追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第百三十三話 懐かしい光景

本格的な良縁探しの時期は近づいてきました。エイベルの初恋作戦は失敗が続いています。

「エイベル、これにお返事をお願いします。手紙は自分で渡してください。気に入った方がいれば教えてください」
「は?」

嫌そうな顔のエイベルに笑みを浮かべて部屋を出ました。エイベルに届いた恋文に当たり障りのないお返事は考えましたのでここからは自分で頑張ってください。
失敗してもビアード公爵夫人の命令なので諦めるわけにはいきません。追いかけ回されれば助けてあげますよ。
私も時々声を掛けられますがいつも通りお断りしています。婚約者がいても本当に婚姻するかはわかりません。さらなる利益があるなら婚約解消も時々ありますので。
秘密の恋人に誘われましたが丁重にお断りして立ち去ると私は閃きました。
クロード様は怪しい魔導書集めが趣味です。
図書室に怪しい本の部屋があると伝えると口角を上げて探しに行きました。

「ここにぶつかったら小さな部屋に繋がっていたんですが」

無表情でクロード様が本棚を調べると突然姿が消えました。

「ディーネ、クロード様の護衛を。中に入る方法は」

ディーネが教えてくれたところにを叩くと体が吸い込まれて小さい部屋に入れました。中ではクロード様が興味深そうに眺めています。勝手に読んでいますが王国のものは王族のものですし大丈夫ですわね。もう突っ込んだりしませんよ。

「悪魔に精霊に変わったものが溢れているな。これは」
「怪しいものには触らないでください」

夢中で読み耽るクロード様にはきっと聴こえてません。仕方がないので満足するまで待ちましょう。クロード様は3冊ほど本を持ち部屋を後にしました。
そして時々怪しい部屋に籠ることが増えました。一人で考え事をするのに丁度良いと笑うお顔を見て諫める気はおきず、ディーネにクロード様の護衛を頼みました。隠し部屋は過去に王族が使っていた研究部屋らしく王家の魔法についての貴重な資料もあるそうです。私のクロード様は時を戻す魔法を使いましたが今のクロード様は過去よりも未来を見ています。きちんと前を向いて過ごすお姿に笑みがこぼれます。

****



「私は聖女です。貴方を助けるために来ました」

目の前にいる愛らしいお顔の少女の言葉に首を傾げます。

「新しい遊びでしょうか?」
「貴方の穢れた心を浄化します」

見覚えのない生徒です。全ての生徒を覚えているわけではありません。大体理解が出来ないことに関わっている人物にため息をこぼします。

「セリア、出てきてください。今度は何をしたんですか!?」

声を掛けても出てきません。もう観察を終えて帰ったんでしょうか。少女の肩に手を置いて治癒魔法をかけますが体に異常はありません。

「穢れた心を浄化します」

話の通じない方には慣れています。そして対処方法も知っています。

「お気持ちだけいただきますわ。失礼しますわ」

礼をして立ち去りました。価値観はそれぞれです。関わってはいけませんわ。後日聖女になりたいと願い穢れた心を浄化したいと語る女生徒にエドワードが神殿を紹介しました。聖女になるには厳しい修行がいるそうです。学園では叶わない夢を叶えるための方法を提示してあげる優しさは流石ですわ。私は迷わずに回避を選んでしまいましたわ。さすが慈愛に満ちたルーン一族です。小説に憧れて聖女を目指した生徒を正しく導くなんて私には思いつきませんでした。エドワードに感心している場合ではありませんでした。


「クロード様、出てきてください。会議ですよ。魔導書は生徒会室で読んでください」

図書室の隠れ部屋に行くのも慣れました。椅子に座って腕を枕に眠っているクロード様を見て笑みがこぼれました。お疲れなら仕方がありませんわ。ディーネにエイベルにクロード様は体調不良で会議は欠席と伝言を頼みました。居眠りするクロード様を見る日がくるとは思いませんでしたわ。
クロード様が起きるまではぼんやりしながら待ちましょう。本棚に並んでいる怪しい本には手を出すつもりはありませんわ。ぼんやりと時を過ごすのも贅沢なことです。二人で会議をサボったとしれば怒るでしょうか。床に落ちている見覚えのある本を手に取ります。建国神話なら読んでも大丈夫でしょう。幼い頃に王宮で並んでこの本を眺め、クロード様の目指す国について耳を傾けたのが懐かしいですわ。

