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第二話「終焉へ導く者(スレイヤーZ)」PART2
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彼に野心はなく。
そして、理想はない。
彼は誰も信じず、誰一人として救おうとしなかった。
孤高なるがゆえに傲慢。
善悪すらも超越した怪物の誕生。
何故そうするのかと聞いたら、彼はこう応えるだろう。
「もう二度と死にたくないから、究極の安全が欲しい……ただそれだけだ」
女神もそんな状況がいつの間にか出来上がってしまった事を憂慮し、自らの信徒を神託という形で動かしたり、新たなる異世界人を送り込んだり、彼の支配にあがらうべく陰ながら努力していたようなのだけど。
自らの保身に全力を注ぐ彼を止めることが出来ない……それが現状だった。
そこで……僕が登場する。
非業の死を遂げた僕に、女神様この世界からスライムを駆逐する存在になって欲しいと……そう言った。
スライムに殺された僕ならば、むしろそうしたいと思うに違いないと。
……けれど、僕はその話を断った。
そもそも、スライムに殺されたと言っても……あれは事故であり、たまたま僕を轢いたデコレーションバスがスライムを象っていただけの話。
勘違いも甚だしい……僕にとっては、スライムとか心底どうでも良かった。
むしろ、その話を聞いて、関わり合いたくもない……そう思った。
平和ボケの日本人で凡人の僕に……そんな自分の安全の為に世界を変えるとか、意味の解らない事をする奴と戦えと言う方が無茶だ……。
結局、逡巡する僕を見て、女神様はあっさり掌を返した。
ならば、何一つ持たずに、異世界での平凡な人生を送るのはどうかと……そんな風に提案してきた。
僕は……あの時、人生に絶望していたから。
少女を助けたのも、それが悪くない死に様だと思ったから。
女神様の世界で一人の凡人として過ごし、もう一度やりなおしてみる……。
二度目の人生……それもまた悪くない話だと思えた。
かくして、一人の赤ん坊として始まった第二の人生。
平凡な農家の長男として、年の離れた姉と両親に囲まれた平和な日々。
質素で単調ながらも、同年代の友人達に囲まれて、両親も姉も優しく……満ち足りた日々がそこにあった。
けれども……そんな生活は僕が8歳になった頃、唐突に終わった。
友人たちと野山を駆け巡り、心地よい疲労感と共に自宅へ帰ると、いつもどおり姉が出迎えてくれる。
成長した姉は奇しくも、最初の人生で行方不明になった僕の姉と瓜二つだった。
だから、僕は彼女が大好きだった……たぶん、母親よりも懐いていた。
姉も僕のことをとても可愛がっていてくれた。
……姉に抱きしめられて眠る……それはとても満ち足りた一時だった。
けれども、だからこそ……僕はそんな姉の違和感に気づいた……。
ほんの小さな違和感……大好きだったからこそ、気づいたほころび。
微かな匂いの違い、ほんの僅かな声のトーンの違い……その程度だったのだけど、僕はそれに気付いてしまった。
「……お姉ちゃんじゃない! ……お前はなんだっ!」
その言葉に姉と同じ姿の何かは、姉と同じ仕草と姉の声で言葉を返した。
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ……どこか違ったかな? チガイガアルナラオシエテヨ……」
そこから先は、記憶が曖昧なのだけど……必死で踵を返して、外へ出ると、ちょうど友人が食われて成り代わるところを目にしてしまった。
僕へ必死に助けを求める幼馴染の少女の後頭部に張り付いたゼリー状の物体……それは彼女の耳から体内に入り込む……次の瞬間、僕に小さな手を伸ばそうとしていた彼女は白目を剥いて、糸の切れた操り人形のように倒れ伏した。
そして、死んだ魚のような目で起き上がると、いつもと変わらない様子で笑いかけた。
