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「寧士郎。お前、随分と結花と親しくしてるようじゃねえか。あそこまで仲良くしろとは言ってねぇけどな。·····頼んだことはやってくれてるな」
「はい。頼まれたことは順調です。」
涼しげに言っているが中身はねちっとした執拗いものでも見目が男前なだけありそれだけで好かれるらしい。今も店内の幾人かの女子は高杉を見て頬を染めていた。
高杉は傍若無人である。
会合とは名ばかりの議論の応酬に埒が明かないく会合をすっぽかしする挙句ふらふらと出歩くけれどもそれを上回る人望の厚さに行動により仲間は慕う一方だ。
物資の補助といった主に裏方の仕事をしているものの寧士郎は高杉の直属の部下であるには代わりはない。けれど高杉には部下でも平隊士だろうが大差ないかった。丁度頼めそうな裏方の者が寧士郎だったため、この茶屋にひっそりと通わせていたのだ。
落ち着きを取り戻しつつ呆然と遠くを眺めていた。
◇◇◇◇◇
お茶屋に通うよう言い付けを下したのは薄月の葉の音も乏しい丑の刻にかれこれ数刻は経待たせているが気にしない。
細工を施した煙管を吹かす晋は長州の主要人と知られる高杉晋作である。
最近町娘であろう女子を気にかけているが表立って会うのを控えてるためお茶には行けていない。そう、こう町人に紛れそうな者がいないかとふと寧士郎を見やる。剣の心得は得ているが武士としては線が細いのが幸か不幸にも情報収集や潜入、変装を繰り返す裏方に抜擢され成果をも上げてはいる寧士郎は晋の直属の部下でもある。今も戸の付近で待機させているものの寧士郎にははたまたはため迷惑で思いをよらない厄介事に変わりは無さそうだが······。
「茶屋に潜入ですか····」
「いや。大層なもんでもないがただ茶屋に通って様子を知らせてくれれば良い。お前そういうの得意だろ」
「はぁ───」
聞くからに私情そのもの用件であった。
たかだか町娘に割いている時間はないのは高杉も承知していた。刻一刻と迫っる計画の進行の最中で私用を請け負う余裕はないのだけども高杉は有無を言わせないと聞く耳を持たなかった。それゆえ寧士郎は説得を諦めることにした。
「····分かりました。やりますよ。やらせていただきます。その代わり高杉さん今度の作戦遂行は我々にとって灯火となる重要性だとゆめゆめお忘れなき様」
釘を指さずにはいれなかったのだろう。あえて寧士郎は口にした。ただでさえ屋敷内はピリついているのにそこに町娘にうつつを抜かしていると知れれば爆発しそうだ。
徳利を携え夜風にあたる高杉は酒を煽るだけで返事をすることはなかった。
夜更けも深まりそっと寧士郎は部屋を下がった。
◇◇◇◇◇
茶屋の往来は栄え当然女子も頻繁に通るけれど必ずお茶屋に座る高杉を目の保養せんばかりに見ていく。当の高杉は愛用の三味線を手に寧士郎の報告をうけながら奥に戻ってしまった結花を気にしつつ、何より神社でとはまた違った楽しそうな一面を見ることができ頬が緩んでいた。
普段の強気で自信家の高杉からは想像がかけ離れていて隣にいた寧士郎はこれまた頭が眩むぐらいの衝撃であった。
最近まで女にだらしがなかった高杉が最近はそういったことがなくなり、これまた珍妙にもうら若い娘にご執心ときてる。
仲間が知ったらどきまを抜くことだったが高杉本人も驚いていた。
偶然ぶつかり助けたのは気まぐれなもの神社で会うのはもう高杉が決めて待つのだから結花を気に入ってしまってるのと同じ。けれどだからといって一線を超えることはないだろう。
無垢で明るい結花は高杉からしてみれば触れられない眩しい存在に似たもので、もしも触れてしまうことがあればこちら側に、暗闇に引きずり込んでしまうことになり元には戻れなくなる。
いっそ離れてしまえばいいのだろう。分かってはいても離れ難く気づけば神社に居る。もう手遅れだろうが時が来るまでの間だけのほんの一時を結花と共にあろう。
計画は順調に進んでいた。
極力神社以外は会うのを避けていたが今日やっと時間が空いたのもあり結花の働く茶屋に来ていたけれど、結花と寧士郎が親しそうにしているのを目にし弄れたばかり口にしていた。大人気ないとは分かっている。が、気に入らない。高杉が命令して寧士郎を付けていたのに結花と仲良しているのを見るだけで気に入らなく八つ当たりをしていた。
「····そうか」
「はい。···わたしは貴方の命令通りに見守っていたつもりです。それを八つ当たりされても困ります。こんなんで今夜の計画に支障をきさないでくださいよ」
「あぁ····今夜に油断はない。当分また結花に会えないだろうからここまで来ただけだ。わりぃ、狭めぇ八つ当たりしたな」
「····高杉さん変わりましたね。前は謝るなんてなかったのに彼女にいい影響を受けられたようで」
