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マンティコア討伐

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翌日、指定された時間に町の門まで行くと、一組の冒険者のパーティーと10名程の兵隊が既に待機している。俺達の姿を見ると、モーリッツが話しかけてきた。

「来たなタケル、まずは俺の仲間を紹介しておこう。
斧使いのカルロと槍使いのネルマイユ、剣と弓が使えるデイビス、それに唯一の魔術師オスカートだ。」
黒鋼の盾は前衛の戦士三人と後衛の魔術師一人、それに前衛もこなせる弓使いが一人の五人編成のようだ。

「タケル、先日は我々の仲間が迷惑をかけたそうだが、奴は伯爵より降格処分を言い渡されたので伝えておこう。」
同行する兵士達のリーダーが俺に伝えてくる。
前回セフィアルにちょっかいを出そうとした隊長は、きっちりと罰を受けたらしい。
まあ、自業自得といえるだろう。

俺達と黒鋼の盾、そして同行する兵士達は挨拶を済ませるとそうそうに町を出発した。
目的地のマンティコアに襲われた村までは、さほど遠くはない。

「それにしてもそんな可愛らしいお嬢ちゃん達二人が、本当に魔物と戦えるのかい?」
しばらくすると少年、少女と結晶獣という奇妙な組み合わせに、興味を抑えきれず斧使いのカルロが話しかけてくる。

「銀狼族は魔の森で暮らしていると聞きます。魔物狩りにも長けているのではないですか。」
魔術師のオスカートは、亜人にも理解があるようだ。

「いくらが狩りが得意と言ってなあ。今回の相手はマンティコア、嬢ちゃんたちがいつも狩っているマッドボアあたりとは格が違うんだぜ。」
槍使いのネルマイユも話に加わる。

「ご心配なく。私達にもそれなりの経験はありますので。」
セフィアルが素っ気なく返すと

「ワハハハ、自信たっぷりてか。なかなか気の強い嬢ちゃんだ」
カルロは笑い声をあげる。

「おい、お前らあんまり失礼な口を利くなよ。そのお嬢さんは、銀狼族の族長さんだぞ。」

「ハハ、リーダー、何言ってんだ。こんな子供が族長なわけないだろう」

「ウソじゃないセフィアルは銀狼族の族長だ。」

「おいおい、本当かよ?それならお前はなんなんだ。亜人の部族の中にどうして人が加わっているんだよ。」

「タケルさんは私達の主です。」

「主ってことは、この坊主がお嬢ちゃん達のご主人様ってことかい?」

「そうです。私達はタケルさん眷属です。」

坊主呼ばわりとは失礼な奴だな。

「おいおい銀狼族ってのはどうなっているだよ。年端も行かない嬢ちゃんが族長で、その主が人族の坊主とはわけが分かんねえよ。」

「カルロッ!無駄口を叩くのはそれくらいにしておけ」

「へいへい、分かりましたよ、リーダー。」

「申し訳ない。カルロは悪気はないのですが、口の悪い奴なので大目に見てあげてください。」
すかさずフォローを入れる魔術師のオスカートは、案外まともなようだ。

まあ、冒険者なんて荒っぽい仕事をしているのだから、口が悪くても仕方ないか。
セフィアルも気にしていないようなので、俺も特に何も言わなかった。


村に到着すると村長からマンティコアの現れた場所についての情報を聞き取る。

「どうやって魔物をおびき出すんだ?」
「これを使う」
モーリッツは小さな袋を取り出すと封を切る。

「この匂い袋には、魔物の好む匂いが封印されている。これでマンティコアを引き寄せる」

木々の間をしばらく進んでいると、行く手を遮るように魔物が現れた。
赤い獅子の体に、サソリの尻尾という不気味な姿のマンティコアは、確かに魔獣と言われるだけのことはありそうだ。かなりの威圧感を持っている。

「早速現れたぞ、隊列を組め!」
モーリッツの指示で、黒鋼の盾のメンバーが中心になって魔物と対峙し、残りの兵達はそ魔物を取り逃がさないように周囲を固める。
何度も共に行動しているのだろう、冒険者パーティーと兵士達は良く連携が取れている。

「シールド・ブロック・マキシマイズ」
モーリッツが闘技を発動。
上級闘技シールド・ブロック・マキシマイズは使用者の盾を防護壁で包み巨大化させ、ほとんどの物理攻撃のダメージを大幅軽減する。

