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エメラグレイ学園の転入生
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トゥルヘクにあの事件が起きてから数十年が経った。
今は海中にある、浜辺沿いの綺麗な街。事件が起きる前、母さんに抱かれていた赤ん坊の頃の俺は、かつてそこに住んでいたらしい。
しかしその事はもう、覚えていない。
事件以来、浜辺の方には住めなくなってしまったので、浜辺から少し遠い丘の方に家を建て、そこで暮らしていた。
俺の生きてきた十年の人生の中では、残念ながら、浜辺よりも丘の上での記憶がほとんどを占めている。覚えているはずがなかった。
母さんは「白い砂浜がね、太陽に反射して凄く眩しかったのよ」なんて、俺によく言っている。父さんも、母さんに「ね、あなた」って言われると、普段は無口なくせに、この時だけはなぜか「ああ。そうだったな」と返事をする。
二人とも大好きな場所だったんだなと思うと、覚えてない自分が少し嫌になったりする。
工場の音が、部屋の窓越しからうっすらと聞こえてくる。
カタンカタン、ガタガタと、何かを機械で運んでいるような音だった。
プシューと蒸気の音も聞こえてくる。
ここは潮の香る未来の国、トゥルヘク。
俺はまだこの国以外の場所へは行ったことがなかった。
「レッド、荷造りはちゃんとしたの?」
部屋の外からは、母さんの声が聞こえてきた。
それを聞いて段々と意識が戻ってくる。そう、俺はさっきまで少し寝てしまっていた。時計を確認すると、針は十時を指していた。外は明るいので、朝の十時と捉えるのが自然だろう。
俺は視線を前に向けた。そこには必要最低限のものが詰められた、爺さん譲りのリュックサックがある。
俺はそれを見て母さんに返事をした。
「大丈夫だよ母さん。後は戦える剣とかがあればいいんじゃない?」
「バカ言ってんじゃないわよ。森にさえ入らなければ安全なの。戦う必要なんてないわ」
扉の方から、母親が階段を降りていく音がした。
「ちぇ。爺さんは魔物とよく戦ってたって言ってたのにさ」
誕生日を既に迎え、俺は十三歳になっていた。俺の爺さんが今の俺と同じ年の頃は、エメラグレイという国に旅に出ていたらしい。
エメラグレイの綺麗な景色を見て、たくさんの人に会って、困難を乗り越えながら悪者を倒して、みんなから尊敬されて……。
学校から帰った後に、爺さんの英雄記を聞く。これが俺の毎日の楽しみだった。
どんなゲームよりも、どんな本よりも楽しかったことを覚えている。
そして先週、興味津々で話を聞いていた俺を見ていて思ったのか、爺さんはいきなり俺を旅に出させようと言い出した。
親は最初猛反対したが、エメラグレイの事を調べてみると、丁度俺が通える学校があったらしく、そこにちゃんと通う事を前提に、エメラグレイに行く事が許された。
親には「森へ入るな」と言われているが、爺さんの戦っていた魔物は森にしかいない。
俺の成長を期待している爺さんの為に、俺も爺さんのように魔物と戦いたい。そして勝って、爺さんに成長したことを認めてもらいたい。
その為に、俺は向こうで学校へ通いつつも、森に入るつもりだ。
父さんと母さんの約束を破る事にはなるが、これは破らなければいけない、俺へのチャンスなのだ。
そして今日の夕方に、俺はこの国から旅立つ。その為に、午前中に荷物をまとめていたのだ。
パスポートと、財布と、電車の切符と、水筒。そんなところだ。
そして俺は今、向こうの学校の制服を着ている。
水兵服に似た襟に、海の底のような色のネクタイ。
俺が通っていた学校には制服が無かったので、制服に身を包むのはとても新鮮だった。
外は潮風で少し肌寒いので、制服の上に、お気に入りの水色のマントを羽織った。
鏡を見てみた。なかなか様になっていると思う。
そして昼になる少し前に、俺は両親と爺さんに別れを告げた。
爺さんは嬉しそうな満面の笑みで「頑張ってこい!」と言い、母さんは細々と注意を話したりと心配し、父さんは相変わらず無口だったが、俺に向かって真っ直ぐに頷いた。
普段学校に行くかのように家を出て、いつものような足取りで道を歩いた。
今日はとても良い天気だった。夕焼けが綺麗に見える。
見慣れた景色。風に乗る潮の香り。
いつもあった物が無い世界で過ごしていくなんて、想像が出来なかった。
道中で、俺の制服姿を見て寂しそうな顔をする友達に出会ったが、俺の心は割と余裕だった。ずっとこの国に住んでいて、他の世界を知らない。旅立つ実感が湧いていなかったのだ。
少し歩いて、最寄り駅から電車に乗り「海月駅」まで行く。
普段はあまり降りる事のない駅に、足を踏み入れたこの時に、やっと、寂しいと感じるようになった。
寂しそうな顔をした友達を思い出し、もう長い間会えないのかと、少しだけ心が苦しくなった。また向こうに着いたら、手紙でも書こうと思う。
ちなみに、海月駅まで行くのには理由がある。ここから少し歩いた先にトゥルヘクに唯一住んでいる魔女に会って、俺はその人に魔法の力で転送して貰うのだ。
今のところ、エメラグレイに行く方法はそれしか無いらしいが、二年後くらいには、エメラグレイとトゥルヘク繋ぐ、海面上の列車が出来ると聞いたことがある。
その列車は、魔法と最新技術の融合によって、実現するのだとか。
「あ、レッドくぅん」
そんな事を考えながら歩き、地図だよりに魔女さんの家の前まで着くと、ちょうど良いタイミングで、後ろから声をかけられた。ゆったりと、落ち着いた声だった。
今日お世話になる魔女さんは俺の爺さんの知り合いらしく、俺と同じ歳だった頃の爺さんの事も、エメラグレイに転送した事があるらしい。
振り向くと、うさぎの耳のような装飾が施された帽子が目に入った。帽子からは綺麗な色をしたふわふわの長い髪が見え、彼女の肩にかかっている大きなバッグには、クラゲのキーホルダーが付いていた。
「こんにちは~。わあ、すごい。昔のあの人と顔立ちがそっくりだねぇ」
「ど、どうも」
「君、エメラグレイ学園に転入するんだって?」
俺はその言葉に頷く。
魔女さんは、俺の着ている制服を見てそう言ったのだろう。
彼女の言う「エメラグレイ学園」。そこが、俺のこれから通う事になる学校だ。
