追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第四十話 移民 

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試験も無事に終わり私は学年3位でした。試験結果だけはいつもエイベルに勝てます。
1年3組のビアード領に移民を希望したアロマに相談されました。
家族の許可があるのに領主の許可がおりないそうです。罪人でなければ民の移動は手続きさえすれば自由です。
アロマの家を調べさせても、何も問題はありませんので、直接行くしかありませんかね。
ビアード公爵にルメラ領に行きたいとお願いしたらエイベルが一緒ならと許しをいただきました。エイベルは珍しく快く了承してくれました。
ルメラ男爵邸で夫妻に挨拶をして、顔色の優れないルメラ男爵夫人に治癒魔法をかけました。

「妻のことは気にしないでください。もともと丈夫ではないのです。寝ていれば治ります」
「一度治療されたほうがよろしいですわ」
「ご心配ありがとうございます。今日はどうされましたか?」

これ以上は関わるなと言われました。確かに他家のことに口出しはマナー違反です。

「友人が我が領に移民を希望されてるんですが、領主の許可がおりないと相談を受けまして事情を聞きたくお伺いしました」
「母親は流行り病に罹っております。他領に病を持ち込むわけにはいきますまい」
「どのような治療と支援を」
「自宅に療養させ、民との接触を控えさせております」

男爵の言葉に息を飲みました。
え?それだけですか!?放置ってことですか・・?
不審に思う気持ちを抑えて笑みを浮かべます。

「病のことは心得ました。必要ならルーン公爵家へ協力を願いますわ。ビアード領で保護してもよろしいでしょうか?」
「お二人を近づけるわけにはいきません」
「お気になさらず。書類だけ用意してくだされば、あとはこちらで手配を致します」

笑顔で圧力をかけると書類を用意してくださいました。
書類さえ手に入れば用がないのでおもてなしは断り退室しました。
男爵邸の前ではアロマがいました。一緒にルメラ男爵領に連れてきましたが、家族と過ごすように先に家に向かわせたのですが・・。

「レティシア様、助けて!!」

切羽つまった声に泣きそうな顔のアロマに嫌な予感がします。

「アロマ、案内しながら事情を聞かせてください」

アロマの腕を引いて馬車に乗せ、家を目指させます。
馬車の中で聞いた話に言葉を失い、エイベルも顔を顰めてます。
アロマの家族は迫害されていました。領主の関わるなという命令が出てからは、家から出ると石が投げられたそうです。
アロマの家に行くと、やせ細った両親と少年が倒れていました。

「マオ、食べ物を手に入れてきて」

女性は衰弱しています。体に触れると熱く、荒い呼吸を繰り返してます。治癒魔法をかけると熱は下がりました。男性と少年には体力回復の魔法をかけます。二人は栄養失調でしょう。

「アロマ、お母様は病に罹ってどんな様子でしたか?」
「熱が出て、食事が食べられない」
「御家族に同じことがおきたことはありますか?」
「ありません」

流行り病ではなく、風邪ですわ。
目を醒ました男性と少年にマオの用意した果物を渡すと力のない目で見られます。

「はじめまして。アロマの友人のレティシア・ビアードと申します。ルメラ男爵から書類は預かっています。ビアード領に歓迎します。皆様の体調が整うまではビアード公爵邸で療養していただきますが・・」
「まさか、助けてくれるのか」

暗い声で起き上がった男性を怖がらせないように優しい笑みを浮かべます。

「はい。元気になり、ビアード領を気に入っていただけるなら仕事も用意します。ただしビアード民に意地悪は許しません。うちの領民が貴方達に手を出すことはありません」
「お父さん、レティシア様は信じて平気だよ。ハリーも学園に行けるって。お母さんの病気も看てくれるって。もうここは出よう!!」

少年が起き上がってフラフラと私に近づいてきました。しゃがみこみ視線を合わせます。

「助けて。もう嫌。」
「もちろんですわ。暖かい場所でご飯を用意しますわ。よく頑張りました。えらいですわ」

少年の頭を撫でます。生きてただけでも奇跡ですわ。このままだったら・・・。不愉快な気持ちは我慢します。

「アロマ、大事な物だけ荷物をまとめてください。服など必要な物は全部用意しますわ。お代もいりません。どうしてもというなら、アロマにお仕事を頼みます。私はお友達と家族がこんな場所にいるなんて許しません。今日中に出発します。貴方は、ハリー?もお引越しの準備をしましょう」

エイベルが護衛騎士に指示を出しているので受け入れ準備は任せましょう。男性に向き直ります。

「奥様が元気になるまで私に預けてください。ビアード領が気に入らなければ、移民の手続きも整えます。ただ皆様が元気になるまでは、」
「うちは、なにも」

暗い顔の男性に頭を下げます。助けを求めた手を振り払ったのは同じ貴族。そして下位貴族の愚かな行為は上位貴族である私達の指導不足です。

「国の宝の民を保護するのは私達の務めです。苦しい思いをさせて申し訳ありません。同じ貴族として貴方達への仕打ちを謝罪します。こんなことで罪滅ぼしになるとは思えません。ですが私」
「レティシア様、頭をあげてください」
「父さん、姉さんが信じてる。それにお貴族様がここまで来てくれた。もう一度だけ信じようよ」
「頭をあげてください。よろしくお願いします」

