暗闇の記憶~90年代実録恐怖短編集~

MITT

文字の大きさ
18 / 36

第三話「赤いコートの女の子」⑧

しおりを挟む
「そうだね。そろそろ、皆部屋に戻ってくる時間だから、ちょっとトーン落とそうか。あと、俺もスト2大会混ぜてくれよ。俺の小足リュウで全員まとめて、泣かせてやるよ!」

 さすがに、もう勘弁して欲しい……そう思ったので、敢えて明るく振る舞う。
 ビビっても、しょうがない……今更、あの手狭な元の家に戻るとか、御免こうむりたい。

 ここが人外魔境だろうが、幽霊屋敷だろうが、俺にはもう選択の余地はない。
 もはや、開き直るしか無かった。

「言っとくけど、ハメ技もありだからな。どんな負け方をしても文句は言わせねぇぜ? ゲーセンじゃ、お前らに負け越してるけど、スーファミ版なら話は別だ……悪いが、今日は勝たせてもらうぜ? ハメ師としてな!」

 与志水がなんだか、カッコいいんだか、カッコ悪いんだか良く解らないセリフをほざく。

「思いっきりハメ解禁なんだ。そりゃまた不毛な戦いの予感しかしないね……」

 灰峰姉さんが苦笑する。
 ゲーセンでは、禁じ手とされるハメ技と呼ばれるダーティな戦法の数々。
 
 それを含めてのスト2と言う意見もあったけど、少なくとも仲間内では、その手のハメ技は禁じ手とされていたのだった。

「いつものパターンっすよ。前に徹夜スト2やってた時は、プレイヤーへの直接攻撃、脇腹手刀アタックとか、くすぐりとかもありありで、もうメチャクチャでしたからな。でも、見延リュウとか、めっちゃムカつくんだよなぁ……あの小足コンボが腹立つの何の!」

「見延、頼むぜ……山久のヤツ、ちょっと調子に乗ってっからさ。見延が山久に勝つと、一気に弱体化するのが常だしさ! って言うか、さっきから延々、山久とばっかやってて、そろそろ飽きてきたんだ」

 与志水も出て来て、参戦を促す。

「そうなんだよなぁ……。この人とやると、俺いつも調子崩される……。どうせ、迎撃なんてしないだろうって思ってたら、暴発大昇竜で絶妙なタイミングで、サイコクラッシャー撃ち落とされるとか食らってみ? 泣きたくなるよ……とにかく、読めない! 訳がわかんねー!」

「しょうがないじゃん。俺、昇龍拳確実に打てないんだもん。スーファミとか尚更だよ!」

 そう言って、スーファミのコントローラーを握ると、対戦に没頭する。
 
 ……なお、先程の灰峰姉さんの件は、俺の中では完全に棚上げ状態だった。

 現実逃避とも言う。

 だって、考えたって、しょうがないし、こんなもんどうしょうもねぇっての!
 
 考え出すと、もう色々と想像してしまって、ビビリ入ってしまう。

 俺のビビリが伝染して、急遽総解散とかなってしまったら、俺はこの旭興荘で一人、眠れない夜を過ごすことになる。

 どのみち、明日にはそうなるのは解ってるのだけど……。
 今夜、何も起きなかったら、明日もきっと何も起きない……根拠はないのだけど、そんな風に思い始めていた。
 
 灰峰姉さんも徳重もこのならざるものが見えて、認識は出来ても、追い払ったり、話し合いとか出来るわけでもない。

 灰峰姉さんも、自分ちに夜な夜なラップ音やら、見知らぬ子供が現れて、ずいぶん悩まされていたそうなのだけど……。

 結局、ほっとくしか出来なかったらしい……なお、話しかけたりしても、大抵は徒労に終わる。
 怒鳴ろうが、泣き入れようが、向こうはお構いなし……。

 姉さんの話だと、向こうにはこっちの声とかは届かないし、向こうの声もこっちには聞こえない……どうも、そんな感じらしい。
 
 おまけに物理的に干渉も出来ないので、追い払うと言っても、塩撒いたり、怒鳴りつけたりする事で、一時的に追い払うことは出来る……みたいなんだけど、大抵、すぐに舞い戻ってくる。
  
 なんとも、タチが悪い……そんなものらしい。
 フラフラ彷徨ってるタイプは、そのうちどこかに行くんだけど、土地に憑いてるようなのとか、誰かにくっついて回ってるようなのは、頑として動かないから、自分から避けるとかそんな方法しかないって話だった。
 
 現状、俺に出来ることは……もう、気にしないこと。

 いずれにせよ、先住民が二年も住んでて、問題なかったのなら、少なくともこの部屋にいる分には問題ないと言うことなのだろう。
 
 もう知らねぇ! 俺は開き直ることにした。
 
 ……このメンツでのスト2対戦は、なんと言うかジャンケンの法則のような相性があって、良い感じで選手交代が続いて、割とエンドレスに盛り上がる。
 
 例えば、山久は緻密で隙のない戦い方するタイプ、守りの固いカウンターとか、待ち系と言われるプレイスタイルで、はっきり言って手強いのだけど。
 
 相手の先読みを重視するあまり、予想外の行動や逆にカウンターをもらって動揺すると一気に崩れる……その関係で、フェイントや意味のないアクションを多用し、予想外の動きで相手を翻弄するトリッキーファイター系の俺相手だとよく負ける。
 
 なにより、俺は当時、スト2の投げのタイミングに関しては、天下一品と言われていて、投げたつもりが投げ返される……これで一気に崩れた所を押し切るというプレイスタイルで猛威を奮っていたのだ。
 
