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第2章:謎の町にて

侵入者

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「逃げろ!」

「逃げろ!」

「早く!」

 警報と点滅するライト。

 休んでいた僕は叩き起こされた。

「な、何なんだよ、もう」

「ケンタロー。逃げろ!」

「ケンタロー。追っ手が来た」

「ケンタロー匿った時、誰かに見られた」

 追っ手?

 あのニンゲンたちが来たのか?

「ここの秘密守る」

「ここの秘密バレたら困る」

「ここの秘密は秘密」

 秘密?

「一号は逃げる。ケンタローを連れて逃げる」

「二号は戦う。侵入者退治する」

「三号は指示する。たくさんのロボットに指示する」

 訳も分からず僕は一号とやらに着いて走った。
 広い部屋。
 サッカーグラウンドみたいに広い部屋。
 そこを様々な機械が動いている。
 宙に浮いてるロボット、物を運んでいるロボット、料理するロボット。

 案内してくれる者がいなければ、僕はどこに行けば良いのか分からず迷子になっているだろう。

 それにしても、ここにはニンゲンは誰もいないらしい。
 ロボットとしか遭遇しない。
 まるで僕の町へ帰ってきたみたい。

「こっち」

 僕は着いて行く。
 ロボット一号の後を。
 僕の腰くらいまでしかないロボットの後を着いて行く。

 侵入者は一人?

 僕を追って来たら?

 エリーは大丈夫だろうか。
 もう随分会ってないような気がする。

 立ち並ぶ機械を横目にロボット一号を追う。
 
「ここは何だ!?」

 遠くで男の大声。
 僕を磔にした奴らの一人だと思う。

「早く早く」

 ロボット一号が僕を急かす。

 僕は早足でロボットに着いて行く。

「みんな、来てくれ! 凄いぞ!」

 背筋が震える。
 あいつらが来る。
 僕には抗う事なんてできない。

 早く逃げなきゃ。

 早く逃げなきゃ。

 早く逃げなきゃ。

「何だここは?」

「食べ物だ。ご馳走だ」

「我々を導く救世主様は確かにいた!」

「もう外で寒い思いをしなくて済む」

「食べ物が無くて辛い日も無くなるのね」

「ここには、我々の求める物もあるに違いない!」

「探せ!」

「我々の理想を叶える機械を!」

「探せ!」

「どこだ! どこにある!?」

 ああ、入って来た。
 どこからか、あいつらはここに来てしまった。
 裏の町。
 きっと今まで上の町の人々はここの存在を知らずに生きてきたのだろう。
 この裏の町のロボットたちによって人々が生かされてきたのが、この町の秘密だったのだろう。
 そう、この日、この時、とうとう町の秘密が、明かされてしまったのだ。

「ケンタロー。奴らがこちらに気付く前に」

「う、うん」

 ロボット一号がスピードを上げる。
 僕は着いて行くために走り出す。

 人々とロボットたちが争う音がしてきた。

「何だ、このロボットは」

「邪魔をするな!」

「ニンゲンは立ち入り禁止だ」

「ここから出て行け!」

 ガンガンと叩く音がここまで届く。

 人とロボットが争っている。

「ケンタローはロボットと争っちゃダメ」

「もちろんだよ。僕にはロボットの家族がいるんだから。父さん、母さん、犬のワンダ。みんなロボットで大事な家族なんだ」

「そうか。良かった。その昔、人はロボットと争い世界は荒廃したという。ケンタロー、君なら人とロボットが共に支え合い生きる世界を我々に見せてくれると信じている」

「ロボット一号……」

「君は世界で最後の人類、そして、最初の人類。我々は君を知っていた。我々は君を守る義務があった。エリーを頼む」

 ロボット一号が上へとアームを伸ばす。
 天井のハッチが開きはしごが下りてくる。

「このはしごを上がれば、エリーがいる教会へ繋がってる」

「ありがとう」

「生きろ。君はロボットと旧人類の希望だから」

 僕がはしごを上る。
 ロボット一号は僕が上り切るのを確認すると、はしごを壊した。

「あそこにまだロボットがいる!」

「きっとあそこに例の機械があるに違いない!」

「警告! これ以上はニンゲンが立ち入ってはいけない! 直ちに引き返せ!」

 ロボット一号の警告も虚しく、争う音がしてきた。
 僕は振り返らずにエリーの元へと走った。
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