追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第四十六話 森での一晩

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クロード殿下が学園に戻られました。
新しい役員も決まり忙しい日々が続いています。私は指導係ではないのであまり関わることはないでしょう。

私はリオと一緒に森に来ています。
授業で使用する野外訓練候補の森を調べています。
先生方が事前に調べてありますが生徒の目線で調べて欲しいそうです。
なぜかロベルト先生に指名を受けました。
クロード殿下がどうしてリオの同行を選んだかはわかりません。風魔法を使えるので移動に便利だからでしょうか。
私は最近は殿下を怒らせてないので今回は罰ではないと思いますが…。
クロード殿下は私に不満がある時はリオとのお仕事を命じます。そうなると指導者に放って置かれるカーチス様が可哀相と殿下に言いましたら、カーチス様に全否定されました。殿下に逆らうのはいけないのはわかっていたので、カーチス様の気遣いだと思いますが不要でしたわ。
森の調査なら一人でも良かったのに…。苦言は言えないので諦めて、役目を迅速に果たして帰りましょう。
私はエメル先生から預かったリストに従い調べます。食べられる草もありますし、動物もいるので食材には困りません。
洞窟が所々にあるのはありがたいですが水場が少ないのは難点です。
森の奥に足を進めていきます。この森は空気が美味しくないのが私の中では一番の難点ですが。
ポタッと頭に何か当たったので空を見上げると雨が降ってきました。
あんなに快晴だったのに、雨の気配はないのにおかしいですわ。
水の魔導士は雨の空気を読めるので、雨が降るなら事前に気付きます。

「レティシア、移動しよう」

この雨は気持ちが良くありません。
濡れて不快な気持ちになる雨は初めてです。雨がどんどん強くなるので水の結界を発動させようにも魔法が紡げません。
気づいたら洞窟にいました。いつの間に移動したんでしょうか。

「え?」

リオの声に視線を向けると驚いた顔をしています。

「どうされました?」
「魔法が使えない」

リオも同じようです。ディーネに呼びかけるも反応がなく、お昼寝してるんでしょうか。
魔法が使えず土砂降りの中、移動するのは危険です。
雨のせいでしょうか・・・。森に入っても魔法は使えました。これは止むまで静かに待つしかないので座りましょうか。

「雨宿りしましょう。」

リオが座ったので、ポケットのお菓子を渡します。

「濡れてますが、よければ」
「ありがとう」

学園に帰らなければ捜索してもらえるでしょう。野営道具はありませんが一晩なら問題ありません。弓も剣もあるので獣に襲われても大丈夫です。火と防寒具がないのがつらいですが。
どんどん雨は強くなり、雷鳴が響いています。
もしかして、本当にここで一晩ですか・・。

「マール様、これを」

リオの手の上に塩を振り掛けます。自分の手にも少量の塩を出して舐めます。

「なんで塩なんて持ち歩いているんだ・・」

不思議な顔をしているリオに小さく笑います。

「ビアード公爵令嬢の嗜みですわ」
「え?」
「私はお兄様と生きるために足掻くと約束しました。そのための準備を怠りません。今度は火打石も持ち歩かないといけませんね」

塩と睡眠薬とお菓子と武器と魔石だけでは足りないようです。火打石はポケットに入らないのでレオ様からもらった無限袋を持ち歩いた方がいいでしょうか・・。火の魔石があれば火打石はいらないと思ってました。火と塩があれば狩りをしてお肉も美味しく食べれますし、水は魔法でいくらでも出せますし、魔法が使えない時のことも考えないといけませんね。

「たくましいな」
「はい。ビアードの者として恥じないようにと決めてます」
「このままだとここで一晩か」
「そうですね。きっと明日には迎えが来ます。晴れて自分の足で帰れるのが一番ですが・・」

エイベルや殿下に怒られると思うと気が重いです・・。寒気は殿下の冷気を思い浮かべたせいですわ。楽しいことを考えましょう。

「大丈夫か?」
「はい」

リオに上着を渡されました。

「いりません」
「風邪を引く。濡れてるけど、ないよりはいいだろう?」
「お互いさまです」

何を言われても受け取る気はありません。寒いのは殿下の冷気が原因ではありませんでしたわ。
腕を引かれて抱きしめられました。

「マール様!?」
「一番効率的だよ。ビアードだと思って我慢して」

陽気な声に思わず笑ってしまいました。今世のリオは女性に慣れてます。抱きしめる腕にためらいがありません。

「俺が起きてるから眠っていいよ」

冒険者時代を思い出します。
洞窟で雨宿りするのも、頭を撫でられる手も懐かしく別人に切なくなります。確かに互いの熱で温め合うのは効率的とわかっているので、腕を解かずにそのまま目を閉じました。

