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銀狼族の里への帰還 その1

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「タケルさんにお願いがあります。」
クラスチェンジしてからしばらくして、セフィアルがレクイルを連れて、
突然俺に頼み事があると言ってきた。

「どうしたんだ。改まって」
「私たち銀狼族の里に一度、帰宅したいのです。」
私たちが里を出てから、しばらく経ちました。今の里の様子を自分たちの目で確かめたいのです。」

詳しい事情は聞いていないが、セフィアルとレクイルは自分達の故郷、
銀狼族の里から逃げ出してきたと言っていた。
書庫に住むようになってしばらく経ったので、ホームシックにかかったのだろうか。

「里に戻れたらどうするつもりなんだ、そのままそっちに住むつもりなのか?」
「まさか、あくまで様子を見るだけです。里が大丈夫なら、またここに戻って来ます。」
「良かった、俺の眷属を辞めたいと言い出すのかと思ったよ。」
「そんなはずはありません。私たちはタケルさんの眷属になって本当に良かったと思っています。
もちろんレクイルもです。」
「うん、本当だよ。タケルお兄ちゃん」
「それに眷属契約は、そんなに簡単に辞めたりできるものではありません。
それこそ主となる相手と、一生添い遂げるくらいの覚悟がなくてはなりません。」

なんと、そこまでの話だったとは、セフィアル達を書庫に住まわせてあげたいだけで契約した俺は、
自分の認識不足をいまさらながら大きく反省するのだった。

里帰りについてはもちろんOKした。
セフィアルとレクイル、二人立っての願いを断るはずもない。
当然だが俺とスノウも同伴する。
書庫の周辺でのみ活動してきた俺にとっては、初めての遠征となる良い機会だ。


銀狼族の里までは一週間程度はかかるらしい。
夜はテントを張って野営しなくてはならず、出発準備を整えているとエクレールが声をかけて来た。

「タケルさん。先日ゴブリンの洞窟から回収した魔法石を使った魔道具ができましたよ。」

彼女が差し出したのは、魔法石を鎖につないで手首につけるように細工した魔道具だ。
赤色の魔法石は、若干だが敏捷性を上げる効果がある。

「これはセフィアルが使った方がよさそうだな」
「初めて作った魔道具を私に?」
「ああ。」
「ありがとうございます。大切にします。」
「うぅぅ、お姉ちゃん、いいなぁ」
「次はレクイルにも何か作ってあげるからな」
「うん。約束だよ。タケルお兄ちゃん。」

セフィアルはもらった魔道具を大切そうに握りしめているが、それほど高価な物でもないんだよな。


銀狼族の里を目指して書庫を出た俺たちは、途中で出くわす魔物を狩りながら順調に森を進んでいった。
里までの道のりは長いので、初日は早めに休息を取ることにした。
初めて森で夜を明かすことになった俺は少し緊張していたが、
セフィアルとレクイルは慣れているようだ。
当たり前のように薪を集めてきて、火を起こしている。
夕食も二人が分担して、作ってくれた。
予想外と言っては失礼だろうが、セフィアルは料理が上手だった。
俺が褒めると「こんな事は森で暮らす者には、当たり前のことですよ。」と笑っていたが、
尻尾がフリフリしている満更でもないようだ。

夕食も済んだので、俺は出発前から気になっていた質問をセフィアルにぶつけてみる。

「なあ、セフィアル」
「なんですか?タケルさん」
「お前たちはどうして銀狼族の里から逃げて来たりしたんだ。
いや言いたくなければ、無理に言う必要はないんだけど。」
「そうですね。タケルさんにはお話しておこうと思っていました。」

セフィアルは真剣な顔で、彼女とレクイルが里を飛び出した時の事を思い出して話し始めた。
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