普通の授業に加えて、彼女のように魔法が使えるようになる為の、魔法科の授業があるらしい。正確には「魔法道具が使える」授業だが。
「レッドくん運がいいよぉ。エメラグレイ学園ね、わたしのアニキいるん。魔法科の先生やってるのー」
そう言って彼女はくるくるとその場で回ると、そのまま小走りで家のそばに向かった。
「たまーにトゥルヘクに来るんだけどねぇー。一年に一回しか来ない。しかもたくさんお客さん連れてくるん」
「お客さん?」
「ま、いいや。行こ、レッドくん」
そう言って彼女は背中に隠し持っていた箒を高々と掲げて、俺に見せた。
「えっと、まさか、それに乗って行くんですか?」
「ん? あっそっかぁ。これで海超えたら凍っちゃうね」
魔女と言えば怖いイメージだったのだが、意外と天然な人のようだ。少し安心したような。……しないような。
エメラグレイはかなり遠い所にある。北西に向かって、海を長い間越えないといけない。
それを箒ひとつで行こうなんて、一体何ヶ月かかる事か。
魔女さんは箒をぽいっとその辺に捨てると、その場所に生えていた草が一瞬にして凍ってしまった。それを見て、さっと血の気が引く。
魔法の箒が変に誤作動を起こしてしまったのだろうか。俺があの箒に乗っていたら、今頃あんな感じになっていたのだろうか。
「せやなぁ。前にあの少年を送った時は、転送魔法だった気がするぅ」
「ああ、えっと、そっちでお願いします」
魔女さんはクラゲのキーホルダーを揺らしながら、バッグの中からゴソゴソと、見慣れない魔法道具のようなものを次々と出して行く。
俺も、ああいった魔法道具を使う日が来るのか。やはり、想像ができない。
普通の学校でないことは知っていたが、これから使うことになるであろう魔法道具を目の当たりにすると、これからの日常が少し不安になってしまう。
もしも自分だけ上手く使えなかったら、と。
いやいや、俺は魔法使いになるためにエメラグレイに行くんじゃない。
森へ行って魔物を倒して、爺さんに認められる為だろ。
俺は魔法が使えなくたっていいんだ。
そんな事を考えていると、魔女さんはいきなり「はいどーぞ!」と、俺に小さな小瓶を無理やり渡してきた。
「それは魔法のジュースぅ! 一口飲むだけであっと驚き! いつの間にか向こうに着いてまーす!」
小瓶の中には不思議な色をした、半透明の液体が入っていた。青色かと思えば、見る角度を変えると水色になったり、紫色になったり。
傾けると、少しドロっとした液体だということがわかった。中に入ったキラキラとした粒が、ゆっくりと液体の中を舞っている。
転送魔法とは、この瓶の中に入った液体を飲むだけ……なのか?
魔法陣とか、変な呪文とか、そういうものだと思っていたのだが。
しかしこの手渡された魔法の飲み物は、飲めるものとは到底思えなかった。スノードームのような飾り物と思えば、とても綺麗だと思うし、個人的には欲しいくらいなのだが。
「ささ、どうぞ遠慮なく。グイッと」
魔女さんにそう言われ、俺は意を決して、小瓶の蓋を開けて、中身を一気に飲み干した。
あれ、意外と味が薄い。
少し甘みがあるような気がする。
後味を確認していると、徐々に意識が遠のき、目の前が暗くなっていく。
あれ、これって、転送魔法……じゃ…………
「えっ、この子、生きてるの?」
「たぶん……?」
「あぁっ、校長。すみません、妹はいつも魔法が雑なんです。キー先生のする掃除みたいに」
「なんですって? キー先生にはもう少し指導をしなければなりませんね」
「えっえっ今それ関係なくないですか!?」
声が聞こえる。
年配の女性の声と、優しそうな男性の声と、魔女さんに少し似ている声……
ここは、どこだ……?
「あ、生き返ったわ」
生き返ったも何も、俺はそもそも死んでないぞ。
そう思いながら、自分が寝かされていたソファーから体を起こして、声の主を確認すると、そこには案の定、年配の女性が立っていた。年配と言っても、まだまだ若々しく元気な感じがする。
「あらあら、かわいい顔してるじゃない。よくぞいらっしゃいましたね、レッドさん」
女性は俺の顔を見てそう言った。彼女からふわりと甘い香水の香りがして、頭がくらくらした。まだ状況が把握しきれていない。
「えっと、これは……どういう……?」
辺りを見回してみると、どことなく校長室のような雰囲気だった。
大きな机にはたくさんの書類が乗せられており、周りも本棚でいっぱいだ。
また、魔女さんの持っていた魔法道具と似たようなものもたくさん置いてあった。その中には生命がありそうな、少し不気味な物もあったが、不思議と、この部屋は暖かい雰囲気であった。
「私から説明しましょうか」
そう言ったのは、魔女さんの帽子と似た帽子を被っていた男性だった。
魔女さんとは違い、猫耳のような装飾がついている。可愛らしいが、それよりも男性らしい身体が目立つ。服装さえ変えれば、爽やかな体育会系に見えなくもない。
「あなたは……?」
「私はノクタミア。あなたの学年の担任です。そして彼女はここの校長で、あちらの男性はキー先生と呼ばれてる先生ですよ」
キー先生と紹介された男性は、頭上にあるうさぎのような耳をぴょこぴょこと動かしながら、少し赤らめた顔で眼鏡をしきりに触っていた。
「のっ、ノク先生! 僕の本名はキイラルだって何度も言ってるじゃないですか!」
それを聞いたノク先生と校長先生は、同時にくすくすと笑い出す。
エメラグレイには動物の耳が生えた人間が多く住んでいると聞いていたのだが、本物は初めて見た。トゥルヘクに住んでいた俺にとっては見慣れないものだ。
ノク先生や魔女さんも、もしかしたら、帽子の下には本物の動物の耳が隠されているかもしれない。
「ここはエメラグレイ学園です。レッド君のことを歓迎しますよ」
ノク先生は愛想のいい笑顔で、握手をして来た。
見た目が風変わりだとしても、中身は普通の人が多いみたいだ。
これからの生活に不安を覚えていたが、案外大丈夫みたいで安心した。
「エメラグレイに来たばかりのレッドさんは、まだわからないことがたくさんあると思います。例えば……これとか」
そう言ってノク先生は、キー先生を指さした。
するとキー先生の頭の上にいきなり、銀色の何かが現れて……
クワーーン!
