その男、二度死ぬ

田中マーブル(まーぶる)

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その男、二度死ぬ

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「ぐ、うぐ、朝食に何かしたな……」

「さて? 何の事かしら。それより、アナタ、私に毒でも盛ろうとしたんじゃない?」

 くそ! バレていた。
 俺は、この妻を殺して、そして……。

「アナタのやってる事はバレバレなのよ」

「…………」

 ああ、意識が……。
 最後の食事がトーストとコーヒーだなんて……。

……………………。

…………………………………………。



ここは、何処だ?

「目が覚めたのね」

 妻が俺の顔を覗き込んでいる。

「?」

 何が起こってる?

 あれは、夢だったのか?

「うなされていたから心配だったのよ」

「そうか。悪かったな」

 俺は財布を確認した。

 大丈夫だ。

 薬は残ってる。

 やはり夢だったか。

「朝ごはんできてるわよ」

「ああ、すぐ行くよ」

「今日が休みだからって、一日寝てちゃダメよ」

 妻は何も知らない。

 俺に女がいる事も。

 多額の保険金を掛けてある事も。

 俺の貯金を妻が使い込んでいる事も俺は分かっている。

「さ、召し上がれ」

 妻が出したのはトーストにコーヒー。

「良い香りだな」

「ええ。特別な隠し味が入っているもの」

「う!」

 一口飲んで違和感を覚える。

「大丈夫?」

「何かいつもと違うような……」

「良いから全部飲んで」

「いや、ムリ」

 彼女は後ろから俺を押さえつけ、無理やりにコーヒーを飲ませようとする。

「う!」

「大丈夫よ。アナタが用意した物だから」

 俺が用意した?

「酷いわね。愛する妻を殺そうとしてたんでしょ?」

 俺の、用意した、薬なのか?

 ああ、意識が遠退く……。

 何故だかこの感覚、一度経験したような……。

……………………。

…………………………………………。

 あれ?

 何で俺は椅子の上に立っているんだ?

 さっきのコーヒーには睡眠薬が?

 おっとと、バランスが……。

 く、苦しい。

 ロープか何かが首に、絞ま、る…………。

「私が何も知らなかったとでも?」

 うっすらと妻の声が聞こえた。

「大丈夫よ。全部知ってるから」

…………。

…………………………。

「う、うーん?」

 俺はベッドに寝ていた。

 今までのは、全て夢、だったのか?

「アナタ」

 妻の声だ。

「朝ごはん、出来たわよ。丁度トーストが焼けた所」

 トーストとコーヒー。

「珍しいわね。まだベッドなんて。普段ならもう食卓に着いてるのに」

「いつもはパンじゃなくてご飯じゃなかったか?」

「え? 何を言ってるの?」

「毒でも入れてるんだろ! コーヒーに入れたのか? それともトーストに塗ってるのか?」

 つい声を荒らげてしまう。

「朝から何を言ってるの? 変な夢でも見たんでしょ」

「そうなのか? やっぱり夢なのか」

「そうよ。毒を入れるなんて、『アナタじゃあるまいし』」

 妻が笑顔で言う。

 俺はその笑顔が何故か無性に怖かった。


終わり
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