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第一章 婚約破棄 篇
王宮ライフは続く 〜サトル、遠島スローライフを回避する〜
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運命の謁見の間。
張り詰めた空気の中、サトルは静かに跪いていた。
背後には、顔をくしゃくしゃにして鼻をすするタロン。
正面の玉座には、鋭い眼光を放つ国王フリードリヒ。
そしてその傍らには、扇子を閉じて凛と立つ、レティーナ・サルバルトルの姿があった。
「……面を上げよ、アルバート」
国王の重々しい声が響く。
サトルはゆっくりと顔を上げた。その表情に、悲壮感はない。あるのは、やるべきことをやるだけだという、淡々とした覚悟だった。
「一週間の猶予を与えたはずだが。……レティーナ嬢との和解は成ったか?」
「いえ、陛下」
サトルは、はっきりと答えた。
「和解には至りませんでした。……僕のしたことは、謝って済むようなことではありませんから」
サトルは一度言葉を切り、隣に立つレティーナを一瞥した。
彼女は鉄仮面のように無表情のまま、前を見据えている。
「僕、アルバート・フォン・アイゼンハルトは、レティーナ嬢との婚約破棄を正式に受け入れます」
ざわっ、と居並ぶ文官たちがどよめく。
あの執着心の強い王子が、あっさりと身を引いたことに驚いているのだ。
「それに伴い、王位継承権の剥奪、ならびに南の孤島への追放処分も、謹んでお受けいたします」
「……異議はないのだな?」
「はい。……ただ、ひとつだけ」
サトルは、床に額を擦り付けるようにして平伏した。
「従者のタロンには、何の罪もありません。彼はただ、未熟な主人に仕えただけの忠臣です。……どうか彼にだけは、寛大なご処置と、新たな職の斡旋をお願いいたします」
「……は?」
背後で、素っ頓狂な声が上がった。
タロンだ。
「な……何を言うとるんですか、この甲斐性なし!」
タロンは王の御前であることも忘れ、サトルの背中に詰め寄った。
「わしは言いましたぞ! 島だろうが地獄だろうがついていくって! わしの忠誠心を『再就職』なんかで安売りするんじゃねえですわ!」
「タロンくん……」
「あんた一人で行かせてみろ、三日で野垂れ死ぬのがオチじゃ! わしが管理してやらんとダメなんですわ!」
半泣きでキレる少年の姿に、国王は眉をピクリと動かした。
自分の保身ではなく従者の未来を乞う主人と、その主人を見捨てない従者。……以前のアルバートには考えられなかった信頼関係だ。
「……よかろう。タロンの処遇は考慮する。では、アルバートよ。直ちに荷をまとめ……」
「お待ちくださいませ、陛下」
王の宣告を遮ったのは、凛としたソプラノの声だった。
レティーナが一歩前に出る。
その顔には、慈悲など微塵もない、ビジネスライクな冷徹さが張り付いていた。
「レティーナ嬢? 何用か」
「アルバート殿下の処分について、被害者である私から、ひとつ『提案』がございますの」
レティーナは、扇子をパチリと開いた。
「私は、殿下との婚約破棄を撤回するつもりはございません。……あのような無礼な振る舞いを受けた以上、サルバルトル家の誇りにかけて、一度白紙に戻さねば気が済みませんわ」
「うむ。もっともだ」
「ですが! 殿下を追放なさるのには、反対いたします」
会場が静まり返る。
サトルも驚いて顔を上げた。
「……どういうことだ?」
「理由は単純ですわ。……殿下が『逃げ得』になるのが許せないからです」
レティーナは、サトルを見下ろしてニヤリと笑った。
「南の島で、悠々自適なスローライフ? 毎日釣りをして、美味しい果物を食べて、昼寝をして暮らす? ……そんなの、罰ゲームどころかご褒美じゃありませんの!」
図星だった。
