俺の知らない大和撫子

葉泉 大和

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拾捌:最善の解決策

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 ***

「――乗ってみないって、具体的に何をするわけ?」

 時は少しだけ前――俺と更科がYOMIに進入する直前まで遡る。

 俺の言うアイディアを全く予想することが出来ない更科が、訝しむような視線を向けながら俺に問いかけた。
 更科の声音には疑問が籠っていたが、その表情には期待の色が浮かんでいる。

 俺はまず更科の関心を引けたことにホッとしつつ、友部商店の袋の中を無言で取り出した。俺の両手に仮面ソルジャーとキラチューのお面が収まる。

「わっ、それキラチューじゃない! 超可愛いんだけど!」

 すると、俺の予想外の反応が更科から返って来た。食いつくように目を輝かせながら、左手に持っているキラチューに近づいた。俺はその勢いに押され、一歩後退る。

「……な、なに。更科、キラチュー好きなの?」

 俺はたじろぎながら更科に質問する。更科は一切俺のことを見ようとせず、キラチューに目を奪われている。

「うん! 特にこのふっくらと膨らんだ顔と頭の十円ハゲ、それに眠そうな顔がたまらないの! 私達の世代で嫌いな人なんて絶対いないでしょ……って、そんな訳ないじゃない! そんなガキっぽい物を、この私が好むと思ってるの!?」

 素直に感想を言っていたところから一転、更科は声を荒げて意見を変えた。キラチューから顔を背けた更科だったが、完全にはキラチュー嫌いを演じ切れないようで、チラチラとキラチューを気にしている。

 何だろう、どこかで既視感がある。確かこれは初めて更科の秘密を知った屋上で――、

「で! 一体このお面で何をしようと言うの? まさかこのお面を付けて私が暴れれば、奴らに正体がバレないとでも思ってるの?」

 と更に追憶しようとしたところで、更科の声が介入し、現実に戻る。

 更科が腕を組んで、俺のことを睨み付けていた。必死に平静を装うとしているようだが、頬が僅かに紅潮している。

「いや、まぁ万が一無関係の人に見られたとしても、身元がバレないようにしようという狙いはあるけどさ。……でも、このお面は完全にオマケだな。メインは、あともう一つ買って来た方で――それを使って、秦野高校の人達とゲームをしようと思うんだ」
「ゲーム?」

 更科は俺の言葉を反芻する。いきなりゲームと言われても、ピンと来ていないようだった。

「ちょっと待ってくれ。実際見せながらの方が早い。……と、袋の中取れないから、キラチュー持ってて」

 袋の中身をなかなか取り出せない俺は、左手に持っていたキラチューのお面を更科に渡した。更科は受け取る時、渋々受け取るような態度を取っていたが、その緩んだ表情は全然隠せてなかった。しかも、キラチューのお面を手に取ると、思い切り胸元に抱え始めている。

 あえて気付かないフリをして、袋の中身を取り出すことに専念する。そして、手に取った俺は種明かしをするように、袋の中に入っているもう一つの物を更科に見せつけた。

「……風船?」
「そう。この風船をYOMIの中にいる人全員に配ってゲームをする。ルールは……まぁ風船を割られた方が負けという単純なもの。でも、秦野高校に合わせて多少こっちに不利なルールが追加されるかもしれない」

 これから行なおうとしているルールの説明を終えると、更科は可哀想な物を見るような目で俺のことを見つめていた。なんか思ったより反応が薄い。やはり松城高校からYOMIに辿り着くまでの走っている間に閃いたアイディアだから、甘々だったかもしれない。改めて振り返ると、あり得ない気がしてきた。

「は、はは……。やっぱりこんなガキみたいなこと、いい歳した高校生がやる訳ねぇよな」

 自嘲気味に笑う俺に、更科は首を横に振った。

「ううん、アリかもしれない。まぁ、もし奴らが乗り気じゃなかったとしても、この私に任せなさい」

 更科は悪戯っぽい笑みを浮かべて、自信満々に言う。どこからその自信が湧いて来るのだろうか。少し羨ましくなる。

「でも、仮にこのゲームが出来るとしても、更科に危険な目に遭わせ――」
「私を誰だと思ってるの? 悠陽が想像するよりも酷い修羅場をいくつも掻い潜って来たのよ。まぁ、見てなさい。まずは最初の合図と同時に、猫だましで気を引いた瞬間に、半分くらいの風船は減らしてみせるわ。それで――」
「……よし、これで一回行ってみよう」

 俺はどこまで本気か分からない更科の言葉を流し、景気づける意味でも、手を叩いた。
 しかし、一つどうしても拭い切れない不安がある。

「ダメだった時は……、どうしよう」
「そしたら、正攻法で行くしかないわ」

 俺の言葉に更科は真剣な表情で言った。

 その通りだ。むしろ本来なら、争いは免れなかったところを無理やり逸らそうとしているのだ。もし秦野高校の人達が風船割りゲームに乗らなかった場合、拳をぶつけ合うのは当然の結果なのだろう。

「そう……だな。出来れば、誰も怪我せずに穏便に済ませたいんだけどな」

 思わず本音が漏れる。
 怪我するのも怪我させるのも、どちらの心に傷を与えるものだ。それを更科と関わってから、身に沁みて実感した。
 最悪の事態を考えると、思わずしかめっ面になってしまう。

「悠陽」

 そんな俺の心境を読み取ったのか、更科は俺の名前を呼んだ。その声色は、どこか俺のことを安心させてくれる。俺は更科の方に顔を向けた。

 視線の先には、

「あんたって面白いね。頼りにしてる」

 屈託のない笑顔を向けている更科がいた。そして、一言言い終わると、キラチューのお面を被って、前へと歩き出した。

 俺は一瞬、言葉を返すことが出来なかった。
 更科の言葉は俺に向けてあまりにも真っ直ぐ紡がれたからだ。

 だから俺は、

「――あ、ああ。と言っても、どっちに転がったとしても、俺は邪魔にならないように後ろに下がってるだけだけどな」

 一拍遅れて、ようやく更科に言葉を返した。

「――はは、あんた面白いわ」

 更科は呆れたような口調で言うと、YOMIへの階段を下りて行った。俺もその後について行く。
 更科がYOMIへと続く扉に手を掛けた。俺はいよいよかと緊張に手を握り締める。
 しかし、更科はドアノブに手を置いたまま、開けようとしない。

「まぁ、大船に乗ったつもりで見てなさい。悠陽にはもう傷一つ付けさせないから……、絶対に」

 そう言うと、俺の反応を待たずに、ドアを開けた。

 更科の真意は分からなかったが、その言葉にはやけに力が籠っていた。

 だからこそ俺は逃げることなく、YOMIに入ることが出来た。

 ――この時の俺は、更科が発した言葉の持つ意味を本当にはまだ知らない。
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