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2章 温もりと寂しさと
幕間 ジェラート
しおりを挟む「ふぅ、さっぱり」
お風呂上がり、濡れた髪の毛もそのままにキッチンに向かった。
冷凍庫の扉を引くと、そこにはジェラートたちが眠っている。
ヴィンセントがお邪魔しているお礼にと持ってきてくれた手土産だった。マカロンにチョコにジェラート……どれもこれも、美味しい上に自分ではなかなか手が出ない少し高めのお菓子ばかり。毎回貰ってしまって少し申し訳なくも思うが、最近のちょっとした楽しみになっていた。
からかってくるのが無ければ、ほんとにいいお兄さんなのになぁヴィンセント。
バニラやチョコ、ピスタチオなどどのフレーバーも美味しそうで迷ったが、今回はさっぱり目にフランボワーズを選んだ。
カップのジェラートとスプーンを持ちソファに向かうと、読書をしていたエヴァンが本を置いてこちらを見た。
「ジェラート、エヴァンも食べる?」
「いや、大丈夫」
「そう? あ、甘いもの苦手だったりする?」
エヴァンの横に腰掛ける。
ヴァンパイアになってから食事とは疎遠になっていたらしいエヴァンは、最近また食べ物を食べ始めた。
特に好き嫌いなく何でも挑戦している印象だったが、そういえば甘いものはいけるんだろうか? とふと疑問に思う。
「いや、……昔は食べていたな」
「そうなの?」
「あぁ……父が好きで、紅茶と焼き菓子なんかを時々、口にしていた」
懐かしむように、少し寂しそうにエヴァンは目を細めた。
なんとなくだけど、お父さんとの思い出はエヴァンにとって大事な物なんだろうと感じる。
「すっかり忘れていた」
エヴァンは微笑んでいたけれど、その言葉に寂しさを覚えた。
大切な出来事も、思い出も、時間が経つと忘れてしまう。
ほんの数年前のことですらそうなのだから、ヴァンパイアの長い時の流れでは、きっと忘れること自体当たり前なんだろう。
だけど、思い返して温かい気持ちになれるような幸せな思い出は多いに越したことはない。
「エヴァン、こうみえて俺、簡単なお菓子なら作れるんだ。クッキーとかスコーンとか」
「そうなのか?」
「うん! ヴィンセントからもらったものもまだ余ってるし……だから、今度一緒にお茶しよう! カフェに行ってもいいしね」
大事な時間や思い出を感じられるひとときをまた体験して欲しい。
お節介って言われちゃうかなと思ったが、エヴァンは柔らかく微笑んで俺を見つめた。
「ありがとう、レオ」
孤独を纏う彼の笑顔は俺にとって特別だった。
もしお茶会をして、エヴァンが彼の父親との思い出に浸れたなら本望だ。
同時に、俺と過ごした時間も彼の大切な記憶の一つになったらな、なんて、思ってしまう。
「それ、溶けるぞ」
ふっと笑うエヴァンにはっとする。
つい見惚れてしまっていた。
「いただきまーす!」
カップの蓋をあけると鮮やかな赤色のジェラートが顔をのぞかせる。幸いにもまだ溶けてはいなかった。
一口、口に運ぶとひんやりとしてラズベリーの爽やかで濃厚な甘さが広がった。
「ん~、おいし」
もともとのジェラートの美味しさに加え、お風呂上がりで火照っているのも相まって身体に染み渡るようだ。
「やっぱお風呂上がりはアイスに限るね」
感極まって隣のエヴァンに話しかける。
「そういうもんか?」
「うん、至福のひととき」
美味しい甘味に、大好きな人の近くにいられる幸せも加わり幸福感に包まれる。
頬を緩め穏やかな表情の彼に、一口すくったジェラートを差し出してみる。
「エヴァンにもおすそわけ」
彼は何も言わずにスプーンを口に含んだ。
「ん、冷たい」
そう言ってじっくり味わう。
確かめるように、少し悩みながら。
エヴァンを真似て俺ももう一口食べて舌の上でゆっくりと溶かした。
「甘いな……それから、んー」
「ちょっと酸っぱい。甘酸っぱいってやつだね」
「あまずっぱい」
俺の言葉を繰り返していって、納得したように頷く仕草がかわいらしい。
お風呂上がりのアイスはそれだけでも幸せだけど、エヴァンの反応を眺めながら食べるのはもっともっといいな。
これからも、こんな何気ない幸せをエヴァンと感じていけたらいいのにと思いながら、もう一口ジェラートを口に運んだ。
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