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元夫の苦難 13
レティシアはビアードの背中でぐっすり眠っていたのでそのまま寮に送り届けたらしい。
授業に遅れたけど、言い訳ならいくらでも。
ルメラ嬢に襲われた翌日に教室に顔を見に行くと休みだった。
ビアードが殿下に微熱と報告していた。
刺された傷を一瞬で消せるレティシアはどれだけ魔法に優れてるんだろうか。
うちのクラスには治癒魔法で刺し傷を綺麗に消せる生徒はいない。
擦り傷が精一杯らしい。
レティシアはビアード公爵家が頑丈なだけで体は弱くないと言っていたが事実は違うんじゃないか?
頻繁に風邪で寝込んでいるし。見舞いに花を贈ると返礼でチョコの菓子が届いた。傷だらけの体は治癒魔法で治ったとしても本当に大丈夫だろうか。
殿下との約束通り倒れた分のレティシアの仕事は引き受け、手の空いた時間でルメラ嬢と何があったか調べるか。
普通に問いかけても震えるだけだから、脅して尋問しようとしたらレティシアに止められたから詳細はわからない。
ルメラの尋問はあとでいいか。
レオ様と一緒にレティシアが傷つけられたサロンを訪ねた。
ビアードは風の魔封じの結界が仕掛けられていたこと以外は何も見つからないと言っていた。レオ様がサロンの中を歩きまわり壁を叩くと階段が現れる。階段を下りて地下に行くとベッドと小さいテーブルの置いてある簡素な部屋。レオ様が壁を叩くと鉄格子が落ちてきた。
「牢か。鍵ではなく、壁を操作すると施錠できるのか。中々おもしろい作りだ」
サロンの地下に牢があるってどういうことだ?
床には風の魔法陣が書き込まれている。レオ様は階段を上がりサロンの床を真剣な顔で見ながら魔法陣の近くに書いてある記号を見ている。
レオ様が記号の上に魔石を置いて踏むと大量の風の刃が向かってきたので相殺する。時間差で小さい刃の中に大きな刃が混ざる。レティシアは魔法が使えずルメラを庇ってこの刃を受けたのか?
「ここに魔石を埋め込み踏むと地下の魔法陣から魔法が発動か。建物自体が特殊な作りかもしれないな。興味深い」
「レオ様、誰が仕掛けたかわかりますか?」
「魔石がないから魔法陣だけではわからないが優秀な者だろう。下の魔法陣を消すまでは生徒の出入りは禁止したほうがいい」
「わかりました。ありがとうございました」
「兄上に言えば取り計らってくださるだろう。俺の関与は言わないで」
「わかりました」
立ち去っていくレオ様を見送りサロンを結界で囲み、放課後にビアードを呼び出した。
ビアードはカーソンと共に来て、風の魔石をはめて魔法を発動させると目を見張った。
「ルメラはレティシアを連れてここで自傷し、レティシアに傷つけられたと証言しろと指示を受けていた。止めようとしたレティシアともみ合いになり、気付いたら傷だらけだったと」
「あいつを囮に始末したかったんですかね・・。レティシアを知るなら、自傷を止めるし傷つけばここですぐに治療することはわかります。治癒魔法に集中しているレティシアは無防備だ。この風の刃も避けられないでしょう。ハクの姉とのやりとりは手紙。手紙はいつも燃やす指示で証拠もない。短剣も指定した場所に埋められていた。ルメラの記憶を覗くのが一番早いですが、レティシアが訴えない限り無理です。証拠もなく当事者が被害を訴えないなら記憶さらしは使えません」
「ビアード、本当に見逃すのか?」
「ルメラに監視をつける。ルメラよりもハクとハクの姉のほうが厄介だ。レティシアを狙う理由がわからない。泳がせればまた近づいてくるかもしれない。レティシアはずっとルメラを気にかけていたが次はないと約束したから、次は裁く。裁く前に俺が斬っても何も言わない」
「エイベル様、ハクは俺が調べます。ビアード公爵家はルメラ領で警戒されてます」
「ステラとアロマを巻き込んでもいいが、危険なことはさせるなよ」
「わかってますよ。当分はレティシアの身辺に気をつけます。友人達にもうまく伝えます」
「頼んだ。マール、レティシアには言うなよ。この部屋のことは礼を言う」
「ここのことは殿下に報告してもいいか?他の生徒が迷い込んだら危険だ」
「そうだな」
「適当に俺がごまかして報告するよ。もちろんレティシアには言わない」
クロード殿下に報告すると殿下が魔法の解除を行った。
