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8.お春の周りは皆家族
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この時代の家を知らない。帰り道が分からない筈、でも体は覚えてるものだ。日常的に通っていた道は曲がったりする通りまでも体が反射的に動く。そうの体の本来の持ち主のお春が結花の一歩先から引っ張って歩いている様で結花は歩いているという感覚はなかった。
見覚えのあった。最初に通った大通りの奥ばった細道を二、三抜けるとそこには何軒もの長屋が並んでいた。
ーこの先にお春の····家が·····ー
体が引かれる感覚が徐々に緩まり辺りを見回していると数軒先に見覚えのある人影があった。大通りで会ったおばさんが長屋の前に立っていた。
不意におばさんが何かを探すかのよ様にきょろきょろと周りを見ていたが結花の方を向いて手を振り声を張り上げる。
「お春ちゃん! 心配したで。
何や、急に行ってしもうて、体調は良くなさそうやったのに家に帰ったと思って訪ねたんやが居やしないやから待っていたんやで。」
ぐわっと凄まじい行きよいで結花の元まで迫り頬を掴まれ覇気ある顔でじっくり見られた。
余りの迫力から結花は呆気にとられていたが顔色を確認したおばさんはさらに体をま探り触ってきて良しと言い一人納得した仕草をした。
ーな···な、に、どうしたのっっっ。ー
内心焦りおばさんの行動の意図が分からず困惑を隠せれない。
「あ、あの······」
「うん、怪我はなさそうやね。」
「うぇっ···?」
にっこりおばさんが微笑み安心した様に零したことで結花は心配されていたことに気づいた。
ほんの僅かな間お春と話したが気性の優しい可愛いらしい女の子だったお春は周りが気にかけて駆けつけるぐらい大切にされている事は目の前に居るおばさん容易に想像がつく。
結花は今の光景に心が綻ぶのを感じたのと同時に羨ましくも思う。
傍から見たら一層可愛がられているのが分かる。けれどお春はそれに気づかずに遠慮し続けているのだろう。
結花は時代の人間ではない。だからこそ人の思いの薄さが際立ち、この時代の人の繋がりの強さを痛感さられるる様な感覚を覚えた。
「なっなんや!やっぱり怪我しとるんかい?」
安心した表情からぎょっとしたように又眉を八の字に変え戸惑いだした。
視界が歪み頬を伝い雫が零れる。
おばさんの優しさに触れて心が緩んだのか安心たのか結花も自身の涙に驚いていた。
「···いえ、大丈夫です。何だか嬉しくって、おばさんありがとう。」
「そうかい?なら良かったわ」
真っ直ぐ優しさを受けるのは無かったかもしれない。いや、違う。気づけなかっただけで隣の家の幼なじみは気に掛けてくれたけれど結花は何時しか距離を徐々に置いていった。だからか最近は余り会っていない。今思えば結花には幼なじみが支えてくれたお陰でお母さんの事頑張れていた。今だから幼なじみの優しさが分かる。
この思いがお春にも伝わることを願ってた。
不意に頭にお春のか細い声がこだます。
━ありがとう。····季布さんっっっ ━
おばさん·····いいや、季布さんとの思い出が流れて来る。
季布さんの日々のやり取りを思い出している内にお春のお父さんのことが垣間見えてきた。
お春のお父さんとの光景が結花とお母さんに重なって見える。身体が弱いお母さんの為家事をこなし、高校生に成ってからはバイトを掛け持ちして生活費の助け目まぐるしく忙しない生活をする事で結花は自身を保っていた。
同じだ。境遇から今に至る迄の生活に置いて全て重なって見える。
━お母さんっっ。━
胸が苦しく身体が重くなる。
結花はお春の気持ちが分かるからこそ家までの一歩が踏み出せない。
動かない結花をよそに季布さんは結花の腕を掴んで家に行き扉を開けるが、入るやいなや玄関に結花を一旦座らせた。真っ直ぐお春のお父さんが居る部屋に向かうと思っていたからポカンとしていた結花に季布さんは袖から出した物を口に含ませた。いきなりの事に驚いたけれど懐かしい味に季布と袖元から出した物を交互に見る。口の中で熱によって溶けるデコボコの甘い口当たりに身に覚えがあった。金平糖だ。甘い物とは不思議で、どんな気持ちでも甘い物を食べるだけで誰もが口が綻んでしまう。お陰で、気を張り気味だった結花ほ力が抜け気落ちしていたのが少し軽くなった様だ。