……今から思い起こすと、それが擬態種が人へ成り代るプロセスだった。
犠牲者は真っ先に脳を同化され、その記憶をも奪われる……そうする事で、高い知能と犠牲者の持つ知識や能力を得たスライムは、まったくの本人同様に振る舞うようになる……。
外見上も一緒で、本人しか知らないことだって知っている……第三者にとっては、本人と何一つ変わりない。
それがスライムによる擬態だった。
僕の第二の人生はこうしてあっけなく終わりを迎えた。
……覚えているのは、姉の形をした何かに狂ったようにナイフを突き立てた事と……全身を貫く触手の感触と冷たく暗い死へと向かう感覚だけ。
大好きだった姉は……最後まで、笑顔のままだった……。
……こうして、僕は女神様と二度目の邂逅を迎える事となった。
女神様は以前と同じ質問を僕にした。
この世界からスライムを駆逐する存在にならないか? と。
僕は解ってなかった……この世界の危機的状況を……。
あのスライムという生物がどれだけ恐ろしい生き物なのかを……。
僕の村と同じような悲劇が幾多も起こっていて、着実に終わりへ向かいつつあるこの世界の真実を。
そして、そんな生き物が影の王者として振る舞う世界……それ自体が僕には許せなかった。
思えば、女神様が平凡な人生を送る事を勧めてきたのは……こうなる事を解っていたのかもしれなかった……。
けれども、そんな事はどうでも良かった。
僕は……ただ一つだけ望んだ……この世界から、スライムを駆逐するための力を寄越せと。
例の転生者に懲りていた女神様は、強大な力を与えるのと引き換えに、人を決して害することが出来ないという呪いのような制約を課せたのだけど。
僕は望みどおり、炎龍人と言う灼熱を放つ外皮を持ち、血潮の代わりに炎が巡る強力無比な身体を与えられた。
こうして、神の使徒として……僕はスライムへの憎しみを抱きながら、この世界に再度降り立った。
……これが僕……『終焉へ導く者(スレイヤーZ)』と呼ばれることとなる存在の始まりの物語だ
そして、理想はない。
彼は誰も信じず、誰一人として救おうとしなかった。
孤高なるがゆえに傲慢。
善悪すらも超越した怪物の誕生。
何故そうするのかと聞いたら、彼はこう応えるだろう。
「もう二度と死にたくないから、究極の安全が欲しい……ただそれだけだ」
女神もそんな状況がいつの間にか出来上がってしまった事を憂慮し、自らの信徒を神託という形で動かしたり、新たなる異世界人を送り込んだり、彼の支配にあがらうべく陰ながら努力していたようなのだけど。
自らの保身に全力を注ぐ彼を止めることが出来ない……それが現状だった。
そこで……僕が登場する。
非業の死を遂げた僕に、女神様この世界からスライムを駆逐する存在になって欲しいと……そう言った。
スライムに殺された僕ならば、むしろそうしたいと思うに違いないと。
……けれど、僕はその話を断った。
そもそも、スライムに殺されたと言っても……あれは事故であり、たまたま僕を轢いたデコレーションバスがスライムを象っていただけの話。
勘違いも甚だしい……僕にとっては、スライムとか心底どうでも良かった。
むしろ、その話を聞いて、関わり合いたくもない……そう思った。
平和ボケの日本人で凡人の僕に……そんな自分の安全の為に世界を変えるとか、意味の解らない事をする奴と戦えと言う方が無茶だ……。
結局、逡巡する僕を見て、女神様はあっさり掌を返した。
ならば、何一つ持たずに、異世界での平凡な人生を送るのはどうかと……そんな風に提案してきた。
僕は……あの時、人生に絶望していたから。
少女を助けたのも、それが悪くない死に様だと思ったから。
女神様の世界で一人の凡人として過ごし、もう一度やりなおしてみる……。
二度目の人生……それもまた悪くない話だと思えた。
かくして、一人の赤ん坊として始まった第二の人生。
