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第百一話 1 王家の厄介事
ハンナは孤児としてビアード領に保護することにしました。
学園にお願いしたら退学を取り消していただいたので、復学しました。
娼館では危害を加えられていなかったことに安心しました。
イーガン伯爵はビアードにもハンナに近づくことはないそうです。
娼館の旦那様は捕えられ裁きを受けました。無関係な従業員にはいくつか職が用意されました。真っ当な道に進んだ方もいれば違う娼館の扉を叩いた方もいます。身元不明の孤児は王都の孤児院で保護されました。
イーガン伯爵には恐怖を送ったとビアード公爵夫人が話していました。未成年のハンナを売ろうとしたなら当然です。ハンナの身内でも許しません。
長期休みに入ったので、ビアード公爵領に帰って来ています。
ハンナは孤児院で穏やかに過ごしています。孤児達に慕われ、よく面倒を見てくれるので感謝しています。
暗かった顔も段々明るくなり良かったです。
ビアードとマールの社交に追われ、定期的にリオと一緒にクロード殿下のお手伝いに行っています。
リオとクロード殿下の執務室から帰る途中にレオ様に会いました。
視察から戻られたのでしょうか。
「お帰りなさいませ」
「今日も手伝いか。忙しそうだな」
「クロード殿下が少しでも楽になればいいんですが」
書類の山は全然減りませんが増えないだけいいとしましょう。
「捕えろ」
近衛騎士達が近づき、なぜか周囲を囲まれました。礼のない騎士達に咎める視線をおくろうとするもリオが前に出て背に庇われました。抜刀の音がしてレオ様に剣を向けています。
リオの背から抜け出し、無礼な近衛騎士小隊長の前に立ち静かに見つめます。
「第二王子殿下に無礼です。剣をおろしなさい」
「レティシア様、アリア様の命令です。殿下、ご同行を」
王子を捕える命令を出せるのは国王陛下と非常時の強制捕縛権を持つビアード公爵だけでアリア様に権限はありません。近衛騎士小隊長ともあろう方が常識を知らないならビアードとして査定し直す必要がありますわ。小隊長とは学園のクラス委員みたいなものですわ。
「訴状を述べなさい。国王陛下の命令なく、」
剣を引かずに無言を貫くので冷たく睨むと肩に手を置かれました。
「抵抗しない。剣を降ろせ」
「レオ様!?」
肩を強く押されて、後ろにふらつくとリオの胸にぶつかりました。
「レティシア、リオ、楽しかったよ。充分だ。リオ、頼むよ」
諦めた顔のレオ様が近衛騎士に近づき捕縛されています。罪状も言わずに捕縛するなんてありえません。
「レオ様。やめなさい、不敬です。ビアード公爵令嬢として、」
リオに取り押さえられて口を塞がれます。
「駄目だ。動けば殿下に迷惑が」
「離してください。レオ様が、」
「裁判で沙汰が決まるまでは安全だから」
「それでも不当です。王族であるレオ様に、レオ様」
リオに力づくで抑えられ、レオ様が連行されるのを見ているしかできませんでした。私には王宮での魔法の使用許可はおりていません。ここで魔法行使すれば私でも捕縛されます。
「リオ様、離してください。レオ様が!!」
あんなの許せません。リオに無理矢理担がれて、クロード殿下の執務室に連行されました。殿下は留守でした。そしてリオに抱きしめられて離してもらえません。
「リオ様、やめてください。行かないと」
「クロード殿下に話すのが一番だ。ここで迂闊に動けばレオ様もレティシアも立場が悪くなる。大丈夫だから冷静になって。捕縛されても不当な扱いは受けない。」
「すでに不当です!!ビアードとして許しません。いい加減にはなしてください!!ビアード公爵令嬢として」
「レティシア、大丈夫だよ。先にクロード殿下に」
どんなに暴れてもリオが離してくれないので、クロード殿下が帰ってくるのを待つことにしました。