「痛い!」
キー先生のあしもとでグワングワンと回るのは、銀色のタライ。
「ノ~ク~先~生~!!」
キー先生は頭を抑えながら、大笑いしているノク先生を睨む。
その光景に校長先生はあきれていた。
「あっはははは! こんな感じで、魔法が至る所にありますからね。十分に気をつけてください☆」
「ノク先生……転入生を怯えさせるんじゃありません」
なんだか愉快な先生たちだ。
トゥルヘクにいる先生はみんな頭が固く真面目で、冗談が通じなかった。
研究者やお医者さんはそんな事ないのだが、先生は他所からやって来た人が多いので、真面目でいなければと気遣っているのだと思う。
そう思っていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
そしてこの部屋に入ってきたのは、長い髪を二つに結んだ、優しい雰囲気の女性だ。ノク先生のことを呼んでいる。
「あぁ、アロダ先生。えっと、例の事ですか?」
そう言って二人は、俺にとってよくわからない話を交わしていく。
俺はどうすればいいのかわからず、キー先生の顔を見ると、キー先生は「すまないね。ノク先生は案外、忙しい人でね」と、耳元でそう囁いた。
少し待つと、ノク先生は女性の話を承諾したらしく、少し申し訳なさそうな顔で俺の前に来た。
「レッド君、すみません……本当は校内を案内したかったんですけど、今日は少し難しいみたいです」
「そ、そうですか」
「なので、同じクラスの子に案内してもらって下さい」
そうノク先生に言われて数分後。
俺はその「同じクラスの子」を探していた。
エメラグレイ学園の廊下は広く、今は授業中なのか、生徒も先生も見掛けない。
本当にクラスメイトがいるのだろうか……?
「あっ、お前か。転入生」
俺が下の階に行って探しに行こうとした瞬間、後ろから呼び止められた。
振り返ると、俺と同じくらいの背丈の男がいた。
「そっちに行ったら俺と会えなくなるぜ。俺はミント。お前は?」
「レッド……」
「レッドか、わかった。よろしくな」
少し照れくさそうに笑うミント。
彼とは初めて会ったはずなのに、まるで昔から一緒にいた友達のように思えた。
「ノク先生に言われてんだ。校舎を案内してくれって。じゃ、行こう」
ミントそう言って、俺の先を少し歩くと、すぐにぴたりと立ち止まった。
後ろをついて行こうとしたのだが。
「ミント?」
不思議に思って彼の顔を後ろから覗き込むと、彼は口元から笑っていた。
ミントは好奇心の混じった視線をこちらに向ける。
「なあ、お前さ……魔物と戦ってみたいと思わないか?」
何を言い出すのかと思えば……
……ま、魔物!?
「あ、驚いてる。やっぱりトゥルヘクにはいないんだ」
「いや、エメラグレイに魔獣がいることは知ってる。ただ、その、なんだよ。なんで、いきなり」
俺は自分の目的が悟られたのかと思い、慌ててしまった。
別に隠す必要も無いが、魔物のいる森には自分一人で行こうとしていたため、いきなり言われるとは思っていなかったのだ。
「俺、あのノク先生に許可もらって、授業抜け出せてるんだよ。この学校に七年も通ってるけど、こんなこと滅多にないし」
「だから、なんだよ?」
「俺と今から、森に行こうぜ」
会ったばかりの時の顔とは別に、ミントはほくそ笑んでいた。
なんてずるいやつだ。特別に授業を休ませてもらえてるのに、それを利用して森へ行こうとしているなんて。
「お前と一緒に行ったら楽しそうだしさ!」
「うーん……」
しかし、俺も心のどこかでは、楽しそうだとワクワクしてしまっていた。
何しろ、この話に乗れば、俺の目的を一つ果たすことが出来るのだから。
ノク先生たちの中では、今頃俺たちは校内を回っているのだろう。
そう思うと心が痛いが……
……これは破らなければいけない、俺へのチャンスなのだ。
俺達は外靴を持って、渡り廊下から中庭を渡って、外に出ようとしていた。
空は薄くオレンジ色になっていた。
「で……ミント。どうやって戦うんだよ?」
「これで」
そう言って、ミントはポケットから懐中時計のようなものを出した。
しかし中に入っているものは針ではなく、小さな宝石だ。
薄い夕焼けに染まり、綺麗なオレンジ色に見える。
とても綺麗なのだが、それで戦えるとはとても思えない。
爺さんは剣で戦っていたと聞いた。
「それで戦おうって思ってるのか?」
「へへっ、授業でちょっと習ったんだよ。魔物をひるませる魔法」
ミントは得意げに、その魔法道具を制服のポケットの中にしまった。
エメラグレイ学園に通っている生徒は、こんなにも身近に魔法道具を使っているのか。
「レッドも魔法の授業受けたら、使えるようになるよ」
ミントは背中でそう言って、どんどん前を歩いていく。
裏口のような通路を抜けて、学校を出る。ミントが行くのは、人のいない道だった。
歩く地面は石畳から段々と土に変わっていき、生い茂る草木が目立つようになっていく。
森へ続く道に、制服姿の子供が二人。
傍から見ても悪いことをしているのは明らかだが、好奇心は抑えられそうにもない。
今から向かうのは、爺さんが戦った場所なのだから。
トゥルヘクは流石に植物はあるが、森は無い。エメラグレイの森は、写真や絵でしか見たことがなかった。どんな魔物に会えるのだろう。
夕焼けた空は真っ赤に染まり、向こうの方は少し紫色をしていた。これから、暗くなる。
それと同時に、先程までワクワクしていた俺の心も、徐々に不安の方が大きくなって行った。
なぜなら、爺さんからひとつ忠告を聞いたことがあるからだ。いくら魔物と戦おう為でも、森は暗い時に行くものでは無い、と。
俺は森へ入ろうとするミントの背中に向かって、声をかけた。
「やっぱ……帰らないか? 暗くなりそうだし……。その、また今度にしようよ」
しかしミントの好奇心は収まっていないのか、俺の言葉を笑い飛ばした。
「はははっ、レッドお前、魔物にびびってるんだろ」
「そんなわけないだろ!」
変な誤解をされ、俺は怒った。
本当はこんなに急に行くつもりは無かったが、乗りかかった船だ。もういい。行ってやろうじゃないか。
そうして俺たちは、暗くなる空が包む森へと、足を踏み入れたのだった。
歩いて、歩いて、歩いて……
見えてくるのは大木ばかり。