平凡な農家の長男として、年の離れた姉と両親に囲まれた平和な日々。
質素で単調ながらも、同年代の友人達に囲まれて、両親も姉も優しく……満ち足りた日々がそこにあった。
けれども……そんな生活は僕が8歳になった頃、唐突に終わった。
友人たちと野山を駆け巡り、心地よい疲労感と共に自宅へ帰ると、いつもどおり姉が出迎えてくれる。
成長した姉は奇しくも、最初の人生で行方不明になった僕の姉と瓜二つだった。
だから、僕は彼女が大好きだった……たぶん、母親よりも懐いていた。
姉も僕のことをとても可愛がっていてくれた。
……姉に抱きしめられて眠る……それはとても満ち足りた一時だった。
けれども、だからこそ……僕はそんな姉の違和感に気づいた……。
ほんの小さな違和感……大好きだったからこそ、気づいたほころび。
微かな匂いの違い、ほんの僅かな声のトーンの違い……その程度だったのだけど、僕はそれに気付いてしまった。
「……お姉ちゃんじゃない! ……お前はなんだっ!」
その言葉に姉と同じ姿の何かは、姉と同じ仕草と姉の声で言葉を返した。
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ……どこか違ったかな? チガイガアルナラオシエテヨ……」
そこから先は、記憶が曖昧なのだけど……必死で踵を返して、外へ出ると、ちょうど友人が食われて成り代わるところを目にしてしまった。
僕へ必死に助けを求める幼馴染の少女の後頭部に張り付いたゼリー状の物体……それは彼女の耳から体内に入り込む……次の瞬間、僕に小さな手を伸ばそうとしていた彼女は白目を剥いて、糸の切れた操り人形のように倒れ伏した。
そして、死んだ魚のような目で起き上がると、いつもと変わらない様子で笑いかけた。
……今から思い起こすと、それが擬態種が人へ成り代るプロセスだった。
犠牲者は真っ先に脳を同化され、その記憶をも奪われる……そうする事で、高い知能と犠牲者の持つ知識や能力を得たスライムは、まったくの本人同様に振る舞うようになる……。
外見上も一緒で、本人しか知らないことだって知っている……第三者にとっては、本人と何一つ変わりない。
それがスライムによる擬態だった。
僕の第二の人生はこうしてあっけなく終わりを迎えた。
……覚えているのは、姉の形をした何かに狂ったようにナイフを突き立てた事と……全身を貫く触手の感触と冷たく暗い死へと向かう感覚だけ。
大好きだった姉は……最後まで、笑顔のままだった……。
……こうして、僕は女神様と二度目の邂逅を迎える事となった。
女神様は以前と同じ質問を僕にした。
この世界からスライムを駆逐する存在にならないか? と。
僕は解ってなかった……この世界の危機的状況を……。
あのスライムという生物がどれだけ恐ろしい生き物なのかを……。
僕の村と同じような悲劇が幾多も起こっていて、着実に終わりへ向かいつつあるこの世界の真実を。
そして、そんな生き物が影の王者として振る舞う世界……それ自体が僕には許せなかった。
思えば、女神様が平凡な人生を送る事を勧めてきたのは……こうなる事を解っていたのかもしれなかった……。
けれども、そんな事はどうでも良かった。
僕は……ただ一つだけ望んだ……この世界から、スライムを駆逐するための力を寄越せと。
例の転生者に懲りていた女神様は、強大な力を与えるのと引き換えに、人を決して害することが出来ないという呪いのような制約を課せたのだけど。
僕は望みどおり、炎龍人と言う灼熱を放つ外皮を持ち、血潮の代わりに炎が巡る強力無比な身体を与えられた。
こうして、神の使徒として……僕はスライムへの憎しみを抱きながら、この世界に再度降り立った。
……これが僕……『終焉へ導く者(スレイヤーZ)』と呼ばれることとなる存在の始まりの物語だ
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