追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第百十八話前編 小さい変化

ビアード公爵夫妻が過保護なため5日ほど療養していました。
登校すると先生からは休んだ分の課題をもらいました。
ディーネから話を聞き、お世話になったレオ様とリオとマール公爵家とルーン公爵家にはお礼の手配をしました。身分が低くても理由があれば贈ることは許されますから。

クロード殿下から呼び出しがありました。
人払いし結界で覆われた部屋でクロード殿下から詳細を教えてもらいました。事後処理は両殿下が動いてくださったようです。

神事をしたことは箝口令を敷いても大掛かりな準備だったため王家のお抱え神官は知っているそうです。神官は精霊様には嘘がつけないため神事の記録も残されています。なぜか私の使ったウンディーネ様の弓がしばらくの間、輝いていたため好奇心を煽ってしまいました。
今まで声を掛けられなかったのは私的な記憶晒しの魔法を用意するのに時間が必要だったからだそうです。罪を恐れぬ危険な思考の持ち主もいるので今後も狙われる可能性について教えられました。極刑と理解していても挑戦する危険人物を王宮に置くのは危険だと思いますが、国王陛下の領分のためクロード殿下では対応できないと謝罪されそうな雰囲気でしたのでビアード公爵令嬢として情けない醜態を曝したことを謝罪しごまかしました。悪いのは殿下ではありませんから。


私を連れ出したお妃様に憧れる侍女はクロード殿下の執務室に自由に出入りが許され大人気な殿方達と楽しそうに過ごす私が気に入らず、頭のおかしい神官様と魔導士と手を組んだそうです。私を排除しても弱小男爵家の令嬢が両殿下のお手付きになることはありません。お妃様に憧れるならきちんと妃の選定基準をお勉強してほしいですわ。特別な事情がない限り正妃を迎えてからでないと側妃と妾は選ばれません。清いもの好む王家は婚礼を迎えるまでにお手付きにすることはありません。侍女はリオとレオ様の命令にも逆らった不敬罪と私の殺人未遂関与により男爵家は取りつぶし。王家が動くまでもなく男爵家を取り潰したのはうちでした。男爵領は王家預かりになり、お勉強不足の侍女は戒律の厳しい修道院に送られました。罪人の刻印を手に刻まれた後に修道院を逃亡され姿を消しました。許可書を持たない罪人が国境を超えることはできません。そして罪人の刻印を持つ者は王都の結界に阻まれるので両殿下に近づくことはできません。取りつぶされた男爵一族も姿を消しています。
家族で手を取り合って生きていくのかもしれません。一度の過ちとはいえ貴族社会で身分の高い者に逆らうという禁忌を犯しました。更生して現実を生きてほしいと思います。

魔導士様と神官様は資格と名前を剥奪されシオン伯爵が管理する研究所送りになりました。
研究所には医務官も配置されているので、一度頭を調べてもらったほうがいいでしょう。成長に伸び悩んでいた魔導士様も精霊好きの神官様も思う存分研究できるでしょう。ただ目がギラギラした研究者に目をつけられれば被験者にさせられます。特別な研究所のため一度入れば、名前を取り戻せるような成果を上げるまでは出ることはできません。
研究者になるか被験者になるかは資質次第。研究所は王宮から離れた場所にあります。抜け出しても危ない思考の方々が両殿下に近づくことはできないでしょう。それならその先は興味がありません。生前より私は絶対に近づいてはいけないと言われている研究所です。怪しい研究所なので王族が視察に行くこともなく書類でのやりとりです。フラン王国一の魔境でしょう。セリアの被験者に選ばれても自己責任ですわ。

極秘で処理されたため私が関与したことは内密にされ王族のレオ様の命令に逆らったという不敬罪で裁かれました。部屋の破壊も神官様達の所為にされています。貴族が得意の罪の押し付けはよくあることです。

ビアード公爵家が罪に問われず、王族の御身に危険がないならこの件はもう終わりです。王宮では自由な魔法使用と帯剣、護衛騎士の付添いを許してもらえる令嬢は初めてでしょう。王宮では醜い争いは表面的には禁止されています。ですから貴族は見えない所で落とし合いに夢中になります。人生何がおこるかわからないので魔法の使用許可のお礼を伝えるとクロード殿下に呆れた視線を向けられました。そんなクロード殿下の表情さえも嬉しく感じてしまい、一緒にお茶をするのが楽しくなりました。他愛もない公務のお話ですが殿下の専属侍従の絶品のお茶を味わい共に過ごす時間に笑みがこぼれてしまいます。クロード殿下の機嫌が悪くても笑顔で休憩を勧められるようになり、ブリザードも冷たい視線も怖くありませんわ。むしろ感情豊かで微笑ましいとさえ思えますわ。

「美味しいですわ。さすが殿下の侍従。ありがとうございます。この件は終わりですね。魔法の使用許可が出るなんてありがたいですわ」
「レティシア、お茶を楽しむ前に」
「かしこまりました。もちろんお付き合いしますよ。色は合わせますか?」
「ドレスの素材にだけ気をつければいい」
「来賓される皆様の文化を確認しておきます。美味しい」
「そろそろ会議か」
「たまにはお茶を飲みながら楽しむのもいいですわね」

いつの間にか人払いが解除されました。大事なお話はしばらく前に終わっています。エイベルの視線を感じて、カップのお茶を飲み干しました。クロード殿下が不敬を問わないとおっしゃるので平気ですよ。役員も集まり始めたのでお茶の時間はそろそろ終わりですかね。今回の資料の用意は私の担当だったので、エイベルの不敬を咎める視線は気付かないフリをして立ち上がり資料の配布を始めました。
最近は学園が落ち着いていてありがたいですわ。殿下にお茶のお菓子をリクエストできる日がくるなんて人生何があるかわかりませんわね。今度は蜂蜜たっぷりのクッキーを用意してくださるそうです。楽しみですわ。





