追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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ビアード公爵令嬢の婚約者4

卒業してからはビアード公爵邸で暮らしている。
引っ越した俺へのレティシアからの贈り物を見て、俺の魔法がどれだけ劣っているか現実を知った。
箱の中には俺の魔石とは比べものにならないほど輝かしい水の魔石、しかも治癒魔法、解毒魔法、洗浄魔法、浄化魔法が付与されている。
ビアード公爵邸の医務室に置いていない最高級の回復薬に万能薬に聖水。俺の体質に合わせて調合したので俺以外には使わないでほしいと言われたもの。そして何かあればすぐに伝令を飛ばしてほしいと言い学園に行った。
レティシアは嫌がるけど秘密にして叔父上に頼んで毒耐性をつけるための手配をお願いした。ビアードで受けてレティシアの耳に入れば嫌がり怒るのが目に見えている。俺への贈り物は立場の悪さを心配して用意したものだろう。
ビアード公爵家に許されても俺は自分の迂闊さゆえに武門貴族の支持を失った。
レティシアとの未来のために信頼を回復すべく動いている。
マールでは早起きなんてしなかったが俺の朝は早い。夜明けに起きて着替えて支度を整える。俺の部屋に置いてあるのはシオン嬢が作った魔導鏡。対になる合わせ鏡と映像つきで通信ができる。学園の防御魔法に阻まれないように作成と使用には大量の魔力が必要だが俺は魔力の量が多いから毎日使っても問題ない。鏡が光ると制服姿のレティシアが映る。レティシアの貴重な魔力を使わないように通信に使うための魔石を渡してある。
レティシアに毎日顔が見たいと頼むと朝ならと了承をもらった。約束の時間より早いが気まぐれのレティシアが夜明けに映ることに気づいてからは夜明け前に起きて近くで仕事をして待つことにしている。早寝早起きがビアードでの俺の習慣。今日は運がいい日だ。


「おはようございます。今日は早いんですね。変わりありませんか?」
「おはよう。偶然な。ビアードは大丈夫だよ。入団試験の準備も問題ない」
「お父様の御眼鏡に適う方がいるといいですわね。エイベルを帰宅させますか?」
「いらないからシアが帰って顔見せて」
「夕方には帰りますわ。昼間はクロード様のお手伝いがありますので。これを教えてくださいませ」

レティシアに見せられた問題に解説すると解けたのかニコっ愛らしく笑う。最終学年の勉強をしている理由はわからないが俺がいなければエドワードが教えたんだろうな。楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。

「ありがとうございます。そろそろ行かないといけませんわ。行ってきます」
「気をつけて。男からの手紙は俺が」

レティシアの笑顔を見て一日が始まるのは幸せだ。通信が終わると朝の訓練に向かう。

「おはようございます。今日も早いですね」
「まだまだ弱いから。一戦頼むよ」

朝食の前にビアードの騎士と訓練をする。レティシアの卒業までにはビアード公爵に勝ちたい。ビアードにも楽に勝てるようになりたい。俺の婚姻には二人への勝利が条件だから。シスコンの俺の邪魔ばかりする義兄に婚姻の同意をもらうには勝利が必要だ。言葉ではなく力で語る。ビアードの精神に乗っ取りレティシアとの婚姻を認めさせる予定である。
一戦して汗を流して着替えて朝食の席につく。
ビアード公爵は留守が多いためビアード公爵夫人と二人の朝食が一番多い。次に多いのは賓客のロダが混ざること。

「おはようございます。体調はいかがですか?」
「変わりないわ。レティから?」
「はい。いつもビアード公爵夫人の体調を聞かれます。緊急で呼び出せばすぐに駆けつけると伝えてほしいと」
「優しい子ね。社交はレティがこなすと張り切ってくれるから暇で仕方ないわ。リオも優秀で助かるわ」
「まだまだです。ご指導お願いします」

ビアード公爵夫人には学園でのレティシアの様子を話し、夫人好みの恋の話題にも付き合いながら食事の時間は過ぎていく。
ビアード公爵夫人は母上と違い単純なので機嫌をとる方法を習得した。ビアード公爵家で教わる仕事もほぼ及第点。まだ重要な案件は任せてもらえないが、どの仕事もマール公爵領と比べると単純で楽だった。
空いた時間はビアード領民の教育等やることはたくさんあるので暇ではない。それでもレティシアと過ごす時間を作る努力は怠らない。

ビアード領の任されている仕事を片付け、そろそろ帰ってくるレティシアを訓練しながら待つ。レティシアの帰宅はわかりやすい。ビアード兄妹が帰宅すると騒がしくなるから。

「お嬢様、おかえりなさいませ」
「ただいま帰りました。近衛騎士試験はビアードが首位でした。ビアード公爵令嬢として誇りに思います。心ばかりのおもてなしを食堂に用意しました。今日は体を休めてくださいませ」
「ありがとうございます。次もお嬢様に勝利を捧げます」
「期待してます。新たな騎士見習いを迎えますのでそちらも」
「はい。ビアードに恥じない騎士に育てあげます」

騎士達に笑顔で言葉を掛けながら歩くレティシアに近づく。
近衛騎士団にはビアード家門の騎士が多い。
近衛騎士は定期的に実力試験をする。結果は公表され上位成績者を持つ家門は名誉なこと。
近衛騎士団に配属されても月に二度家門での訓練日がある。訓練日はビアード騎士団の精鋭が近衛騎士入団者を鍛えあげる日。今日も前ビアード公爵の指揮のもといつもより厳しい訓練が行われたがいつもレティシアが騎士達のために酒や料理を振る舞う手配をするので騎士達の顔は明るい。お嬢様に会えなくても、もてなし受けたさに嬉々として帰ってくるものばかり。