辺りがすっかり暗くなる頃まで、俺たちは森の中をさまよっていた。
足元に映る木漏れ日も、月の光が作っていた。
どのくらい歩いたのだろう。体感的には三時間くらい歩いているように思えるが、本当は三十分なのかもしれない。時計を持ってこれば良かった。
俺たちは森の中でずっと魔物を探していたが、一向に見つかる気配はなかった。
「ミント。お前さっきからどんどん歩いていってるけどさ……これ、帰れるんだよな?」
心配が募り、また俺が後ろからそう呼びかけると、ミントはその場でいきなり立ち止まった。
そして少し間を置いて、こちらを向く。
「……わからないって言ったら怒る?」
「怒るに決まってるだろ」
「あー……うん。じゃあ、盛大に怒ってくれ……」
「はあああ!?」
もう訳が分からない。
ミントの潔く進んでいく姿を見て、てっきり道がわかっているものだと思っていた。
どうするんだ。これじゃあ、もう帰れないどころでは済まないじゃないか。
「すまん、その……こんなつもりは無かったんだ……ごめん、レッド」
「なんだよ、無責任な奴だな! 結局魔物にも会えなかったし……。……はぁ。もう一人で帰る。ついてくんな」
「おい、待てって……!」
俺は呆れて、ミントをその場に置いて来た道を戻って行った。
長いこと歩いてから、少しずつ後ろを向いて確認したが、ミントは本当についてこなかった。
別にもういい。あいつを信じた俺が馬鹿だったんだ。
俺は来た道をなんとなく把握していた。迷わない自信があった。一人で帰ってやる、とそう思っていたのだが……後ろを確認したせいで、気が付けば、来た道の方角がわからなくなってしまった。
振り向いても、通った気がしない道が広がっている。
これは、まずい。
ここはそこまで森の深い場所ではないと思うが、それでも方向が分からなければ意味が無い。進む方向を謝れば、さらに危険な森の深いところまでたどり着いてしまうかもしれない。
エメラグレイに来た初日に、まさかこんな事態に会ってしまうとは……。
なんで、こんな目に遭わないといけないんだ。
そう思っても、怒る気力すら失っていた。
どっと疲れが体を襲い、俺は座り込んだ。眠気も俺を襲ってくる。
もしもこのまま助けが来なかったら、俺はここで野垂れ死んでしまうのか?
ミントも今頃一人で絶望している頃だろう。
俺は自分の行動を改めて思い返して、少し後悔した。どうして一人で帰れるなど、そんな自信があったのだろう。エメラグレイには来たばかりで、森になんて足を踏み入れたことすらないのに。
それに俺は、ミントを見捨ててしまった。あいつも道がわからないのに、俺はあいつを森に置いていこうとしてしまった。酷いことをしてしまった。
夜風が木の葉を揺らす。
異常事態なのに、風の音がなんとなく心地よくて、俺は目をそっと瞑ってみた。
別に死を覚悟した訳じゃない。ただ、心を落ち着かせたかっただけだ。
「はぁ……兄ちゃんの国のとこの子かな。……死んでないよね……?」
足音が聞こえる。
「……うん、息はあるか。……友達二人なら大丈夫……ってか……」
体がふわりと暖かくなった。
「もう森には来るなよ。……僕みたいになって欲しくないからね」
月が綺麗だった。
海面に映る月ばかり見ていた俺にとって、真上に浮かぶ月を見るのは、久しぶりだった。
「レッド!!」
「……!」
俺は気が付けば、森の中ではなく、またしても、いつの間にか校長室にいた。
まさか、今までのは、全部夢……?
「レッドぉ……良かった、死んでなかったぁ……!」
俺の名前を呼んだのは、泣き顔で飛びついてくるミントだった。
校長室の窓は真っ暗だった。夢じゃない。
俺は、助かった……?
「はあ……ミント君。レッド君は来たばかりで疲れているんですよ」
「ごめんなさい……」
校長先生やキー先生はいなかったが、そばにはノク先生がいた。
「あの、えっと……」
俺はまず、不機嫌な顔をしたノク先生に、何から言えばいいのかわからずにまごついていると、俺とミントの頭上に銀色のものが現れて……
クワーーン!
「痛い!」
「痛い!」
二人同時に、タライを落とされてしまった。
「夜の森は危険です。貴方たちの好奇心はわかりますが、森は身の安全を保証しません。これからもう絶対に行こうとしないでくださいよ。わかりましたか?」
ノク先生は両手で頭をさする俺たちに向かって、大きな声でそう言った。
真剣な表情だ。その理由もわかる。
森で一人ぼっちになる恐ろしさを知ってしまった。もう二度と味わいたくない。危ない行為はやめなければ。
また別の方法で、爺さんに認められるようにしないと……。
「返事は?」
ノク先生はそう言って、また銀色の何かを頭上に出現させようとしている。
俺たちは急いで「はい!」と答えた。
すると銀色の何かはしゅるしゅると空気に戻っていく。
「わかったのなら、速やかに寮に戻って下さいね」
「あ、あの、先生。俺たちって、どうやってここに来れたんですか……?」
俺はどうして助かったのかが気になり、ついノク先生に聞いてしまった。
「悪いことをする生徒には教えません」
ノク先生は答えてくれず、そのままぷいと向こうを向いてしまった。
そして俺たちは言われた通り、エメラグレイ学園の寮に向かった。
向かう途中、何度も何度もミントに謝られた。
「ごめん……」
「もういいよ。正直むかついたけど、俺の事心配してくれてたんでしょ」
「うん……ほんとにごめん」
ミントはただ、俺を楽しませたかったのと、自分の好奇心に負けてしまったのだと言う。
彼は自分だけが悪いと言っているが、危険だとわかっているのに、引き返さずに進んでしまったり、そんな危険な場所に、ミントを置いていこうとした自分もいる。
「じゃあ、うん。そうだな、これからも仲良くしてくれたら、許してやらないこともないから。ほら、だからもう謝るなって……。俺にも、悪いところあったし。お互い様でいいよ」
「レッド……。……もちろんだ! いくらクラスが変わっても、一緒に遊ぼうな!」
ミントは少しだけ涙を浮かべながら、最高の笑みを見せた。
それを見てなんだか嬉しくなり、俺も笑った。
「私は道具を使う魔法使いなので……ノクタミア先生にしかわからないと思って」
「はは……近代の人にとっての魔法使いは区別が曖昧になってますから……仕方の無いことですけどね」
