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第四十九話 新入生
放課後に見回りをしていると男女の争う声が聞こえて近づきました。
1年2組の男子生徒と女子生徒達が口論をしています。
「いい加減にしろよ!!」
「無礼を咎めているのよ」
男子生徒の声が怒鳴り声に変わったので、慌てて女子生徒を背中に庇いました。
「おやめください。何事ですか」
「彼女達が言いがかりを」
私を見て気まずい顔をする男子生徒を静かに見つめます。
どんな理由でもその態度はいけません。
令嬢に手荒な行為は許されません。
「ご令嬢への態度ではありませんわ。事情を教えてください」
「いやああああぁぁあああ」
男子生徒の背から悲鳴が聞こえ、令嬢がうずくまっていました。
いつからいましたの!?
「大丈夫ですか?」
「いやぁああああ」
叫ぶ令嬢に手を伸ばすと暴れて振り払われました。
魔法で落ち着かせようと手を伸ばしますが、暴れる手に振り払われました。
細腕なのに振り払う力が強いです。
令嬢の振り回す手の爪が頬にあたり、血が私の制服を汚れましたが、気にしている場合ではありません。私の身だしなみより落ち着かせることが優先です。
「どこか痛みますか?落ち着いてください」
触れようとしますが、令嬢の力が強く突き飛ばされてしまいました。
どうしましょうか。
触れないと治癒魔法はかけられません。広範囲の癒しの雨を降らせることもできますが室内で使うと濡れるんですよね・・。
「いや、触らないで、いや」
もうクロード殿下に怒られましょう。
「レティシア様!!」
「貴方、いい加減にしなさい」
魔法を使おうとすると、叫んでいる令嬢の動きが止まり立ち上がりました。
「リオ様、助けてください。レティシア様が」
「は?」
「レティシア様、大丈夫ですか!?」
視線を感じて見渡すと人が集まりリオがいました。
リオに抱きつく令嬢に見覚えがあります。
見間違いですか?
瞬きをしても見える光景は変わりません。
目の前にはリアナがいますが、どうしてでしょう?
「レティシア様が私を相応しくないって」
泣き出すリアナの言葉の意味がわかりません。
私は大事なことを忘れていたので笛を吹きました。
泣き出すリアナに困惑しているリオに固まる男子生徒、リアナを睨む女生徒達・・・。
どうすればいいんでしょうか。
「レティシア!?なんで傷だらけ」
「エイベル、私も状況がわかりません。なんで彼女がここに・・?」
眉間に皺のあるエイベルに伸ばされた手を取って立ち上がります。
笛の音に気付いて駆けつけてくれたんでしょう。
リアナはリオに任せましょう。
眉間の皺が消えないエイベルを見たら落ち着いてきましたわ。
思い出しました。
事情を聞かないといけません。
「事情を教えてください」
男子生徒はエイベルが事情を聞いています。
女生徒達に話を聞くと、リアナがクロード殿下に不敬を働き、彼女達が注意したそうです。
それを見た男子生徒達が庇って言い合いになりました。
クロード殿下に礼をせず、腕に抱きつきクロード様と呼びかけたそうです。
それは不敬の塊で王宮なら近衛騎士に剣を突きつけられますわ。
まず殿下の御身に許可なく触れるなど許されないので、接触させる前に取り押さえますかね。
頭が痛くなり視界も歪み、気づくと真っ暗に・・。
***
目を開けると保健室でした。
途中で倒れたんでしょうか…。
生徒会室に行かないといけません。
見回りの途中で倒れるなど、お咎めがありますよね…。
「殿下、申しわけありません」
生徒会室に入り頭を下げると、クロード殿下が書類から視線をあげました。
「どうした?」
「見回りの途中で倒れました。」
「報告は聞いている。ルメラ嬢は君に酷いことを言われたそうだが心当たりはあるか?」
酷いこと?