モーリッツはそのままマンティコアの目の前まで突進、攻撃を自分に集中させる。
マンティコアはサソリの尻尾を振り回すが、巨大化した盾が防いでくれる。
モーリッツが魔物の攻撃を一手に引き受けて、他のメンバーが隙をついて攻撃する。
さすがは銀等級≪シルバークラス≫だけのことはある。マンティコア程の魔物を完全に押さえ込んでいる。

<これは俺達の出番はないかもな。>
俺がそう思い始めたとき「グワァ!」周囲を囲んでいた兵が悲鳴を上げる。
もう一匹いたのか?
「こ、こっちからも現れたぞッ!」さらに反対側でも悲鳴が上がる。

左右の木の陰から新たに2匹のマンティコアが現れたのだ。
突然現れた新手のマンティコアに、兵士達が次々と倒されていく。
普通の兵士では奴らの相手はできない。

「セフィアルッ!魔物を引きつけるんだッ!」
「ハイッ!」
セフィアルがシルバーウルフ・ハウリングを発動、勇ましくも美しい彼女の叫びが森に響きわたる。
新たに現れた2匹のマンティコアのターゲットは俺達に移った。

怪我した兵士の事もある、あまり時間はかけたくない。
俺はメテオ・サークルを唱えると隕石を召喚する。

「なッ、何なんです、あの魔法はッ?!」
魔物と向き合いながらも横目で俺達の動きを追っていたオスカートが、驚きの声を上げる。

「リリース」
放出された大質量の隕石は狙い通り魔物を直撃。
「フォトン・ブラスト」
追い打ちのフォトン・ブラストを全弾させて、マンティコアを仕留める。

もう一匹のマンティコアにはセフィアルとスノウがコンビで対応していた。
アクセル・ムーブを使用したセフィアルの敏捷性は、マンティコアを凌駕している。
スノウも得意の空間機動で空中を駆け回る、周りの木々も利用して魔物を翻弄する。
マンティコアも翼はあるが、スノウの様には飛べないようだ。

「スノウ、ビリビリ電撃を」
「ウォン!」

セフィアルがライトニング・チャージを使うのに合わせてスノウがビリビリ電撃を彼女に浴びせる。
帯電状態になったセフィアルの一撃で、魔物は感電して動きを止める。
そこにセフィアルがフラッシュ・ダイブの超高速移動にウルフ・ストライクを上乗せした一撃をお見舞いする。
首筋を大きく切り裂かれたマンティコアは、あっけなく倒れた。

セフィアルとスノウの連携はかなり進化している。俺の手を借りるまでもなく、マンティコア程の魔物を簡単に倒してしまった。

「レクイル、怪我をした兵士を見てあげてくれ。」
「ハイ」
レクイルにマンティコアにやられた兵士を治療してもらう。

「マンティコア2匹を相手に圧勝か。これは予想以上だな」
「おいおい、どうなってんだ。マンティコアをあっけなく倒しやがった。」
「銀狼族の嬢ちゃんの動きも普通じゃなかったぞ」
俺達が新手の相手をしている間に、最初に現れたマンティコアを倒した黒鋼の盾のメンバーがこちらにやって来る。

「タ、タケル君、先ほどの魔法は一体?」
「あれは黒魔法の一種だ。」
「黒魔法、そんなはずは・・・、いえ止めておきましょう。魔術の秘密を詮索するのはマナー違反ですからね。」
他人のスキルや魔法を勝手に探るのは、敵対行為と受け取られても仕方のない行動だ。
当然、俺からオスカートに教えることは何もない。

マンティコア3匹を討伐した俺達は、カルロの町へと帰還した。

「今回の依頼の報酬を伯爵から預かっている。大金貨6枚だ。」
モーリッツが報酬の入った袋を俺に渡してくる。

「大金貨6枚もッ!」
「お金持ちなのです。」

「もっともマンティコア三匹の討伐代金にしては安すぎるな。
どうする、これから俺達と伯爵邸に乗り込んで増額を要求するか?」
「いや、元々、金目当てで引き受けた依頼じゃない。俺達はこれで十分だ。」
「そうか、伯爵には俺から伝えておこう。」

こうして伯爵からの依頼をはたした俺達は、渡された報酬を手に書庫へと帰還した。
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