上 下
1 / 1

【モブor俺攻】実験的小説【嫁受】

しおりを挟む
 ……軽くノックをして豪奢なつくりの扉を開くと、これまた立派な黒檀の机が目に飛び込んでくる。
 そして、その執務卓では、この部屋に圧倒されないだけの気品と美貌とを備えた主が、彼の決済を待つ書類を広げて内容を吟味していた。

 ふいに静かに紙をめくる指の動きが止まり、己の前に立つ人の気配につと、その視線が上がる。
 そしてほどなく、唯でさえ白い面はいよいよ色を無くして、切れ長の目は碧い瞳が零れんばかりに見開かれた。

「……っ」

 ばさり、と書類が卓上に散乱する。そこに身を預けている人物の体重の移動によって、小さく椅子の軋む音がした。
 辛うじて腰を浮かせるのは耐えているようだが、卓上で握り締められた拳は、よく見ると小刻みに震えている。

 ──怯えているのだ。この自分に。あの勇将と知られる人物が。

 たとえ声に出さずとも、その表情から彼が言いたい事はだいたい察しがついた──何故、──どうして、おそらくそんなありふれた疑問符が、意味もなく凄まじい速さで優秀な頭脳の中をめぐっているに違いない。
 思っていたより、随分可愛い反応をしてくれる。
 心の中に密やかな愉悦をおぼえながら、薄い笑みを浮かべたまま言ってやった。

 ──今日から私は貴方の副官なのです。ご挨拶と報告に参るのは当然でしょう?

「う、嘘だっ!」

 ──嘘ではありません。正式に辞令が下っています。他の幕僚方からもこれから貴方の片腕としてよく励むようお声をかけて頂きましたよ。まだ目を通して頂いていないのですか?

「そんな……」

 慌てて手元の端末から情報を読み出す。
 彼の儚い望みが維持された時間──確認に要した手間はほんの僅かだった。そして違わない事実に、今度こそ打ちひしがれた様子で視線を卓上へと落とした。

「………………」

 無言を保ったまま身動ぎもしない相手の前に立つと、そっと手を差し出す。

──改めましてどうぞよろしく。閣下。

「よくも……」

 激発を押し殺した声が、引き結ばれた唇から漏れた。

「よくも私の前に顔を出せたものだな……!」

 ぱんっ!と乾いた破裂音が部屋の中に響き、差し出された手はすげなく振り払われた。
 とはいえ、想定の範囲内の行動であるから、特に驚きも無い。

 ──軍では上からの命令は絶対です。その事については閣下もよくご存知かと思いますが。

「……ふん、その神経の太さだけは褒めてやる。まったく大したものだ」

 美貌が毒を含んだ冷たい笑みを浮かべる。だが、今更そんなもので萎縮するような自分でもない。それが彼の精一杯の虚勢だというのが透けて見えれば尚の事だ。

 ──閣下こそ。昨晩はあんなに激しくしていらっしゃったのに、まともに執務をこなしておられるとは……正直驚きました。お若くして将官になられたのは、伊達ではなかったのですね。育ちが良くいらっしゃるので、誤解しておりましたよ。

「────!」

 変化は見事としか言いようが無かった。己の痴態を思い出したのか、蒼褪めた美貌が耳元まで朱に染まる。

 ──ああ、ご心配なく。あれは初めてにしては少しやり過ぎました。これからはちゃんと加減させて頂きますので。閣下はわが軍の至宝です。要事の際に足腰が立たなくなってしまったら、士気に関わりますからね。

「ふっ……ふざけるなっ!」

 ──別にふざけてはおりませんよ。だから……今日はちゃんと手順を踏んで抱いて差し上げましょう。

「な……」

 相手が二の句を継ぐ間も無く背後へ回ると、そのまま書類の散乱する卓上へと引き倒した。
 衝撃で磁器のカップが転がり、毛足の長い絨毯の上に落下する。飲みかけの中身が零れ落ち、染みが広がった。

「……っ……貴様ッ……こんな事をしてただで済むと……」

 ろくに抵抗も出来ないまま押さえ込まれ、腕を縛り上げられながら、決まりきった憎まれ口を叩く相手に、こちらもお決まりの言葉で答えてやる。

 ──もちろん思っておりません。だからこそ保険をかけさせて頂いているのです。貴方ほどの相手に手を出すのに、私が何も考えずに行動すると本気でお考えですか?
 そしてそれを考えたからこそ、貴方は私に対して処断を加えないまま、何らかの形で私が取引の為に再び接触してくるのを待ってたのでは?