「シア、おかえり」
「ただいま帰りました。お爺様とお母様にご挨拶をしてきます」
「俺も行くよ」

手を差し出すと重ねる手がたまらない。二人っきりなら抱きしめるがここでは我慢。手を出すのはビアード公爵に禁じられているから。

「ルーン公爵に渡してください」
「わかったよ」

レティシアはビアード公爵夫人とルーン公爵夫人の妊娠がわかってから社交に力を入れている。ビアード公爵夫妻はルーン公爵家の社交は必要ないと言ったがレティシアが大事な弟分のエドワードのためと今までの多大な恩を返したいと笑顔で説得すると折れた。
ビアード公爵夫妻はレティシアの笑顔に弱い。そしてあまりお願いをしないレティシアの願いは全て叶えるんじゃないかと思っている。なんで許した!?と突っ込みをいれたいことだらけである。未成年のルメラを侍女として預かった過去だけでも受け入れがたい現実である

****

レティシアはルーン公爵家に馴染んでいる。放課後に週に2回ルーン公爵家に通って叔母上に魔力を送り食べやすいものを差し入れしているらしい。学園に会いに行って知った事実に驚いた。ルーン公爵邸を訪問すると厨房に案内された。

「ケイト、このあとは?」 
「薬草を刻んでください。荒い、まぁいいか」

叔母上のための栄養満点疲労回復メニューの開発に夢中らしい。エドワードが許しているのでレティシアかルーンの厨房で料理をしても誰も文句を言わない。

「奥様がお嬢様のお食事なら召し上がるんです。旦那様も感謝してます。本当にビアード公爵夫妻の御子でしょうか」

叔父上達はレティシアの手伝いたいと言う申し出に困惑していたが誰にでも優しくエドワードに懐かれる彼女の好意に甘えることにしたらしい。レティシアとエドワードは晩餐を共にした後に学園に戻るのが日課らしい。

「治癒魔法を見ようか?」
「本当ですか!?あのルーン公爵に!?私、ずっとお願いしたかったのですが、無理だと諦めてましたわ。本当に見ていただけますか!?」
「ああ。お礼だ。今まで誰に師事を?」
「魔導書です。もちろん人に使う前に魚や魔物で練習しました。治癒魔法で人を傷つけたことはありません」

晩餐の席での叔父上の申し出にレティシアが目を輝かせて興奮している。淑女の笑みではなく子供のようにニコニコと喜んでいるレティシアは物凄く可愛い。

「リオ、どうしましょう。夢でしょうか。夢でも構いませんわ。おとう、ルーン公爵に教えていただけるなんて、何に感謝すればいいか」
「エドワードと一緒に見よう。部屋も用意するからいつでも泊まりなさい。先触れもいらないから好きに」
「ありがとうございます。エディ、お父様との大事な時間にお邪魔しても」
「歓迎するよ。レティシアの魔法は勉強になるから」
「エディ、いい子に育って、姉様はもう」
「レティシア、落ち着いて。嬉しいのはわかったから」

興奮して先程から叔父上達をお父様と呼びかけているレティシアの肩に手を置く。レティシアは首を傾げて何度か瞬きをした。深呼吸して興奮を収めることに成功しいつもの上品な笑みを浮かべた。
レティシアは叔父上に魔法を見てもらうためにルーン公爵邸に頻繁に通いはじめた。治癒魔道士として一流の叔父上の指導を受けられることに感動し、指導の後に俺の前で興奮して子供のように喜ぶ姿を見かけた叔父上と叔母上がレティシアに落ちた。社交の時とは正反対で物凄く可愛いから仕方ないよな。
叔父上がレティシアとエドワードに魔法を教えている時はロキは叔母上に師事しているから俺も混ざっている。ビアードの訓練は邪魔させてもらった。
叔父上は誰にも師事せず水魔法や治癒魔法を使いこなすレティシアを水の女神の愛し子かもしれないと驚きながら呟いていた。水魔法は一番繊細な魔法で魔力量よりもセンスが大事らしい。叔母上は水属性なら魔法を使うのを諦めたから風属性で良かったと3人を見ながら呟いた。細かいことが苦手な叔母上は繊細という言葉が最も似合わないから否定せずに静かに頷いた。
俺達の訓練は叔母上の魔法攻撃を避けるだけ。レティシアは止めるけど叔母上に適度な運動が必要と言われ、弱々しい笑みを浮かべて頷いた。レティシアのおかげで体調が改善した叔母上が楽しそうに俺達に魔法で攻撃を仕掛ける。気絶してもレティシアが治癒魔法をかけて起きるまで待っていてくれる。

「来週学園に行くんだけど」
「生徒会がないので空けておきます。お母様をお願いします。リオがビアードにいるので安心です」

レティシアからの触れるだけの口づけに顔が赤くなる。ノックの音に晩餐に呼ばれた。顔の赤みを必死に抑えてレティシアの手を握って部屋を出る。来週を楽しみに頑張るか。ビアード公爵を倒して早く一緒になりたい。
学園での手伝いを終え部屋に会いにいくとロキとエドワードの入学祝いが行われていた。二人になれなくても楽しそうに笑っているからいいか。レティシアが叔父上達をお父様、お母様とうっかり呼びそうだから適当に話しておくか。エドワードは姉様と呼ぶレティシアを不審に思わず受け入れている。
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