「それで、あの森の件なんですけど……一体どうなってるんです? 最近、魔法材料の、そもそもの質が変わってきていると聞いて……」
「ええ……それは……彼女の仕業でしょうね。……封印が、近々解かれるかも知れません」
「あ、あの、魔女が……!? やめてくださいよ、そんなご冗談を」
今は海中にある、浜辺沿いの綺麗な街。事件が起きる前、母さんに抱かれていた赤ん坊の頃の俺は、かつてそこに住んでいたらしい。
しかしその事はもう、覚えていない。
事件以来、浜辺の方には住めなくなってしまったので、浜辺から少し遠い丘の方に家を建て、そこで暮らしていた。
俺の生きてきた十年の人生の中では、残念ながら、浜辺よりも丘の上での記憶がほとんどを占めている。覚えているはずがなかった。
母さんは「白い砂浜がね、太陽に反射して凄く眩しかったのよ」なんて、俺によく言っている。父さんも、母さんに「ね、あなた」って言われると、普段は無口なくせに、この時だけはなぜか「ああ。そうだったな」と返事をする。
二人とも大好きな場所だったんだなと思うと、覚えてない自分が少し嫌になったりする。
工場の音が、部屋の窓越しからうっすらと聞こえてくる。
カタンカタン、ガタガタと、何かを機械で運んでいるような音だった。
プシューと蒸気の音も聞こえてくる。
ここは潮の香る未来の国、トゥルヘク。
俺はまだこの国以外の場所へは行ったことがなかった。
「レッド、荷造りはちゃんとしたの?」
部屋の外からは、母さんの声が聞こえてきた。
それを聞いて段々と意識が戻ってくる。そう、俺はさっきまで少し寝てしまっていた。時計を確認すると、針は十時を指していた。外は明るいので、朝の十時と捉えるのが自然だろう。
俺は視線を前に向けた。そこには必要最低限のものが詰められた、爺さん譲りのリュックサックがある。
俺はそれを見て母さんに返事をした。
「大丈夫だよ母さん。後は戦える剣とかがあればいいんじゃない?」
「バカ言ってんじゃないわよ。森にさえ入らなければ安全なの。戦う必要なんてないわ」
扉の方から、母親が階段を降りていく音がした。
「ちぇ。爺さんは魔物とよく戦ってたって言ってたのにさ」
誕生日を既に迎え、俺は十三歳になっていた。俺の爺さんが今の俺と同じ年の頃は、エメラグレイという国に旅に出ていたらしい。
エメラグレイの綺麗な景色を見て、たくさんの人に会って、困難を乗り越えながら悪者を倒して、みんなから尊敬されて……。
学校から帰った後に、爺さんの英雄記を聞く。これが俺の毎日の楽しみだった。
どんなゲームよりも、どんな本よりも楽しかったことを覚えている。
そして先週、興味津々で話を聞いていた俺を見ていて思ったのか、爺さんはいきなり俺を旅に出させようと言い出した。
親は最初猛反対したが、エメラグレイの事を調べてみると、丁度俺が通える学校があったらしく、そこにちゃんと通う事を前提に、エメラグレイに行く事が許された。
親には「森へ入るな」と言われているが、爺さんの戦っていた魔物は森にしかいない。
俺の成長を期待している爺さんの為に、俺も爺さんのように魔物と戦いたい。そして勝って、爺さんに成長したことを認めてもらいたい。
その為に、俺は向こうで学校へ通いつつも、森に入るつもりだ。
父さんと母さんの約束を破る事にはなるが、これは破らなければいけない、俺へのチャンスなのだ。
そして今日の夕方に、俺はこの国から旅立つ。その為に、午前中に荷物をまとめていたのだ。
パスポートと、財布と、電車の切符と、水筒。そんなところだ。
そして俺は今、向こうの学校の制服を着ている。
水兵服に似た襟に、海の底のような色のネクタイ。
俺が通っていた学校には制服が無かったので、制服に身を包むのはとても新鮮だった。
外は潮風で少し肌寒いので、制服の上に、お気に入りの水色のマントを羽織った。
鏡を見てみた。なかなか様になっていると思う。
そして昼になる少し前に、俺は両親と爺さんに別れを告げた。
爺さんは嬉しそうな満面の笑みで「頑張ってこい!」と言い、母さんは細々と注意を話したりと心配し、父さんは相変わらず無口だったが、俺に向かって真っ直ぐに頷いた。
普段学校に行くかのように家を出て、いつものような足取りで道を歩いた。
今日はとても良い天気だった。夕焼けが綺麗に見える。
見慣れた景色。風に乗る潮の香り。
いつもあった物が無い世界で過ごしていくなんて、想像が出来なかった。
道中で、俺の制服姿を見て寂しそうな顔をする友達に出会ったが、俺の心は割と余裕だった。ずっとこの国に住んでいて、他の世界を知らない。旅立つ実感が湧いていなかったのだ。
少し歩いて、最寄り駅から電車に乗り「海月駅」まで行く。
普段はあまり降りる事のない駅に、足を踏み入れたこの時に、やっと、寂しいと感じるようになった。
寂しそうな顔をした友達を思い出し、もう長い間会えないのかと、少しだけ心が苦しくなった。また向こうに着いたら、手紙でも書こうと思う。
ちなみに、海月駅まで行くのには理由がある。ここから少し歩いた先にトゥルヘクに唯一住んでいる魔女に会って、俺はその人に魔法の力で転送して貰うのだ。
今のところ、エメラグレイに行く方法はそれしか無いらしいが、二年後くらいには、エメラグレイとトゥルヘク繋ぐ、海面上の列車が出来ると聞いたことがある。
その列車は、魔法と最新技術の融合によって、実現するのだとか。
「あ、レッドくぅん」
そんな事を考えながら歩き、地図だよりに魔女さんの家の前まで着くと、ちょうど良いタイミングで、後ろから声をかけられた。ゆったりと、落ち着いた声だった。
今日お世話になる魔女さんは俺の爺さんの知り合いらしく、俺と同じ歳だった頃の爺さんの事も、エメラグレイに転送した事があるらしい。
振り向くと、うさぎの耳のような装飾が施された帽子が目に入った。帽子からは綺麗な色をしたふわふわの長い髪が見え、彼女の肩にかかっている大きなバッグには、クラゲのキーホルダーが付いていた。
「こんにちは~。わあ、すごい。昔のあの人と顔立ちがそっくりだねぇ」
「ど、どうも」
「君、エメラグレイ学園に転入するんだって?」
俺はその言葉に頷く。
魔女さんは、俺の着ている制服を見てそう言ったのだろう。
彼女の言う「エメラグレイ学園」。そこが、俺のこれから通う事になる学校だ。