サトルは「あ、バレてる」と目を泳がせる。
「私をこれだけ傷つけておいて、ご自分だけ南国リゾートでバカンスだなんて、虫が良すぎますわ! そんなの、このレティーナ・サルバルトルが許しません!」
レティーナは、芝居がかった仕草で胸を張った。
その姿は、まさに「悪役令嬢」の風格。
「殿下には、この王宮に残っていただきます。そして……王族としての公務に加え、私の『機嫌取り』という労働をしていただきますわ!」
「機嫌取り……?」
「ええ。婚約者としてではなく、ただの『使用人』のような立場で。……私を楽しませ、敬い、尽くしなさい。もし私が『これなら見直してやってもよくてよ』と思える男になった暁には……その時初めて、口を利いて差し上げます」
それは、実質的な「追放回避」だった。
だが、その態度はあくまで「罰を与える執行者」のものであり、そこに甘い雰囲気は一切ない。
(……なるほど。レティーナさんは、僕に『チャンス』をくれる代わりに、自分のプライドも守ったんだな)
サトルは、感心した。
彼女は賢い。そして、情に厚い。
ここでサトルを追放すれば、彼女自身も「王族を追放に追い込んだ女」として後ろ指を指されかねない。
この提案は、王家のメンツ、彼女の評判、そしてサトルとタロンの生活……すべてを丸く収める、ギリギリの落とし所だったのだ。
国王フリードリヒは、口ひげを撫でながら、面白そうに二人を見比べた。
「……ふむ。被害者であるそなたがそう言うのであれば、余が口を挟むことではないな」
国王は、鷹揚に頷いた。
「よかろう。アルバートの追放は取り消す。……ただし! 王位継承権については一時凍結とする。第一王子の地位には留め置くが、今後の働き次第では、弟たちにその座を譲ることになると思え」
「はい! ありがとうございます、父上!」
サトルは、満面の笑みで答えた。
王位なんてどうでもいい。
とりあえず、タロンを路頭に迷わせずに済んだ。それだけで十分だ。
「……ふん。せいぜい精進することだな、アルバート」
国王は、隠しきれない笑みを口元に浮かべ、席を立った。
***
謁見の間の外。
重厚な扉が閉まった瞬間、タロンが崩れ落ちた。
「よ、よがっだぁぁぁぁ! 死ぬかと思ったぁぁぁ! わしの出世ロード、首の皮一枚で繋がったぁぁぁ!」
「タロンくん、大げさだなぁ。……でも、ありがとうね。『ついていく』って言ってくれて」
「勘違いしないでくだせえ! あんたが頼りないからじゃ!」
泣き笑いするタロンの背中をさすりながら、サトルはレティーナに向き直った。
彼女は、扇子で顔を仰ぎながら、冷ややかな視線を向けている。
「……助けてくれてありがとう、レティーナさん」
「ふん。……勘違いしないでくださいまし。私はただ、あなたが楽をするのが癪だっただけですわ」
レティーナは、ツンとした態度を崩さない。
「それに、勘違いなさらないで。……婚約は白紙です。今の私たちは、ただの『顔見知り』以下。……いいえ、マイナスからのスタートですわ」
「うん、わかってるよ」
サトルは、穏やかに微笑んだ。
「僕も、その方が気が楽だ。……『王子と婚約者』じゃなくて、一人の人間として、君と向き合えるからね」
その言葉に、レティーナが一瞬だけ目を丸くした。
だが、すぐに表情を引き締め、扇子を閉じる。
「……口だけならなんとでも言えますわ。せいぜい、死ぬ気で私に尽くすことですわね」
「お手柔らかに頼むよ」
二人の間に、甘い空気はない。
あるのは、奇妙な共犯関係のような、あるいはビジネスパートナーのような、ドライで対等な距離感だけ。
サトルにとって、レティーナは「将来の奥さん候補(設定上)」ではあるが、今の時点では「気難しいけれど根はいい人」くらいの認識だ。
そしてレティーナにとっても、サトルは「観察対象」でしかない。
「では、ごきげんよう。アルバート殿下」
