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メイガスの大罪
しおりを挟む「およそ八百年前までメイガスは、その強大な魔力で大陸全土を支配していました。
その勢力圏は人族や亜人族はいうに及ばす、オーガ族や竜族など大陸の隅々にまで広がり、そこに住む力のある部族全てが支配下にあったのです。
そして配下の部族を酷使して、巨大な都市や塔を築き、文字通りの我が世の春を謳歌していました。
しかし巨大になり過ぎた彼らは、あまりにも傲慢な支配者となり大きな過ちを犯したのです。」
「大きな過ち?」
「ええ、彼らは当時、唯一支配の及ばなかった領域である天界へと攻め込んだのです。」
「天界なんて所があったのか?」
「天界は現在でも存在します。そこには神とその眷属である天使たちがいて、今も地上を監視しています。」
「神と天使・・・。でも、何だってメイガスは、そんな所に攻め込んだりしたんだ。」
「それは・・・、神を亡き者にして自分たちがその座に取って代わるためです。」
「取って代わる?」
「ええ、天界に住み地上を監視している神々こそが、真の支配者といえる存在。地上支配を確立したメイガスにとってみれば、頭上の遥か上から自分達を監視している天界ほどうっとうしい存在はなかったのでしょう。彼らは当時、六柱いた神々の一柱と手を組むと、天界へと攻め入ったのです。」
「神様を味方につけたのか?だけど、そもそも神様と戦うなんてできるのか?」
「神は確かにとてつもない力を持っていますが、無敵の存在というわけではありません。
その証拠に天界へと攻め入ったメイガス達は、二柱の神々、大地の神と風の神を討ったのです。」
「神様を殺しちゃったのか?」
「そうです。神々を守る天界守護騎士団を突破して、天界の中心である神々の玉座にあと一歩のところまで迫ったのです。しかしながら彼らの快進撃もそこまで、残りの三柱の神々は光を司る至高神ユピテルを中心に反撃に転じ、敗れた彼らは地の底、大地のはるか下に退避せざるを得なかったのです。」
天界だの神だの、何ともとんでもない話を聞いたが、神様が本当にいたことにも驚きだが、それに挑んだ過去のメイガスもとんでもない連中だ。
「エクレールの話は魔術に詳しい者ならば、誰でも知っている話よ。それにその時に討たれた神の一柱は風の神メルクリス、私達エルフ族が信仰していた神よ。
メルクリスの恩恵で大きな勢力を誇っていたエルフも、八百年前の大乱で主神を失って没落、現在では魔の森の近くに里を築いて細々と生活しているだけ。
つまりメイガスはエルフ族にとって、親の仇以上に憎き存在ということよ。」
メイガスにそんないわくつきの過去があったとは、先ほどユーディットが俺がメイガスだと知ってあんなにも興奮していたのも無理はない。
いまさらながら、これだけの巨大な施設に俺が訪れるまでエクレール以外に、誰もいなかったというのもおかしいとは思っていたのだ。
「まあ、とはいえ八百年も前の出来事だし、今の俺達には関係ないよな。」
「呆れた。タケル、あなた今の話を聞いての感想がそれなわけ。」
「そんな昔の事をアレコレ言われても想像つかないよ。ユーディットだってそうだろ。
それともエルフは長生きだから、ユーディットは八百年以上も生きているのか?」
「失礼しちゃうわね。私はまだ百歳にも届いていないわよ。」
「そうなのか。でも今の話を聞いて、ユーディット自身はどう思っているんだ?」
「私は私が生まれるずっと前の出来事だし、確かに実感は感じないわ。
それでもメイガスという言葉には、強い忌避感を覚えるのも事実よ。」
「私達も知りませんでした。銀狼族にはそんなにも昔の記録は残されていませんので。
もし今、タケルさんがメイガスだと知られたら、どのような事が起こるのでしょうか?」
おお、セフィアル、良い質問だ。
俺の正体がばれたらどうなるのだろうか、犯罪者扱いで牢に入れられたりするのだろうか?
まさかいきなり死刑などということはないだろうな。
「分かりません、なにぶん八百年も前の出来事ですから。
さすがに即処刑というようなことはないと思います。
メイガスは魔術師の源流、むしろ魔法王国テスラなどでは重宝されるかもしれませんね。」
確かにあの国は魔力至上主義だが、つい先日、セフィアルに手を出そうとしたデブ貴族とぶっ飛ばしたばかりなので近寄りたくはない。
「とは言えタケルさんがメイガスと知られれば、間違いなく監視の対象にはなるでしょう。」
確かにこれまでの話からすれば、メイガスである俺を野放しにしておくのは危険だと考える奴が、出てきても不思議はない。自由に動けなくなるのは困る。
その後も俺達はあれこれと議論したが、結局、結論としては今まで通りにメイガスであることは隠して行動する、ということに落ち着いたのだった。
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