 とは言え、俺が最強かと言えば、そんなことはなく、俺は俺で、灰峰姉さん辺りが相手だと、良いようにやられたりする。

「そして、調子に乗った見延を私が粉砕すると……ふふっ、いつものパターンだね」

 灰峰姉さんはと言うと……こう見えて、攻撃一辺倒のバーサーカースタイルなので、フェイントも何も関係なく正面からのゴリ押しで粉砕されるという……。
 
 主な使用キャラは、ザンギ、ブランカ、ケン、たまにダルシム。
 こんな感じ……身内対戦だと、ケンが多い。

 と言うか、対戦ともなると実力差がはっきり出て、まんべんなく強いリュウ、ケンを使うってのがある種のセオリーでもあった。

「灰峰姉さん……投げカウンター食らっても、動じねぇんだよなぁ……」

 俺から見た灰峰姉さんは、まさに鋼メンタルのバーサーカーって感じ。
 
 どれだけ、屈辱的なコンボ決めたって、ありえないタイミングで投げカウンター決めようが、お構いなしで何事もなかったかのように、猛攻を仕掛けてきて、押し負けると言うのが常だった。
 
 けど、灰峰姉さんは守りがザルと言う欠点があるので、山久辺りが相手になると、普通に負けるという……。
 
 なんと言うか、まさに三すくみ……。
 他の与志水、徳重、須磨さん辺りは、どちらかと言うと下位陣に属するので、そこまで粘れない。
 
 これは、ゲーセンでも同じで、この三人が揃ってると、ローテーションが早くなると言うのが常だった。
 
 ちなみに、仲間内で最強と言われてるのは、柳鉄雄(やなぎてつお)と言う男で、こいつは地元ローカル大会チャンピオンを撃破する程度には強い。
 
 プレイスタイルは、オーソドックスに強い……俺から見ると、山久の上位互換なんだけど、山久のように予想外のカウンター一発で崩れることもなく、何をやっても全然動じず、鉄壁の守りで着実に削ってくる上に、メンタルの強さも灰峰姉さんに引けを取らない……まさに、死角なし。
 
 なので、普通に勝てないという。
 
 ゲーセンでの対戦成績は、柳>>灰峰、見延、山久>その他大勢。

 概ね、こんな感じ……けれど、たまに与志水や徳重辺りが妙に神がかる事があって、手に負えなくなる事もある。
 柳もメインはリュウなんだけど、たまにエドモンドやブランカ、ザンギあたりの色物を使ってくるので、その辺はそこまで強くないから、結構勝てる。
 
 なので、特定の誰かがいつも連戦連勝と言うわけにはいかない……それが俺らの対戦のミソだった。
 
 今日は、柳と言う絶対的なチャンピオンが居ないので、スト2も良い感じで選手交代が続いて、大いに盛り上がってるようだった。
 
「んじゃま、俺らも参戦するとしますかね」

「いいね。ただでやれるスト2とか、最高だね」

 かくして、俺と灰峰姉さんも交えてのスト2大会が始まった。
  
「……いやぁ、やっぱ灰峰姉さんに負けるなぁ……なんで、あそこで、すかさず仕掛けてくるかねぇ」

 参戦するなり、与志水、徳重、山久と立て続けに軽く撃破して、イケイケモードに突入した俺を止めたのは、灰峰姉さんの操るケンのアッパー大昇竜だった。
 
 なお、こんな大技で決められるとか、普通あんまりない。
 その一発で、一気に崩れて逆ストレート敗退……もはやぐぅの音も出なかった。

「ふふふふふ……。君との対戦は、いつも正面からの殴り合いだからねぇ。実に楽しかったよ」

 姉さんがドヤ顔で勝ちゼリフをキメる。
 なんと言うか、ゲーセンでもよくある光景だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/25:『さむいごご』の章を追加。2026/2/2の朝頃より公開開始予定。 2026/1/24:『うるさいりんじん』の章を追加。2026/1/31の朝頃より公開開始予定。 2026/1/23:『でんとう』の章を追加。2026/1/30の朝頃より公開開始予定。 2026/1/22:『たんじょうび』の章を追加。2026/1/29の朝頃より公開開始予定。 2026/1/21:『てがた』の章を追加。2026/1/28の朝頃より公開開始予定。 2026/1/20:『ものおと』の章を追加。2026/1/27の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/19:『みずのおと』の章を追加。2026/1/26の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

私の居場所を見つけてください。

葉方萌生
ホラー
“「25」×モキュメンタリーホラー” 25周年アニバーサリーカップ参加作品です。 小学校教師をとしてはたらく25歳の藤島みよ子は、恋人に振られ、学年主任の先生からいびりのターゲットにされていることで心身ともに疲弊する日々を送っている。みよ子は心霊系YouTuber”ヤミコ”として動画配信をすることが唯一の趣味だった。 ある日、ヤミコの元へとある廃病院についてのお便りが寄せられる。 廃病院の名前は「清葉病院」。産婦人科として母の実家のある岩手県某市霜月町で開業していたが、25年前に閉鎖された。 みよ子は自分の生まれ故郷でもある霜月町にあった清葉病院に惹かれ、廃墟探索を試みる。 が、そこで怪異にさらされるとともに、自分の出生に関する秘密に気づいてしまい……。 25年前に閉業した病院、25年前の母親の日記、25歳のみよ子。 自分は何者なのか、自分は本当に存在する人間なのか、生きてきて当たり前だったはずの事実がじわりと歪んでいく。 アイデンティティを探る25日間の物語。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...