎士に投げて預けた。

「レティシア!!」

不満そうな顔をする妹を捕まえる。。

「お前、倒れて帰れないって言うから様子を見に来れば」
「お兄様、これから倒れます。今は大事なお話をしてますので見逃してください」

仮病だった。そして毒薬を飲んで倒れようとするバカに頭に血がのぼった。

「倒れなくていい。さっさと帰る」
「うるさいです。令嬢の前です。」

不満そうな妹の顔が歪んで真っ暗になった。
***

目を開けると妹の声が聞こえた。

「お兄様、おはようございます」

横には妹がいて、頬に手を当てると温かく顔色も良い。
生きてた。

「大丈夫か?」
「ご心配おかけました。私は元気です」

ふんわりと笑う妹の顔に安堵の息を吐いた。待てよ。
妹を迎えに行って、顔を見てからの記憶がない。なんで自分の部屋にいるんだ。

「俺は、」
「今日はゆっくり休んでください。お話してあげましょうか?」

妹の話し方がおかしく、変な笑い方をしている。仮病だったの思い出した。

「お兄様、今日から侍女が一人増えました。可愛らしい方ですが、好きな方がいるので惚れてはいけません。上目遣いにイチコロされてはいけません」

「お前は俺に言うことはないのか?」

とぼけている顔をする妹の銀の瞳を睨みつけると妹が頭をさげた。

「心配かけてごめんなさい」

性格に合わないよわよわしい笑いをしている妹を睨む。この笑いは作り笑いだと俺は知っているし両親のように騙されない。

「眠らせる魔法をかけてごめんなさい。」

気づくと魔法にかかっていたのは悔しい。打ち消す余裕もなくって、今は反省している場合ではない。そして、一番怒ってるのはそこじゃない。

「仮病を使って申し訳ありません」

沈黙していたが、ようやく口を割った手がかかる妹にため息が出た。

「心配するからやめろ。あと、毒薬飲むのもだ」
「善処します」

一瞬目を逸らした妹は全く反省してない。

「父上に報告してくる」

「ごめんなさい。もうしません。報告しないでください。護衛は私に騙されましたの。悪いのは私です。胸に留めてくださいませ」

泣きそうな顔で腕を掴み俺を見つめる妹の言い訳を聞いてやる。父上に報告してもこいつに甘い父上が簡単に許すのは目に見えている。先程までの演技が嘘のように、必死に謝る妹をみて、怒りがおさまってきた。俺の心配を返せ。半泣きの妹の頭を撫でるとふんわり笑った。この顔見ると、アホらしくて気が抜ける。

「念願のお友達はできたのか?」

「お兄様、ハク様を探すのを手伝ってください」

妹の返答は予想外である。
母親に洗脳されて育った少女が恋をした。恋を叶えるためなら手段を選ばず、家族も捨てたという話だった。自分の目的のためなら手段を選ばない人間だ。妹も利用され、全く素敵な友達ではない。俺はそんな危険な人物を妹の傍に置きたくない。どんなに説明しても少女の危なさは妹には伝わらない。俺は滅多にしない手段を選ぶか。

「二人っきりにはなるなよ。心も許すな。嫌な感じがする」
「わかりました。」

素直に頷く妹に免じて、嫌な役目を引き受けるか。警戒心皆無のコイツには任せられないし、両親にも話さないとか。

「新しい侍女については俺が指示を出す。お前も友達を疑いたくないだろうしな」
「よろしくお願いします。お兄様、私は貴方の妹に産まれて幸せです。」

極上の笑みを浮かべる妹の言葉は照れ臭い。手がかかるけど大事な妹にはかわりない。

「バカ」

妹が部屋から出て行った。
彼女を侍女として受け入れられたなら両親は説得されている。邸の使用人を束ねる執事長を呼び出す。

「坊ちゃん、どうされました?」
「レティシアが連れてきた侍女の監視を。俺は妹が騙されている気がする。」
「彼女はお嬢様の恩人です」

妹よ。どんな嘘をついたんだ。恩義や忠義を蔑ろにするのを嫌う執事長の咎める顔に首を横に振る。

「恩人ではない。あいつは彼女に恩はない。優しさと甘さを利用されている。あいつには話すなよ。新しい侍女の指示の権利は俺があいつから預かった。」
「かしこまりました。」
「レティシアと二人っきりにはさせるな。専属に迎えるのも許さない。できるだけ遠ざけろ。報告は俺に。父上達に報告しても構わない」
「お任せください」

顔付きの変わった執事長に任せれば大丈夫だろう。ロキにも近づけないように頼むか。ロキは子供なのに有能、なにより妹は子供のお願いに弱いからな。
動くのは明日からにして、体も軽いし少し動かしに行くか。
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。 本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって? こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。 悪役上等。 なのに、何だか様子がおかしいような?

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

悪役令嬢と転生ヒロイン

みおな
恋愛
「こ、これは・・・!」  鏡の中の自分の顔に、言葉をなくした。 そこに映っていたのは、青紫色の髪に瞳をした、年齢でいえば十三歳ほどの少女。  乙女ゲーム『タンザナイトの乙女』に出てくるヒロイン、そのものの姿だった。  乙女ゲーム『タンザナイトの乙女』は、平民の娘であるヒロインが、攻略対象である王太子や宰相の息子たちと交流を深め、彼らと結ばれるのを目指すという極々ありがちな乙女ゲームである。  ありふれた乙女ゲームは、キャラ画に人気が高まり、続編として小説やアニメとなった。  その小説版では、ヒロインは伯爵家の令嬢となり、攻略対象たちには婚約者が現れた。  この時点で、すでに乙女ゲームの枠を超えていると、ファンの間で騒然となった。  改めて、鏡の中の姿を見る。 どう見ても、ヒロインの見た目だ。アニメでもゲームでも見たから間違いない。  問題は、そこではない。 着ているのがどう見ても平民の服ではなく、ドレスだということ。  これはもしかして、小説版に転生?  

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

娯遊戯空現
恋愛
ハイタッド公爵家の令嬢・セラフィン=ハイタッドは悪人だった……。 第二王子・アエルバートの婚約者の座を手に入れたセラフィンはゆくゆくは王妃となり国を牛耳るつもりでいた。しかし伯爵令嬢・ブレアナ=シュレイムの登場により、事態は一変する。 アエルバートがブレアナを気に入ってしまい、それに焦ったセラフィンが二人の仲を妨害した。 そんな折、セラフィンは自分が転生者であることとここが乙女ゲーム『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』の世界であることを思い出す。 自分の行く末が破滅であることに気付くもすで事態は動き出した後で、婚約破棄&処刑を言い渡される。 処刑時に逃げようとしたセラフィンは命は助かったものの毒に冒されてしまった。 そこに謎の美形男性が現れ、いきなり唇を奪われて……。