クロード殿下はすべての魔法を無効化する魔法が使える。
無効化魔法は王家の秘術で国王陛下と王太子だけに継承される魔法。見つけた経緯等疑われている気がしたけど気付かないフリをした。レオ様に調べてもらったと伝える方が面倒だ。
倒れて4日目に登校したレティシアが教室に顔を見せに来てくれた。
「マール様、ご心配おかけしました。綺麗な花束もありがとうございました」
「無理はしないで。逆に気をつかわて悪かったな」
「いえ、ありがたく飾らせていただきました。私はこれで失礼します」
上品な笑みを浮かべてレティシアは去っていった。
顔色もよく元気そうだ。
数日前に死にかけたようには見えない。血まみれのレティシアを見た時は血の気が引いた。治癒魔法を覚えるかな。
「リオ、よかったね。私用で会いにくるなんて初めてだね」
「ああ。誤解を解きたいけど全然解けない」
「頑張って」
苦笑しているサイラスに労わるように肩を叩かれた。
昼休みに庭園に行くとレティシアはいない。
「マール様、ビアード様は1年3組にいますよ」
「ありがとう」
1年3組を目指すとレティシアはアナ達と食事をしていた。
レティシアの隣に座っているアナが俺を見て、笑顔で席を譲ってくれた。
3組は俺とレティシアの仲を応援してくれる生徒が多く勉強を見て差し入れを頻繁にした甲斐があった。
レティシアが顔を出せない日に顔を出して世話をやくと、レティシアとは違う意味で頼りにされるようになった。レティシアへの悪評の相談は本人やグレイ嬢にはできないので、手を回した。
レティシアは3組なら俺が昼を一緒に過ごしても快く迎えてくれる。
アナ達の話を笑顔で聞いてるレティシアを見ながら食事をしていると、ありえないものが視界に。
3組はレティシアを慕う生徒は多く彼女の悪評を立てる筆頭のルメラ嬢に向ける視線は冷たい。
ルメラ嬢がレティシアを見ていることに気付き、レティシアが立ち上がったから腕を掴むと笑顔で振り解かれた。
グレイ嬢は静かにレティシアと話すルメラ嬢を見つめている。
まさか昼食の席に連れてくるとは思わなかった。レティシアは隣に座らせて食事の世話をやいている。それ、殺そうとされた相手ってわかってるんだろうか。
ルメラ嬢の名前で呼んで欲しいという願いを笑顔で頷く姿に頭を抱えたくなった。
ルメラ嬢も散々レティシアの悪評をばら撒き、殺そうとしたことへの罪悪感はないのか?
「レティシア、リアナでいい」
「隣のクラスのリアナです」
レティシアはルメラ嬢へのアナ達の拒絶の視線に苦笑している。
ロンが困惑した顔でルメラ嬢のことを聞くと笑顔で圧力をかけていた。
「私はよくわかりませんが過去のことは気にしませんわ。ロン、令嬢には優しくしてくださいね。」
ロンが視線を逸らした気持ちはわかる。
レティシアのように物事を気にせず流せる者は少ない。そんなやつがたくさんいたら問題だ。
「レティシア、さすがに」
「マール様、そのお顔やめてください。リアナを口説いても構いませんが、」
咎めようとすると見当違いな言葉で遮られた。
「違うから」
「お昼休みが終わります。食事をしてください。私、同じことを何度も言いたくありませんわ」
にっこりと笑い俺から視線を逸らさない彼女に自分が冷たい顔をしてるのに気づいた。ルメラ嬢を睨むと余計に勘違いされそうでレティシアには何を言っても駄目な気がした。
「リアナ、今はまわりの視線が厳しいでしょう。でも貴方次第でいずれかわります。意地悪されるなら生徒会に相談してください」
「レティシアは?」
「私でも構いません。ただできれば、殿方に頼るのはやめたほうがいいでしょう。令嬢に人気の殿方にかかわると禄なことがありませんから」
ルメラ嬢はレティシアを頼りにする気なのか……。
レティシア、人気な男と過ごすよりルメラ嬢と関わるほうが碌なことにならないとわからないんだろうか……。
放課後は演奏室に用があった。
中に入ると先に演奏室にいたレティシアが目を丸くしている。茶会の縁者に俺も声を掛けられたことは知らなかったのか。茶会の主催の侯爵令嬢はリール嬢と共に俺とレティシアの仲を応援してくれている。レティシアに演者を頼むけど、一緒にどう?と誘われて了承した。
リール嬢が音楽が関わると豹変するのは知っているがレティシアと過ごすなら厳しい練習も至福の時間だ。