素直に謝るなんてなかった高杉は寧士郎の指摘に顰め、小さく「うっせぇ」と返した。好き勝手にやってきた自覚はあるが差ほど気にもとめず後は部下に任せ報告を聞くだったがこればっかりは私情事ともあり口をついて出ていた詫びの台詞に気恥ずかしくなってしまい目を逸らし結花を追った。
「お待たせしました!晋さんこちらがわが店人気の甘さ控えめみたらし団子になります。寧士郎さんにはお茶のお代わりです。さぁ、どうぞ召し上がってください」
「おう。早速いただくぜ。それとも結花が手ずから食わせてくれるか」
団子とお茶を乗せてきた結花に冗談を加え晋は重く言い返せない指摘から気を取り直すかのように誘う。
「ごっご冗談を···いつも私を揶揄ってそんなに面白いですか!」
「まぁ、面白いかと聞かれれば面白いな。なんせこんなに揶揄いがいのある者はそうそういないからな···例えばこうするのも一興だろう」
「へっ····」
結花の腕を掴み引き行きよいに任せ晋の膝に座らせる形で抱き寄せ、かつ首元に顔を寄せ息の温度が分かる距離に息を吹きかける。瞬く間に密着状態なった挙げ句、人の弱い部分の一つとされる首元を狙われたことで身震いと同時に力が抜けてしまい晋に抵抗することもなく倒れ込んでしまっていた。
体に力が入らなかったのはほんの僅かで気力が戻りすぐさま晋から飛び退き数歩距離をとってキッと睨めつき顔から耳にかけ紅潮させ肌が見える部分はほんのり赤く全体染め羞恥のせいで口はパクパクとしているが声にならない悲鳴をあげている。
そうここはお茶屋であり店先は往来なので必然的に注目浴びる羽目になっていた。
晋を一目見ていた店内や往来を通っていた女子は羨ましいやら悲観を含んだ悲鳴がそこらかしこで漏れ聞こえた。当の本人の晋は結花の可愛い反応がツボに入ったのか面白いと言わんばかりに声をあげ笑う。
真横で見せられていた寧士郎とはいうと哀れみと呆れともいえる目で見ていた。
結花に同情心が湧いた。晋に目をつけられてはもう後戻りはできないかもしれないけれど、これほどまでご機嫌な晋も珍しいだろう。女子に優しく雄々しい姿しか見せていなかった晋が結花にはやたら悪戯をし揶揄っているとはもはや思春期の子供が気を引きたくてしているのと代わりないものでは?それでも大の大人の高杉晋作ともあろう女子に不自由はない者がこれでは情けないではないか。
宴には女は付き物ともあり京の都の遊郭島原の付き合いのある店の宴ともなれば芸妓だけではなく遊女取り分け位が高い花魁をも宴に呼ばれるが花魁は毎度晋の横に寄り添っている。晋も男だ誘はれば乗る。吉原とはそういうところであるのだから。けれど大事なものでもない限り吉原の宴にはほぼ顔を出さなく女遊びはなりを潜めた。なのにこの有様ではほんとに結花のことを諦められるのだろうか·····ここまでしておいて。寧士郎はため息しかでなかった。
「····は~」
「んっだよ。わざとらしくため息なんかつきやがって」
「ため息もつきたくなります。こんなことで及び腰になるとはあの高杉晋作とは思えませんね。そんなに大切なら───」
「それ以上は口にするな。後にわ引けなくなるぞ。····たとけ違えても巻き込むことはしない」
「分かりました。·······あまり揶揄ってばかりいると嫌われますよ。この状況だけでも可哀想ですし····」
顔を紅潮させたまま退き立ちすくしているのは晋が仕出かしたことなのでなんともいた堪れない。晋は楽しそうに優しい目で結花を眺めるだけである。ここまで子供のようなことをするつもりはなかったが、いやはや中々面白さが勝りつい···やってしまった。やりすぎた節は否めないが結花を揶揄うの辞められそうにない。けれど今日のところは引くしかないだろう。
寧士郎に目配せをし団子の勘定を置き動こうとしない結花の傍により頭をぽんと撫で「またな」と去り際に言い残し去っていた。後ろには寧士郎が申し訳ないという顔で一礼をし追った。一瞬にして嵐は去っていた。
「もうもう、何なの·····ふらっと現れてたと思ったら騒がして帰って行くなんてなんだったの····ほんとに····──」
頬の熱は未だ冷めきらぬまま晋が去った方を見ながら力が抜けその場に座り込んでしまった。
◇◇◇◇◇
「よし、懐刀も持ったし····今夜こそは!」
あの後結花は熱を冷ますいきよいで無心に働いていた。紗枝に声をかけられ我に返ったのは日が沈み空が紅く染まりはじめた頃だった。
「そろそろ上がってええよ。後はうちらでするで、····今日はまぁ色々と大変やったしな」
「っ····すいません。迷惑かけてしまって」
「そなこと気にしんでええよ。またあの美丈夫な方来てくれはるとええね。こちらは歓迎するで」
そうして背を押され帰ってきて今は暗闇に慣れない結花を照らすかの月夜だ。
父、幸助は寝静まっているので行くなら今だろう。そっと戸を静々開け今度こそ本通りのほうに足を向ける。
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