全然帰ってきません。王宮で暴れるのは淑女として許されませんがリオの手は振りほどけません。いかに不当か脅しても言葉の力は武力の前に無力で、非力な自分が悔しい。
仕方ありません。油断させるために大人しくしましょう。
「ディーネ、レオ様の無事と何が起こっているか調べて来てくれる?」
「わかったわ」
ディーネに念話で頼みました。あとは、邪魔なのは、
「レティシア、出直そう」
「先に帰ってください」
「付き合うよ」
王家のことに関わるつもりはありません。でもレオ様を捕縛なんて、見過ごせません。レオ様を捕えた騎士達は覚悟するといいですわ。絶対に降格させますわ。他家門の騎士だろうとうちの騎士だろうと容赦しません。ルーン公爵令嬢ならできませんでしたがビアード公爵令嬢として学んだ私はいくらでも裏から手を回しますわ。誇りなき騎士に王家の紋章のある近衛騎士の制服は相応しくありません。怒りで体が震えてきましたわ。いえ、今は怒りに身を任せてはいけません。そういえば騎士の心を折る方法を生前のお母様から。違います。今はレオ様優先です。
リオに帰って欲しいんですけど。付き合われると邪魔です。すでに伝えましたが腕の拘束が離れません。今は大人しくして油断するのを待ちましょう。
「少し出て来るからここにいて。」
リオの言葉に口元が緩むのを我慢してうなずきます。
リオが出て行き気配が無くなったので立ち上がります。これで自由に動けます。作戦成功です。
部屋を出ようとするとリオに止められてましたので。
「レティ、レオには近づけない。国王陛下の暗殺未遂。容疑者がサラ。処刑の準備って囁かれてたわ。国王陛下の部屋には入れない」
肩の上に帰ってきたディーネの話に息を飲みました。
急いでクロード殿下に会わないといけません。
陛下が休まれてるなら殿下は指示を出しに駆けまわっているので、私が会いに行っても追い払われます。
許可なく王宮を勝手に歩きまわれば近衛騎士に咎められます。ビアード公爵も忙しく、頼るなら…。
「ありがとう。ロダ様のところに連れてってくれる?」
身を隠して、ロダ様に会うために王宮を進んでいきます。
最初の人生の記憶のおかげで王宮の中は詳しいです。魔導士の研究所の魔術塔にいるロダ様をディーネが連れて来てくれました。
「レティシア、どうした?」
「ロダ様、クロード殿下に会いたいんです。できるだけ早く」
「待ってて」
ロダ様が消えて行きました。しばらくすると、帰ってきて王宮魔導士のローブを着せられました。
これなら王宮を自由に歩いていても咎められません。王宮魔道士以外が着るのは違法ですが、バレたら謝ります。裁かれても罰金と厳重注意ですませますわ。
「静かについて来て」
案内されたのは魔術塔でした。
初めて入りました。王宮魔導士は魔術塔に部屋を持ち暮らしています。
ロダ様の部屋でしょうか。
「ここで待ってて。殿下を連れてくるよ」
「ありがとうございます。ご迷惑を」
「君へは大きな恩がある。たまには返させてよ。中の物は自由に使って。眠ってもいいから」
恩などありませんが優しく笑うロダ様に甘えるしかありません。ロダ様、この御恩はいつか返しますわ。
クロード殿下は国王陛下が倒れたなら動いています。
国王陛下が亡くなれば鐘が鳴ります。
鐘が鳴らないならまだ生きてます。
もしサラ様が暗殺するなら失敗はしません。レオ様を教育し、シオン伯爵家出身のサラ様なら毒の知識も豊富です。
即死か毒とわからないものを使うでしょう。
「レティシア、起きて」
眠ってしまいました。
目を開けるとロダ様とクロード殿下がいます。
ぼんやりしている場合ではありません。
椅子から立ち上がって頭を下げます。
「クロード殿下、お願いです。調べさせてください」
「処刑が決まったからもう遅い」
無表情のクロード殿下のお考えはわかりません。冷たい空気は出てません。
「殿下、教えてください。この処刑はクロード殿下は納得されてますか?どうか」
「不審な点はある。ただ父上が意識がないなら後宮の権利は母上のものだ。私に止められない」
