毒を流す花

るの

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毒を流す花

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海を見下ろす崖の上に咲く一輪の花。五年に一度、毒を流すその花は、白く細い花弁を風になびかせて、苦しみから解放される人々を見守っていた。

自ら選んだことなのに、何故か彼らは苦し気で泣いていた。怖いと言って泣き崩れる人もいれば、見守る花に話しかける人もいた。

花は彼らに言葉を返すことができない。なぜならただの花だから。
しかし花は彼らのことを愛していた。花は弱い者が好きだった。

人々はその花に指を添える。大概の人は柔らかく優しい香りのするそれに口元を緩めた。
だが五年に一度だけ、花は人を傷つける。
透明の毒の雫は人の皮膚を溶かした。
人々は絶叫して花を踏みつぶす。
しかし花は枯れることができなかった。何年も、何十年も、崖の上で花を咲かせ続けている。

何度踏みつぶされても、花は人のことが好きだった。
恐れるものを傷つけることは、弱さの証だったから。

ある日、少女がたった一人でその崖を訪れた。
そこら中に転がっている脱ぎ捨てられた靴を蹴りながら、崖の縁へ近づいていく。
彼女は崖から海を見下ろした。恐怖は感じていないようだった。

少女は一輪の花に気付いた。
毒を流している花は、私に触れてはいけないよ、と伝えたかった。しかし伝えられなかった。なぜならそれはただの花だから。
少女は花に指を添えた。指が爛れたが、花を踏みつぶしたりしなかった。隣に腰かけて、幼い滑舌で支離滅裂な言葉を話していた。

少女は花を手折り、家へ持ち帰った。
花瓶にそれを挿して、丁寧に世話をした。

人の弱さを糧に生きていた花は、長年愛情だけを注がれたために枯れた。
長年花を育ててきた女性は、枯れた花をドライフラワーにした。
見事なドライフラワーとなったその花を、女性は握りつぶしてぐちゃぐちゃにした。
そしてそれを踏みつぶし、カスとなったそれを燃やす。

意味はなかった。
ただ美しいと思い持ち帰り、枯れたのでドライフラワーにして、どうでもよくなったので踏みつぶした。
それだけだった。

花にとってもそれでよかった。
人間らしい振る舞いは、弱さの証だったから。
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