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水色列車
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ここは第7地区中央部にある全世界を結ぶ、世界最大の駅、「第7中央駅」。今日は、7月29日。最高気温は35℃らしい。湿気がひどく、1歩外に出るとじめっとした空気が、服から出ている腕や足にまとわりついて、息苦しささえ感じてしまう。それでも、さすが世界最大の駅と言うべきか、多くの人が時間を気にしながら、足早に私の目の前を行き交う。
私はアリス。魔女の修行をするために、第2地区へ向かうため憧れの都会にやってきたのだ。
「あっついー!」
全身から汗が噴き出す。私の足下では、黒猫のエルトが
「にゃあ」
と私を見て微笑む。エルトは私が生まれた時から、私の隣にいた。お母さんによると、エルトは私のおばあちゃんの代からうちで飼われていたらしく、とても長生きさんらしい。いつも娘の面倒を見るように私のそばにいてくれる、頼れるお姉様の様な存在。
「にゃん」
エルトは短く鳴いて、電光掲示板の方に顔を向ける。
「そうだね、そろそろ行こうか!」
ただ今の時刻、午後12時30分。第2地区直行列車の発車時刻は12時45分。ますます暑くなる第7地区から逃げるように、ホームに止まっていた直行列車に飛び乗った。
「にゃ〜」
列車の中は、微量の自然エネルギーで空気を冷たくする最新の設備によって、肌寒いくらいだった。
「エルト、席はARS-11番。どこか分かる?」
私の問いにエルトは首を振ると、軽い身のこなしで私の方に飛び乗る。
「にゃお!」
旅立ち最初のミッションにゃ!席を見つけるにゃ!ずっと一緒にいると、エルトが言っていることが雰囲気で分かる。これも魔女の能力の影響だとお母さんは言っていた。
「なんだか、わくわくするね!」
些細なことでも、わくわくしてしまう旅の始まりを思いっきり満喫しよう、と心の中で決めた。そんな私を見て、エルトはまた微笑む。
それぞれの地区へ向かう直行列車は、地区ごとのイメージカラーに塗られている。私の乗っている第2地区直行列車は自然をイメージした優しい黄緑色だ。列車の内装も黄緑色を基調とした配色で、ふかふかの座席はまるで干し草のベッドの様だった。
「ARS-11、ARS-11、 ふわぁっ!?」
ドンっ!席探しに熱中しすぎたせいか、前から人が来ていたことに気付かなかった。
「いてて……」
「大丈夫ですか!?」
私がぶつかったであろう人が、尻餅をついた私に手を伸ばしてきた。エルトはぶつかる直前に危険に気付いたのか、私の肩から降りて隣で優雅に毛繕いをしていた。
「わああ、すみませんー!」
私がぶつかった人は、なんと第2地区直行列車の車掌さんだった。紺色に第2地区のカラーである、黄緑色のラインが入った制服に身を包んだ……可愛い顔をした男の子。
「お怪我はありませんか?」
「全快ですっ!車掌さんは大丈夫ですか?」
私より少し身長が低く、肩につかない程の薄い茶髪。その上には車掌さんの証である制帽がちょこんと乗っている。
「ぼ、僕は大丈夫です!……何かお探しでしたか?」
車掌さんの言葉に、さっきまで自分が席探しをしていたことを思い出した。
「はっ!席探しをしていたんでした!車掌さん、ARS-11番はどこですか?」
「ARS-11番ですね。列車の2号車の方なので、案内しますね!」
車掌さんは少し頬を赤らめて、私の前をずんずん歩いて行く。この直行列車のほとんどは壁と、スライドドアに仕切られた個室で、中はボックス席のようになっている。個室の中では、それぞれが列車の出発を、今か今かと、待ちわびている様だった。
車掌さんの少しぎこちない案内で2号車についたのは、ちょうど発車時刻の1分前だった。
「ありがとうございますー!」
