追憶令嬢のやり直し

夕鈴

文字の大きさ
94 / 362

元夫の苦難7

朝起きると集中して魔石を作る。
今まで魔石を作るときは魔力をこめるだけで特になにも意識していなかった。
魔力の流れを意識すると純度が上がるけどレティシアの魔石にはまだまだ敵わない。
集中して作るのは疲れるけど、強くなるために必要だし、この後会える彼女のことを思えば疲れは吹き飛び体は軽くなる。
早朝の学園は生徒が少ない。
2年1組に足を運ぶとレティシアは真剣な顔で本を読んでいる。
パタンと本を閉じ顔を上げたレティシアに声を掛けると挨拶を返された。
今まではギリギリの時間に登校ていたけど、朝一番に彼女の挨拶を受けられるなら早起きも悪くない。今朝作った魔石を渡した。授業と訓練以外の魔法の行使は禁止でも、彼女に咎められることはなかった。

「これを」
「マール様、生徒会でお会いした時で構いません」
「昨日よりうまくいったから見てほしくて」

いつもと同じ言い訳をすると、真剣な顔で魔石を見てニコッと笑った。
時々見せる無邪気な仕草が可愛くてたまらず顔が緩んでニヤケそうになるのを抑えて、平静を装う。

「昨日よりも純度が上がってます。魔力操作はエイベルよりもお上手ですわ。お疲れ様でした」

お疲れ様と微笑みかけられると疲れは一気に吹き飛ぶ。ビアードの騎士が強いのは彼女のおかげもあるんだろう。

「ありがとう。これあげるよ」
「いえ、いりません」
「また」

断る言葉は聞こえないフリをして魔石を机の上に置いて立ち去る。
魔石を贈るのは特別な相手だ。所有印代りに魔石を婚約者に贈り身に付けさせる生徒もいる。
レティシアがたくさんの人から魔石をもらっているのは知っている。俺だけ受け取ってもらえないのは悔しいから強引に押し付ける。
もし彼女が一つでも大事にしてくれれば夢のようだけど・・。
教室に入るとほとんどの生徒が登校していた。

「リオ、どうだった?」
「レティシアに騎士志望の生徒が集まる理由がわかった。あの笑顔で労らわれるなら苦労が吹き飛ぶ。いずれはレティシアの純度を超えたいけどまだまだだ」

しばらくするとレティシアから魔石の合格をもらってしまった。
笑顔の称賛は嬉しかったけど会いに行く口実がなくなった。
昼休みに1年3組で食事を共にしても、俺とレティシアの会話は少ない。
人気者のレティシアは後輩やロキと話してばっかりで、グレイ嬢が一緒のため教室に送ることもできない。朝の時間は二人の世界だったのに残念だ。

「マール様、お返しです」

俺は令嬢から魔石を差し出された。

「受け取れない」

令嬢に悲しそうな顔で見られているが受け取れば面倒なことが起きる。まず、いらない。

「申しわけありません。気持ちが先走りました。私はいずれマール様に受け取っていただけるように頑張ります。候補とはいえ私を選んでくださりありがとうございます」
「候補?」

礼をして令嬢は立ち去った。
最近は魔石を差し出し、言いたいことだけ言い去って行く令嬢が多い。

「リオはモテモテだな。令嬢に魔石を贈られるとは」

クラスメイトに羨ましそうに見られている。
俺としては代わってほしい。
魔石を恋人同士で送り合うのは学園内で流行している。
貴族の令嬢は魔法は基本操作さえ覚えれば十分である。レティシアのように本気で魔法を学ぶ令嬢は少数派だ。令嬢達は魔石を装飾品として扱っている。魔石で魔法を使う令嬢はレティシアの指導する生徒を除けばほとんどいないだろう。

「断った」
「贈り物を受け取るのにな」

俺が受け取らないとレティシアに迷惑がかかる。
何度断ってもレティシアに託されるので大人しく受け取るけど礼は言わないし返礼もしない。
それでも贈り物は減らない。贈り物は孤児院に送って手紙は読まずに捨てている。

「お返しと言われても何も贈っていない。最近は人の話を聞かない令嬢が多くて嫌になる。魔石もいらないし、受け取って誤解されたくない」
「すでに誤解されているからね」
「アナのアドバイスでレティシアに魔石を贈ったけど、全く効果がなかった。もう充分な出来とお墨付きをもらって会いにいく口実がなくなった」