クロード殿下の顔を見つめると瞳には迷いがある気がします。声には力がありません。
サラ様の処刑に賛成してないなら、方法はあります。
後宮は国王陛下のものであり、統制は正妃の役目。
ですが、処刑する権利はないはずです。アリア様が大臣や上位貴族達を味方につけて命じれば、未成年のクロード殿下には止められません。裏に愚かな貴族がいたりしませんよね。マール公爵家が愚かなことをするとは思えませんが。
必要なのは正しい調査を行う時間です。クロード殿下の前に跪きます。
王家とは関わりたくありませんが、ビアード公爵家令嬢として役目を果たします。
証拠もなくサラ様の処刑など許せません。
「クロード殿下、私の忠誠は殿下のものです。時間を作る方法を殿下はご存知です。私に命じてください」
息を飲む音が聞こえました。
顔を上げると驚いた顔をされています。
一部の者しか知らないことを私が提案したから驚いているんでしょう。
生前は王太子の婚約者だったので教えてもらいました。
王族への罰に異を唱える方法が一つだけあります。その儀式を受けている間だけ、罪人は釈放され調べ直すことが許されます。
「私が時間を稼ぎます。きっとクロード殿下とサラ様とレオ様で調べてくだされば真実はわかります。そこにセリアが加われば陛下の病も治りますわ。このままだと、後悔しますわ。クロード殿下も私も。後悔を持って生きるなら、自分の信念を通させてください。」
「一歩間違えれば死ぬんだよ」
ポツリとこぼれた言葉に目の前のクロード殿下が優しいことがわかりました。
本質は同じかもしれません。頬が緩みそうになるのは不謹慎なので我慢します。
公爵令嬢に生まれたなら王族のために死ぬ覚悟はできてます。
特に忠誠心の強い一族ビアード公爵令嬢なら王族の為に命を捧げることを迷いません。
「私は殿下を信じてます。貴方の命令で死ぬなら本望です。」
一度目の人生の最期はクロード様を信じられませんでした。二度目の人生の時に見捨てられていなかったことを知って本当は嬉しかったんです。殿下のために生きた私の生は無駄じゃなかったって。
次があるなら最期まで信じると決めました。
納得いかないことは文句をいいますが、クロード様が決めたなら叶うように力を尽くします。
恐れ多く正直にお伝えできませんでしたが、どのクロード様も大好きで大事でしたから。そしていつの世も私にとっての王様はクロード様だけです。
「あの儀はどんなものかわからない。伝承の世界で記録はないんだ」
「貴重な記録になりますね。殿下、命じてください。私、体力はありませんが精神力は鍛えてましてよ。お任せください」
クロード殿下が私の身を案じてくれるとは思いませんでした。
頼んだよっとあっさり送り出してくれると思ってました。目の前の殿下は機嫌以外はわかりにくい方です。殿下には敵わないので余計なことを考えても仕方ありません。
「私が命じなければどうするんだ?」
「アリア様に直談判にいきます。クロード殿下に迷惑のかからないようにレオ様の名で行ったほうがいいですか?ただ王族の了承がないと意味はないので一芝居売って欲しいんです。アリア様を説得できなければ、殿下が許していただけませんか?」
「私は偶然真相を知った君に頼み込まれたと」
「優しい先輩は我儘な後輩の頼みは断れませんもの。お願いします。付き人はロダ様にお願いします。私が意識を失ったら容赦なく起こしてください。私はアリア様に嫌われてるのできっと許していただけます」
無表情で見つめられます。
「レティシア、死ぬことは許さない。守れるか」
殿下が命じるなら許される言葉は一つだけです。
「命に代えても。殿下の命に従いますわ」
「矛盾しているが・・・。レオの名代で頼むよ。私が君を推薦したら母上に警戒される。準備は請け負うから休んでて。体力勝負だ。ロダ、部屋を貸してほしい。ロダには別室を用意する。」
消えていくクロード殿下とロダ様を見送りました。