私は、お得意のアリスすーぱースマイルを車掌さんに向ける。
「い、いえ……僕、今日が初現場でしたので、分かりにくい案内で……」
「初めてだったんですかー?私も第7中央駅に来たの初めてだったので、とっても助かりました!」
私の言葉を聞いて、新人車掌さんはやっと笑顔を見せてくれた。
「私、アリスって言いますー!第2地区に魔女の修行に行く途中なんです。お互い初めて同士ですね!」
「僕はレオンと申します。アリスさんは魔女さんだったんですね」
自己紹介をしている途中で、発車時刻になったのか静かに列車が動き始めた。
「あ、そろそろ行かないと先輩に怒られてしまうので。第2地区までの短い間ですが、あなたの旅路に幸あれ!」
レオンはネクタイをきゅっと締め直し、颯爽と去って行った。
「レオン君かぁ〜……。この旅初めてのお友達になるかもしれないね!」
「にゃあ!」
私の言葉を聞いて、エルトは嬉しそうに鳴いた。
アリスが乗っている、第7中央駅から第2地区への直行列車は、片道3日間。この世界に溢れる自然エネルギーが、列車の動力となっているため、エンジン音もなく静かな旅を楽しめる。自然エネルギーを常に吸収し走っているため、3日間ノンストップで走り続ける。
「第7地区ってほんとに都会なんだね〜」
窓から見える、ビルが立ち並ぶ景色に見入ってしまう。
「この景色だけで1日過ごせちゃいそうだよ〜、ね!エルト!」
コンコン!列車が発車してから約30分後。私の個室のドアを叩く音が聴こえた。
「はーい!」
ガチャッとドアを開けると、そこにはレオン君が立っていた。
「お久しぶりです。仕事が一段落ついたので、列車の中を案内しようと思いまして……」
「レオン君!良いんですか!?」
「はい。列車の中を案内するのも、僕たち車掌の立派な仕事なので」
レオン君はニッコリ笑った。レオン君の笑顔につられて、私もエルトもニッコリ。
「じゃあ、準備するので少し待っていて下さいね!!」
「準備?」
「動きやすい服に着替えますね!」
私が着替えるまでの間、レオン君は
「個室の外で待っていますね」
とだけ言い残し、出て行った。
私は、羽織っていた旅人用の紺のローブを、簡易ベッドの上に置き、荷物を漁る。
私はアリス。魔女の修行をするために、第2地区へ向かうため憧れの都会にやってきたのだ。
「あっついー!」
全身から汗が噴き出す。私の足下では、黒猫のエルトが
「にゃあ」
と私を見て微笑む。エルトは私が生まれた時から、私の隣にいた。お母さんによると、エルトは私のおばあちゃんの代からうちで飼われていたらしく、とても長生きさんらしい。いつも娘の面倒を見るように私のそばにいてくれる、頼れるお姉様の様な存在。
「にゃん」
エルトは短く鳴いて、電光掲示板の方に顔を向ける。
「そうだね、そろそろ行こうか!」
ただ今の時刻、午後12時30分。第2地区直行列車の発車時刻は12時45分。ますます暑くなる第7地区から逃げるように、ホームに止まっていた直行列車に飛び乗った。
「にゃ〜」
列車の中は、微量の自然エネルギーで空気を冷たくする最新の設備によって、肌寒いくらいだった。
「エルト、席はARS-11番。どこか分かる?」
私の問いにエルトは首を振ると、軽い身のこなしで私の方に飛び乗る。
「にゃお!」
旅立ち最初のミッションにゃ!席を見つけるにゃ!ずっと一緒にいると、エルトが言っていることが雰囲気で分かる。これも魔女の能力の影響だとお母さんは言っていた。
「なんだか、わくわくするね!」
些細なことでも、わくわくしてしまう旅の始まりを思いっきり満喫しよう、と心の中で決めた。そんな私を見て、エルトはまた微笑む。
それぞれの地区へ向かう直行列車は、地区ごとのイメージカラーに塗られている。私の乗っている第2地区直行列車は自然をイメージした優しい黄緑色だ。列車の内装も黄緑色を基調とした配色で、ふかふかの座席はまるで干し草のベッドの様だった。
