Brave Battle Online〜病弱で虚弱な私でも、仮想空間では最強を目指せるようです〜

洲雷 無月

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3.スポーツ大会

12.初イベント

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「お前らにお知らせがあるぞー」

 朝のホームルーム。

 出欠を取った後、唐突に柏葉先生が話題を切り出す。

 神里高校では5月末にスポーツ大会があるらしい。

 スポーツ大会はクラス対抗のスポーツ対戦。

 新たなクラスになった仲間との絆を深めることが目的のイベントとして、春に開催されるとのことだ。

 バスケットボール、フットサル、リレーと、eスポーツのBrave Battle Online(格闘技)、Brave Formula Online (レース)の5種目で各クラスで競い合うのだ。

 午後の体育の授業で体力測定をして、帰りのホームルームの時間を使って担当割を決めるということが先生の口から話された。


 私は小さくため息をつく。

 運動系のイベントはクラスの役に立てない。
 ただでさえ、動くことが苦手な私は、スポーツをするなんて夢のまた夢だ……

 隣で楽しそうにスポーツ大会について話す朱音ちゃんと美月ちゃん。その二人と目が合う。

「スポーツ大会、このクラスでの初イベント。楽しみだね」

「……う、うん」

 楽しそうに言う朱音ちゃんに、私は答える。しかし、なんだか歯切れが悪い答えになってしまった。

「真雪ちゃん、どうしたの?」

 そんな私の様子に気付いてか、美月ちゃんが問いかけてくる。

「うん。私、体が弱いから、運動全然出来ないんだ。だから、私、多分スポーツ大会は参加できないと思う……」

 少し視線を落としながら、心の内を正直に話す。

「そう、なのか……」

「じゃ、この話はお終い。

 ブレバトの話、しようよ。

 昨日送ったブレバトの動画、見た?」

 私の気持ちを汲み取ってか、美月ちゃんが話題を変える。

「うん。見たよ。

 紹介動画の第一回と、決勝戦の第三試合」

 新たな話題に、私は視線を上げて答える。

「クイーンのSaeKa、凄いよね!」

 身を乗り出して朱音ちゃんが言う。


「うん。

 あの試合は一瞬で決着したように見えたけど、あの一瞬に色々な駆け引きがあって見応えがある試合だったよ」

「でしょ、でしょ、美月ったら全然分かってくれないんだよ~

 やっぱ見る人が見れば分かるんだよ。

 ほら、美月は真雪を見習って欲しいもんよ」

 朱音ちゃんは腕を組んで不満げな視線を美月ちゃんに送る。

「あんな試合後の感想戦で、スローモーションにして解説してもらわなくちゃ分からないような高度な戦いは私に理解しろっていうのが無理だよ。

 寧ろ団体戦で相手を一所に誘導してでのハンマーでの広範囲攻撃をした戦略の方がグッとくるのよね」

「もう、美月はブレバトに関してはホント脳筋なんだから……」

「朱音ちゃんには言われたくないよ」

 ぶーと美月ちゃんが頬を膨らます。

 そのやりとりが面白くて笑みが溢れた。

「そうそう、去年のグランプリで優勝したのがキッカケでクイーンをモデルにしたアニメが決定して、まさかまさかの大ヒットになったんだよね」

「『紫電の刃』だっけ?」

「そう。それ」

「あ、それなら私も知ってる」

 知ってる話題だったので私も話題に入る。

「SaeKaが使うのは『紫電一刀流』っていう古流剣術らしいんだけど、SaeKaの活躍で一躍注目の流派になったんだ。

 元々は門下生も少ない零細な剣術だったみたいだけど、今や全国から門下生が集まって、全国展開まで視野に入れているみたい。

 SaeKaが強過ぎて、SaeKaが使う剣術は凄いのかもって話題になって、使うのが古流剣術だってことで昔妖怪退治をしていた剣士が使っていた剣術なんしゃないか、って尾鰭背鰭がついて、しゃあ映像化しないか、ってことでアニメ化して大ヒットらしい。

