追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第八十八話 厄介事

微熱が出たため二日ほど休みました。
ズル休みをいれたら3日も休んでしまいました。
登校するとステラに心配され、フィルに頭を乱暴に撫でられました。
生徒会に入ったばかりの不安な時期にセント様の指導を放り出してしまったことは申しわけないと思います。頼りになる先輩方が面倒を見てくれていると信じていますわ。

生徒会室の扉を開けるとなぜか空気がピリピリと緊張しています。
回れ右して帰りたいですが許されませんよね・・・。
私が授業をリオと一緒にズル休みをしたことが見つかったんでしょうか。なぜかリオも冷たい顔で冷気を出してます。寒気がしました。
エイベルの背中に隠れたいですが我慢してリオに負けない冷気を出しているクロード殿下に頭を下げます。もう少しでブリザードで生徒会室が襲われ凍り付くかもしれません。

「レティシア、静かにしてろ」

ん?
警戒している時のエイベルの声に下げようとした頭を止めました。

「説明を」

クロード殿下の視線は私ではなくセント様でした。セント様は黙ってます。
私が休んでいる間に何かあったんでしょうか。でも今の怖い殿下に説明なんて怖くてできませんよね・・。
逃げたいですが私は指導係で後輩の失敗の責任は私にあります。息を吸って気合いを入れて殿下に向き直ります。

「恐れながらクロード殿下、事情がわかりませんがセント様には指導係として私が話を聞きますわ」

エイベルに頭を叩かれ腕を掴まれました。

「殿下、俺達は見回りに行ってきます」
「指導係は私ですよ。この環境に後輩を残していくなど」
「レティシア、言うことを聞け。邪魔なんだよ。俺達は殿下の判断に従います。失礼します」

エイベルに無理矢理腕を引っ張られて生徒会室から出ました。
全く状況がわかりません。邪魔ってなんですか!?

「エイベル、事情を」
「全てが終わったらな。今は調査中だ」

眉間に皺が寄ってます。
この顔は教えてくれません。生徒会室に戻れば事情はわかるので無理に聞き出さなくていいでしょう。まぁ私の力ではエイベルの腕を振り払えないので従うしかありませんわ。

「ハリーは置いてきて良かったんですか?」
「ああ。お前よりもしっかりしてる」

確かにハリーはしっかりしてます。エイベルよりも書類仕事が早いです。
見回りが終わって生徒会室に戻るとセント様はいませんでした。クロード殿下の空気は冷たいままです。

「御苦労だった。1年生の役員はもう一人選定しよう。セント嬢は辞退した。試用期間を設けるのはいいな。来年からも取り入れようか。彼女は私的に魔法を使用していた。規則を守れない者は生徒会には必要ない」

私も訓練と授業以外で魔法をこっそり使っているんですが。入学したばかりできちんと制御できない状態で使うのは危険ですよね・・・。

「私の指導不足で申しわけありません。」
「今回は選定が杜撰だった。誰か推薦する人物はいるか?」

殿下の怒りが自分に向かなくて良かったです。殿下の罰は心が辛いものばかりです。
推薦・・。私の知り合いの令嬢は成績がそこまでよくないので紹介できません。

「来年、3名取るか。今年は人数的には足りているから」

セント様の件は私にも責任があるので引き受けましょう。

「殿下、1年生は私が担当します。3年生は手がかかりませんので2学年受け持ちます」
「任せるよ。クラムもフォローを頼むよ」
「かしこまりました」

セント様の指導はどうすればいいかわかりませんでした。このまま放置するわけにはいかないので1度お話に行ったほうがいいですかね。話していただけるかはわかりませんが。
ハリーのことも心配ですし当分は1年生の教室に通いましょうか。

「見回りは必ず二人で。1年はハリーだけ任命する」

会議は終わりました。ハリーが認められて良かったですが大変なのはこれからです。空気の怖い生徒会室から逃げることにしました。魔法の不正でここまで殿下が怒るとは・・。見つからないように気をつけましょう。

「レティシア」

リオに手を握られ足を止めました。部屋に誘われますが首を横に振ります。

「すみません。今日はエイベルの部屋で過ごします。失礼します」

不服そうなリオの手を解いてエイベルの部屋に行きます。エイベルの溜まった書類仕事を片付けないといけません。放っておくとすぐ書類仕事を溜める兄は手がかかりますわ。

***

翌日のお昼休みに1年1組に行きました。

「セント様、よければ一緒に食事をしませんか?」
「レティシア様、僕もご一緒しても」
「ビアード様、私も!!」

後輩が集まり、いつの間にか用意された椅子に案内されました。セント様は無言です。
お断りできる雰囲気ではないので食事をすることにしました。
ハリーがクラスメイトと親しそうに話す姿に孤立していないことに安心しました。後輩の令嬢達にハリーを気に掛けて欲しいとお願いしても初の生徒会役員抜擢なので心配ではありました。
セント様にじっと見られています。もしかして私ではなく隣のハリーを見てるんでしょうか。
私とハリーの仲の良さに嫉妬でしょうか?ハリーに私が近づかないように指導係に指名を・・。嫌われている理由はわかりスッキリしましたわ。恋ゆえですね。恋敵には優しくなれませんね。生前の私を恋敵と勘違いしたアリス様を思い出し、頬が緩んでしまったの慌てて穏やかなお顔を作ります。

