【R18】Actually

うはっきゅう

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本編

知らない自分

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 その日のトキは、傍目にもわかるほど、ぼんやりしていた。
 無機質な作業室。最年少のソウタと二人、次のライブで披露する楽曲のアレンジ作業に篭もる約束をしていたのに、トキの意識は、目の前のシーケンサーではなく、どこか遠くを彷徨っていた。
「……トキさん?  さっきから、ここのループ、ずーっと同じとこ回ってますけど」
「え……あ!  ああ、ごめん、ソウタ。ちょっと、別のこと考えてて……」
「……トキさん」
 ソウタが、心配そうにその大きな瞳で、トキの顔を覗き込む。
「あの、もしかして、体調悪いっスか?  顔色、昨日からずっと良くないし……」
 あどけない後輩からの、純粋な心配。
 それが、今のトキには針のように突き刺さった。
「……ううん、大丈夫。なんでもないよ」
「なんでもないって顔じゃないですよ。……あの、無理しないでください。今日の作業、このくらいで切り上げましょ?  俺、あとは自分でやっときますから」
「……ソウタ……」
「リーダーが倒れたら、俺たちが困るんスからね!」
 ニカッと笑うソウタに、トキは「……ごめん」と、力なく返すことしかできなかった。
 違うんだ、ソウタ。
 体調が悪いんじゃない。
 俺はただ……俺の中にいる、“俺じゃない誰か” に、怯えてるだけなんだ。
 作業室を出て、寮の自室に戻る道すがら、トキは制御不能な自分自身をどう扱えばいいのか、本気で悩んでいた。
 ソウタにまで気を遣わせてしまった。リーダー失格だ。
 そして、その原因が、他でもない「チカ」への、歪んだ感情のせいだということが、トキをさらに惨めな気持ちにさせた。
(……俺、なにしてんだろ)
 昨夜のホテルでの、あの凶行。
 そして、今日の、撮影での自分。
 思い出すだけで、恥で死んでしまいたくなる。
『そんな顔する、あんたが悪い』
 どの口が言ったんだ。
 あれは、ほとんど強引なストーカーの論理だ。
 チカが抗えない「仕事」という状況を選んで、わざとらしいスキンシップで追い詰めて、意地悪く囁いて……。
 真っ赤になって、潤んだ目でこっちを睨みつける、あの顔。
 その「反応」を、心のどこかで「楽しんで」しまった。
(……最低だ)
 トキは、自分の部屋のベッドに倒れ込み、天井を仰いだ。
 チカに訴えられてもおかしくないレベルのことを、自分はしている。
 これまで、トキは自分が「うまいことやれる」方だと思って生きてきた。
 人当たりが良く、誰とでもすぐに打ち解けられる。周りから「いいやつ過ぎて胡散胡臭い」と揶揄(からか)われることもあったが、ウソをついているつもりも、おだてているつもりもなかった。
 いつだって本心で、みんなが笑ってくれるのが、ただ嬉しかった。
 一度は夢を諦め、道を踏み外しそうになった時ですら、トキのその「本質」は変わらなかったはずだ。
 なのに。
 ここに来て、なぜか。
 チカにだけは、変な行動を取ってしまう。
 憧れだった。
 あのガラス張りのスタジオで見た、鬼気迫るダンス。
 あの姿が、腐りかけていた自分の魂を、もう一度奮い立たせてくれた。
 同じグループになれて、本当は、死ぬほど嬉しかったんだ。
 なのに、どうして。
 ホテルで、無理やりキスなんかした?
 どうして今日、まるで変質者みたいに、彼を追い詰めてしまった?
(……誰なんだよ、アイツは)
 トキ本人も、あの底意地の悪い人間が、一体「誰」なのか、わからなかった。
 あれは、自分が知っている「俺」じゃない。
 チカの、怯えたような、それでいて抗うような、あの目。
 潔癖症の彼が、俺に触れられて、どんなに屈辱だっただろう。
(……もう、やめよう)
 ベッドの上で、トキは強く拳を握りしめた。
 憧れの人を、これ以上、自分の身勝手な欲望で汚してはいけない。
 明日からは、絶対に。
 チカに迷惑をかけないようにしよう。
 いつもの「完璧なリーダー」として、いつもの「爽やかな仲間」として、彼に接するんだ。
 ……そう、固く、固く、決意した。
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