リアナが見えたのはやはり夢ではなく現実なんですね。
ハク様は見つからなかったのでしょうか。
エイベルが私を見て首を横に振り、肯定するなと言ってます。
「覚えはありません」
「そうか。今日はもういい」
退室を許されましたが殿下からのお咎めがないのが怖いんですけど気にするのはやめましょう。
怖いクロード殿下には近づかないのが一番です。生徒会の仕事を始めましょう。
***
エイベルと朝食を食べています。
信用されるまでエイベルとの朝食が続くそうです。
朝は食欲がないから食べたくないんですが、強引さに負けて付き合っています。
食事に関してはうるさいんです。
そういえば、1年生の教室はよく訪ねてましたがリアナのことは気付きませんでした。
「エイベル、リアナのこと知ってますか?」
「ああ。ルメラ男爵家は弟に領主がかわった。前男爵の愛人の娘だから養子にしたらしい。関わるなよ。うちとは縁のない人間だ」
「殿下への無礼は許されません」
「他派閥の人間だ。まずは同派閥が面倒見るだろう。うちとは無関係。お前からは絶対に関わるなよ」
ここまで付き合いに干渉されるのは初めてです。
エイベルに酷い言葉を言ったので、嫌ってるんでしょうか。
エイベルが命じるなら従うしかありませんが。
「わかりました」
「あいつから何か頼まれても受けるなよ。ビアード公爵家はルメラ男爵家と関わらない」
「エイベルに無礼を働いたから仕方ありませんね。」
リアナはルメラ男爵令嬢になったそうです。
男爵令嬢として相応しい教育を受けているといいのですが・・。
エイベルが嫌がっているのでリアナ改め、ルメラ様のことは何かあれば私が引き受けましょう。
目の前のエイベルはイチコロはされなそうですわね。
紅茶を飲みながら眺めていると不機嫌な顔で睨み返されました。
女性関係は私が引き受けて差し上げますので、ご安心くださいと心の中で告げ、一緒に登校しました。
***
久しぶりに一人で登校するといつも以上に視線を集めました。
「ビアード様、あなたは前ルメラ男爵夫人を見殺しにしたんですね」
「さすが、まがいもの」
笑いながら蔑む視線を向ける令嬢達の言葉の意味がわかりません。
「どういうことですか?」
「貴方が見捨てたから夫人が亡くなったそうよ。」
亡くなった・・?
顔色は悪かったですが、重症には見えませんでした。
「誤解しているよ。レティシアは治癒魔法をかけて、治癒魔法を付与した魔石を大量に渡した。必要なら治療に通うとも言っていたが、ルメラ男爵家に断られた。夫人の不調に気付いて勝手に治癒魔法をかけ、魔石を贈ったことを責められるなら同意するけど」
「男爵は夫人を療養させるだけで、治療は望まれませんでした。動くべきは男爵と同派閥の皆様です。見殺しにしたのはどなたでしょう。レティシア様がお渡しした魔石は売られたようですが」
「それって」
「見殺しにしたって」
「おかしいよな」
「失礼しますわ」
肩を叩かれて気付くとステラとフィルの顔があり、卑しい顔をした令嬢達がいませんでした。
「レティシア、間違えるなよ。お前の背負うべき命じゃない。お前が背負うのは?」
フィルに真剣な顔で見据えられました。
「ビアード領民」
「見当違いな罪悪感で落ち込むよりは、領民のために心を傾けろ。俺と一緒に国の要になるんだろう?判断を間違えるな」
全ての命は救えません。
男爵は夫人に生きて欲しくなかったんでしょうか…。今は駄目です。
フィルと協力してお互いの家を支えて盛り立てていくと決めました。
目の前にいるのはお友達のフィルではなくカーソン伯爵家の嫡男です。
弱さを見せてはいけない相手です。
弱いビアードの人間には誰もついてきません。私は心だけは強くないといけません。
「わかりました。嫡男らしいフィルは久々ですね。私、忘れ物を取りに戻ります。先に行ってください」
フィルに笑顔を作って手を振って別れました。
水が恋しい。
学園の隅にある泉を目指します。
泉に着いたので靴下を脱いで足をつけます。
ルメラ男爵夫人は顔色が悪かったけど、重篤な様子はありませんでした。
フィルは落ち込むなんて見当違いって言います。わかってます。
でも・・・。
「何をしている」
「エイベル」
「たまにはサボるか」
顔を顰めているエイベルが隣に座りました。
「バカだよな。前ルメラ男爵は助けるつもりがなかったんだよ。夫人が亡くなった翌日に愛人を本邸に招いていた。」
助ける気がなかった?