必死にこなした王妃教育が無駄にならなくて良かったです。
初めて役に立ちました。
体力を回復するためにベッドを借りて眠ることにしました。
学園にお願いしたら退学を取り消していただいたので、復学しました。
娼館では危害を加えられていなかったことに安心しました。
イーガン伯爵はビアードにもハンナに近づくことはないそうです。
娼館の旦那様は捕えられ裁きを受けました。無関係な従業員にはいくつか職が用意されました。真っ当な道に進んだ方もいれば違う娼館の扉を叩いた方もいます。身元不明の孤児は王都の孤児院で保護されました。
イーガン伯爵には恐怖を送ったとビアード公爵夫人が話していました。未成年のハンナを売ろうとしたなら当然です。ハンナの身内でも許しません。
長期休みに入ったので、ビアード公爵領に帰って来ています。
ハンナは孤児院で穏やかに過ごしています。孤児達に慕われ、よく面倒を見てくれるので感謝しています。
暗かった顔も段々明るくなり良かったです。
ビアードとマールの社交に追われ、定期的にリオと一緒にクロード殿下のお手伝いに行っています。
リオとクロード殿下の執務室から帰る途中にレオ様に会いました。
視察から戻られたのでしょうか。
「お帰りなさいませ」
「今日も手伝いか。忙しそうだな」
「クロード殿下が少しでも楽になればいいんですが」
書類の山は全然減りませんが増えないだけいいとしましょう。
「捕えろ」
近衛騎士達が近づき、なぜか周囲を囲まれました。礼のない騎士達に咎める視線をおくろうとするもリオが前に出て背に庇われました。抜刀の音がしてレオ様に剣を向けています。
リオの背から抜け出し、無礼な近衛騎士小隊長の前に立ち静かに見つめます。
「第二王子殿下に無礼です。剣をおろしなさい」
「レティシア様、アリア様の命令です。殿下、ご同行を」
王子を捕える命令を出せるのは国王陛下と非常時の強制捕縛権を持つビアード公爵だけでアリア様に権限はありません。近衛騎士小隊長ともあろう方が常識を知らないならビアードとして査定し直す必要がありますわ。小隊長とは学園のクラス委員みたいなものですわ。
「訴状を述べなさい。国王陛下の命令なく、」
剣を引かずに無言を貫くので冷たく睨むと肩に手を置かれました。
「抵抗しない。剣を降ろせ」
「レオ様!?」
肩を強く押されて、後ろにふらつくとリオの胸にぶつかりました。
「レティシア、リオ、楽しかったよ。充分だ。リオ、頼むよ」
諦めた顔のレオ様が近衛騎士に近づき捕縛されています。罪状も言わずに捕縛するなんてありえません。
「レオ様。やめなさい、不敬です。ビアード公爵令嬢として、」
リオに取り押さえられて口を塞がれます。
「駄目だ。動けば殿下に迷惑が」
「離してください。レオ様が、」
「裁判で沙汰が決まるまでは安全だから」
「それでも不当です。王族であるレオ様に、レオ様」
リオに力づくで抑えられ、レオ様が連行されるのを見ているしかできませんでした。私には王宮での魔法の使用許可はおりていません。ここで魔法行使すれば私でも捕縛されます。
「リオ様、離してください。レオ様が!!」
あんなの許せません。リオに無理矢理担がれて、クロード殿下の執務室に連行されました。殿下は留守でした。そしてリオに抱きしめられて離してもらえません。
「リオ様、やめてください。行かないと」
「クロード殿下に話すのが一番だ。ここで迂闊に動けばレオ様もレティシアも立場が悪くなる。大丈夫だから冷静になって。捕縛されても不当な扱いは受けない。」
「すでに不当です!!ビアードとして許しません。いい加減にはなしてください!!ビアード公爵令嬢として」
「レティシア、大丈夫だよ。先にクロード殿下に」
どんなに暴れてもリオが離してくれないので、クロード殿下が帰ってくるのを待つことにしました。
全然帰ってきません。王宮で暴れるのは淑女として許されませんがリオの手は振りほどけません。いかに不当か脅しても言葉の力は武力の前に無力で、非力な自分が悔しい。