 ずっと悲願だった流派の復興に、関係者は大歓喜だったみたいよ」

「ほぇ~、凄いね」

 感心し過ぎて変な声が出てしまった。

「あの剣捌きは妖怪退治してた剣術だって言われても納得だわ」

 朱音ちゃんもうんうんと頷いている。

「でも、それを見た他の流派の猛者がこぞって今年の高校ブレバトグランプリに参戦するみたいだから、今年の大会は戦国時代になるって前にブレバト特集で煽られてたね」

「むしろ、私が無敵榎崎流とか言ってブレバト活躍しちゃったら、数百人単位で弟子とか出来ちゃうのかな?」

「いやいや、流石に無理でしょ」

「だよね~」

 そんなやりとりを笑顔を崩さずに聞いていたが、ふと気になった。

「あ、あの、流派の話だけど、二人とも『真蔭熊流』って流派って知ってる?」

 訊いてみる。

 私、師匠から免許皆伝とされて流派を名乗ることを許されたんだけど、もしかしたら凄い流派なのかな、と思って聞いてみたのだが……

「しんかげくま? う~ん、ちょっと分からないかな?」

「博識の美月が分からないんじゃ、私は無理ね」

「そっか、そうだよね……」

 もしかしたら、と思ったけど、そんなことなかったみたい。

 そんなやりとりをしているうちに一限目の予鈴がなった。

   ★

 午後の体育の授業は体力測定を行った。

 初めて学校のジャージに着替えての授業だったのだけど、身体の弱い私は幾つかしか測定に参加することはできなかった。

 体育の先生には事前に私が虚弱体質であることが伝わっていたようで、授業が始まるとすぐ隅に椅子を用意されて見学することとなった。

 そこで同じく見学だった別のクラスメイトと少し話すことができた。

 名前は木下きのした 菫麗すみれちゃん。

 明るく染めた髪はウェーブが掛かっていて、薄く化粧されたその姿は大人びていてとても同じ歳とは思えないくらい可愛い子だ。

 木下さんは女の子の日って事で見学したみたいだけど、実はサボりだったみたい。

 サボりはダメだよって言ったら、睨まれてしまった。

 それ以外は特に変わった事なく、他にどんな子がクラスメイトにいるのかなんかを教えてもらった。

 やはり朱音ちゃんは運動神経がすごく良いみたいでどの測定も上位に入っていた。
 特に瞬発力系の数値が飛び抜けて良くて、スポーツ選手みたいだった。

 美月ちゃんは運動は苦手みたいだったけど、私に比べれば雲の上の存在だ。
 意外と筋力系の数値で良い成績を出していた。

 みんなの測定風景を感心して見つつ、私ができる測定だけ参加したけど、他のクラスメイトと比べるとぶっちぎりの最下位だった。

   ★

 体育の成績を受けてで帰りのホームルームでスポーツ大会のメンバー決め話題となった。

「一から決めてくと時間が掛かるから、今日の体力測定を元にザックリだが私の方で種目分けしてみた。

 今からそれを画面に出すから、自分の希望と沿わない奴は手を挙げて意見を言ってくれ」

 そう言うと、先生は教室の前のモニタに仮で作った種目分け表を表示した。

 生徒たちはその情報を手持ちのタブレットに同期させて確認する。

 私も他のクラスメイトと同じくタブレットに情報を表示させて確認する。

 朱音ちゃんと美月ちゃんはバスケットボールのグループに入っていた。
 体育で一緒に見学をしていた木下さんはeスポーツの格闘技に入っていた。

 私の名前は……

 一番下までスクロールさせて、『見学』の欄に私の名前が入っていた。

 だよね。

 やっぱ、私は参加するのは難しいよね。ホントはクラスのみんなとイベントに参加したかったんだけど……

 そう落胆していると、斜め前の席の朱音ちゃんが手を上げて立ち上がる。

「榎崎、なにかあるか?」

「はい。私はブレバト、じゃなくて、eスポーツの格闘技に出たいです!」

 真っ直ぐに意見を言う朱音ちゃんに、柏葉先生は少し唸った。