ありえない状況にエイベルが嫌そうな顔の意味がわかりました。
「なんで」
「綺麗事ばかりじゃない。これから、お前には理解できない闇がたくさん出て来る。見たくないなら見なくてもいいよ」
嫌なことはやってやるよと言われています。
面倒なことはエイベルに押し付けてますが押し付けてはいけないものもあります。
「エイベルに押し付けて目を背けるなどしません。強くなります」
「泣きたいなら胸を貸そうか?ただ教室に戻った時はその甘えは捨てろ」
腕を広げるエイベルに抱きつきます。
男爵も男爵夫人も悲しいです。
政略結婚で、たとえ愛がなくても死を望むってどういうことですか。
夫に死を望まれ死にゆくなんて悲しすぎます。生きれたのに。なんで、どうして。
涙がこぼれました。
頭の中がごちゃごちゃして、ただ悲しくて。
治癒魔法は万能ではありません。
救えない命もありました。それでも、助かる命がなくなるのは・・・。他にも方法はあったのに。
治癒魔法では助けられずに責められることもあります。
でも、今回は違います。
エイベルが頭を撫でてくれてます。
エイベルは私の知らない所でもっと色々見るんでしょう。
エイベルは戦いの中に身を置かないといけません。私は最前線にはついていけません。エイベルが真っすぐ前だけを見れるように領地や後を守らないといけません。
真っすぐで優しいエイベルだけに背負わせるなんて、いけません。
「強くなります。絶対に生きて帰ってきてください。目を背けず受け止められるようになります」
「ああ。無理はするなよ」
甘えは捨てろって言いましたのに無理するなって…。
不器用な優しさに笑みが零れます。
「エイベルは無理しても帰ってこないと駄目です。帰ってくれば治してあげます」
「バカ」
顔をあげるとエイベルの眉間に皺はなく、苦笑してました。
フィルから事情を聞いて来たんでしょうか。
フィルにはバレてしまいましたか。きっと情けない私も笑って受け入れてくれるでしょう。
実はフィルも物凄く優しくて面倒見がいいんです。
エイベルとのんびりするのは久しぶりです。
授業の終わりを告げる鐘がなるまで、一緒にいることにしました。
生徒の模範の生徒会役員がさぼるのはよくありませんから次の授業にはちゃんと戻りますよ。
優しい二人が存分に力を発揮できるために私なりに頑張りましょう。
1年2組の男子生徒と女子生徒達が口論をしています。
「いい加減にしろよ!!」
「無礼を咎めているのよ」
男子生徒の声が怒鳴り声に変わったので、慌てて女子生徒を背中に庇いました。
「おやめください。何事ですか」
「彼女達が言いがかりを」
私を見て気まずい顔をする男子生徒を静かに見つめます。
どんな理由でもその態度はいけません。
令嬢に手荒な行為は許されません。
「ご令嬢への態度ではありませんわ。事情を教えてください」
「いやああああぁぁあああ」
男子生徒の背から悲鳴が聞こえ、令嬢がうずくまっていました。
いつからいましたの!?
「大丈夫ですか?」
「いやぁああああ」
叫ぶ令嬢に手を伸ばすと暴れて振り払われました。
魔法で落ち着かせようと手を伸ばしますが、暴れる手に振り払われました。
細腕なのに振り払う力が強いです。
令嬢の振り回す手の爪が頬にあたり、血が私の制服を汚れましたが、気にしている場合ではありません。私の身だしなみより落ち着かせることが優先です。
「どこか痛みますか?落ち着いてください」
触れようとしますが、令嬢の力が強く突き飛ばされてしまいました。
どうしましょうか。
触れないと治癒魔法はかけられません。広範囲の癒しの雨を降らせることもできますが室内で使うと濡れるんですよね・・。
「いや、触らないで、いや」
もうクロード殿下に怒られましょう。
「レティシア様!!」
「貴方、いい加減にしなさい」
魔法を使おうとすると、叫んでいる令嬢の動きが止まり立ち上がりました。
「リオ様、助けてください。レティシア様が」
「は?」
「レティシア様、大丈夫ですか!?」
視線を感じて見渡すと人が集まりリオがいました。
リオに抱きつく令嬢に見覚えがあります。
見間違いですか?
瞬きをしても見える光景は変わりません。
目の前にはリアナがいますが、どうしてでしょう?