「レティ、会いに来てくれたのか」

本から顔を上げるとぼんやりしたお顔のクロード様に見つめられていました。

「いつでもお呼びいただければ伺いますよ」

嬉しそうに笑う顔に息を飲みました。クロード様の屈託なく嬉しそうに笑う顔は初めて見ました。二度目の人生で見たクロード様の笑みに似ています。また目を閉じたクロード様に笑みがこぼれます。眠っているなら少しだけ思い出に浸りましょう。

「クロード様、私もリオもお傍にいますわ。だからどうか望むままに歩んでください。今度こそお一人にさせませんわ」

二度目の人生の時にクロード様は最期の旅路は一人を選びました。
次代に引き継いだのは知ってましたが一人で旅に出て眠るように亡くなることを選ぶなんて知りませんでした。渡された転移陣に隠れ家の地図の意味を聞かなかったことを後悔しました。クロード様の考えはわかりません。最期まで民のために一心に歩んだお姿。
クロード様が即位される前に罪について話されました。
そして学生時代の時を戻した王子様が主人公の怖いおとぎ話も私達のことだと気付きました。
今ならクロード様が犯した罪もよくわかります。
クロード様の罪は私のためのものでした。
時を戻したクロード様も私もすれ違ってしまいました。出会ってから数年続いていた、しつこいお茶の誘いを断らなければ何か変わったのでしょうか。嫌がらせかと思っていましたが多忙なクロード様は嫌がらせするほど暇ではありませんわ。それにクロード様が腹黒になるのは私以外の相手にばかりでした。私の前のクロード様は誠実な方でした。あの時は拗ねていたのでまともに思考することができませんでしたわ。今世こそはきちんと幸せになってくださいませ。クロード様からいただいた人生も多大な恩も返せる気がしません。自分の幸せを願えない王族であるクロード様の幸せは私が祈ります。

「もしも罪の意識を持つならどうか私にくださいませ。クロード様に罪はありません。私はクロード様に救われましたわ。私に幸せを気付かせてくれたのはクロード様です」

二度目の人生はリオしか見えていませんでした。
リオさえいればいいと思っていた時期もありましたのよ。恋に狂った若気の至りですわ。もしもあの制御できない感情をクロード様も抱えてたら苦しかったでしょう。私は私の安全のためとはいえリオがルメラ様を大事にしている姿に胸が痛くてたまりませんでした。

「レティシア?」

ぼんやりと顔をあげたクロード様の声に思考をやめて笑みを浮かべて立ち上がります。

「おはようございます。会議はサボってしまいました。お疲れでしたので体調不良と伝えてあります。内緒ですわ。それとも反省文を書きますか?」
「いらない」
「かしこまりました。そろそろ出ましょう。少し外の空気を吸いましょう」

頷くクロード様と一緒に部屋を出ると外は真っ暗でした。美しい星空の下をクロード様と一緒に歩き寮まで送ってもらい懐かしい記憶に笑みがこぼれました。
クロード様が幸せになれますように。どんなお願いも叶えてくれると言っていた私のクロード様への言葉を口にします。

「お願いを叶えてくださいませ。幸せになりましょう。今度は私ががんばりますのでお付き合いくださいませ。意地悪しないでくださいませ」

穏やかに笑うクロード様のお顔が脳裏に浮かびました。
前の人生の後悔は今世に生かしますわ。今はこぼしたものを拾ってくれる頼りになるリオ兄様は存在しないので自分の手で掴み取るしかありません。今度は私のリオのように私がクロード様の落とした物を拾って手の上に置きたいと言ったら笑ってくれますわね。リオ兄様の大事なクロード様のことは私に任せてください。クロード様を幸せにするための作戦を考えましょう。
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