苦笑しているサイラスと話していると肩を思いっきり叩かれた。

「リオ、とうとう諦めたんだな」
「は?」
「レティシアがリオの手から逃れたって一部の奴らが喜んでいるよ。違うのか?」
「今は会いに行く口実がなくなり悩んでいるとこ」
「お前が婚約者候補に魔石を贈ってるって話題になっていたけど。令嬢達の牽制が怖いってレティシアは嘆いてるけど…」

そういえばレティシアは当分は昼食は1年3組に顔を出せないとアナが言っていた。
婚約者候補・・?

「俺は婚約者にしたいのは一人だけだ。レティシア以外に魔石を贈っていない。待てよ、まさか・・。嘘だろう・・・。好きにしていいって言ったけど」

レティシアは俺の魔石を令嬢達に渡したのか・・・。

「リオ、レティシアにとって魔石は道具で特別な意味なんてない」

慰めるように肩に手を置かれた。
笑い声が聞こえ、声の主はリール嬢だった。

「レティシアはマール様の恋人達に魔石を渡したそうです。自分よりも喜んでくれる相手がいるなら返すほうがいいと。マール様も女心がわからないと苦笑してましたわ」
「恋人?」
「はい。マール様の恋人の皆様に誤解がないようにお届けしたと。おかげでお茶会に遅刻したと謝罪されました」
「恋人なんていない」
「頑張ってください。あえて誤解させてるご令嬢もいますので。人気者は大変ですね」

リール嬢は楽しそうだが、労らわれているんだろうか。

「どうしたら誤解が解けるんでしょうか?」
「本人と話すしかないと思いますよ。レティシアに誤解を誘う令嬢達も対処しないといけませんが」

リール嬢が誤解を解いてくれる様子はない。
情報はくれるが、協力はしてくれない。
彼女はレティシアの味方だから当然か。
授業の始まりの鐘の音に各々が席に戻っていった。どれだけ俺の心象を悪くするやつがいるんだよ・・。
誤解を解くために放課後に生徒会で捕まえよう。

***
放課後に生徒会室にレティシアはいなかった。
見回りに行っているレティシアを探しに校内を歩いた。
ようやく見つけると最近うちの派閥入りした伯爵令嬢とレティシアが見つめ合っている。
レティシアの顔は困惑している。また絡まれているのかと声をかけ見回りを口実に引き離す。レティシアはまた一人で見回りをしていた。
突然腕を掴まれ視線を向けるとルメラ嬢がいた。

「私のリオ様に用ですか?」

レティシアにとんでもないことを言うルメラ嬢の手を解こうにも解けなかった。腕に喰い込む手を無理やり解くと笑いかけられた。

「私はお邪魔する気はありません。失礼します。マール様、私は生徒会室に戻りますのでご心配なく」

曇りのない笑顔で立ち去るレティシアに慌てて声をかけた。

「待って、俺も行くから」

「殿下には私用と伝えておきますので、ごゆっくりどうぞ。お幸せに」

振り返ったレティシアの笑顔に崩れ落ちそうになった。

「リオ様、私がレティシア様を怒らせてしまいました」

潤んだ瞳で見つめられているけど怒りたいのはレティシアではなく俺の方だ。

「何の用?」

「私、レティシア様がいたので怖くて」

震えるルメラ嬢の相手をするつもりはない。レティシアは何もしていないし、近づいて来たのは自分だろうが。

「用があるから。あと名前で呼ぶな」

腕を無理矢理解いてルメラ嬢は放って、レティシアを追いかけた。生徒会室に向かうなら道は一つだけだ。
レティシアを見つけて声をかけても反応がなく、腕を掴むと不思議そうな顔で見られた。

「レティシア、待って、誤解してないか。俺は彼女と何もない」

何度か瞬きをした彼女に上品な笑みを向けられた。

「相手を間違えないでください。マール様が気に掛けるのは私ではありません」
「俺は君にだけは」

長いため息が聞こえて言葉を飲み込む。

「マール様、態度に気をつけてください。純真な令嬢達は誤解しますわ。誰にでも思わせぶりな態度はお控えください。貴方が誰と仲を深めようと構いませんが、本気にされる令嬢もいます。自分を好きな令嬢を大事にするのは悪いことだとは思いません。たださじ加減を間違えないでください。私への気遣いは不要です。そのお心は貴方が本当に心を傾けたいお相手に向けてください。では」