「レティシア、集中して。ただ弾いてるだけよ」
「すみません」
ノックの音とともにレオ様が入ってきた。
「エイミー、休憩しないか」
「今日は早いんですね」
「差し入れをもらったから良かったら」
「そうね。少し休憩しましょうか」
リール嬢を音楽の世界から連れ出せるのはレオ様だけ。
他の者なら途中で休憩にはならない。
リール嬢とレオ様のやり取りも気づかずフルートを演奏しているレティシアの肩を叩くとびくっとして俺を見た。
「休憩だって」
フルートを置いたレティシアはフラフラと座り込んだ。レオ様の差し出すお菓子をレティシアの分も受け取り隣に座る。床に座るのを窘める人間もいない。
お菓子を口に含みふんわり笑ったレティシアはレオ様達を見ていた。
「幸せになってほしいですね」
「え?」
「夢が叶って屈託なく笑える日が」
切ない声に床に置かれた彼女の手を握る。
俺の手を静かに見ている彼女が思い描くのは自分じゃないけど気にしない。小さく笑ったレティシアが俺の手を握ったり離したり遊んでるのは照れ臭いけど気が紛れるなら構わない。
レオ様とリール嬢の演奏が終わったのでレティシアの手を引いて立ち上がらせた。弱った顔をするレティシアに笑いかけると苦笑しフルートを構える。
練習が終わるといつも真っ暗。
レオ様には毎回リール嬢を迎えに来てほしいと頼んだので、俺はレティシアと二人で帰れる。
練習の後はぼんやりしている手を引きながら寮まで送るのは日課になりつつある。
「マール様、令嬢達のお茶会に参加します?」
呟かれた言葉に歩みを止めた。
「レティシアが一緒ならいいけど」
「嫌ですよね。マール様のファンのご令嬢のお茶会にロキを連れて行こうかな」
独り言?また令嬢達に声を掛けられてるんだろうか。
「俺、それで君の憂いが晴れるなら行くけど」
「どうしようかな。私が代筆していいですか?物も用意しますので、名前だけ貸していただければ構いません」
「お茶会なら同行するからそれはやめてほしい。聞いてる?」
嫌な予感しかない申し出に軽く肩を叩くと、レティシアがゆっくりと顔をあげた。
「もし俺が側にいることで、レティシアに不都合があるなら、離れると諦める以外なら協力するよ」
きょとんとしているけど聞こえてるのか。
「はい?」
「俺は君が好きだから。レティシアにしか言わない。恋人もいないから」
不思議そうな顔。必死に誤解を解いて口説くしかないとわかっているけど
「もう少し俺に興味持ってくれないか」
「申し訳ありません。私はお父様の選んだ方と一緒になるので」
穏やかな笑みを浮かべ何度も聞いた言葉への返す言葉はいつも同じ。
「いずれ俺が婚約者の座を手に入れるよ」
初めて即答で否定もされずにじっと見つめられている。念のため誤解されないように伝えるか。
「俺が婚約したいって言ったのも思ったのもレティシアだけだ」
レティシアのうっとりした顔にそっと顔を近づけると目を閉じた。口づけると頬が赤く染まり笑った顔が可愛くて頬に口づけるとさらに真っ赤になった。
「好きだ」
小さく震えて目を閉じて首を振っている。明らかに動揺している姿に笑いが堪えられず噴き出してしまった。真っ赤な顔で潤んだ瞳でにらまれても可愛いだけ。
「私で遊ぶのやめてください。勘違いしそうになりましたわ」
「遊んでない。ただつい、まさか頬に口づけたらこんなに赤面するとは。いっぱいいっぱいなのに、必死で拒む様子がおかしくて」
「マール様、性格悪すぎませんか」
「レティシアにだけは優しくするよ」
「信用できません。失礼します」
速足で足を進めていくレティシアを追いかける。真っ赤な顔で俺を無視する姿は愉快で初めて意識された気がした。勘違いしそうってことは…。初めて拒絶もされなかったし、冗談として流されなかった。良い傾向かもしれない。
ルメラ嬢がレティシアに付き纏っているのも心配だし学園ではできるだけ傍にいよう。
授業に遅れたけど、言い訳ならいくらでも。
ルメラ嬢に襲われた翌日に教室に顔を見に行くと休みだった。
ビアードが殿下に微熱と報告していた。
刺された傷を一瞬で消せるレティシアはどれだけ魔法に優れてるんだろうか。
うちのクラスには治癒魔法で刺し傷を綺麗に消せる生徒はいない。
擦り傷が精一杯らしい。
レティシアはビアード公爵家が頑丈なだけで体は弱くないと言っていたが事実は違うんじゃないか?