仕方ありません。油断させるために大人しくしましょう。
「ディーネ、レオ様の無事と何が起こっているか調べて来てくれる?」
「わかったわ」
ディーネに念話で頼みました。あとは、邪魔なのは、
「レティシア、出直そう」
「先に帰ってください」
「付き合うよ」
王家のことに関わるつもりはありません。でもレオ様を捕縛なんて、見過ごせません。レオ様を捕えた騎士達は覚悟するといいですわ。絶対に降格させますわ。他家門の騎士だろうとうちの騎士だろうと容赦しません。ルーン公爵令嬢ならできませんでしたがビアード公爵令嬢として学んだ私はいくらでも裏から手を回しますわ。誇りなき騎士に王家の紋章のある近衛騎士の制服は相応しくありません。怒りで体が震えてきましたわ。いえ、今は怒りに身を任せてはいけません。そういえば騎士の心を折る方法を生前のお母様から。違います。今はレオ様優先です。
リオに帰って欲しいんですけど。付き合われると邪魔です。すでに伝えましたが腕の拘束が離れません。今は大人しくして油断するのを待ちましょう。
「少し出て来るからここにいて。」
リオの言葉に口元が緩むのを我慢してうなずきます。
リオが出て行き気配が無くなったので立ち上がります。これで自由に動けます。作戦成功です。
部屋を出ようとするとリオに止められてましたので。
「レティ、レオには近づけない。国王陛下の暗殺未遂。容疑者がサラ。処刑の準備って囁かれてたわ。国王陛下の部屋には入れない」
肩の上に帰ってきたディーネの話に息を飲みました。
急いでクロード殿下に会わないといけません。
陛下が休まれてるなら殿下は指示を出しに駆けまわっているので、私が会いに行っても追い払われます。
許可なく王宮を勝手に歩きまわれば近衛騎士に咎められます。ビアード公爵も忙しく、頼るなら…。
「ありがとう。ロダ様のところに連れてってくれる?」
身を隠して、ロダ様に会うために王宮を進んでいきます。
最初の人生の記憶のおかげで王宮の中は詳しいです。魔導士の研究所の魔術塔にいるロダ様をディーネが連れて来てくれました。
「レティシア、どうした?」
「ロダ様、クロード殿下に会いたいんです。できるだけ早く」
「待ってて」
ロダ様が消えて行きました。しばらくすると、帰ってきて王宮魔導士のローブを着せられました。
これなら王宮を自由に歩いていても咎められません。王宮魔道士以外が着るのは違法ですが、バレたら謝ります。裁かれても罰金と厳重注意ですませますわ。
「静かについて来て」
案内されたのは魔術塔でした。
初めて入りました。王宮魔導士は魔術塔に部屋を持ち暮らしています。
ロダ様の部屋でしょうか。
「ここで待ってて。殿下を連れてくるよ」
「ありがとうございます。ご迷惑を」
「君へは大きな恩がある。たまには返させてよ。中の物は自由に使って。眠ってもいいから」
恩などありませんが優しく笑うロダ様に甘えるしかありません。ロダ様、この御恩はいつか返しますわ。
クロード殿下は国王陛下が倒れたなら動いています。
国王陛下が亡くなれば鐘が鳴ります。
鐘が鳴らないならまだ生きてます。
もしサラ様が暗殺するなら失敗はしません。レオ様を教育し、シオン伯爵家出身のサラ様なら毒の知識も豊富です。
即死か毒とわからないものを使うでしょう。
「レティシア、起きて」
眠ってしまいました。
目を開けるとロダ様とクロード殿下がいます。
ぼんやりしている場合ではありません。
椅子から立ち上がって頭を下げます。
「クロード殿下、お願いです。調べさせてください」
「処刑が決まったからもう遅い」
無表情のクロード殿下のお考えはわかりません。冷たい空気は出てません。
「殿下、教えてください。この処刑はクロード殿下は納得されてますか?どうか」
「不審な点はある。ただ父上が意識がないなら後宮の権利は母上のものだ。私に止められない」