「レティシア様が私を相応しくないって」
泣き出すリアナの言葉の意味がわかりません。
私は大事なことを忘れていたので笛を吹きました。
泣き出すリアナに困惑しているリオに固まる男子生徒、リアナを睨む女生徒達・・・。
どうすればいいんでしょうか。
「レティシア!?なんで傷だらけ」
「エイベル、私も状況がわかりません。なんで彼女がここに・・?」
眉間に皺のあるエイベルに伸ばされた手を取って立ち上がります。
笛の音に気付いて駆けつけてくれたんでしょう。
リアナはリオに任せましょう。
眉間の皺が消えないエイベルを見たら落ち着いてきましたわ。
思い出しました。
事情を聞かないといけません。
「事情を教えてください」
男子生徒はエイベルが事情を聞いています。
女生徒達に話を聞くと、リアナがクロード殿下に不敬を働き、彼女達が注意したそうです。
それを見た男子生徒達が庇って言い合いになりました。
クロード殿下に礼をせず、腕に抱きつきクロード様と呼びかけたそうです。
それは不敬の塊で王宮なら近衛騎士に剣を突きつけられますわ。
まず殿下の御身に許可なく触れるなど許されないので、接触させる前に取り押さえますかね。
頭が痛くなり視界も歪み、気づくと真っ暗に・・。
***
目を開けると保健室でした。
途中で倒れたんでしょうか…。
生徒会室に行かないといけません。
見回りの途中で倒れるなど、お咎めがありますよね…。
「殿下、申しわけありません」
生徒会室に入り頭を下げると、クロード殿下が書類から視線をあげました。
「どうした?」
「見回りの途中で倒れました。」
「報告は聞いている。ルメラ嬢は君に酷いことを言われたそうだが心当たりはあるか?」
酷いこと?
リアナが見えたのはやはり夢ではなく現実なんですね。
ハク様は見つからなかったのでしょうか。
エイベルが私を見て首を横に振り、肯定するなと言ってます。
「覚えはありません」
「そうか。今日はもういい」
退室を許されましたが殿下からのお咎めがないのが怖いんですけど気にするのはやめましょう。
怖いクロード殿下には近づかないのが一番です。生徒会の仕事を始めましょう。
***
エイベルと朝食を食べています。
信用されるまでエイベルとの朝食が続くそうです。
朝は食欲がないから食べたくないんですが、強引さに負けて付き合っています。
食事に関してはうるさいんです。
そういえば、1年生の教室はよく訪ねてましたがリアナのことは気付きませんでした。
「エイベル、リアナのこと知ってますか?」
「ああ。ルメラ男爵家は弟に領主がかわった。前男爵の愛人の娘だから養子にしたらしい。関わるなよ。うちとは縁のない人間だ」
「殿下への無礼は許されません」
「他派閥の人間だ。まずは同派閥が面倒見るだろう。うちとは無関係。お前からは絶対に関わるなよ」
ここまで付き合いに干渉されるのは初めてです。
エイベルに酷い言葉を言ったので、嫌ってるんでしょうか。
エイベルが命じるなら従うしかありませんが。
「わかりました」
「あいつから何か頼まれても受けるなよ。ビアード公爵家はルメラ男爵家と関わらない」
「エイベルに無礼を働いたから仕方ありませんね。」
リアナはルメラ男爵令嬢になったそうです。
男爵令嬢として相応しい教育を受けているといいのですが・・。
エイベルが嫌がっているのでリアナ改め、ルメラ様のことは何かあれば私が引き受けましょう。
目の前のエイベルはイチコロはされなそうですわね。
紅茶を飲みながら眺めていると不機嫌な顔で睨み返されました。
女性関係は私が引き受けて差し上げますので、ご安心くださいと心の中で告げ、一緒に登校しました。
***
久しぶりに一人で登校するといつも以上に視線を集めました。
「ビアード様、あなたは前ルメラ男爵夫人を見殺しにしたんですね」
「さすが、まがいもの」
笑いながら蔑む視線を向ける令嬢達の言葉の意味がわかりません。
「どういうことですか?」
「貴方が見捨てたから夫人が亡くなったそうよ。」
亡くなった・・?