「………………」

 ──おや?図星ですか。分かりやすい方ですね。

 すると往生際の悪い知性の閃きを宿した碧い瞳が、睨みつけてきた。

「貴様の目的は……なんだ……っ」

 ──目的もなにも……私の望みはただ一つ。貴方自身ですよ、閣下。

 返答は実に明晰で簡潔なものだったので、頭の切れる彼は返って思考に混乱をきたしたようだった。

「馬鹿な……っ……はなせっ……やめろ……!」

 やはり本調子ではないのだろう。窮する状況をなんとか打開しようと必死であるが、自分から見ればあまりに動きが覚束な過ぎる。

 むしろそんなに必死になれば必死になるほど、貴方は追い込まれていると言うのに。
 さながらその姿は、蜘蛛の巣に囚われた可憐で無力な蝶だ。
 そうこうしている間にも、きっちりと着込まれていた仕立ての良い軍服は肌蹴て乱れ、人工灯が照らす中、重ねられた布の下、隠されていた全てが露わになっていく。

 ──この後に及んで抵抗するなんて見苦しい真似はおやめになりませんか?貴方は人が良過ぎるのですよ。らしくもなく賢しい事をしようとなさるから……こうして漬け込まれる。
 この機会に学んだらいかがでしょう。もちろん授業料はきっちり払って頂きますけどね。

 ゆっくりと、無防備に曝された柔肌に指を這わせる。
 びくり、と音が聞こえたのを錯覚するぐらい、大きな反応が返ってきた。

「……っ、あっ……」

 知らぬ間に自分の唇から漏れ出た、鼻にかかるような湿り気を帯びた声に、紅を刷いた頬がますます色味を増す。

 おざなりな抵抗のせいで、かえってより深く罠に絡め捕られる結果になった姫君の弱い部分は、昨晩のうちに調べつくしていたから、一度触れてしまえば、その身を篭絡させるのは実に簡単な事だった。

 ──相変わらずいい反応ですね。男にこういう事をされるの、好きなんですか?

「そ、そんなわけあるはずな……いっ!」

 薄いシャツ越しに胸の突起を抓ってやると、面白いほど語尾が跳ね、背筋に電流でも走ったかのように、長身を震わせた。

 ──本当にそうかなぁ?昨晩も初めてにしては、随分と感度が良いように思いましたけれど……

 そのまま布地の上からくるくると優しく指の腹で撫でていると、そこは刺激を強請るようにツンと勃ちあがり、固くしこりながら、持ち主の羞恥と快感を煽り始めた。

「んっ……っく……ぅ」

 喉を震わせ息を詰めて、己の中を伝播してゆく愉悦の波に翻弄されながら、なんとか際どいところで留まっている憐れな様は、見る者に耐え難いまでの甘美な感情を齎す。
 潤んだ瞳で見つめられれば、その気もないのに、おかしな行動に自分を駆り立てる連中も出てくる事だろう。自覚がない分、罪作りなものだ。

「……こ……こんな事を、して……一体何が楽しいんだ……」

 しかし熱を帯びた吐息をつきながらやっとの思いで紡ぐ言葉が、未だにそんな内容なのが、どうにも色気の無い話だが。
 まあ、今後少しずつ教えてやれば良いだろう。
 むしろこの堅い理性の壁で守られた矜持がどんな風に崩れていくか、楽しみというものである。

 ──それはもう……楽しいですよ?

