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銀狼族の少女 その3

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「残念ですがこの二人を、書庫に住まわせるわけにはいきません。」

俺はセフィアルとレクイルを、書庫に住まわせるようにエクレールに頼んだが、
メイガス専用の施設であるこの書庫に、他の職業の者を置くわけにはいかないとにべもなく断られてしまう。

「そこをなんとか頼むよ。このまま二人で、森で暮らしていくなんて無理に決まってるだろ。」

行き場のない姉妹を、魔物がうようよいる森に放り出したら、姉はともかく妹はまず生き残れないだろう。
しつこく食い下がる俺に、根負けしたエクレールは

「仕方ありません。それならばお二人にはタケルさんの眷属となっていただく必要があります。
タケルさんとお二人との間で、眷属契約を結んでいただくことになりますが、宜しいですか?」

と眷属契約などという聞いたことのない条件を提示してきた。

「それって彼女たちに、俺の奴隷になれってことか?」

「ひゃ、ど、奴隷?!」
脅えたレクイルは、姉の後ろに隠れてしまう。

「奴隷ではありません。眷属です。
眷属とは、いわば主人と従者。
眷属が主人の行動を助ける代わりに、主人は眷属の面倒と見て、その行動に責任を持つという関係です。
奴隷のように、どんな命令にでも従わせるというようなものではありません。
彼女たちをこのまま書庫に住まわせたいのなら、
タケルさんにその責任を負っていただかなくてはなりません。」

「そんなこと言ったって、セフィアルたちとはまだ会ったばかりだぞ。」
エクレールの言い分にも一理あるが、彼女たちとは出会ったばかりだ。
そんな重大な決断ができるわけがない。

「無理もありません。銀狼族は、誇り高い部族として有名です。
出会ったばかりのタケルさんの眷属になるなんて、考えられないでしょう。」

セフィアルが黙っているのを見て、エクレールは拒絶のサインと受け取ったようだ。


「分かりました。タケルさんと眷属契約を結びます。」

「お、お姉ちゃん?」

それまで一言も言葉を発していなかったセフィアルが、突然一歩踏み出してくるとそう言った。

「驚きました。本当に宜しいのですか?」

「はい。それで構いません。」

「タケルさん。あなたは私たち姉妹を眷属として受け入れてもらえますか?」
セフィアルは決意を込めた眼差しで俺を見つめる。

「あ、ああ、もちろん仲間が増えるのは嬉しいんだけど、セフィアルは本当にそれで良いのか?」

「はい、私は大丈夫です。レクイルもそれで良いですね。」

「うん、お姉ちゃん。私も大丈夫だよ。」

レクイルも初めは戸惑った様子だっだが、姉の言葉を聞いて決心したようだ。

「お二人が承諾してくださるのなら問題ありません。
それでは契約の儀式を始めましょう。」

エクレールが、床に人ふたりが入れるくらいの大きさの魔法陣を描き出した。

「さあ、まずはセフィアルさん。
タケルさんと一緒にこの陣の中に入ってください。」

俺とセフィアルは、エクレールに促されて魔法陣の中に入る。

「最初にお互いの両の手のひらを合わせて、握ってください。
・・・そうです。
そうしたら次は、お互いの額を近づけて、
・・・そう、額と額をくっつけてください。」

エクレールの言う通りにしていくと、セフィアルの顔が俺の目の前にくる。
間近で見ると、本当に綺麗な顔立ちしている。
俺が美しい少女との急接近でドキドキしていると、心なしかセフィアルの頬も紅くなっているみたいだ。

しばらくそうしていると、魔法陣が光り出して二人の体が光に包まれた。

「はい、結構です。これでタケルさんとセフィアルさんとの間に、眷属契約が結ばれました。」

契約が完了しても、俺の方は以前となんら変わりはない。
セフィアルの方はといえば、左手の甲に俺と同じメイガスの紋様が刻まれた。

次にレクイルとも同じように、儀式を行う。
身長差があるので、俺が膝をついて額の高さを合わせてあげる。

「えへへへ」
レクイルは照れて赤くなっていたが、嫌がってはいないようだ。
儀式が完了して、彼女の左手にも紋様が施される。

こうして何事もなく儀式は終了して、二人との眷属契約が結ばれたのだった。
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