「またね、レティーナさん」
背を向けて歩き出すレティーナ。
その背中を見送りながら、サトルは「ふぅ」と息を吐いた。
「さて、タロンくん。……とりあえず、今日の晩ご飯は何にしようか」
「あんたこの状況でまだ飯のこと考えてんですか!? ……まあ、腹は減りましたけど!」
騒がしくも平和な日常が、戻ってきた。
だが、サトルはまだ知らない。
この一件が、王宮内に新たな波紋を広げていることを。
***
王宮・第二王子の執務室。
分厚い眼鏡をかけた神経質そうな青年——第二王子・エドワードは、報告書を読みながら冷笑を浮かべていた。
「……へえ。追放は免れたか、兄上」
彼は、指先でペンを弄びながら呟く。
「まあ、いいさ。……『人が変わった』なんて噂もあるが、所詮はあの無能な兄上だ。すぐにボロを出して自滅するだろう」
眼鏡の奥の瞳が、計算高く光る。
「兄上がポカをしてくれれば、労せずして王位は私のもの……。せいぜい、ピエロとして踊り狂ってくれたまえよ」
王宮・第三王子の私室。
豪奢な天蓋付きベッドの上で、愛らしい美少年——第三王子・リヒトは、クッションを抱きしめてジタバタしていた。
「ありえない! ありえないよ!」
彼は、密偵が持ってきた『サトルが笑顔でチャーハンを作っている隠し撮り写真』を睨みつけた。
「あんなの兄上じゃない! 兄上はもっとこう、冷酷で、残忍で、僕のことなんてゴミを見るような目で見るべきなんだ!」
リヒトは、「うわぁぁぁん!」とクッションに顔を埋めた。
「『タロンくん、ありがとう』だなんて……! そんな優しい顔、僕に向けたこと一度もないくせに! 解釈違いだ! 公式が解釈違いを起こしてる!」
彼は、極度のブラコンだった。
ただし、「冷酷な兄上に蔑まれたい(でも構ってほしい)」という、極めて拗らせたタイプの。
「……認めないぞ。あんなの、僕の兄上じゃない……!」
リヒトは、涙目で写真を握りつぶした。
それぞれの思惑が渦巻く中。
天然たらしな元日本人高校生の、波乱に満ちた第二章が、幕を開けようとしていた。
(第1章・完)
張り詰めた空気の中、サトルは静かに跪いていた。
背後には、顔をくしゃくしゃにして鼻をすするタロン。
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そしてその傍らには、扇子を閉じて凛と立つ、レティーナ・サルバルトルの姿があった。
「……面を上げよ、アルバート」
国王の重々しい声が響く。
サトルはゆっくりと顔を上げた。その表情に、悲壮感はない。あるのは、やるべきことをやるだけだという、淡々とした覚悟だった。
「一週間の猶予を与えたはずだが。……レティーナ嬢との和解は成ったか?」
「いえ、陛下」
サトルは、はっきりと答えた。
「和解には至りませんでした。……僕のしたことは、謝って済むようなことではありませんから」
サトルは一度言葉を切り、隣に立つレティーナを一瞥した。
彼女は鉄仮面のように無表情のまま、前を見据えている。
「僕、アルバート・フォン・アイゼンハルトは、レティーナ嬢との婚約破棄を正式に受け入れます」
ざわっ、と居並ぶ文官たちがどよめく。
あの執着心の強い王子が、あっさりと身を引いたことに驚いているのだ。
「それに伴い、王位継承権の剥奪、ならびに南の孤島への追放処分も、謹んでお受けいたします」
「……異議はないのだな?」
「はい。……ただ、ひとつだけ」
サトルは、床に額を擦り付けるようにして平伏した。
「従者のタロンには、何の罪もありません。彼はただ、未熟な主人に仕えただけの忠臣です。……どうか彼にだけは、寛大なご処置と、新たな職の斡旋をお願いいたします」
「……は?」
背後で、素っ頓狂な声が上がった。
タロンだ。
「な……何を言うとるんですか、この甲斐性なし!」
タロンは王の御前であることも忘れ、サトルの背中に詰め寄った。