クロード殿下の顔を見つめると瞳には迷いがある気がします。声には力がありません。
サラ様の処刑に賛成してないなら、方法はあります。
後宮は国王陛下のものであり、統制は正妃の役目。
ですが、処刑する権利はないはずです。アリア様が大臣や上位貴族達を味方につけて命じれば、未成年のクロード殿下には止められません。裏に愚かな貴族がいたりしませんよね。マール公爵家が愚かなことをするとは思えませんが。
必要なのは正しい調査を行う時間です。クロード殿下の前に跪きます。
王家とは関わりたくありませんが、ビアード公爵家令嬢として役目を果たします。
証拠もなくサラ様の処刑など許せません。
「クロード殿下、私の忠誠は殿下のものです。時間を作る方法を殿下はご存知です。私に命じてください」
息を飲む音が聞こえました。
顔を上げると驚いた顔をされています。
一部の者しか知らないことを私が提案したから驚いているんでしょう。
生前は王太子の婚約者だったので教えてもらいました。
王族への罰に異を唱える方法が一つだけあります。その儀式を受けている間だけ、罪人は釈放され調べ直すことが許されます。
「私が時間を稼ぎます。きっとクロード殿下とサラ様とレオ様で調べてくだされば真実はわかります。そこにセリアが加われば陛下の病も治りますわ。このままだと、後悔しますわ。クロード殿下も私も。後悔を持って生きるなら、自分の信念を通させてください。」
「一歩間違えれば死ぬんだよ」
ポツリとこぼれた言葉に目の前のクロード殿下が優しいことがわかりました。
本質は同じかもしれません。頬が緩みそうになるのは不謹慎なので我慢します。
公爵令嬢に生まれたなら王族のために死ぬ覚悟はできてます。
特に忠誠心の強い一族ビアード公爵令嬢なら王族の為に命を捧げることを迷いません。
「私は殿下を信じてます。貴方の命令で死ぬなら本望です。」
一度目の人生の最期はクロード様を信じられませんでした。二度目の人生の時に見捨てられていなかったことを知って本当は嬉しかったんです。殿下のために生きた私の生は無駄じゃなかったって。
次があるなら最期まで信じると決めました。
納得いかないことは文句をいいますが、クロード様が決めたなら叶うように力を尽くします。
恐れ多く正直にお伝えできませんでしたが、どのクロード様も大好きで大事でしたから。そしていつの世も私にとっての王様はクロード様だけです。
「あの儀はどんなものかわからない。伝承の世界で記録はないんだ」
「貴重な記録になりますね。殿下、命じてください。私、体力はありませんが精神力は鍛えてましてよ。お任せください」
クロード殿下が私の身を案じてくれるとは思いませんでした。
頼んだよっとあっさり送り出してくれると思ってました。目の前の殿下は機嫌以外はわかりにくい方です。殿下には敵わないので余計なことを考えても仕方ありません。
「私が命じなければどうするんだ?」
「アリア様に直談判にいきます。クロード殿下に迷惑のかからないようにレオ様の名で行ったほうがいいですか?ただ王族の了承がないと意味はないので一芝居売って欲しいんです。アリア様を説得できなければ、殿下が許していただけませんか?」
「私は偶然真相を知った君に頼み込まれたと」
「優しい先輩は我儘な後輩の頼みは断れませんもの。お願いします。付き人はロダ様にお願いします。私が意識を失ったら容赦なく起こしてください。私はアリア様に嫌われてるのできっと許していただけます」
無表情で見つめられます。
「レティシア、死ぬことは許さない。守れるか」
殿下が命じるなら許される言葉は一つだけです。
「命に代えても。殿下の命に従いますわ」
「矛盾しているが・・・。レオの名代で頼むよ。私が君を推薦したら母上に警戒される。準備は請け負うから休んでて。体力勝負だ。ロダ、部屋を貸してほしい。ロダには別室を用意する。」
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