頻繁に風邪で寝込んでいるし。見舞いに花を贈ると返礼でチョコの菓子が届いた。傷だらけの体は治癒魔法で治ったとしても本当に大丈夫だろうか。
殿下との約束通り倒れた分のレティシアの仕事は引き受け、手の空いた時間でルメラ嬢と何があったか調べるか。
普通に問いかけても震えるだけだから、脅して尋問しようとしたらレティシアに止められたから詳細はわからない。
ルメラの尋問はあとでいいか。
レオ様と一緒にレティシアが傷つけられたサロンを訪ねた。
ビアードは風の魔封じの結界が仕掛けられていたこと以外は何も見つからないと言っていた。レオ様がサロンの中を歩きまわり壁を叩くと階段が現れる。階段を下りて地下に行くとベッドと小さいテーブルの置いてある簡素な部屋。レオ様が壁を叩くと鉄格子が落ちてきた。
「牢か。鍵ではなく、壁を操作すると施錠できるのか。中々おもしろい作りだ」
サロンの地下に牢があるってどういうことだ?
床には風の魔法陣が書き込まれている。レオ様は階段を上がりサロンの床を真剣な顔で見ながら魔法陣の近くに書いてある記号を見ている。
レオ様が記号の上に魔石を置いて踏むと大量の風の刃が向かってきたので相殺する。時間差で小さい刃の中に大きな刃が混ざる。レティシアは魔法が使えずルメラを庇ってこの刃を受けたのか?
「ここに魔石を埋め込み踏むと地下の魔法陣から魔法が発動か。建物自体が特殊な作りかもしれないな。興味深い」
「レオ様、誰が仕掛けたかわかりますか?」
「魔石がないから魔法陣だけではわからないが優秀な者だろう。下の魔法陣を消すまでは生徒の出入りは禁止したほうがいい」
「わかりました。ありがとうございました」
「兄上に言えば取り計らってくださるだろう。俺の関与は言わないで」
「わかりました」
立ち去っていくレオ様を見送りサロンを結界で囲み、放課後にビアードを呼び出した。
ビアードはカーソンと共に来て、風の魔石をはめて魔法を発動させると目を見張った。
「ルメラはレティシアを連れてここで自傷し、レティシアに傷つけられたと証言しろと指示を受けていた。止めようとしたレティシアともみ合いになり、気付いたら傷だらけだったと」
「あいつを囮に始末したかったんですかね・・。レティシアを知るなら、自傷を止めるし傷つけばここですぐに治療することはわかります。治癒魔法に集中しているレティシアは無防備だ。この風の刃も避けられないでしょう。ハクの姉とのやりとりは手紙。手紙はいつも燃やす指示で証拠もない。短剣も指定した場所に埋められていた。ルメラの記憶を覗くのが一番早いですが、レティシアが訴えない限り無理です。証拠もなく当事者が被害を訴えないなら記憶さらしは使えません」
「ビアード、本当に見逃すのか?」
「ルメラに監視をつける。ルメラよりもハクとハクの姉のほうが厄介だ。レティシアを狙う理由がわからない。泳がせればまた近づいてくるかもしれない。レティシアはずっとルメラを気にかけていたが次はないと約束したから、次は裁く。裁く前に俺が斬っても何も言わない」
「エイベル様、ハクは俺が調べます。ビアード公爵家はルメラ領で警戒されてます」
「ステラとアロマを巻き込んでもいいが、危険なことはさせるなよ」
「わかってますよ。当分はレティシアの身辺に気をつけます。友人達にもうまく伝えます」
「頼んだ。マール、レティシアには言うなよ。この部屋のことは礼を言う」
「ここのことは殿下に報告してもいいか?他の生徒が迷い込んだら危険だ」
「そうだな」
「適当に俺がごまかして報告するよ。もちろんレティシアには言わない」
クロード殿下に報告すると殿下が魔法の解除を行った。
クロード殿下はすべての魔法を無効化する魔法が使える。
無効化魔法は王家の秘術で国王陛下と王太子だけに継承される魔法。見つけた経緯等疑われている気がしたけど気付かないフリをした。レオ様に調べてもらったと伝える方が面倒だ。
倒れて4日目に登校したレティシアが教室に顔を見せに来てくれた。