「ARS-11、ARS-11、 ふわぁっ!?」
ドンっ!席探しに熱中しすぎたせいか、前から人が来ていたことに気付かなかった。
「いてて……」
「大丈夫ですか!?」
私がぶつかったであろう人が、尻餅をついた私に手を伸ばしてきた。エルトはぶつかる直前に危険に気付いたのか、私の肩から降りて隣で優雅に毛繕いをしていた。
「わああ、すみませんー!」
私がぶつかった人は、なんと第2地区直行列車の車掌さんだった。紺色に第2地区のカラーである、黄緑色のラインが入った制服に身を包んだ……可愛い顔をした男の子。
「お怪我はありませんか?」
「全快ですっ!車掌さんは大丈夫ですか?」
私より少し身長が低く、肩につかない程の薄い茶髪。その上には車掌さんの証である制帽がちょこんと乗っている。
「ぼ、僕は大丈夫です!……何かお探しでしたか?」
車掌さんの言葉に、さっきまで自分が席探しをしていたことを思い出した。
「はっ!席探しをしていたんでした!車掌さん、ARS-11番はどこですか?」
「ARS-11番ですね。列車の2号車の方なので、案内しますね!」
車掌さんは少し頬を赤らめて、私の前をずんずん歩いて行く。この直行列車のほとんどは壁と、スライドドアに仕切られた個室で、中はボックス席のようになっている。個室の中では、それぞれが列車の出発を、今か今かと、待ちわびている様だった。
車掌さんの少しぎこちない案内で2号車についたのは、ちょうど発車時刻の1分前だった。
「ありがとうございますー!」
私は、お得意のアリスすーぱースマイルを車掌さんに向ける。
「い、いえ……僕、今日が初現場でしたので、分かりにくい案内で……」
「初めてだったんですかー?私も第7中央駅に来たの初めてだったので、とっても助かりました!」
私の言葉を聞いて、新人車掌さんはやっと笑顔を見せてくれた。
「私、アリスって言いますー!第2地区に魔女の修行に行く途中なんです。お互い初めて同士ですね!」
「僕はレオンと申します。アリスさんは魔女さんだったんですね」
自己紹介をしている途中で、発車時刻になったのか静かに列車が動き始めた。
「あ、そろそろ行かないと先輩に怒られてしまうので。第2地区までの短い間ですが、あなたの旅路に幸あれ!」
レオンはネクタイをきゅっと締め直し、颯爽と去って行った。
「レオン君かぁ〜……。この旅初めてのお友達になるかもしれないね!」
「にゃあ!」
私の言葉を聞いて、エルトは嬉しそうに鳴いた。
アリスが乗っている、第7中央駅から第2地区への直行列車は、片道3日間。この世界に溢れる自然エネルギーが、列車の動力となっているため、エンジン音もなく静かな旅を楽しめる。自然エネルギーを常に吸収し走っているため、3日間ノンストップで走り続ける。
「第7地区ってほんとに都会なんだね〜」
窓から見える、ビルが立ち並ぶ景色に見入ってしまう。
「この景色だけで1日過ごせちゃいそうだよ〜、ね!エルト!」
コンコン!列車が発車してから約30分後。私の個室のドアを叩く音が聴こえた。
「はーい!」
ガチャッとドアを開けると、そこにはレオン君が立っていた。
「お久しぶりです。仕事が一段落ついたので、列車の中を案内しようと思いまして……」
「レオン君!良いんですか!?」
「はい。列車の中を案内するのも、僕たち車掌の立派な仕事なので」
レオン君はニッコリ笑った。レオン君の笑顔につられて、私もエルトもニッコリ。
「じゃあ、準備するので少し待っていて下さいね!!」
「準備?」
「動きやすい服に着替えますね!」
私が着替えるまでの間、レオン君は
「個室の外で待っていますね」
とだけ言い残し、出て行った。
私は、羽織っていた旅人用の紺のローブを、簡易ベッドの上に置き、荷物を漁る。
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