「そうか、榎崎はeスポーツ部だったな。

 ポイントを取りに行くならそれもアリかと思ったんだけどな。

 榎崎の身体能力を考えると、大量のポイントを期待できるバスケットボールに置いておきたい所なんだよな。

 確か榎崎はバスケットボール経験者だよな?」

「……そう、ですけど」

 珍しく朱音ちゃんが歯切れが悪く答える。

 私は朱音ちゃんがバスケットボール経験者だって事を初めて知った。

「eスポーツは上位学年からeスポーツ部のメンバーが出てくると思うんだ。

 フットサルも去年のうちの女子サッカー部が県大会準決勝まで進んでいるから、優勝を狙うならバスケしかないんだ。

 スポーツ大会の成績で秋の文化祭の出店の場所とか優遇処置があるから、どうしてもポイントを取りたいんだ。

 榎崎、バスケットボールに出て優勝を目指してもらえないか?」

 先生の嘆願に、朱音ちゃんはしばらく考えていたようだが、最後には「分かりました」と自分の意見を引っ込めた。

 その後、何名か意見を出してメンバー入れ替えがあり、スポーツ大会のメンバー決めが決まった。

「よし、じゃあこれでうちのクラスのメンバー表示を提出するな」

「すみません。ひとついいですか?」

 最後に先生が締めようとしたところで、一人の生徒が手を挙げた。

「もう意見がないかと思ったかなんかあるか、木下?」

 手を挙げたのは一番前の席の木下さん。

「どうして柊木さんはスポーツ大会のメンバーに入ってないんですか?」

 急に出てきた私の名前にビクリと身体が震える。

 その言葉を聞いて柏葉先生も表情を強張らせた。

「う~ん、柊木は身体が弱くて、な。
 医師から激しい運動を止められているから、スポーツ大会には出れないんだ」

「運動がダメでも、eスポーツなら問題ないんじゃないですか?

 昨日、榎崎さんに教えられてブレバトをインストールしていたみたいなので、私も参加予定のブルバトの補欠としてメンバーに入ってもらうってのはどうですか?

 折角のクラスでのイベントなのに一人だけ参加できないのは可哀想だと思います」

 ハッキリとした口調で木下さんが意見を述べる。

「……うむ。木下の意見も一理あるな。

 だが、これは私が決めれる内容じゃないな。

 柊木、本人が決める事だな。

 eスポーツといっても格闘技だ。身体に負担がかかると思うが、参加してみたいか?」

 先生が私に意見を求める。

 視線が集まる。

 その視線に動悸が早まる。

 正直、スポーツ大会に参加したい。

 スポーツだと参加は無理だけど、eスポーツだったら?

 師匠から厳しい特訓を受けたという経験がある。もしかしたら、普通の人にとっては厳しくもない内容かもだけど、毎日バトルをしても現実の身体に悪影響は出たことはない。

 たから

 我儘かもしれないけど

「わたし、参加して、みたいです」

 願望を口にする。


「……そうか。分かった。

 では、柊木をブレバトのメンバーに入れよう。

 だが、無理は禁物だぞ。辛いと思ったらすぐに言うこと。
 それと、木下たち他のブレバトメンバーは柊木に無茶させないこと。

 分かったな?」

 しばし黙考した後、先生が判断する。

 メンバー表の私の名前が種目「Brave Battle Online」の欄に追加される。

 クラスのみんなと一緒にイベントに参加できる。

 私の胸が嬉しさで高鳴る。

 参加できないと思ってたけど、木下さんありがとう。

 最前の席に座る木下さんと目が合うと、私はありがとうとう小さく会釈する。
 それに木下さんはニヤリと笑顔で返す。


 こうして、私もスポーツ大会に参加することとなった。


 しかし、この時はまだこの後に起こる事件のことなど知る由もなかった。
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