男性の声に頭をあげます。もう一度機会をいただけるなら、信じていただけるように頑張りましょう。

「ありがとうございます。ビアードは貴方達を歓迎します。この家を出たら、この家は燃やされるかもしれません。ですから大事な物は必ずお持ちください。」
「家族さえ無事なら何もいりません」

今はきっと余裕がないでしょう。ただ元気になった時に無くした物を後悔するかもしれません。この家のことでビアードとして干渉することはできません。

「わかりました。アロマ、手伝いますので指示をください。ご両親の大切な物も教えてください。荷物はどれだけ多くても構いません」
「終わりました」
「え?」

荷造り早すぎませんか?箱が2つだけです。

「本当にそれだけなんですか?」
「両親の物もまとめてあります」
「わかりました。行きましょう」

エイベルが馬車を用意したのでアロマ達に乗ってもらいます。

「レティシア、話は後だ」

エイベルに腕を引かれて、別の馬車に乗り込みます。

「許せません」
「他領のことに口出しはすべきではない」
「助けを求めた領民への仕打ちは領主として相応しくありません」
「父上達に話すか」

男爵夫妻には申しわけありませんが、資質も資格も疑います。領主をかえてもらったほうが領民のためですわ。苦しむ者を助けずに迫害するなど許されません。民の質も悪すぎます。
ビアード公爵邸に着いたので、アロマ達は侍女に任せました。
ルメラ男爵夫妻のことを話すとビアード公爵は顔を顰めました。これ以上は私が口を挟む権利はありませんがきっと動いてくれると信じましょう。民のためにならない貴族は害悪です。王家が動くまでもなく私達で動くべきですわ。

***

私達は学園に戻らないといけません。
アロマ達の部屋をエイベルとロキと一緒に訪ねました。

「アロマ、私は学園に戻りますがどうします?お勉強は教えますので落ち着くまで、」
「姉さん、僕がいるからいってらっしゃい。しっかり稼いできて」

ハリーの言葉に苦笑しました。気休めで言っただけですよ。

「お金をとったりしませんので、安心してください」
「レティシア様、私は学園に戻ってお役に立ちます。仕事をください」

アロマのやる気に満ちた顔に悩みます。暗かった顔が明るくなったのはいいんですが、慣れない環境に両親と幼い弟を、せめて生活に慣れるまでは・・。
肩を叩かれて、横を向くとエイベルが苦笑してます。

「レティシア、無駄だ。」

ここは頼りになる同じ環境の経験者のロキに頼みましょう。ハリーとロキが庭で鬼ごっこして遊ぶかもしれません。

「ロキ、ハリーをお願いしてもいいかしら?」
「お任せください」

嬉しそうに笑うロキと執事長に任せて学園に戻ることにしました。
馬車の中で仕事が欲しいと言うアロマに悩みます。

「アロマ、私のしたことに恩を感じなくていいんです。貴方達は被害者です。私達が許しを乞う立場なのです」
「レティシア、その顔やめろ。アロマが困っている」

咎める声に不安を顔に出していることに気付きました。この顔はビアード公爵令嬢としていけません。領民に弱さを見せてはいけません。領民にとってはいつでも頼れる領主一族でなければいけません。

「ごめんなさい。アロマは学園の授業をしっかり受けてください。それで充分ですわ」
「お仕事を」

期待に籠った眼差しで見られると困ります。

「エイベル、どうしましょう。思いつきません」
「情報を集めさせるか」
「危険なことは」
「お任せください」

アロマの立場なら私の欲しい情報を手に入れやすいのでやる気があるならエイベルの提案通り任せましょう。

「貴族からの理不尽な仕打ちがあれば教えてください。また貴方達が学園で過ごしやすくなる提案があれば教えてください。私は貴方の目線で学園のことが知りたいです。誰もが不自由なく学ぶことに専念できる学園生活を送るために。ただし学業が優先です。ビアード領民として品行方正に。休養日には馬車を用意しますので、ビアード領に帰ってください。期待しています。よろしくお願いします」
「なにかあれば遠慮なく。ビアード領民の保護は俺らの仕事だ」
「私、精一杯お仕えします」

アロマの顔が明るくなって良かったです。今まで、勉強よりもお金を稼ぐことを優先していたようです。アロマが充実した学園生活を送れるように願いましょう。
ルメラ男爵領のことはビアード公爵にお任せします。
私はビアード公爵夫人からの課題の刺繍をしないといけません。
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