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第2章:謎の町にて

鍵を取って

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「あと、もう少し……」

 僕は町の境であるポールまであと数歩の所にいる。
 キツい。
 辛い。

「ほら、もう少しだぞ!」

「がんばれよ、偽救世主様!」

「鍵まであと少し!」

「その前に死ぬかもしれんけどな!」

「違えねえ!」

 笑い声が響く。

 くそ!

 絶対辿り着く。
 鍵は見えている。
 背負った十字架を引きずる。
 また一歩、もう一歩。
 足を前に。

「おお! 一度止まったのにまだがんばるねえ」

「死にに行くためにがんばるなんて、泣かせるじゃねえか」

「お前、そんな事言って顔が笑ってるぞ」

「泣けるほど笑わせてくれるって事だよ」

「なるほど」

 また笑い声だ。
 さっきよりもでかい声で笑ってる。

 境だ。

 境まで来た。

 死ぬなら死ぬ。

 諦める。

 僕は更に歩を進める。

 鍵までは一〇メートルも無い。

 キラリと光る金属製の鍵は、はっきりと場所を教えてくれている。

 あと五メートル。

 笑い声が止む。

 あと三メートル。

 沈黙が訪れる。

 外に出たのに僕が死なずに歩いているから。
 何も言えないんだ。
 この町のニンゲンからしたら信じられない光景で。
 彼らにとっての奇跡を見ているのだから。

 あと二メートル。

 手の届きそうな位置だ。

「くそ! 偽者のくせに!」

「でも、もうこのまま力尽きそうですよ」

 あと一メートル。

「そうだな。この町に戻れないようにしてやれば、このままそこでくたばるはず」

「死ぬ所を見届けてから戻るか」

「ええ。あっちも気になりますし」

 あっち?

 エリーのいる教会の事か?

 ははっ。

 無理だ。

 今の僕じゃ何の力にもなれやしない。
 勝手に着いて行って、こんな目に合ってるんだ。エリーだって呆れているな。
 僕を連れてこの町に来た事を後悔してるかもしれない。

 最低でも自分でこの場は何とかしなきゃ。

 僕は鍵を手に取る。
 最後は鍵の上に倒れるようにして鍵を掴んだ。十字架の下敷きになる形で。

「くくく。これでは鍵を取っても使えないな」

「せっかく鍵が取れたのにな」

 あいつらはすでに余裕なのだろう。
 僕がこのまま死ぬと思ってるんだろう。

 僕だって思ってる。

 もう体を起こす事もできない。
 
 僕の意識は途切れた……。
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