普通の授業に加えて、彼女のように魔法が使えるようになる為の、魔法科の授業があるらしい。正確には「魔法道具が使える」授業だが。
「レッドくん運がいいよぉ。エメラグレイ学園ね、わたしのアニキいるん。魔法科の先生やってるのー」
そう言って彼女はくるくるとその場で回ると、そのまま小走りで家のそばに向かった。
「たまーにトゥルヘクに来るんだけどねぇー。一年に一回しか来ない。しかもたくさんお客さん連れてくるん」
「お客さん?」
「ま、いいや。行こ、レッドくん」
そう言って彼女は背中に隠し持っていた箒を高々と掲げて、俺に見せた。
「えっと、まさか、それに乗って行くんですか?」
「ん? あっそっかぁ。これで海超えたら凍っちゃうね」
魔女と言えば怖いイメージだったのだが、意外と天然な人のようだ。少し安心したような。……しないような。
エメラグレイはかなり遠い所にある。北西に向かって、海を長い間越えないといけない。
それを箒ひとつで行こうなんて、一体何ヶ月かかる事か。
魔女さんは箒をぽいっとその辺に捨てると、その場所に生えていた草が一瞬にして凍ってしまった。それを見て、さっと血の気が引く。
魔法の箒が変に誤作動を起こしてしまったのだろうか。俺があの箒に乗っていたら、今頃あんな感じになっていたのだろうか。
「せやなぁ。前にあの少年を送った時は、転送魔法だった気がするぅ」
「ああ、えっと、そっちでお願いします」
魔女さんはクラゲのキーホルダーを揺らしながら、バッグの中からゴソゴソと、見慣れない魔法道具のようなものを次々と出して行く。
俺も、ああいった魔法道具を使う日が来るのか。やはり、想像ができない。
普通の学校でないことは知っていたが、これから使うことになるであろう魔法道具を目の当たりにすると、これからの日常が少し不安になってしまう。
もしも自分だけ上手く使えなかったら、と。
いやいや、俺は魔法使いになるためにエメラグレイに行くんじゃない。
森へ行って魔物を倒して、爺さんに認められる為だろ。
俺は魔法が使えなくたっていいんだ。
そんな事を考えていると、魔女さんはいきなり「はいどーぞ!」と、俺に小さな小瓶を無理やり渡してきた。
「それは魔法のジュースぅ! 一口飲むだけであっと驚き! いつの間にか向こうに着いてまーす!」
小瓶の中には不思議な色をした、半透明の液体が入っていた。青色かと思えば、見る角度を変えると水色になったり、紫色になったり。
傾けると、少しドロっとした液体だということがわかった。中に入ったキラキラとした粒が、ゆっくりと液体の中を舞っている。
転送魔法とは、この瓶の中に入った液体を飲むだけ……なのか?
魔法陣とか、変な呪文とか、そういうものだと思っていたのだが。
しかしこの手渡された魔法の飲み物は、飲めるものとは到底思えなかった。スノードームのような飾り物と思えば、とても綺麗だと思うし、個人的には欲しいくらいなのだが。
「ささ、どうぞ遠慮なく。グイッと」
魔女さんにそう言われ、俺は意を決して、小瓶の蓋を開けて、中身を一気に飲み干した。
あれ、意外と味が薄い。
少し甘みがあるような気がする。
後味を確認していると、徐々に意識が遠のき、目の前が暗くなっていく。
あれ、これって、転送魔法……じゃ…………
「えっ、この子、生きてるの?」
「たぶん……?」
「あぁっ、校長。すみません、妹はいつも魔法が雑なんです。キー先生のする掃除みたいに」
「なんですって? キー先生にはもう少し指導をしなければなりませんね」
「えっえっ今それ関係なくないですか!?」
声が聞こえる。
年配の女性の声と、優しそうな男性の声と、魔女さんに少し似ている声……
ここは、どこだ……?
「あ、生き返ったわ」
生き返ったも何も、俺はそもそも死んでないぞ。
そう思いながら、自分が寝かされていたソファーから体を起こして、声の主を確認すると、そこには案の定、年配の女性が立っていた。年配と言っても、まだまだ若々しく元気な感じがする。
「あらあら、かわいい顔してるじゃない。よくぞいらっしゃいましたね、レッドさん」
女性は俺の顔を見てそう言った。彼女からふわりと甘い香水の香りがして、頭がくらくらした。まだ状況が把握しきれていない。
「えっと、これは……どういう……?」
辺りを見回してみると、どことなく校長室のような雰囲気だった。
大きな机にはたくさんの書類が乗せられており、周りも本棚でいっぱいだ。
また、魔女さんの持っていた魔法道具と似たようなものもたくさん置いてあった。その中には生命がありそうな、少し不気味な物もあったが、不思議と、この部屋は暖かい雰囲気であった。
「私から説明しましょうか」
そう言ったのは、魔女さんの帽子と似た帽子を被っていた男性だった。
魔女さんとは違い、猫耳のような装飾がついている。可愛らしいが、それよりも男性らしい身体が目立つ。服装さえ変えれば、爽やかな体育会系に見えなくもない。
「あなたは……?」
「私はノクタミア。あなたの学年の担任です。そして彼女はここの校長で、あちらの男性はキー先生と呼ばれてる先生ですよ」
キー先生と紹介された男性は、頭上にあるうさぎのような耳をぴょこぴょこと動かしながら、少し赤らめた顔で眼鏡をしきりに触っていた。
「のっ、ノク先生! 僕の本名はキイラルだって何度も言ってるじゃないですか!」
それを聞いたノク先生と校長先生は、同時にくすくすと笑い出す。
エメラグレイには動物の耳が生えた人間が多く住んでいると聞いていたのだが、本物は初めて見た。トゥルヘクに住んでいた俺にとっては見慣れないものだ。
ノク先生や魔女さんも、もしかしたら、帽子の下には本物の動物の耳が隠されているかもしれない。
「ここはエメラグレイ学園です。レッド君のことを歓迎しますよ」
ノク先生は愛想のいい笑顔で、握手をして来た。
見た目が風変わりだとしても、中身は普通の人が多いみたいだ。
これからの生活に不安を覚えていたが、案外大丈夫みたいで安心した。
「エメラグレイに来たばかりのレッドさんは、まだわからないことがたくさんあると思います。例えば……これとか」
そう言ってノク先生は、キー先生を指さした。
するとキー先生の頭の上にいきなり、銀色の何かが現れて……
クワーーン!