***

目を開けて、リオの胸から顔をあげると笑いかけられました。
口づけられないから私のリオではありません。

「ありがとうございます。私が起きてます。体は辛くないですか?」
「大丈夫」

壁に背中を預けてリオは目を閉じました。
私は体の向きをかえました。このまま寝顔を眺めていたら勘違いしそうになります。背中に感じる温もりは懐かしいのに私を膝の上に乗せてお腹に回した手を離してくれないリオはもういません。寝ているリオの手は知っているものと同じです。そっくりなのに違う。いつになったらこのリオの中に私のリオを探すことをやめられるんでしょう。

「シア」

聞こえる声に振り向くと寝言でした。リオは私がいないと眠れないっていつもベッドに引きづりこまれました。
記憶にある寝顔よりも幼い。
今、思うとずっとリオが好きだったんでしょう。傍にいすぎて気付かなかった。生前にリオと離れた3年間は考えないようにしていました。
もう会えないと思っていましたからリオとの思い出を大事にして生きようって。
どんなに忘れようとしても思い出すのはリオのことばかり。どこかで同じ空を眺めているならと思うと救われましたわ。
でも今は違うんです。同じ空を眺めることはできません。
手を伸ばせば届くのはそっくりだけど、違うもの。一番欲しいものは存在しない。
リオの瞼が動きゆっくりと銀色が、愛しい瞳の色は同じなのに、別な人…。

「レティシア」

引き寄せられる手の形もそっくりなのに違う。

「俺が傍にいるから泣かないで」

リオの言葉に頬をつたう雫に気付きました。

「ずっと傍にいる。君だけを想う。いずれビアード公爵にも認めさせる」

きつく抱きしめられて胸に顔を埋めさせられています。私のリオはしません。
泣き止むまで優しく抱きしめて頭を撫でてくれるでしょう。あら?変な言葉が聞こえたような・・。

「好きなんだ。君が欲しくてたまらない。」

残念ながら幻聴ではありません。
今のリオは恋人がいます。私のリオと同じ声で語る言葉をどれだけの令嬢に囁いたんでしょう。頭が冷えてきました。私は私のリオしかいりません。

「愛を囁く相手を間違ってます」
「え?」

全ての令嬢が騙されるなんて思わないでほしいです。目の前の戸惑う顔に呆れてしまいます。
生前のシオンの告白は胸に刺さり揺れました。比べるのはシオンに失礼ですね。もちろん私のリオの言葉とは比べる価値もありません。

「縁談はお父様に従います。私は私だけを見てくれないと嫌なんです」
「俺はレティシアしか見ないよ」

恋人がいるのに?こぼれそうになる失笑を我慢しました。

「騙されません。私は数居る貴方の恋人の一人などごめんですわ」
「いないから。俺が望むのは君だけだ」

純真な令嬢は騙されるんでしょうか。リオは容姿端麗ですから喜ぶ令嬢もいるでしょう。どんどん心が冷えていきます。

「その言葉は貴方のファンのご令嬢に。私には不要です」

辺りが明るくなりいつの間にか雨も止みました。
リオの胸を強く押して離れて立ち上がります。

「マール様、冗談も終わりにして帰りましょう」

ディーネに声をかけると、声が聞こえました。
リオは放っておいて急いで森を抜けましょう。魔法も発動しました。
ディーネにエイベルへ無事なので捜索不要と伝言を頼みました。
馬車の中で報告書を仕上げ、学園に戻ってすぐにクロード殿下に報告しました。満足そうな顔をされましたのでお説教は免れましたわ。

「エイベル、ただいま帰りました。褒めてくださいませ」
「お帰り」

エイベルの眉間に皺があります。

「今度は火打石も常備します。魔法が使えないことも想定して備えます」
「しっかり備えろ。森に行く準備不足の説教は後だ。今日は休め」

エイベルからお説教があるようです・・。
野営の予定はなかったんです。3時間くらいで終わると思っていたんです。
私はエイベルに保健室に連れていかれました。
熱が出たことに気付きませんでしたわ。
今日は言われた通り大人しく休むので、エイベルはお説教を忘れてくれませんかね・・。
あの森は候補から外れました。雨が降ると魔法が使えないため学生の訓練に使えません。
国の研究者達が調査に乗り出したそうです。クロード殿下は国の新たな発見に繋がる報告に満足したのか機嫌が良かったです。任された仕事が無事に終わって良かったです。殿下のお説教がないなら気が楽ですわ。
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