「甘いやろ? 金平糖っ言うやって、南蛮品らしんやけど知り合いが分けてくれてん。お春ちゃん甘味好きやから少しあげるわ。」
そっと手の平さいずの小袋に入った金平糖を渡された。良いのだろうか。結花の時代に極普通に何処にでもある安価に買える菓子だがこの時代ではそうそうある物ではなく、南蛮品ともなると限られた所で高目で余り買えないはず。それなのに、季布はお春にあげると言うのだ。気を使わせてしまった。普段と様子が違うお春を元気付けようとしてたらしい。だが実際には見た目はお春だが意識は結花であって別人なのだから様子可笑しくて当然とも言える。だから反応に困ったが、ここは季布の好意に甘えておいた方が良いだろう。
「····あり、がとうございます。」
「ええよ、気にせんで。頑張ってるお春ちゃんへのご褒美やと思っておき。甘味は元気の源やからね。」
そう言い優しい眼差しで結花に微笑みかけ吊られて笑みが零れた。落ち着いた結花を連れ立ち今度こそお春のお父さんが居る部屋の襖を開ける。
「幸助はん入るで。」
部屋の中に居るのは布団から身を上半身だけ起き上がらせたいかにも身体が弱い痩せ細った男がいた。
「やっとお春ちゃん帰ってきはって。幸助はんと心配してたんけど暗なる前で良かったわ。物騒な輩が多いからね。でも幸助はんのとこに来るの遅くなったのは私と話し込んでいたやからすまんね。」
「季布はん申し訳ないのはこちらの方や。わてもこんな身体でお春にも季布はんにも苦労ばかり重ねて·····お春もすまんな、ろくに自分の物買えんへんで。」
やつれ顔に眉を八の字にし謝られてしまっては言葉を詰まらせ何も言えなく結花は俯いてしまう。
布団の端で黙ったままの結花が気になり幸助はやんわりとけれど結花を嫌とは言えない様に言いるめる。
「お春おいで。」
「·········」
「ほらおいで。そんな隅っこにいては寂しいやからお父はんの傍に来ておくれ、じゃないとお父さはんがお春の傍まで行くで。」
俯きながらも静かに幸助の傍に座る。いざ、お春の父の幸助をするとお母さんと重なり見ていられなくなり目を逸らしていた。ふわりと結花の頭を撫で始めた幸助の暖かさに、今まで思いと止めていた感情が吹き出しぽろぽろ涙の波が止めどなく溢れる。
「っっ······うぅっ·····うぅぁぁぁぁあ·····」
「········」
突如泣き出した結花に何も言わず変わらぬ優しい手付きであやす様に程よいテンポで撫で続けた。季布も戸惑いはあるが何も言わずただ見守って居る。
どれだけ泣いたか分からないが目が充血しているからか熱く、瞼が腫れて重い。
身体をむくりと起き上がらせて幸助をじっと見つめる。いきなり泣き出した事をどう言ったものかと不安もあるが、何か言わないとと結花が話しだそうとしたが遮られる───。
「あっ────」
「大丈夫。大丈夫や。何も言わんでもええ。お春は頑張り屋で頑固な娘や、泣きたい時は泣けやええ。親子でも言えんことはあるやから話したくない事は無理に聞かん、言える様なったら話してくれたらええからそれまで待っとる。」
「ご、ごめんなさい───」
「ええよ、ええよ。そいや、お春がお世話になっとる宿屋の者が来てのな荷物とこれ迄の給金置いてったのやが、どういう事や。」
「えっ·······」
そんな事聞かれても結花に分かるはずもない。お春の記憶が頭にあると言っても疎らで短い物ばかりで特に家族の身近な記憶が多かった為お春の稼ぎ先に関する記憶はなかったというよりもお春によって遮断されて知る由もなかった。
━あの~、お春ちゃん。·····もしかして勤め先から暇を出されたっとかじゃ無いよね·····━
一向に何も言わないお春。これは事実お春は宿屋にクビを切られたのだろう。実際何があったか知らない結花は困惑するしかない。だが、幸助察しがついていた様で溜息と共に「またかいな」と漏らした。「また」という事は前にも何かあったというのだろうかとまだこの時代に馴れない結花が惟ても分かるはずも無い。