顔色は悪かったですが、重症には見えませんでした。
「誤解しているよ。レティシアは治癒魔法をかけて、治癒魔法を付与した魔石を大量に渡した。必要なら治療に通うとも言っていたが、ルメラ男爵家に断られた。夫人の不調に気付いて勝手に治癒魔法をかけ、魔石を贈ったことを責められるなら同意するけど」
「男爵は夫人を療養させるだけで、治療は望まれませんでした。動くべきは男爵と同派閥の皆様です。見殺しにしたのはどなたでしょう。レティシア様がお渡しした魔石は売られたようですが」
「それって」
「見殺しにしたって」
「おかしいよな」
「失礼しますわ」
肩を叩かれて気付くとステラとフィルの顔があり、卑しい顔をした令嬢達がいませんでした。
「レティシア、間違えるなよ。お前の背負うべき命じゃない。お前が背負うのは?」
フィルに真剣な顔で見据えられました。
「ビアード領民」
「見当違いな罪悪感で落ち込むよりは、領民のために心を傾けろ。俺と一緒に国の要になるんだろう?判断を間違えるな」
全ての命は救えません。
男爵は夫人に生きて欲しくなかったんでしょうか…。今は駄目です。
フィルと協力してお互いの家を支えて盛り立てていくと決めました。
目の前にいるのはお友達のフィルではなくカーソン伯爵家の嫡男です。
弱さを見せてはいけない相手です。
弱いビアードの人間には誰もついてきません。私は心だけは強くないといけません。
「わかりました。嫡男らしいフィルは久々ですね。私、忘れ物を取りに戻ります。先に行ってください」
フィルに笑顔を作って手を振って別れました。
水が恋しい。
学園の隅にある泉を目指します。
泉に着いたので靴下を脱いで足をつけます。
ルメラ男爵夫人は顔色が悪かったけど、重篤な様子はありませんでした。
フィルは落ち込むなんて見当違いって言います。わかってます。
でも・・・。
「何をしている」
「エイベル」
「たまにはサボるか」
顔を顰めているエイベルが隣に座りました。
「バカだよな。前ルメラ男爵は助けるつもりがなかったんだよ。夫人が亡くなった翌日に愛人を本邸に招いていた。」
助ける気がなかった?
ありえない状況にエイベルが嫌そうな顔の意味がわかりました。
「なんで」
「綺麗事ばかりじゃない。これから、お前には理解できない闇がたくさん出て来る。見たくないなら見なくてもいいよ」
嫌なことはやってやるよと言われています。
面倒なことはエイベルに押し付けてますが押し付けてはいけないものもあります。
「エイベルに押し付けて目を背けるなどしません。強くなります」
「泣きたいなら胸を貸そうか?ただ教室に戻った時はその甘えは捨てろ」
腕を広げるエイベルに抱きつきます。
男爵も男爵夫人も悲しいです。
政略結婚で、たとえ愛がなくても死を望むってどういうことですか。
夫に死を望まれ死にゆくなんて悲しすぎます。生きれたのに。なんで、どうして。
涙がこぼれました。
頭の中がごちゃごちゃして、ただ悲しくて。
治癒魔法は万能ではありません。
救えない命もありました。それでも、助かる命がなくなるのは・・・。他にも方法はあったのに。
治癒魔法では助けられずに責められることもあります。
でも、今回は違います。
エイベルが頭を撫でてくれてます。
エイベルは私の知らない所でもっと色々見るんでしょう。
エイベルは戦いの中に身を置かないといけません。私は最前線にはついていけません。エイベルが真っすぐ前だけを見れるように領地や後を守らないといけません。
真っすぐで優しいエイベルだけに背負わせるなんて、いけません。
「強くなります。絶対に生きて帰ってきてください。目を背けず受け止められるようになります」
「ああ。無理はするなよ」
甘えは捨てろって言いましたのに無理するなって…。
不器用な優しさに笑みが零れます。
「エイベルは無理しても帰ってこないと駄目です。帰ってくれば治してあげます」
「バカ」
顔をあげるとエイベルの眉間に皺はなく、苦笑してました。
フィルから事情を聞いて来たんでしょうか。
フィルにはバレてしまいましたか。きっと情けない私も笑って受け入れてくれるでしょう。
実はフィルも物凄く優しくて面倒見がいいんです。
エイベルとのんびりするのは久しぶりです。
授業の終わりを告げる鐘がなるまで、一緒にいることにしました。
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