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第二章 恐怖の強制ルームシェア
2-3 奴隷初日、突然の誘拐。
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盛大に悲鳴を上げたオレに、タカを含めたクラスの視線が集中する。でもオレはそれどころじゃなくて、いきなり後ろに現れたラスボスの存在に思い切り翻弄されていた。
頭の中で危険信号が鳴り響く。身体が一気に緊張に強ばる。血の気が引くほどビビったのに、昨日のことや今朝見た夢を思い出しては、今度は血熱が巡り顔が火照る。
九重はそんなオレを見て、クスクスと愉しげに笑みを漏らした。
「そんなに驚くとは思わなかったな。ビックリさせたなら、ごめん」
ごめん、だと? ああ、いつもの表向きの優等生モードか。九重のこの言葉で、事態を把握したクラスメイト達の注目が散り散りに戻っていく。なんだ、また花鏡と九重が闘り合ってるだけか。……そんな雰囲気で。
「だけど、こんな教室のとば口に居たら、他の人が入りにくいから気をつけた方がいいよ。……風見も。おはよう」
「おう……」
タカの返答も、相変わらず歯切れが悪い。オレが九重のことを毛嫌いしてるから、タカも普段から九重にはあまり関わらない。むしろ、どこか警戒してる節がある。
それを知ってか知らずか、九重も絡んでくるのはオレばかりで、タカにはあまり関心を示してこなかった。互いにどこか牽制し合うような視線が、頭上で交わされる。(ムカつくことに九重もオレよりちょっとだけ背が高い)
それから、九重は長い睫毛をふっと伏せるように、視線を下げた。
「……リストバンド」
思わず、ハッとする。奴の目線が捉えていたのは、オレの両手首のそれだった。一対の布の下に何が隠されているのか、知っているくせに九重は白々しく言う。
「カッコイイね。花鏡はいつもオシャレだ」
「それは……どうも」
ぐぉおお、ぶん殴りてぇええ!! 握り締めた拳が震える。それでも、オレは何とか堪えた。偉い。九重はそのまま「じゃあ」と告げると、拍子抜けするくらいあっさりと離れていった。
何かもっと、嫌がらせ的にタカの前で揺さぶりを掛けてくるんじゃないかと思ってたけど……。アイツもタカにはあのこと知られたくない風だったしな。そんな危険な真似は冒さないか。
「トキ、大丈夫か?」
タカが訊く。いけね、タカに心配させちまってる。オレ、やっぱり顔に出やすいんだな。気を付けよう。
「おう、平気だ」
と本日何度目かの嘘を吐いて、オレの脅迫ライフ初日が改めて開戦を告げたのだった。
◆◇◆
結論から言うと、何にもなかった。
あの画像が携帯に送られてきて指令を与えられたりとか、休み時間の度にトイレの個室に呼び出されてイタズラされたりとか、昼休みに購買のパンをパシらされ、ついでに屋上でいやらしいことされるんじゃねーかとか……色々戦々恐々と過ごしていたのに、見事に九重からは何のアクションも無いまま放課後を迎えた。
放課後こそ何か仕掛けてくるかと身構えていたが、アイツは早々に教室を出て行ったし、それも無さそうだ。
――無い。何も無さすぎる。逆に怖い。何を考えてやがるんだ? アイツ。
もしかして、オレが悲観的に考え過ぎてただけか?
……そうだよな。アイツ、ゲイじゃないって言ってたし。昨日のはあくまでオレの弱味を作る為で、別にアイツ自身はさしてオレには興味が無いんじゃないか?
オレがアイツの本性を言い触らさない為の口封じで、それ以上はアイツからオレに何かするつもりもないのかもしれない。
――何だ、そうか。そういうことか。
一人勝手に納得して、深い安堵の溜息を吐く。それと同時に、胸の奥に消化しきれないモヤモヤが生じた。
くっそ……アイツ、振り回しやがって。今に見てろよ。オレがやられたままで居ると思うな。また何か切り札を見つけて、脅し返してやる。
新たな決意を胸に、部室棟に向かうタカと別れて校門を出た。校外は、何だか騒がしい。帰路に着く生徒達が何やら一点を見遣って、ひそひそと言い交わしている。視線の先を辿ると、そこには一台の黒いリムジンが停まっていた。
高級車でお馴染みの、あの長いやつ。ダックスフンドみたいな車体には、運転手以外誰の姿もない。
……何でこんなとこに?