「わしは言いましたぞ! 島だろうが地獄だろうがついていくって! わしの忠誠心を『再就職』なんかで安売りするんじゃねえですわ!」
「タロンくん……」
「あんた一人で行かせてみろ、三日で野垂れ死ぬのがオチじゃ! わしが管理してやらんとダメなんですわ!」
半泣きでキレる少年の姿に、国王は眉をピクリと動かした。
自分の保身ではなく従者の未来を乞う主人と、その主人を見捨てない従者。……以前のアルバートには考えられなかった信頼関係だ。
「……よかろう。タロンの処遇は考慮する。では、アルバートよ。直ちに荷をまとめ……」
「お待ちくださいませ、陛下」
王の宣告を遮ったのは、凛としたソプラノの声だった。
レティーナが一歩前に出る。
その顔には、慈悲など微塵もない、ビジネスライクな冷徹さが張り付いていた。
「レティーナ嬢? 何用か」
「アルバート殿下の処分について、被害者である私から、ひとつ『提案』がございますの」
レティーナは、扇子をパチリと開いた。
「私は、殿下との婚約破棄を撤回するつもりはございません。……あのような無礼な振る舞いを受けた以上、サルバルトル家の誇りにかけて、一度白紙に戻さねば気が済みませんわ」
「うむ。もっともだ」
「ですが! 殿下を追放なさるのには、反対いたします」
会場が静まり返る。
サトルも驚いて顔を上げた。
「……どういうことだ?」
「理由は単純ですわ。……殿下が『逃げ得』になるのが許せないからです」
レティーナは、サトルを見下ろしてニヤリと笑った。
「南の島で、悠々自適なスローライフ? 毎日釣りをして、美味しい果物を食べて、昼寝をして暮らす? ……そんなの、罰ゲームどころかご褒美じゃありませんの!」
図星だった。
サトルは「あ、バレてる」と目を泳がせる。
「私をこれだけ傷つけておいて、ご自分だけ南国リゾートでバカンスだなんて、虫が良すぎますわ! そんなの、このレティーナ・サルバルトルが許しません!」
レティーナは、芝居がかった仕草で胸を張った。
その姿は、まさに「悪役令嬢」の風格。
「殿下には、この王宮に残っていただきます。そして……王族としての公務に加え、私の『機嫌取り』という労働をしていただきますわ!」
「機嫌取り……?」
「ええ。婚約者としてではなく、ただの『使用人』のような立場で。……私を楽しませ、敬い、尽くしなさい。もし私が『これなら見直してやってもよくてよ』と思える男になった暁には……その時初めて、口を利いて差し上げます」
それは、実質的な「追放回避」だった。
だが、その態度はあくまで「罰を与える執行者」のものであり、そこに甘い雰囲気は一切ない。
(……なるほど。レティーナさんは、僕に『チャンス』をくれる代わりに、自分のプライドも守ったんだな)
サトルは、感心した。
彼女は賢い。そして、情に厚い。
ここでサトルを追放すれば、彼女自身も「王族を追放に追い込んだ女」として後ろ指を指されかねない。
この提案は、王家のメンツ、彼女の評判、そしてサトルとタロンの生活……すべてを丸く収める、ギリギリの落とし所だったのだ。
国王フリードリヒは、口ひげを撫でながら、面白そうに二人を見比べた。
「……ふむ。被害者であるそなたがそう言うのであれば、余が口を挟むことではないな」
国王は、鷹揚に頷いた。
「よかろう。アルバートの追放は取り消す。……ただし! 王位継承権については一時凍結とする。第一王子の地位には留め置くが、今後の働き次第では、弟たちにその座を譲ることになると思え」
「はい! ありがとうございます、父上!」
サトルは、満面の笑みで答えた。
王位なんてどうでもいい。
とりあえず、タロンを路頭に迷わせずに済んだ。それだけで十分だ。
「……ふん。せいぜい精進することだな、アルバート」
国王は、隠しきれない笑みを口元に浮かべ、席を立った。