誤解され、拒絶されている。俺はレティシアに意識されてないのは知っている。
レティシアにとって、俺は酷い男なのか?俺が大事にしたいのはレティシアだけだ。

「俺が心を傾けたいのはレティシアだけだ」
「私で遊ぶのはやめてください。」

無感情な声だった。俺を見ないレティシアの肩に手を置いて、無理矢理顔を見つめた。

「レティシアだけだよ。俺は特別になりたい」

俺の瞳を見つめてうっとりとして、恥ずかしそうな顔で下を向いた。

「シア、好きだよ」

頬に手を添えそっと顔を持ち上げて顔を覗くとふんわり笑い俺を見つめてゆっくりと目を閉じたので、口づけると胸を強く押された。

「そういうことは恋人としてください」

目を吊り上げて睨んでるけど、あれは口づけて欲しかったんじゃなかったのか!?

「間違いは誰にでもありますので、今回だけは見逃します。アナ達に同じことをしたら沈めますので覚えておいてください。失礼します」

綺麗な笑みを浮かべたレティシアは誤解していた。俺の告白を受けてくれたのではなかった。俺は口づけても意識されないのか!?足を進める彼女を慌てて追いかけた。

「間違いじゃないから。俺は君にしか手を出さない」
「どういうことだ?」

聞き覚えのある声に肩を掴まれた。

「エイベル、どうしたんですか?」
「会議が始められないから迎えに来た。レティシア、何をされた?」
「人違いです。誰にでも間違いはあります。何でもありませんわ。殿下を待たせるわけにはいきません。行きましょう」

レティシアがビアードの腕を抱いて笑顔で足を進めた。
レティシアの態度は全く変わらない。
レティシアもだが令嬢達はどうやれば俺の言葉を聞いてくれるんだろうか。
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。 本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって? こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。 悪役上等。 なのに、何だか様子がおかしいような?

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

悪役令嬢と転生ヒロイン

みおな
恋愛
「こ、これは・・・!」  鏡の中の自分の顔に、言葉をなくした。 そこに映っていたのは、青紫色の髪に瞳をした、年齢でいえば十三歳ほどの少女。  乙女ゲーム『タンザナイトの乙女』に出てくるヒロイン、そのものの姿だった。  乙女ゲーム『タンザナイトの乙女』は、平民の娘であるヒロインが、攻略対象である王太子や宰相の息子たちと交流を深め、彼らと結ばれるのを目指すという極々ありがちな乙女ゲームである。  ありふれた乙女ゲームは、キャラ画に人気が高まり、続編として小説やアニメとなった。  その小説版では、ヒロインは伯爵家の令嬢となり、攻略対象たちには婚約者が現れた。  この時点で、すでに乙女ゲームの枠を超えていると、ファンの間で騒然となった。  改めて、鏡の中の姿を見る。 どう見ても、ヒロインの見た目だ。アニメでもゲームでも見たから間違いない。  問題は、そこではない。 着ているのがどう見ても平民の服ではなく、ドレスだということ。  これはもしかして、小説版に転生?  

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

娯遊戯空現
恋愛
ハイタッド公爵家の令嬢・セラフィン=ハイタッドは悪人だった……。 第二王子・アエルバートの婚約者の座を手に入れたセラフィンはゆくゆくは王妃となり国を牛耳るつもりでいた。しかし伯爵令嬢・ブレアナ=シュレイムの登場により、事態は一変する。 アエルバートがブレアナを気に入ってしまい、それに焦ったセラフィンが二人の仲を妨害した。 そんな折、セラフィンは自分が転生者であることとここが乙女ゲーム『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』の世界であることを思い出す。 自分の行く末が破滅であることに気付くもすで事態は動き出した後で、婚約破棄&処刑を言い渡される。 処刑時に逃げようとしたセラフィンは命は助かったものの毒に冒されてしまった。 そこに謎の美形男性が現れ、いきなり唇を奪われて……。