疑問に思ったその時、運転手がドアを開けて降りてきた。そうして、オレの元に寄ってくる。
「花鏡様ですね。お迎えに上がりました」
「――は?」
「蓮様がお待ちです」
レン……? 一瞬、誰だ? と思ってから、ハッとする。蓮は、九重の下の名前だ。アイツ、ここに来て何か仕掛けて来やがったな! もう何も無いと思って、完全に油断してた。
警戒するオレに、運転手はあくまでも事務的に乗車を促した。逡巡するも、あの画像のことを思うと従わざるを得ない。
ふと、タカに見られてやしないかと不安になり、周囲に目を配る。見慣れない高級車に興味津々だった観衆達は、迎えられたのがオレだと知ると、納得した様子で(なにせオレは実家が金持ちで有名だ)各々の関心事へと戻っていった。その中に、タカの姿のないことを確認すると、オレはひとまずホッとして客席に乗り込んだ。
車は、程なく滑り出した。……一体どこに連れてくつもりだ。運転手に訊いても、「蓮様からのご指示で詳細は申し上げられません。『着いてからのお楽しみだ』とのことです」と躱されてしまった。
こうしていると、誘拐された時のことを思い出して嫌な汗が出る。といっても、あの時起こったことは、オレの心のキャパシティを超えたていたせいか、実は明瞭には覚えていない。とにかく、凝った恐怖心だけがハッキリと記憶に刻まれている。
九重の名前を出したくらいだから、これはまさか誘拐じゃあないだろうが。……いや、ある意味これも誘拐か?
睨むように外の景色を眺めながら、車内でじりじりと過ごした。車はやがて、高級住宅街へと入り込む。無限のように感じられた移動時間は、そこで終わりを迎えた。
「こちらです」
と運転手が到着を告げたのは、見るからに家賃が高そうなタワーマンションの前。聳え立つ銀の威容が、地上のちっぽけなオレを見下ろしていた。
頭の中で危険信号が鳴り響く。身体が一気に緊張に強ばる。血の気が引くほどビビったのに、昨日のことや今朝見た夢を思い出しては、今度は血熱が巡り顔が火照る。
九重はそんなオレを見て、クスクスと愉しげに笑みを漏らした。
「そんなに驚くとは思わなかったな。ビックリさせたなら、ごめん」
ごめん、だと? ああ、いつもの表向きの優等生モードか。九重のこの言葉で、事態を把握したクラスメイト達の注目が散り散りに戻っていく。なんだ、また花鏡と九重が闘り合ってるだけか。……そんな雰囲気で。
「だけど、こんな教室のとば口に居たら、他の人が入りにくいから気をつけた方がいいよ。……風見も。おはよう」
「おう……」
タカの返答も、相変わらず歯切れが悪い。オレが九重のことを毛嫌いしてるから、タカも普段から九重にはあまり関わらない。むしろ、どこか警戒してる節がある。
それを知ってか知らずか、九重も絡んでくるのはオレばかりで、タカにはあまり関心を示してこなかった。互いにどこか牽制し合うような視線が、頭上で交わされる。(ムカつくことに九重もオレよりちょっとだけ背が高い)
それから、九重は長い睫毛をふっと伏せるように、視線を下げた。
「……リストバンド」
思わず、ハッとする。奴の目線が捉えていたのは、オレの両手首のそれだった。一対の布の下に何が隠されているのか、知っているくせに九重は白々しく言う。
「カッコイイね。花鏡はいつもオシャレだ」
「それは……どうも」
ぐぉおお、ぶん殴りてぇええ!! 握り締めた拳が震える。それでも、オレは何とか堪えた。偉い。九重はそのまま「じゃあ」と告げると、拍子抜けするくらいあっさりと離れていった。
何かもっと、嫌がらせ的にタカの前で揺さぶりを掛けてくるんじゃないかと思ってたけど……。アイツもタカにはあのこと知られたくない風だったしな。そんな危険な真似は冒さないか。