「何も、抵抗しないでお手付きに合うのをだまったままにしろとは言わしんが、やり方っと言うもんがあるやろ。あろうことか平手打ちして相手を傷付けるとは·····あれ程気おつけろといようったのに今度もやってもうて」
「ごめんなさい······」
ここは謝るしかない。内心、結花は何がどうなってお春が手を上げてしまったのか気になるところではあるが記憶にあるお春は優しい、儚げ、可愛い印象しかなくそんな行動力溢れる女の子とは欠片も思わなく驚いた。
「·····はぁ。してしもうたものはしゃなし。わてがこんなんさかいお春に世話してもらうばかりで何も言えたこったないが余り事を起こしたあかんで、お春にも何かあったらって思うだけで倒れそうや」
「これからは気おつける····」
倒れる何て冗談に思えない事を言う幸助にこれ以上心配掛けないようにしないといけない。だが流石に働かないとどの道生活が成り立たない状況な為働き口を探さないといけないと唸る。
─この時代はどうやって仕事を見つけるのかな?張り紙があるか分からんけどハローワークみたく仕事の斡旋してくれるとこなんてここにはなさそうだし····─
「····仕事探さないと·····はぁっっっ──」
「なぁ、お春ちゃん。仕事探すんやら良かったら知り合い茶屋で働いてくれへんか····」
今まで黙って見守っていた季布が不意にありがい事に知り合いに宛がるからと仕事を紹介してくれるそうだ。
「そらぁ、ええなぁ。季布はんの知り合いのとこなら安心や。」
「····良いんですか?」
「ええよ。お春ちゃんがええならやけど。」
「よろしくお願いします!」
「そんなら、明日にでも行くさかい。ええかい?」
「はい!」
思わぬとこから舞い込んだ仕事に結花の沈んだ空気が少し明るくやる気に満ちて今から意気込んで居る。
「今からそないいきこんどって明日がもたんで、さぁ今日のとこは疲れとるやろうから早よ休み。わてはそろそろおいとますんで、ほな又明日ね。」
季布が帰り静けさが漂う部屋に幸助の気遣いとも取れる優しい声が響く。
「お···お父さ───」
「疲れたやろ。今日は早よ休みや、明日も早いんやろからな。」
「·····うん」
ぽんぽんと布団を叩き結花に布団に入る様促し、結花は中に入ると瞼の重みに負け夢の中に溶け込んでいったと共にお春はこの日以来深く眠りに着いてしまった。そして一人、幸助は結花を見定めるかの様な眼差しを向ける。
見覚えのあった。最初に通った大通りの奥ばった細道を二、三抜けるとそこには何軒もの長屋が並んでいた。
ーこの先にお春の····家が·····ー
体が引かれる感覚が徐々に緩まり辺りを見回していると数軒先に見覚えのある人影があった。大通りで会ったおばさんが長屋の前に立っていた。
不意におばさんが何かを探すかのよ様にきょろきょろと周りを見ていたが結花の方を向いて手を振り声を張り上げる。
「お春ちゃん! 心配したで。
何や、急に行ってしもうて、体調は良くなさそうやったのに家に帰ったと思って訪ねたんやが居やしないやから待っていたんやで。」
ぐわっと凄まじい行きよいで結花の元まで迫り頬を掴まれ覇気ある顔でじっくり見られた。
余りの迫力から結花は呆気にとられていたが顔色を確認したおばさんはさらに体をま探り触ってきて良しと言い一人納得した仕草をした。
ーな···な、に、どうしたのっっっ。ー
内心焦りおばさんの行動の意図が分からず困惑を隠せれない。
「あ、あの······」
「うん、怪我はなさそうやね。」
「うぇっ···?」
にっこりおばさんが微笑み安心した様に零したことで結花は心配されていたことに気づいた。
ほんの僅かな間お春と話したが気性の優しい可愛いらしい女の子だったお春は周りが気にかけて駆けつけるぐらい大切にされている事は目の前に居るおばさん容易に想像がつく。
結花は今の光景に心が綻ぶのを感じたのと同時に羨ましくも思う。
傍から見たら一層可愛がられているのが分かる。けれどお春はそれに気づかずに遠慮し続けているのだろう。
結花は時代の人間ではない。だからこそ人の思いの薄さが際立ち、この時代の人の繋がりの強さを痛感さられるる様な感覚を覚えた。
「なっなんや!やっぱり怪我しとるんかい?」
安心した表情からぎょっとしたように又眉を八の字に変え戸惑いだした。
視界が歪み頬を伝い雫が零れる。