 ではまずは軽く、今の自分の立場というものを理解してもらう事にしようか。

「やっ……!」

 緩慢に与えれ続けた刺激で、原初から刻み込まれた欲望を膨れ上がらせていた箇所を撫で上げてやると、あられもない濡れた声が飛び出した。
 もはや後戻り出来ないところまで高められた熱は、本人の意思とは裏腹に、すっかりそこをみっともない状態に変えてしまっている。
 無理矢理ここから自分を追い出したところで、その後自分で何とか処理しなければ、とても人前に出られるものではない。

 ──貴方はご自覚がないのかもしれませんが、閣下は出自の貴賎を問わず将兵の間では大層人気があるのです。
 直接貴方に触れたのは私が初めてかもしれませんが、想像の中でならば、今までも貴方は何千何万という者達に、繰り返し犯され続けている事でしょうよ。
 ──そう──こうしている今もきっと──ね。

「……そ……んな妄言……」

 耳元でそっと囁いてやると、唇をわななかせ、あまりの言い様に力無く頭をめぐらす。
 確かに多少誇張は入っているかもしれないが……満更嘘でもあるまい。知らぬは本人ばかり、というやつだろう。
 自分は心が広いから、他の連中が頭の中で彼をどうこうしようと、一向に構わない。この手の中に、本当の彼がずっといてくれさえすれば。

 そして、それはきっと、じきに叶う。

 ほら、もう一押し。

 ──貴方も存外、そういう風に扱われるのを望んでいたんじゃないですか?
 だってほら、これほど惨めで酷い仕打ちを受けているはずなのに、貴方のここは、こんなに悦んでいますよ?

 胸の突起への愛撫は続けながら、そのままにしていれば、いずれ制服を汚してしまうであろう怒張したものを外気のもとへ晒してやる。
 女が見たらうっとりしそうな形と質量を誇るそれが、男に嬲られて卑しい蜜を垂れ流し、ただ隠しきれない欲情を示すものとして扱われている様は、なんとも哀れを誘い、そそる光景だ。
 既に抵抗する気力は失せたのか、恥部をされるがままにしているというのに、持ち主の唇からはむしろ安堵したかのような熱い吐息が漏れただけだった。

「ああ……」

 緩急をつけながら扱いてやると、押し殺した苦鳴──否、喜悦の歌が鼻腔から抜けていく。
 最も敏感な部分を弄ばれ、隠しようのない艶めいた表情が、既に決壊寸前だった理性の堤防を越えて、ちらちらと見え隠れし始める。

 もう、あと少し。

 とろ火でじわじわと炙るように加えられていく行為に、心は望まずとも、彼の全身は悦びに打ち震え、海綿に水がしみこんでいく様を思わせる勢いで、刺激を貪り始めた。
 こうしている間にも、自分の手の動きにあわせて、小さく下肢が揺らめいてる。

 ──例えばそう……昨晩貴方の身に起こった一部始終が記録されていたとして、それを私がばら撒いたら、彼等は一体どんな反応を示すでしょうね?
 天恵に感謝してくれるでしょうか。それとも想像の世界を超えて貴方を手に入れた不埒者に嫉妬するでしょうか。
 ──とりあえず、まずは音声だけ流してみて、様子を見てみましょうか?

「………や………」

 ……この時、完全に自分の優位は決定付けられ──そして永遠に覆らないものになったと言って良いだろう。

「……や……やめてくれ……それだけは……頼む」

 らしからぬ弱々しい懇願を耳にした時、はっきりと自分の口元が満足に歪んだ笑みを刻んだのが分かった。

 ──本当に世間を知らない方ですね。それが人に物を頼む態度ですか。

「ひゃうっ!」

 がたがたと恐怖と悦楽とで震える身体を冷たい瞳で見下ろしながら、淫楽に肥大した胸の突起を捻り潰す。仰け反った白い喉が恥ずかしい奇声を上げる。

 ──おやおや、今ので下の方がまた元気になったみたいですよ?ああ凄い。こんなにビクビクして。嬉しそうに。これは是非皆さんに見てもらわないといけませんよねえ?