「トキ、大丈夫か?」
タカが訊く。いけね、タカに心配させちまってる。オレ、やっぱり顔に出やすいんだな。気を付けよう。
「おう、平気だ」
と本日何度目かの嘘を吐いて、オレの脅迫ライフ初日が改めて開戦を告げたのだった。
◆◇◆
結論から言うと、何にもなかった。
あの画像が携帯に送られてきて指令を与えられたりとか、休み時間の度にトイレの個室に呼び出されてイタズラされたりとか、昼休みに購買のパンをパシらされ、ついでに屋上でいやらしいことされるんじゃねーかとか……色々戦々恐々と過ごしていたのに、見事に九重からは何のアクションも無いまま放課後を迎えた。
放課後こそ何か仕掛けてくるかと身構えていたが、アイツは早々に教室を出て行ったし、それも無さそうだ。
――無い。何も無さすぎる。逆に怖い。何を考えてやがるんだ? アイツ。
もしかして、オレが悲観的に考え過ぎてただけか?
……そうだよな。アイツ、ゲイじゃないって言ってたし。昨日のはあくまでオレの弱味を作る為で、別にアイツ自身はさしてオレには興味が無いんじゃないか?
オレがアイツの本性を言い触らさない為の口封じで、それ以上はアイツからオレに何かするつもりもないのかもしれない。
――何だ、そうか。そういうことか。
一人勝手に納得して、深い安堵の溜息を吐く。それと同時に、胸の奥に消化しきれないモヤモヤが生じた。
くっそ……アイツ、振り回しやがって。今に見てろよ。オレがやられたままで居ると思うな。また何か切り札を見つけて、脅し返してやる。
新たな決意を胸に、部室棟に向かうタカと別れて校門を出た。校外は、何だか騒がしい。帰路に着く生徒達が何やら一点を見遣って、ひそひそと言い交わしている。視線の先を辿ると、そこには一台の黒いリムジンが停まっていた。
高級車でお馴染みの、あの長いやつ。ダックスフンドみたいな車体には、運転手以外誰の姿もない。
……何でこんなとこに?
疑問に思ったその時、運転手がドアを開けて降りてきた。そうして、オレの元に寄ってくる。
「花鏡様ですね。お迎えに上がりました」
「――は?」
「蓮様がお待ちです」
レン……? 一瞬、誰だ? と思ってから、ハッとする。蓮は、九重の下の名前だ。アイツ、ここに来て何か仕掛けて来やがったな! もう何も無いと思って、完全に油断してた。
警戒するオレに、運転手はあくまでも事務的に乗車を促した。逡巡するも、あの画像のことを思うと従わざるを得ない。
ふと、タカに見られてやしないかと不安になり、周囲に目を配る。見慣れない高級車に興味津々だった観衆達は、迎えられたのがオレだと知ると、納得した様子で(なにせオレは実家が金持ちで有名だ)各々の関心事へと戻っていった。その中に、タカの姿のないことを確認すると、オレはひとまずホッとして客席に乗り込んだ。
車は、程なく滑り出した。……一体どこに連れてくつもりだ。運転手に訊いても、「蓮様からのご指示で詳細は申し上げられません。『着いてからのお楽しみだ』とのことです」と躱されてしまった。
こうしていると、誘拐された時のことを思い出して嫌な汗が出る。といっても、あの時起こったことは、オレの心のキャパシティを超えたていたせいか、実は明瞭には覚えていない。とにかく、凝った恐怖心だけがハッキリと記憶に刻まれている。
九重の名前を出したくらいだから、これはまさか誘拐じゃあないだろうが。……いや、ある意味これも誘拐か?
睨むように外の景色を眺めながら、車内でじりじりと過ごした。車はやがて、高級住宅街へと入り込む。無限のように感じられた移動時間は、そこで終わりを迎えた。
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