メティス・ラヴァルの冒険書

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学生編

8話 ネアカ君

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8話 ネアカ君

一旦ネアカ・ノーキン君は寮に遅くなる事を連絡しに行き、冒険者ギルドの前の噴水広場で待ち合わせをする事になった。

 
「やぁやぁやぁ!おまたせっ!」

「寮の許可は貰えたの?」

「ああっ!モンモランシ・ラヴァルさんの名前を出したら、すぐ許可が降りたっ!」

「そうなんだ!意外とすぐ許可降りるんだね。」

「学校行ってる間も、クエストで遅くなったり泊まりになるだろっ?!それなのに一々許可が降りないとなると、冒険者として厳しくなるからなっ!」

「そんなもんなんだ。それより君って敬語使えたんだね。てっきりそんなのは無視していつもみたいに話すもんだと思っていたよ。」

「一応なっ!というより、途中からは緊張して敬語になってたっ!」

「なんで緊張したの?」

「だって、迷宮品でしか存在しなかった、あのマジックバックを魔法陣で生産できるようにした人だぞっ!きっと凄い研究を重ねたんだろうなっ!しかも、その一世一代の魔法陣を何の躊躇いもなく世界に向けて無料公開にしたんだぞっ!きっと世界中で格差が出ないようにしたんだぜっ!
天才で聖人じゃないかっ!そんな人と話をして、緊張しない訳ないっ!確実に歴史上の偉人になるぞっ!」

かなり尊敬の眼差しで見ているけど、マジックバックは酒の席で作った魔法陣で、特に研究はしていなかったって本人は言っていたから、単なる天才の思いつきだよ。
無料公開にしたのは、これ以上マジックバックを発展させても、儲けが少ないようにしたんだと思う。そうすると大容量のマジックバックが研究されなくなるから、戦争に使われないように抑制したんだと思う。

あれ?じゃあ結局は天才で聖人になるのか?!
美化され過ぎてるけど、現実でも結果として同じ着地点になる。う~ん。

「けど、母親から聞いていたんじゃないの?知ってたなら、緊張しなくない?」

「いやいやいやっ!無理無理緊張するっ!
んー、例えば国王様に会えるって分かってても、会えば緊張するだろっ?それと同じだっ!」

「なるほどねぇ。けど、大丈夫?!今から一緒にご飯だよ。味わえる?」

「わからねぇっ!あー緊張してきたっ!よし、走って行こうっ!体動かして緊張ほぐしたいっ!!!」

「嫌だよ。急いでないのに地元で大通りを走って移動なんて、恥ずかしいよ。」


~~~~

王都の住宅は
・高い建物に何件か住宅が入っていて、主に家族で住むアパルート
・自分専用の部屋があり、風呂と台所は共有の、主に単身者やパーティー全員で借り上げて利用するシェアー
・専用の庭がついていて、敷地内は一世帯だけのファミリハ
がある。
寮はシェアーと同じ作りになっているけど、違うのはご飯が付いているという事。

ファミリハは住んでる人によって、建物の形に特徴が出る。
蜥蜴系なら床が少し暖かくなるようにしていて、
蝙蝠系なら上から逆さにぶら下がれるようになっている。
猫系なら日当たりのいいごろ寝スペースを作り、
犬系なら防音室があり、遠吠えしたくなったら入るらしい。
獅子系になると庭先に岩があり、偶にそこに登って遠くを見ている。子供が産まれたらそこで担ぎ上げるのが風習らしい。
ないとダメという事ではないけど、あると安心したりリラックスできるから、みんな自分達が住みやすいように家を建てている。

私の家は川の近くのファミリハで、川を挟んだ対岸には、マルゴ商店の工房がある。
庭は家を囲むようにぐるっと一周できるようになっていて、建物も少し?というか、結構特徴がある。
土地はこの地域の平均より2倍程広い。かと言ってあくまで「平均より」なので、もっと広い土地をもっている家もある。
建物としては三階建て、その横には建物より背の高い樹があるのが目立つ。
ただ、よく見ると建物の中から樹が生えている。
樹を中心に建物があるのではなく、建物の端の方に樹が生えていて、家より低い部分は全て家の中に収まっている。
樹が家の中にあると虫が家の中に出ると思うかもしれないけど、不思議と家の中で虫を見かけた事はない。どうも母さんのドリュアスの力で何かしているっぽい。有難い。


「ただいま~」

扉を開けると、リビングにお菓子を用意して待っている母さんが出迎えてくれた

「あら、おかえりなさいメティス。」

「あっ!お邪魔しますっ!初めましてっ!ネアカ・ノーキンと言いますっ!今日はモンモランシ・ラヴァルさんのご好意で、夕飯をご一緒させて頂く事になりましたっ!宜しくお願いしますっ!」

「あら、話は聞いてあるわ。ようこそラヴァル家へ。メティスの母のアツシユよ。お口に合うかわからないけど、今日は楽しんでいってね。」

「はいっ!ありがとうございますっ!楽しみにしていますっ!」


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「はぁぁぁっ!」

「ひょいっとさ」

「うぉっ!!、、、、くっ!」
ネアカ君が父さんに向かって回し蹴りをしたけど、軌道をズラされ、バランス崩し倒れかけた。

少し距離ができ、ネアカ君が半身の構えになり、距離を詰めていく。

間合いの半歩前からステップを踏み出した。

対して父さんは同じ半身の構えを取り、ステップは取らないでいる。

ステップを踏みながら、左で軽く攻撃をするけど、全て手で払いのけられている。
徐々に距離が詰まり攻撃が拳から、掌底、肘となる。
最初は攻撃の終わりをズラされていたけど、だんだんと攻撃の途中からズラされ、最後はネアカ君の攻撃の起点を抑えだした。

なんで、こんな事になっているかと言うと、あの後すぐ父さんが帰ってきて、またガチガチに緊張し出したネアカ君を見て、父さんが「ちょっと裏庭で体を動かさないかい?」と言い出したからだ。
きっと、あのままだと緊張し続けてて、食事を楽しめなかったからの配慮なんだと思う。

「あぁっ!ダメだっ!勝つ糸口が見えないっ!まだまだ修練が足りないなっ!」

「そうだな、攻撃の速さと正確さは15歳にしては素晴らしいと思うぞ。」

「けど、全然攻撃が入らなかったですっ!」

「そうだな、基本に忠実過ぎたから、どうすれば抑えれるかがわかってしまうんだよ。」

「えっ!でも、今まであんな感じにはならなかったのにっ!」

「うむ。どの武芸でも基本はどれも同じ動きだからな。そこから、派生して各武器の特性を生かした動きになる。特に武道家はその動きの根幹だから、熟練者になると動きが読めるようになる。特にノーキン君みたいに、まだ狡猾さのない若者なら特にな。」

「そうですかっ!狡猾さっ!どうすればっ?!」

「経験だ!今まででも普通に勝ててた相手を、如何に楽に勝てるように考える。そして、負ける程強い相手との戦いだな。」

「経験ですかっ!ありがとうございますっ!」

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