「マール様、ご心配おかけしました。綺麗な花束もありがとうございました」
「無理はしないで。逆に気をつかわて悪かったな」
「いえ、ありがたく飾らせていただきました。私はこれで失礼します」
上品な笑みを浮かべてレティシアは去っていった。
顔色もよく元気そうだ。
数日前に死にかけたようには見えない。血まみれのレティシアを見た時は血の気が引いた。治癒魔法を覚えるかな。
「リオ、よかったね。私用で会いにくるなんて初めてだね」
「ああ。誤解を解きたいけど全然解けない」
「頑張って」
苦笑しているサイラスに労わるように肩を叩かれた。
昼休みに庭園に行くとレティシアはいない。
「マール様、ビアード様は1年3組にいますよ」
「ありがとう」
1年3組を目指すとレティシアはアナ達と食事をしていた。
レティシアの隣に座っているアナが俺を見て、笑顔で席を譲ってくれた。
3組は俺とレティシアの仲を応援してくれる生徒が多く勉強を見て差し入れを頻繁にした甲斐があった。
レティシアが顔を出せない日に顔を出して世話をやくと、レティシアとは違う意味で頼りにされるようになった。レティシアへの悪評の相談は本人やグレイ嬢にはできないので、手を回した。
レティシアは3組なら俺が昼を一緒に過ごしても快く迎えてくれる。
アナ達の話を笑顔で聞いてるレティシアを見ながら食事をしていると、ありえないものが視界に。
3組はレティシアを慕う生徒は多く彼女の悪評を立てる筆頭のルメラ嬢に向ける視線は冷たい。
ルメラ嬢がレティシアを見ていることに気付き、レティシアが立ち上がったから腕を掴むと笑顔で振り解かれた。
グレイ嬢は静かにレティシアと話すルメラ嬢を見つめている。
まさか昼食の席に連れてくるとは思わなかった。レティシアは隣に座らせて食事の世話をやいている。それ、殺そうとされた相手ってわかってるんだろうか。
ルメラ嬢の名前で呼んで欲しいという願いを笑顔で頷く姿に頭を抱えたくなった。
ルメラ嬢も散々レティシアの悪評をばら撒き、殺そうとしたことへの罪悪感はないのか?
「レティシア、リアナでいい」
「隣のクラスのリアナです」
レティシアはルメラ嬢へのアナ達の拒絶の視線に苦笑している。
ロンが困惑した顔でルメラ嬢のことを聞くと笑顔で圧力をかけていた。
「私はよくわかりませんが過去のことは気にしませんわ。ロン、令嬢には優しくしてくださいね。」
ロンが視線を逸らした気持ちはわかる。
レティシアのように物事を気にせず流せる者は少ない。そんなやつがたくさんいたら問題だ。
「レティシア、さすがに」
「マール様、そのお顔やめてください。リアナを口説いても構いませんが、」
咎めようとすると見当違いな言葉で遮られた。
「違うから」
「お昼休みが終わります。食事をしてください。私、同じことを何度も言いたくありませんわ」
にっこりと笑い俺から視線を逸らさない彼女に自分が冷たい顔をしてるのに気づいた。ルメラ嬢を睨むと余計に勘違いされそうでレティシアには何を言っても駄目な気がした。
「リアナ、今はまわりの視線が厳しいでしょう。でも貴方次第でいずれかわります。意地悪されるなら生徒会に相談してください」
「レティシアは?」
「私でも構いません。ただできれば、殿方に頼るのはやめたほうがいいでしょう。令嬢に人気の殿方にかかわると禄なことがありませんから」
ルメラ嬢はレティシアを頼りにする気なのか……。
レティシア、人気な男と過ごすよりルメラ嬢と関わるほうが碌なことにならないとわからないんだろうか……。
放課後は演奏室に用があった。
中に入ると先に演奏室にいたレティシアが目を丸くしている。茶会の縁者に俺も声を掛けられたことは知らなかったのか。茶会の主催の侯爵令嬢はリール嬢と共に俺とレティシアの仲を応援してくれている。レティシアに演者を頼むけど、一緒にどう?と誘われて了承した。
リール嬢が音楽が関わると豹変するのは知っているがレティシアと過ごすなら厳しい練習も至福の時間だ。