「痛い!」
キー先生のあしもとでグワングワンと回るのは、銀色のタライ。
「ノ~ク~先~生~!!」
キー先生は頭を抑えながら、大笑いしているノク先生を睨む。
その光景に校長先生はあきれていた。
「あっはははは! こんな感じで、魔法が至る所にありますからね。十分に気をつけてください☆」
「ノク先生……転入生を怯えさせるんじゃありません」
なんだか愉快な先生たちだ。
トゥルヘクにいる先生はみんな頭が固く真面目で、冗談が通じなかった。
研究者やお医者さんはそんな事ないのだが、先生は他所からやって来た人が多いので、真面目でいなければと気遣っているのだと思う。
そう思っていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
そしてこの部屋に入ってきたのは、長い髪を二つに結んだ、優しい雰囲気の女性だ。ノク先生のことを呼んでいる。
「あぁ、アロダ先生。えっと、例の事ですか?」
そう言って二人は、俺にとってよくわからない話を交わしていく。
俺はどうすればいいのかわからず、キー先生の顔を見ると、キー先生は「すまないね。ノク先生は案外、忙しい人でね」と、耳元でそう囁いた。
少し待つと、ノク先生は女性の話を承諾したらしく、少し申し訳なさそうな顔で俺の前に来た。
「レッド君、すみません……本当は校内を案内したかったんですけど、今日は少し難しいみたいです」
「そ、そうですか」
「なので、同じクラスの子に案内してもらって下さい」
そうノク先生に言われて数分後。
俺はその「同じクラスの子」を探していた。
エメラグレイ学園の廊下は広く、今は授業中なのか、生徒も先生も見掛けない。
本当にクラスメイトがいるのだろうか……?
「あっ、お前か。転入生」
俺が下の階に行って探しに行こうとした瞬間、後ろから呼び止められた。
振り返ると、俺と同じくらいの背丈の男がいた。
「そっちに行ったら俺と会えなくなるぜ。俺はミント。お前は?」
「レッド……」
「レッドか、わかった。よろしくな」
少し照れくさそうに笑うミント。
彼とは初めて会ったはずなのに、まるで昔から一緒にいた友達のように思えた。
「ノク先生に言われてんだ。校舎を案内してくれって。じゃ、行こう」
ミントそう言って、俺の先を少し歩くと、すぐにぴたりと立ち止まった。
後ろをついて行こうとしたのだが。
「ミント?」
不思議に思って彼の顔を後ろから覗き込むと、彼は口元から笑っていた。
ミントは好奇心の混じった視線をこちらに向ける。
「なあ、お前さ……魔物と戦ってみたいと思わないか?」
何を言い出すのかと思えば……
……ま、魔物!?
「あ、驚いてる。やっぱりトゥルヘクにはいないんだ」
「いや、エメラグレイに魔獣がいることは知ってる。ただ、その、なんだよ。なんで、いきなり」
俺は自分の目的が悟られたのかと思い、慌ててしまった。
別に隠す必要も無いが、魔物のいる森には自分一人で行こうとしていたため、いきなり言われるとは思っていなかったのだ。
「俺、あのノク先生に許可もらって、授業抜け出せてるんだよ。この学校に七年も通ってるけど、こんなこと滅多にないし」
「だから、なんだよ?」
「俺と今から、森に行こうぜ」
会ったばかりの時の顔とは別に、ミントはほくそ笑んでいた。
なんてずるいやつだ。特別に授業を休ませてもらえてるのに、それを利用して森へ行こうとしているなんて。
「お前と一緒に行ったら楽しそうだしさ!」
「うーん……」
しかし、俺も心のどこかでは、楽しそうだとワクワクしてしまっていた。
何しろ、この話に乗れば、俺の目的を一つ果たすことが出来るのだから。
ノク先生たちの中では、今頃俺たちは校内を回っているのだろう。
そう思うと心が痛いが……
……これは破らなければいけない、俺へのチャンスなのだ。
俺達は外靴を持って、渡り廊下から中庭を渡って、外に出ようとしていた。
空は薄くオレンジ色になっていた。
「で……ミント。どうやって戦うんだよ?」
「これで」
そう言って、ミントはポケットから懐中時計のようなものを出した。
しかし中に入っているものは針ではなく、小さな宝石だ。
薄い夕焼けに染まり、綺麗なオレンジ色に見える。
とても綺麗なのだが、それで戦えるとはとても思えない。
爺さんは剣で戦っていたと聞いた。
「それで戦おうって思ってるのか?」
「へへっ、授業でちょっと習ったんだよ。魔物をひるませる魔法」
ミントは得意げに、その魔法道具を制服のポケットの中にしまった。
エメラグレイ学園に通っている生徒は、こんなにも身近に魔法道具を使っているのか。
「レッドも魔法の授業受けたら、使えるようになるよ」
ミントは背中でそう言って、どんどん前を歩いていく。
裏口のような通路を抜けて、学校を出る。ミントが行くのは、人のいない道だった。
歩く地面は石畳から段々と土に変わっていき、生い茂る草木が目立つようになっていく。
森へ続く道に、制服姿の子供が二人。
傍から見ても悪いことをしているのは明らかだが、好奇心は抑えられそうにもない。
今から向かうのは、爺さんが戦った場所なのだから。
トゥルヘクは流石に植物はあるが、森は無い。エメラグレイの森は、写真や絵でしか見たことがなかった。どんな魔物に会えるのだろう。
夕焼けた空は真っ赤に染まり、向こうの方は少し紫色をしていた。これから、暗くなる。
それと同時に、先程までワクワクしていた俺の心も、徐々に不安の方が大きくなって行った。
なぜなら、爺さんからひとつ忠告を聞いたことがあるからだ。いくら魔物と戦おう為でも、森は暗い時に行くものでは無い、と。
俺は森へ入ろうとするミントの背中に向かって、声をかけた。
「やっぱ……帰らないか? 暗くなりそうだし……。その、また今度にしようよ」
しかしミントの好奇心は収まっていないのか、俺の言葉を笑い飛ばした。
「はははっ、レッドお前、魔物にびびってるんだろ」
「そんなわけないだろ!」
変な誤解をされ、俺は怒った。
本当はこんなに急に行くつもりは無かったが、乗りかかった船だ。もういい。行ってやろうじゃないか。
そうして俺たちは、暗くなる空が包む森へと、足を踏み入れたのだった。
歩いて、歩いて、歩いて……
見えてくるのは大木ばかり。
辺りがすっかり暗くなる頃まで、俺たちは森の中をさまよっていた。
足元に映る木漏れ日も、月の光が作っていた。
どのくらい歩いたのだろう。体感的には三時間くらい歩いているように思えるが、本当は三十分なのかもしれない。時計を持ってこれば良かった。