***
謁見の間の外。
重厚な扉が閉まった瞬間、タロンが崩れ落ちた。
「よ、よがっだぁぁぁぁ! 死ぬかと思ったぁぁぁ! わしの出世ロード、首の皮一枚で繋がったぁぁぁ!」
「タロンくん、大げさだなぁ。……でも、ありがとうね。『ついていく』って言ってくれて」
「勘違いしないでくだせえ! あんたが頼りないからじゃ!」
泣き笑いするタロンの背中をさすりながら、サトルはレティーナに向き直った。
彼女は、扇子で顔を仰ぎながら、冷ややかな視線を向けている。
「……助けてくれてありがとう、レティーナさん」
「ふん。……勘違いしないでくださいまし。私はただ、あなたが楽をするのが癪だっただけですわ」
レティーナは、ツンとした態度を崩さない。
「それに、勘違いなさらないで。……婚約は白紙です。今の私たちは、ただの『顔見知り』以下。……いいえ、マイナスからのスタートですわ」
「うん、わかってるよ」
サトルは、穏やかに微笑んだ。
「僕も、その方が気が楽だ。……『王子と婚約者』じゃなくて、一人の人間として、君と向き合えるからね」
その言葉に、レティーナが一瞬だけ目を丸くした。
だが、すぐに表情を引き締め、扇子を閉じる。
「……口だけならなんとでも言えますわ。せいぜい、死ぬ気で私に尽くすことですわね」
「お手柔らかに頼むよ」
二人の間に、甘い空気はない。
あるのは、奇妙な共犯関係のような、あるいはビジネスパートナーのような、ドライで対等な距離感だけ。
サトルにとって、レティーナは「将来の奥さん候補(設定上)」ではあるが、今の時点では「気難しいけれど根はいい人」くらいの認識だ。
そしてレティーナにとっても、サトルは「観察対象」でしかない。
「では、ごきげんよう。アルバート殿下」
「またね、レティーナさん」
背を向けて歩き出すレティーナ。
その背中を見送りながら、サトルは「ふぅ」と息を吐いた。
「さて、タロンくん。……とりあえず、今日の晩ご飯は何にしようか」
「あんたこの状況でまだ飯のこと考えてんですか!? ……まあ、腹は減りましたけど!」
騒がしくも平和な日常が、戻ってきた。
だが、サトルはまだ知らない。
この一件が、王宮内に新たな波紋を広げていることを。
***
王宮・第二王子の執務室。
分厚い眼鏡をかけた神経質そうな青年——第二王子・エドワードは、報告書を読みながら冷笑を浮かべていた。
「……へえ。追放は免れたか、兄上」
彼は、指先でペンを弄びながら呟く。
「まあ、いいさ。……『人が変わった』なんて噂もあるが、所詮はあの無能な兄上だ。すぐにボロを出して自滅するだろう」
眼鏡の奥の瞳が、計算高く光る。
「兄上がポカをしてくれれば、労せずして王位は私のもの……。せいぜい、ピエロとして踊り狂ってくれたまえよ」
王宮・第三王子の私室。
豪奢な天蓋付きベッドの上で、愛らしい美少年——第三王子・リヒトは、クッションを抱きしめてジタバタしていた。
「ありえない! ありえないよ!」
彼は、密偵が持ってきた『サトルが笑顔でチャーハンを作っている隠し撮り写真』を睨みつけた。
「あんなの兄上じゃない! 兄上はもっとこう、冷酷で、残忍で、僕のことなんてゴミを見るような目で見るべきなんだ!」
リヒトは、「うわぁぁぁん!」とクッションに顔を埋めた。
「『タロンくん、ありがとう』だなんて……! そんな優しい顔、僕に向けたこと一度もないくせに! 解釈違いだ! 公式が解釈違いを起こしてる!」
彼は、極度のブラコンだった。
ただし、「冷酷な兄上に蔑まれたい(でも構ってほしい)」という、極めて拗らせたタイプの。
「……認めないぞ。あんなの、僕の兄上じゃない……!」
リヒトは、涙目で写真を握りつぶした。
それぞれの思惑が渦巻く中。
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