「レティシア、集中して。ただ弾いてるだけよ」
「すみません」
ノックの音とともにレオ様が入ってきた。
「エイミー、休憩しないか」
「今日は早いんですね」
「差し入れをもらったから良かったら」
「そうね。少し休憩しましょうか」
リール嬢を音楽の世界から連れ出せるのはレオ様だけ。
他の者なら途中で休憩にはならない。
リール嬢とレオ様のやり取りも気づかずフルートを演奏しているレティシアの肩を叩くとびくっとして俺を見た。
「休憩だって」
フルートを置いたレティシアはフラフラと座り込んだ。レオ様の差し出すお菓子をレティシアの分も受け取り隣に座る。床に座るのを窘める人間もいない。
お菓子を口に含みふんわり笑ったレティシアはレオ様達を見ていた。
「幸せになってほしいですね」
「え?」
「夢が叶って屈託なく笑える日が」
切ない声に床に置かれた彼女の手を握る。
俺の手を静かに見ている彼女が思い描くのは自分じゃないけど気にしない。小さく笑ったレティシアが俺の手を握ったり離したり遊んでるのは照れ臭いけど気が紛れるなら構わない。
レオ様とリール嬢の演奏が終わったのでレティシアの手を引いて立ち上がらせた。弱った顔をするレティシアに笑いかけると苦笑しフルートを構える。
練習が終わるといつも真っ暗。
レオ様には毎回リール嬢を迎えに来てほしいと頼んだので、俺はレティシアと二人で帰れる。
練習の後はぼんやりしている手を引きながら寮まで送るのは日課になりつつある。
「マール様、令嬢達のお茶会に参加します?」
呟かれた言葉に歩みを止めた。
「レティシアが一緒ならいいけど」
「嫌ですよね。マール様のファンのご令嬢のお茶会にロキを連れて行こうかな」
独り言?また令嬢達に声を掛けられてるんだろうか。
「俺、それで君の憂いが晴れるなら行くけど」
「どうしようかな。私が代筆していいですか?物も用意しますので、名前だけ貸していただければ構いません」
「お茶会なら同行するからそれはやめてほしい。聞いてる?」
嫌な予感しかない申し出に軽く肩を叩くと、レティシアがゆっくりと顔をあげた。
「もし俺が側にいることで、レティシアに不都合があるなら、離れると諦める以外なら協力するよ」
きょとんとしているけど聞こえてるのか。
「はい?」
「俺は君が好きだから。レティシアにしか言わない。恋人もいないから」
不思議そうな顔。必死に誤解を解いて口説くしかないとわかっているけど
「もう少し俺に興味持ってくれないか」
「申し訳ありません。私はお父様の選んだ方と一緒になるので」
穏やかな笑みを浮かべ何度も聞いた言葉への返す言葉はいつも同じ。
「いずれ俺が婚約者の座を手に入れるよ」
初めて即答で否定もされずにじっと見つめられている。念のため誤解されないように伝えるか。
「俺が婚約したいって言ったのも思ったのもレティシアだけだ」
レティシアのうっとりした顔にそっと顔を近づけると目を閉じた。口づけると頬が赤く染まり笑った顔が可愛くて頬に口づけるとさらに真っ赤になった。
「好きだ」
小さく震えて目を閉じて首を振っている。明らかに動揺している姿に笑いが堪えられず噴き出してしまった。真っ赤な顔で潤んだ瞳でにらまれても可愛いだけ。
「私で遊ぶのやめてください。勘違いしそうになりましたわ」
「遊んでない。ただつい、まさか頬に口づけたらこんなに赤面するとは。いっぱいいっぱいなのに、必死で拒む様子がおかしくて」
「マール様、性格悪すぎませんか」
「レティシアにだけは優しくするよ」
「信用できません。失礼します」
速足で足を進めていくレティシアを追いかける。真っ赤な顔で俺を無視する姿は愉快で初めて意識された気がした。勘違いしそうってことは…。初めて拒絶もされなかったし、冗談として流されなかった。良い傾向かもしれない。
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