俺たちは森の中でずっと魔物を探していたが、一向に見つかる気配はなかった。
「ミント。お前さっきからどんどん歩いていってるけどさ……これ、帰れるんだよな?」
心配が募り、また俺が後ろからそう呼びかけると、ミントはその場でいきなり立ち止まった。
そして少し間を置いて、こちらを向く。
「……わからないって言ったら怒る?」
「怒るに決まってるだろ」
「あー……うん。じゃあ、盛大に怒ってくれ……」
「はあああ!?」
もう訳が分からない。
ミントの潔く進んでいく姿を見て、てっきり道がわかっているものだと思っていた。
どうするんだ。これじゃあ、もう帰れないどころでは済まないじゃないか。
「すまん、その……こんなつもりは無かったんだ……ごめん、レッド」
「なんだよ、無責任な奴だな! 結局魔物にも会えなかったし……。……はぁ。もう一人で帰る。ついてくんな」
「おい、待てって……!」
俺は呆れて、ミントをその場に置いて来た道を戻って行った。
長いこと歩いてから、少しずつ後ろを向いて確認したが、ミントは本当についてこなかった。
別にもういい。あいつを信じた俺が馬鹿だったんだ。
俺は来た道をなんとなく把握していた。迷わない自信があった。一人で帰ってやる、とそう思っていたのだが……後ろを確認したせいで、気が付けば、来た道の方角がわからなくなってしまった。
振り向いても、通った気がしない道が広がっている。
これは、まずい。
ここはそこまで森の深い場所ではないと思うが、それでも方向が分からなければ意味が無い。進む方向を謝れば、さらに危険な森の深いところまでたどり着いてしまうかもしれない。
エメラグレイに来た初日に、まさかこんな事態に会ってしまうとは……。
なんで、こんな目に遭わないといけないんだ。
そう思っても、怒る気力すら失っていた。
どっと疲れが体を襲い、俺は座り込んだ。眠気も俺を襲ってくる。
もしもこのまま助けが来なかったら、俺はここで野垂れ死んでしまうのか?
ミントも今頃一人で絶望している頃だろう。
俺は自分の行動を改めて思い返して、少し後悔した。どうして一人で帰れるなど、そんな自信があったのだろう。エメラグレイには来たばかりで、森になんて足を踏み入れたことすらないのに。
それに俺は、ミントを見捨ててしまった。あいつも道がわからないのに、俺はあいつを森に置いていこうとしてしまった。酷いことをしてしまった。
夜風が木の葉を揺らす。
異常事態なのに、風の音がなんとなく心地よくて、俺は目をそっと瞑ってみた。
別に死を覚悟した訳じゃない。ただ、心を落ち着かせたかっただけだ。
「はぁ……兄ちゃんの国のとこの子かな。……死んでないよね……?」
足音が聞こえる。
「……うん、息はあるか。……友達二人なら大丈夫……ってか……」
体がふわりと暖かくなった。
「もう森には来るなよ。……僕みたいになって欲しくないからね」
月が綺麗だった。
海面に映る月ばかり見ていた俺にとって、真上に浮かぶ月を見るのは、久しぶりだった。
「レッド!!」
「……!」
俺は気が付けば、森の中ではなく、またしても、いつの間にか校長室にいた。
まさか、今までのは、全部夢……?
「レッドぉ……良かった、死んでなかったぁ……!」
俺の名前を呼んだのは、泣き顔で飛びついてくるミントだった。
校長室の窓は真っ暗だった。夢じゃない。
俺は、助かった……?
「はあ……ミント君。レッド君は来たばかりで疲れているんですよ」
「ごめんなさい……」
校長先生やキー先生はいなかったが、そばにはノク先生がいた。
「あの、えっと……」
俺はまず、不機嫌な顔をしたノク先生に、何から言えばいいのかわからずにまごついていると、俺とミントの頭上に銀色のものが現れて……
クワーーン!
「痛い!」
「痛い!」
二人同時に、タライを落とされてしまった。
「夜の森は危険です。貴方たちの好奇心はわかりますが、森は身の安全を保証しません。これからもう絶対に行こうとしないでくださいよ。わかりましたか?」
ノク先生は両手で頭をさする俺たちに向かって、大きな声でそう言った。
真剣な表情だ。その理由もわかる。
森で一人ぼっちになる恐ろしさを知ってしまった。もう二度と味わいたくない。危ない行為はやめなければ。
また別の方法で、爺さんに認められるようにしないと……。
「返事は?」
ノク先生はそう言って、また銀色の何かを頭上に出現させようとしている。
俺たちは急いで「はい!」と答えた。
すると銀色の何かはしゅるしゅると空気に戻っていく。
「わかったのなら、速やかに寮に戻って下さいね」
「あ、あの、先生。俺たちって、どうやってここに来れたんですか……?」
俺はどうして助かったのかが気になり、ついノク先生に聞いてしまった。
「悪いことをする生徒には教えません」
ノク先生は答えてくれず、そのままぷいと向こうを向いてしまった。
そして俺たちは言われた通り、エメラグレイ学園の寮に向かった。
向かう途中、何度も何度もミントに謝られた。
「ごめん……」
「もういいよ。正直むかついたけど、俺の事心配してくれてたんでしょ」
「うん……ほんとにごめん」
ミントはただ、俺を楽しませたかったのと、自分の好奇心に負けてしまったのだと言う。
彼は自分だけが悪いと言っているが、危険だとわかっているのに、引き返さずに進んでしまったり、そんな危険な場所に、ミントを置いていこうとした自分もいる。
「じゃあ、うん。そうだな、これからも仲良くしてくれたら、許してやらないこともないから。ほら、だからもう謝るなって……。俺にも、悪いところあったし。お互い様でいいよ」
「レッド……。……もちろんだ! いくらクラスが変わっても、一緒に遊ぼうな!」
ミントは少しだけ涙を浮かべながら、最高の笑みを見せた。
それを見てなんだか嬉しくなり、俺も笑った。
「私は道具を使う魔法使いなので……ノクタミア先生にしかわからないと思って」
「はは……近代の人にとっての魔法使いは区別が曖昧になってますから……仕方の無いことですけどね」
「それで、あの森の件なんですけど……一体どうなってるんです? 最近、魔法材料の、そもそもの質が変わってきていると聞いて……」
「ええ……それは……彼女の仕業でしょうね。……封印が、近々解かれるかも知れません」
「あ、あの、魔女が……!? やめてくださいよ、そんなご冗談を」
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