***

最近リアナは薬学教授と仲が良いと聞きました。
そういえば最初の人生では薬学教授もリアナにイチコロされてました。

「リアナ、先生をイチコロしてませんか?」

ニコっと笑ったリアナを見て尋問することにしました。

「リアナ、正直に言いなさい。課題を教えませんよ。魔石の魔法も」
「薬学難しくて・・・。成績が」
「試験で不正は許しません。薬学は教えてあげるので恋人候補以外はイチコロ禁止ですわ」
「有効活用」
「ベリーにお願いしますわ」
「ベリーも先生に懐いてるよ。怪しい実験をしてるよ。私はよくわからないけど」

ベリーならしっかりしているので大丈夫でしょう。怪しい実験をするような思考の持ち主ではありません。
リアナの課題を教えることにしました。入学試験の勉強をしてるロキも手を止めて聞いています。最近はロキとリアナは喧嘩をやめました。三人でお勉強することができるなんて人生何があるかわかりません。

「レティシア、仕事があれば手伝うよ」

リオは頻繁に部屋に訪ねてきます。ノックをせずに扉を開けるのに驚きますが平等の学園なので気にしません。リアナもノックの習慣はありませんし、フィルも勝手に入りくつろいでいます。人を近づけたくない時はマナを待機させて結界で覆うので問題はありません。各々が好きな物を置いていくので共有部屋になっていますが気にしません。
家格の高いリオを追い出すのは不敬にあたるのでお茶を用意するだけであとは放置しています。いつもなら放置ですが今日は丁度いいかもしれません。

「リオ様、仕事は自分でしますのでリアナに薬学を教えてあげてください。私よりもリオ様のほうが教えるのが上手いですわ」

リアナとリオが嫌そうな顔をしました。リオはもしかして薬学が苦手なんでしょうか?でも下級生のお勉強なら教えられますよね。
私はリオにリアナの向かいの席を譲るために立ち上がると腕を掴まれ強く引っ張られました。傾く体は腰を抱かれ、座ったリオの膝の上に抱き上げられました。このリオは抱き上げ癖もあるんですよね。すぐに膝の上に乗せられます。

「リオ様、降ろしてください」
「大丈夫だよ。ここは私的な空間だろう?手伝うよ」
「リアナに薬学を教えてあげてください」
「薬学は記憶するだけだろう?教えようがない」
「レティシア、迷惑って言えばいいのに」
「リアナ、身分を思い出してください。リオ様への無礼は許されませんよ」

最近はリオがずっと傍にいます。王宮で襲われてからやけにしつこく、訓練まで付いてきます。降ろしてもらえないので諦めてリアナとリオの賑やかな話し合いは気にせず、ビアード領から送られてきた書類に目を通します。ビアードのポンコツの治癒魔導士の報告書にため息を飲み込みながら修正を始めます。
そっとロキがお茶を置いてくれたので休憩に変更です。
美味しいお茶を飲みながらぐんぐん身長が伸び、頼もしく成長しているロキの頭を撫でます。
監禁も回避し、ロキ達も保護しました。あとは両殿下さえ狂わず、エイベルに勝利すれば私の目標は達成でしょうか?令嬢に嫌われないのは諦めましたわ。善人でなく特別な才能のない私には無理ですわ。どんなに頑張ってもできないこともありますから。時に諦めも肝心ですわ。


暗くなるのでそろそろ帰ろうとするとリオに手を握られました。
送らなくてもいいと言っても折れてくださらないので好きにしていただいています。

「レティシア、忘れるのが怖いなら俺が覚えてるよ」
「リオ様?」

突然かけられた言葉に首を傾げます。

「話せば楽になることもあるだろう?君にとっての大事な思い出を」

尋問ですか?私は尋問されるようなことはしていませんよ。もしかしてリオの頭がまたおかしくなったんでしょうか?

「楽?リオ様、体調が優れませんか?」
「俺はレティシアを幸せにしたい。本当の君に会いたい。俺は頼りないけど、君さえ傍にいてくれるならどんなことも受け止めるよ」

足を止めたリオに真剣な瞳で見つめられ、繋いでる手を両手で包まれました。

「君がまがいものでも、俺にとってのレティシアは君だけだ。もしも耐えられないなら連れ出すよ。レティシアが願うなら、なんでも叶えてあげるよ」

思い当たることがありました。
倒れた私を見つけたのはレオ様とリオでした。
魔法陣を壊した後の記憶がありません。
お礼に訪問したマール公爵邸でマール公爵夫人からリオが私を心配してずっと付き添っていてくれたとも聞きました。
優しい人。幸せになってほしい。覚えのある感覚に委ねてしまっていいのか迷います。でも怖い。それでもまっすぐに向けられる気持ちに胸が温かくなります。

「リオ様、ありがとうございます。私は貴方の幸せを願っていますわ」
「え?」
「送っていただきありがとうございます。失礼します」

リオの顔が真っ赤になり額に手を当てても熱はないです。
握られている左手に優しく口づけを落とされ、優しく笑う顔に胸がさらに温かくなりました。額に口づけを落とされ、「良い夢を。また」と耳元で囁いて帰っていきました。
胸の鼓動が速いのは気の所為です。
リオに感じたものと同じもの?ありえませんわ。
とりあえず、部屋に帰ってディーネを抱きしめよう。動揺している時はこれが、動揺なんてしてませんわ。
明日は早めに朝食をおえて、エイベルに手合わせをしてもらいましょう。そうですよ。
こういう時は体を動かすのが一番ですわ。
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