「レティシア」

肩に置かれた手に振り向くと焦った顔のリオがいました。

「リオ様、どうされました?」
「なんでここに」

なぜか抱き寄せられ胸に顔を押し当てるリオに戸惑います。

「リオ様、離してください。」

肩を押して咎めるように睨むと口の中に甘みが広がりました。クッキーですね。この上品な甘みはたまりません。美味しい。

「そろそろ授業に間に合わなくなるから行こう。次、移動だろう?」

笑顔のリオに促されてすっかり忘れてましたわ。食事を片付けて礼をして立ち上がると手を繋がれました。

「セント嬢は危険だから一人で近づかないで。どうしてもなら俺が一緒に行くから」
「嫌われてる理由はわかるんですが、生徒会のことで投げ出しましたので最後まで」
「試用期間だから問題ないよ」

教室に付くと前髪を持ち上げられ額に口づけられました。視線を集めるのでやめてほしいと言ってもやめてくれません。文句を言おうとするとすでにいませんでした。ため息をついているとフィルに教科書を渡されて、ステラ達と一緒に移動しました。

学園を歩いていると時々ねっとりとした視線を感じますが振り向いても正体がわかりません。
気にしたくないのに気持ち悪くてたまりません。時々ゾクリと寒気がします。

「ディーネ、視線の正体わかる?」
「セントよ」
「ありがとうございます」

セント様は私がハリーに近づかないように隠れて見張ってるんでしょうか。一応婚約者がいると説明しましょう。セント様に面会依頼を出すと、すぐに了承の返事が来ました。指定場所は裏庭園にあるサロンです。今日のお茶会はステラに代わってもらってセント様と話しましょう。お互いのために誤解は早めに解いた方がいいですわ。尾行するのが上手いので武術の嗜みがあるんでしょうか。

***

放課後指定されたサロンに向かうと薄い魔力の膜が覆ってありました。結界ではありません。足を踏み入れても魔力が紡げるので魔封じではありません。魔法さえ使えればなんとかなるでしょう。中に入るとセント様が座ってました。正面の席に視線を向けるのでゆっくりと座った笑みを浮かべます。


「お招きありがとうございます。セント様、私は婚約者がいますので、ハリーとは関係ありません。私達が恋仲になることはありませんので、ご安心ください」

無言のセント様にねっとりした視線で見つめられ、真っ赤な唇が開き浮かべた妖艶な笑顔に寒気がしました。

「私が欲しいのは貴方よ」

セント様と言葉を交わしたのは2度目です。今度は話していただけることにほっとしたいのですが寒気が止まりません。なにか、変なこと言ってませんでしか・・?

「可哀想なレティシア。貴方にこの世界は似合わないわ。私が一生可愛がってあげる」

聞き間違いではありませんでした。
うっとりと話す言葉は意味がわかりません。冗談にしては、気持ちが悪いです。この感覚は物凄く覚えがあります。変態です!!独特の雰囲気に人の話を聞かない感じは間違いありません。
恐怖で手が震えてきましたが平静を装い穏やかな顔を作ります。

「セント様、私は今に不満はありません。」
「時間はたっぷりあるわ。貴方にふさわしい世界を用意してあげる」

逃げましょう。変態は関わってはいけません。立ち上がろうとすると体が動かない。
伸ばされる手を避けたいのに体が動けません。魔力を紡ごうにも力が入らず、力がどんどん抜けていく。長い指に頬を触れられ、ゾクリと体に冷たい汗が流れます。セント様の顔が近づいて、口づけられて液体が流しこまれます。絶対に飲んだらいけないのに、唇も顔も離してもらえません。不快でたまりません。飲み込まないように必死に注意して、ディーネなら、
「ディーネ、彼女を引きはがして拘束してください!!」
ディーネが顕現して水球を放ち拘束しました。苦い液体を吐き出します。
体が動かず、どんどん瞼が重たくなってます。寝たら駄目なのに・・・。
でも拘束してあるから大丈夫かな・・。

***

目を開けると保健室にいました。人の気配に横を向くと心配そうな顔のリオと眉間に皺のあるエイベルがいました。目が開くのに体が起き上がれません。
エイベルの手から魔力を送られて体がじんわり温まってきました。
「ディーネ、治癒魔法をかけてくれませんか」
ディーネに念話を送ると体が冷たい膜で覆われて体に力が入りました。

「エイベル、なんで?」
「他人の馴染まない魔力を送られ過ぎた。俺の魔力が一番だろう?」

得意げに笑ってるエイベルの魔力が一番体に馴染みます。
体の重さの理由がわかりました。合わない魔力を送られるとこんなに体が重たくなるんですね。

「セント様は」
「怪しい魔法に手を出したから王宮で取り調べをしている。何も心配いらない」

そこまでして排除したかったんでしょうか。もう少し早く話し合わないといけませんでした。
教えてくれたリオに視線を向けます。

「私の所為ですか?」
「違うよ。誰でも良かったんだよ。自分の魔法を試したかっただけだ。」
「私、嫌われてたから」
「レティシアが捕まらなかったら違う相手だったよ。無事で良かった。殿下の御身に危険はない」

声が優しいからお説教はされないようです。
でもハリーが捕まらなくて良かったです。あのセント様を見ればトラウマになりますわ。思い出したら寒気がしましたわ。

「魔力はもう大丈夫ですよ」
「もう少し顔色が良くなったらな。寝るまでいるから休め」
「報告等は全部すませてあるから休んで」

リオに頭を撫でられエイベルの包んでくれる手が温かい。この世界は無性に寂しくなっても嫌いじゃないんです。怪しい魔法・・・・。
殿下やハリーが危険な目に合わなくて良かったです。
ディーネに感謝を伝えると頬を舐められました。
もっと強くならないといけません。今回はディーネのおかげで助かりました。
魔法の勉強も頑張らないと。
今はみんなに甘えて休ませてもらいましょう。怖いことがあっても寝かせてくれる腕はありません。だから体の疲労に意識を手放しましょう。できれば自分で眠りの魔法をかけるのは避けたいですわ。
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