おばさんの優しさに触れて心が緩んだのか安心たのか結花も自身の涙に驚いていた。
「···いえ、大丈夫です。何だか嬉しくって、おばさんありがとう。」
「そうかい?なら良かったわ」
真っ直ぐ優しさを受けるのは無かったかもしれない。いや、違う。気づけなかっただけで隣の家の幼なじみは気に掛けてくれたけれど結花は何時しか距離を徐々に置いていった。だからか最近は余り会っていない。今思えば結花には幼なじみが支えてくれたお陰でお母さんの事頑張れていた。今だから幼なじみの優しさが分かる。
この思いがお春にも伝わることを願ってた。
不意に頭にお春のか細い声がこだます。
━ありがとう。····季布さんっっっ ━
おばさん·····いいや、季布さんとの思い出が流れて来る。
季布さんの日々のやり取りを思い出している内にお春のお父さんのことが垣間見えてきた。
お春のお父さんとの光景が結花とお母さんに重なって見える。身体が弱いお母さんの為家事をこなし、高校生に成ってからはバイトを掛け持ちして生活費の助け目まぐるしく忙しない生活をする事で結花は自身を保っていた。
同じだ。境遇から今に至る迄の生活に置いて全て重なって見える。
━お母さんっっ。━
胸が苦しく身体が重くなる。
結花はお春の気持ちが分かるからこそ家までの一歩が踏み出せない。
動かない結花をよそに季布さんは結花の腕を掴んで家に行き扉を開けるが、入るやいなや玄関に結花を一旦座らせた。真っ直ぐお春のお父さんが居る部屋に向かうと思っていたからポカンとしていた結花に季布さんは袖から出した物を口に含ませた。いきなりの事に驚いたけれど懐かしい味に季布と袖元から出した物を交互に見る。口の中で熱によって溶けるデコボコの甘い口当たりに身に覚えがあった。金平糖だ。甘い物とは不思議で、どんな気持ちでも甘い物を食べるだけで誰もが口が綻んでしまう。お陰で、気を張り気味だった結花ほ力が抜け気落ちしていたのが少し軽くなった様だ。
「甘いやろ? 金平糖っ言うやって、南蛮品らしんやけど知り合いが分けてくれてん。お春ちゃん甘味好きやから少しあげるわ。」
そっと手の平さいずの小袋に入った金平糖を渡された。良いのだろうか。結花の時代に極普通に何処にでもある安価に買える菓子だがこの時代ではそうそうある物ではなく、南蛮品ともなると限られた所で高目で余り買えないはず。それなのに、季布はお春にあげると言うのだ。気を使わせてしまった。普段と様子が違うお春を元気付けようとしてたらしい。だが実際には見た目はお春だが意識は結花であって別人なのだから様子可笑しくて当然とも言える。だから反応に困ったが、ここは季布の好意に甘えておいた方が良いだろう。
「····あり、がとうございます。」
「ええよ、気にせんで。頑張ってるお春ちゃんへのご褒美やと思っておき。甘味は元気の源やからね。」
そう言い優しい眼差しで結花に微笑みかけ吊られて笑みが零れた。落ち着いた結花を連れ立ち今度こそお春のお父さんが居る部屋の襖を開ける。
「幸助はん入るで。」
部屋の中に居るのは布団から身を上半身だけ起き上がらせたいかにも身体が弱い痩せ細った男がいた。
「やっとお春ちゃん帰ってきはって。幸助はんと心配してたんけど暗なる前で良かったわ。物騒な輩が多いからね。でも幸助はんのとこに来るの遅くなったのは私と話し込んでいたやからすまんね。」
「季布はん申し訳ないのはこちらの方や。わてもこんな身体でお春にも季布はんにも苦労ばかり重ねて·····お春もすまんな、ろくに自分の物買えんへんで。」
やつれ顔に眉を八の字にし謝られてしまっては言葉を詰まらせ何も言えなく結花は俯いてしまう。
布団の端で黙ったままの結花が気になり幸助はやんわりとけれど結花を嫌とは言えない様に言いるめる。
「お春おいで。」
「·········」
「ほらおいで。そんな隅っこにいては寂しいやからお父はんの傍に来ておくれ、じゃないとお父さはんがお春の傍まで行くで。」
俯きながらも静かに幸助の傍に座る。いざ、お春の父の幸助をするとお母さんと重なり見ていられなくなり目を逸らしていた。ふわりと結花の頭を撫で始めた幸助の暖かさに、今まで思いと止めていた感情が吹き出しぽろぽろ涙の波が止めどなく溢れる。
「っっ······うぅっ·····うぅぁぁぁぁあ·····」