 膨れ上がり敏感になった薔薇色の頂きを存分に扱き上げ、それでも無様に痛みを快感として捉えてしまうだらしのない身体へ一言言い放ってやると、続いて何やらか細い声が聞こえてきた。
 まあおよその内容は見当がついたものであるが、それでは意味がないので、はっきりと復唱させる。

「お願いです……やめて……下さい」

 ──ふふ、わかりました。よく言えましたね。素直な事はとても良い事ですよ。ではご褒美を差し上げましょう。

「…………ッ!!!」

 既にしとどに濡れていた前から流れ落ちたもので、女のそれのように蕩け、物欲しげな様子を見せていたそこへ押し入ると、絡みつくような締め付け具合に、目眩がするような快感が背筋を這い上がった。

 組み敷かれた方はと言えば、身体の中心が抉じ開けられる衝撃に、端正な唇が大きく開き、あまりの事にまともに声帯を震わせる事も叶わないのか、まるで陸に打ち上げられた魚のように、苦しげな開閉を繰り返す。
 ただ、それを見せたのはごく僅かな間だけで、内の一点をすりあげた途端、本能に屈服した啼き声が上がり、中にあるもの更に奥へと飲み込もうと、いやらしい動きを見始めた。

「ふああああああっ!」

 ──そんなに欲張って頬張らなくても、ちゃんと良くして差し上げますよ。

 こちらがあえて逆らうように動き始めると、それまでなんとか保っていた理性と緊張の糸が焼き切れてしまったのか、瞳からは涙が溢れ、白い喉は、本来あり得ない高さの悩ましい声を止む事無く室内に響かせ始めた。
 あまつさえ、開いたままの唇の端から唾液が零れ落ち、形のいい顎を伝って、大切な書類まで汚してしまっている。

 ──ふふ、こちらの部屋はそれほど壁が薄いとは思えませんが……万が一誰かが聞き耳を立てていたらどうするんですか?

「あっ……そ、そんな……も…無理っ……んっ!」

 もう愉悦の頂点を追い求める事しか考えられなくなっているのか、いやいやをしながら声を抑えられずにいる彼の唇に、制服のタイを押し込む。
 これで声に関しては少しましになるはずだが、口元を無理矢理塞がれている姿は、ある意味余計に性質が悪く扇情的で、こちらの興奮と嗜虐心を否応無しに誘った。

 ──堪え性のない方だ。綺麗で真面目そうな顔をして、実際の貴方はこんなに──で、──だったのですね。これでは本物の──と言われても仕方がありませんね。

「んんーっ!」

 生まれてこの方知識としてすら齧った事もないであろう辱めの言葉の数々にも、もはや反駁する仕種も見られず。浅ましく腰を振りながら、彼は己が高みに至るその時を待つ。
 これは思っていたよりもずっと楽に開発出来るかもしれない。
 歯ごたえがない……と言ってしまえばそれまでだが、御しやすいのもそれはそれで良いものだ。

 ──ああ……貴方は本当にとても可愛いから……これからたぁくさん、気持ちが良い事を教えてあげますよ……もう私から逃れられないようにね。

 絶頂が近そうなのを見て取って、苦しげに呻き続ける唇から、タイを抜いてやると、大量の唾液が糸を引いた。
 そして──

「ああ……あああああっ!」

 それが答えだったろうか。永遠に引き伸ばされた一瞬の後、高貴なその身は憎らしいはずの男の腕の中で達してしまう。
 突きこまれた勢いだけで白泉を噴き上げた彼のものは、未だ物足りないのか、天を仰いだまま次の刺激を待ち望んでいる。

 ──これはこれは。とんだ淫乱の本性を見せつけてくれましたね。

 部下である男に取り返しがつかないほどの痴態を晒した彼は、正気に戻ったら、今度はどんな顔をするだろう?
 だが、そんな決定的な敗北を嘆く間もなく、今日から彼は、人知れず煌びやかな衣装の下、見えざる部分へ望まぬ所有の証を刻まれ続ける事になるのだ──

 これはまだほんの始まりに過ぎない。

  
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...