「········」
突如泣き出した結花に何も言わず変わらぬ優しい手付きであやす様に程よいテンポで撫で続けた。季布も戸惑いはあるが何も言わずただ見守って居る。
どれだけ泣いたか分からないが目が充血しているからか熱く、瞼が腫れて重い。
身体をむくりと起き上がらせて幸助をじっと見つめる。いきなり泣き出した事をどう言ったものかと不安もあるが、何か言わないとと結花が話しだそうとしたが遮られる───。
「あっ────」
「大丈夫。大丈夫や。何も言わんでもええ。お春は頑張り屋で頑固な娘や、泣きたい時は泣けやええ。親子でも言えんことはあるやから話したくない事は無理に聞かん、言える様なったら話してくれたらええからそれまで待っとる。」
「ご、ごめんなさい───」
「ええよ、ええよ。そいや、お春がお世話になっとる宿屋の者が来てのな荷物とこれ迄の給金置いてったのやが、どういう事や。」
「えっ·······」
そんな事聞かれても結花に分かるはずもない。お春の記憶が頭にあると言っても疎らで短い物ばかりで特に家族の身近な記憶が多かった為お春の稼ぎ先に関する記憶はなかったというよりもお春によって遮断されて知る由もなかった。
━あの~、お春ちゃん。·····もしかして勤め先から暇を出されたっとかじゃ無いよね·····━
一向に何も言わないお春。これは事実お春は宿屋にクビを切られたのだろう。実際何があったか知らない結花は困惑するしかない。だが、幸助察しがついていた様で溜息と共に「またかいな」と漏らした。「また」という事は前にも何かあったというのだろうかとまだこの時代に馴れない結花が惟ても分かるはずも無い。
「何も、抵抗しないでお手付きに合うのをだまったままにしろとは言わしんが、やり方っと言うもんがあるやろ。あろうことか平手打ちして相手を傷付けるとは·····あれ程気おつけろといようったのに今度もやってもうて」
「ごめんなさい······」
ここは謝るしかない。内心、結花は何がどうなってお春が手を上げてしまったのか気になるところではあるが記憶にあるお春は優しい、儚げ、可愛い印象しかなくそんな行動力溢れる女の子とは欠片も思わなく驚いた。
「·····はぁ。してしもうたものはしゃなし。わてがこんなんさかいお春に世話してもらうばかりで何も言えたこったないが余り事を起こしたあかんで、お春にも何かあったらって思うだけで倒れそうや」
「これからは気おつける····」
倒れる何て冗談に思えない事を言う幸助にこれ以上心配掛けないようにしないといけない。だが流石に働かないとどの道生活が成り立たない状況な為働き口を探さないといけないと唸る。
─この時代はどうやって仕事を見つけるのかな?張り紙があるか分からんけどハローワークみたく仕事の斡旋してくれるとこなんてここにはなさそうだし····─
「····仕事探さないと·····はぁっっっ──」
「なぁ、お春ちゃん。仕事探すんやら良かったら知り合い茶屋で働いてくれへんか····」
今まで黙って見守っていた季布が不意にありがい事に知り合いに宛がるからと仕事を紹介してくれるそうだ。
「そらぁ、ええなぁ。季布はんの知り合いのとこなら安心や。」
「····良いんですか?」
「ええよ。お春ちゃんがええならやけど。」
「よろしくお願いします!」
「そんなら、明日にでも行くさかい。ええかい?」
「はい!」
思わぬとこから舞い込んだ仕事に結花の沈んだ空気が少し明るくやる気に満ちて今から意気込んで居る。
「今からそないいきこんどって明日がもたんで、さぁ今日のとこは疲れとるやろうから早よ休み。わてはそろそろおいとますんで、ほな又明日ね。」
季布が帰り静けさが漂う部屋に幸助の気遣いとも取れる優しい声が響く。
「お···お父さ───」
「疲れたやろ。今日は早よ休みや、明日も早いんやろからな。」
「·····うん」
ぽんぽんと布団を叩き結花に布団に入る様促し、結花は中に入ると瞼の重みに負け夢の中に溶け込んでいったと共にお春はこの日以来深く眠りに着いてしまった。そして一人、幸助は結花を見定めるかの様な眼差しを向ける。
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